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推論フレームが再認ヒューリスティックに及ぼす影響
〇阿部慶賀1
本田秀仁2
2
( 青山学院大学情報科学研究センター) ( 東京工業大学 大学院社会理工学研究科)
Key words : 再認ヒューリスティック、フレーミング効果
12
Table 1
背 景
推論時におけるヒューリスティックをめぐる研究にはすで
に多くの蓄積があるが,近年,ヒューリスティックの合理的
側面に着眼した高速倹約ヒューリスティックというアプロー
チが注目されている.現在関心が向けられているいくつかの
ヒューリスティックの一つに,
「二択のうち一方を再認でき,
もう一方を再認できなかった場合は再認できたものを基準よ
り高い値を持つと判断する」という Recognition Heuristics(以
下,RH と表記) が挙げられる.このヒューリスティックに
関する研究では,選択肢についての情報を不完全にしか知ら
ない場合でも完全に知っている状況下と勝るとも劣らないパ
フォーマンスを示すという “less is more effect” が知られてい
る (Goldstein & Gigerenzer, 2002).
目 的
「多い」
「高い」などの,正の方
この RH を扱った研究では,
向性をもった選択肢を選ぶような課題での検討が行われてき
た.しかし,このような二者の比較から基準に合う選択肢を
選ぶタイプの推論では,問題の記述の視点に応じて判断が変
化するというフレーミング効果が生じることも知られている
.また,RH においては,再認
(Tversky & Kahneman,1981)
できたものを盲目的に選択するわけではない (Oppenheimer,
2003).これらのことから,RH が適用可能な状況下で「少な
い」
「低い」などの負の方向性をもった選択肢を選ぶよう問わ
れた場合,選択パターンや処理に要した時間に変化が生じる
と考えられる.本研究ではこのような再認ヒューリスティッ
ク適用時における推論フレームの影響を明らかにすることを
目的とし,以下の心理学実験によって検討を行った.
実 験
方法 女子大学生 64 名を被験者とした.うち 33 名を,ど
ちらがより人口が多いかを判断させる「多い」回答群,残り
の 31 名を,どちらがより人口が少ないかを判断させる「少な
い」回答群に割り当てた.
被験者には人口推定課題として,後述する高知識リスト 15
都市と,低知識リスト 15 都市の組み合わせからなる 105 組
の都市名ペアを提示し,どちらがより人口が多い(
「多い」回
答群の場合),または少ない(「少ない」回答群の場合)と思
うかを選択させた.この課題は PC 上で実施し,都市名ペア
の提示,選択,回答の確定,という手順を 105 問行った.
この課題で用いた高知識リストは,47 都道府県の各県にお
ける人口最多の都市リストから,人口数上位 15 都市を抽出し
たもので,低知識リストは同様の要領で各県の人口数第 2 位
の都市リストから上位 15 都市を抽出したものである.大学
生 25 名を対象としてリストの各都市名を聞いたことがある
か否かを問う予備調査では,高知識リストでは平均 13 都市,
低知識リストでは平均 8.56 都市という結果となり,低知識リ
ストでは RH の適用が可能な状況が多いことが確認された.
この人口推定課題ののち,課題で提示された都市について,
聞いたことがあるかないかの 2 択,および聞いたことがある
と回答した場合には「1. 名前を知っているだけ」から「4. 非
「多い」回答群
「少ない」回答群
Table 2
人口推定課題の正答率
高知識リスト
低知識リスト
0.75
0.76
0.64
0.63
人口推定課題における反応時間(単位:秒)
「多い」回答群
「少ない」回答群
既知-既知ペア
既知-未知ペア
2.62
3.14
2.36
2.84
常によく知っている」までの 4 件法で都市に対する知識量を
答えさせる知識量測定課題を行った.
結果 高知識リストの平均再認都市数は 14.92,低知識リス
トでは 10.36 となり,リスト間で再認都市数に有意差が確認
された(t(63) = 15.40, p < .0001).これは本実験でも低知識
リストに対する RH の適用可能性が高いことを示している.
人口推定課題の推論成績ついては推論形式に応じた正答率
の差は見られず (F (1, 62) = 0.20, p = .65),両群ともに高知識
リストの方が低知識リストより正答率が高かった (F (1, 62) =
111.30, p = .001).この結果は問題の形式によらず選択肢の両
方が既知である状況化での知識主導での推論が,未知の選択
肢を含む状況よりも正答しやすいことを示している.
では,被験者は RH を利用しなかったのだろうか.低知識
リストに対する知識量推定課題で,RH 適用条件下([既知&未
「多
知] の都市対)において既知の都市を選んだ割合をみると,
い」回答群では 83.2%,「少ない」回答群では 80.3%となり,
両群とも RH を適用したと考えられる.
そうなると,本研究が予想するような推論フレームによる
影響はないのであろうか.そこで,推論フレームによる処理
の違いを,都市名ペアの提示から回答確定までの時間を計測
したところ,両方の都市名ペアを知っている場合でも,一方
の都市を知らない場合でも,
「少ない」回答群は「多い」回答
群よりも回答に時間がかかった.
考 察
本研究の結果からは,推論フレームによらず RH が適用可
能な状況では被験者は RH を適用していることが示された.
また,反応時間では推論フレームによって差が見られたが,
これは再認と正の相関をもつ方向に推論フレームを形成しや
すいものと考えられる.
引用文献
Goldstein, D.G., & Gigerenzer, G.(2002).Models of ecological rationality: The recognition heusitic.Psychological Review, 109,
75-90.
Oppenheimer, D.M.(2003). Not so fast! (and not so frugal!): Rethinking the recognition heuristic.Cognition, 90, B1-B9.
Tversky, A. and D. Kahneman.(1981).The Framing of Decisions
and the Psychology of Choice, Science, 211, 453-458.
(ABE Keiga, HONDA Hidehito)
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