Ⅱ.各室の計画 以上のことから分かるように、それぞれのスパには「そこならではのあり方」が求められる。 しかし、共通するのは、スパでの一連の行動が空間計画に直結する、ということである。ここ では、諸室ごとにどのような行為をし、また、そこは、どのような気持ちになるのか、といっ たことを考察していく。 【エントランス】 エントランスは、スパという非日常空間への導入として、また、施設全体の顔として重要 な役割を担う空間である。つまり、その施設のコンセプトをイメージした空間が必要なのだ。 同時に、外部環境との関係も考慮することも忘れてはならない。先述のように、クライアン トが日常的な場所からアプローチするのか、リゾートのような非日常からアプローチするか によって、そのあり方がもっとも異なるのが、このエントランスである。スパのコンセプト を打ち出しながら、同時にクライアントの心の動きを考えて、自然なかたちで非日常的な環境 へとシフトできる空間をデザインする必要がある。 非日常的な環境は、スパの導入部から始まる 間接照明を効果的に利用したロッカールーム 【ロッカールーム】 ロッカールームは、計画の中でも特に重要な意味を持つ。ロッカールームは、オペレーシ ョンの都合と機能を優先して計画されがちな場所である。しかし、ここは、クライアントに とっては、衣服を脱ぎバスローブなどに着替えることで、日常から非日常の世界に移行する 特別な場所なのである。つまり、ロッカールームを境界にして、その手前と奥ではまったく 異なる空間になるといえる。奥に広がる空間は、バスローブを着たプライベートなエリア、 すなわち特別な世界である。だからこそ、クライアントの目線に立って計画、演出すること が重要なのだ。また、リゾートなどの施設では、ロッカールームの必要がない場合もある。 こうした施設では、間仕切りなどの必要もなく、エントランスやトリートメントと空間的に 連続させることができるので、解放感や奥行き感を演出することができる。 【カウンセリングスペース】 カウンセリングスペースは、セラピストがクライアントの体調や体質などをカウンセリ ングし、トリートメントに必要な情報を聞く場所である。同時に、トリートメントを受け る前に心身ともにリラックスし、日常から徐々に非日常の世界へと移行するためにも大切 な場所である。トリートメントルームが広い場合には部屋でカウンセリングを行えるので、 必ずしも独立したスペースである必要はない。 導線上の半地下に配置されたオープンなカウンセリングスペース。顧客の心を日常から非日常へとシフトさせる 【トリートメントルーム】 トリートメントルームこそ、スパのメイン となる空間である。トリートメントによって 心身の解放を存分に味わうためには、空調や 照明、そして音響に十分に気を配ることが必 要だ。また、ここには施術のためのさまざま な備品や機器を設置することが必要だが、そ れらをクライアントの眼に触れないように配 置することもきわめて重要である。つまり、 あらゆる面で日常を感じさせないように工夫 し、クライアントが心地よく過ごすことがで きる環境を優先してデザインする必要がある のだ。 トリートメントルームは日常を感じさせる要素を極力 排除した環境の演出が大切 【リラクセーション】 トリートメントの後、ゆっくりとその余韻を楽しみながら、徐々に心身を目覚めさせるた めに、静かなひと時を過ごすための空間である。だからこそ、演出が重要な意味をもつ場で ある。そして、その演出こそ、スパのコンセプトに沿った印象深い空間のデザインをするこ とが必要となる。それは、また、施設全体のブランドイメージを牽引することにも役立つ。 リラクセーションルームはスパのコンセプトを最も深く表現できる空間。 ここでは、大地に抱かれた休養がデザインコンセプト
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