Ⅸ.人工呼吸器関連肺炎対策 医療関連肺炎は病院内で発生する感染のうち 2 番目に多く 15%を占めている。その中で人工呼 吸器を装着している場合の肺炎の発生は、装着していない場合と比較して 6~20 倍多いとされる。 人工呼吸器関連肺炎(Ventilator-associated pneumonia:以下 VAP とする)は、人工呼吸器装着 48 時間以降に発生する肺炎である。ただし、人工呼吸器離脱後 48 時間以内に肺炎が発生した場 合も VAP に含まれる。 VAP の感染経路は①口腔内・咽頭に定着した微生物の誤嚥、②胃に定着した微生物の誤嚥、③ 交差感染、④微生物を含むエアロゾル吸入の 4 つがあり、身体の遠隔部位から血行性に病原体が 肺に侵入し肺炎を発症するトランスロケーションも発生機序の一つである。発生機序を以下の図 に示す。 抗菌薬投与と 宿主 その他の投薬 汚染された 手術 侵襲的器具 呼吸の治療や 交差感染 検査 (手・手袋) 不適切な器具の 消毒・滅菌 咽頭 胃内 汚染された 汚染された エアロゾルの発生 水・液体 流入(誤嚥) 菌血症 吸入 感染防御機能 肺炎 Translocation HICPAC:Guideline for prevention of nosocomial pneumonia. MMWR,46(RR-)1∼79,1997 より改変 図 1 VAP の発生機序 1 1.手技および操作の衛生管理 吸引 吸引をする前には直前に手指衛生を行い、エプロン、マスク、ゴー グルおよび手袋を装着する。 気管内の吸引は閉鎖式の吸引チューブを用いて行い(一部は除く) 、 吸引後はチューブ内を生理食塩水でリンスする。 閉鎖式の吸引チューブは 1 回/週交換する。使用を開始した曜日の シールを貼付しておき、交換日の把握を行う。 口腔内および鼻腔内の吸引に使用する吸引チューブは単回使用と する。1 度で吸引できなかった場合は、アルコール綿でチューブの 外側を清拭消毒した後、チューブ内に水をとおし吸引を行う。 吸引用の水は各勤務で入れ替える。水を入れておくボトルは 1 回/2 日交換(例:月、火、水での交換)とする。 吸入 加湿および吸引目的の吸入は原則行わない。 人工呼吸器のネブライザーを使用する際は、薬液を無菌的に注入し て使用する。 口腔ケア 呼吸管理により唾液分泌が減ることで口腔内の自浄作用が低下し ているため口腔常在菌が増殖しやすい。口腔内の常在菌を減らすた めに、1 回/日以上の歯ブラシを用いた口腔ケアを実施するほか、各 勤務に 1 回以上は口腔清拭を行う。 2.本体、回路および周辺器具の管理 本体および回路 本体の消毒は行わない。 人工呼吸器の回路は単回使用(加湿器以外)のものを用い、2 週間 ごとまたは明らかに汚染がみられた場合に交換する。 加湿器 回路内の結露が患者側に流入しないようにする。 加湿器の水を注入する場合は、直前に手指衛生を行い、手袋を装着 する。 加湿器の水は注入口より赤色シリンジおよび延長チューブを用い て滅菌蒸留水を清潔操作で注入する。 滅菌蒸留水を注入する赤色シリンジおよび延長チューブは 1 回/日 交換する。 ウォータートラップ 加湿器に入れる滅菌蒸留水は開封時に日付を記入する。 ウォータートラップに貯留した水は適宜排除し、患者側への逆流を 防ぐ。 ウォータートラップ内の水を排除する場合は手指衛生後に手袋を 装着して行う。排除後は手袋を 除去し手指衛生を行う。 2 【VAP 防止のケアバンドルについて】 米国医療の質改善研究所が推奨している VAP 防止のケアバンドルは、①ベッドの頭部拳上、 ②セデーションと抜管時期の評価、③消化性潰瘍の予防、④深部静脈血栓予防で構成される。 1)ベッドの頭部を 30~45°上げる 医学的な禁忌がない場合は 30~45°のセミファウラー位を保持し、口腔咽頭分泌物の 流入を防ぐこと、胃部膨満による消化液の逆流を防ぐことが推奨されている。 2)毎日セデーションを休止し、抜管の可否をアセスメントする 全身状態に影響を及ぼさなければ、毎日いったんはセッデーションを休止し、患者の覚 醒状態と呼吸状態を観察し、呼吸器の離脱、抜管が可能かどうかのアセスメントを行うこ とを推奨している。 3)消化性潰瘍予防 ストレスによる消化性潰瘍の予防のために予防的に投与する消化性潰瘍治療薬には、胃 液の pH を上昇させないスクラルファートなどの薬物を用いることが推奨される。但し、 消化性潰瘍を発症している場合や過去に潰瘍による出血の既往がある場合は、H2 ブロッ カーを使用したほうがいいとされる。 4)深部静脈血栓症予防 深部静脈血栓症と VAP の関係については明らかではないが、呼吸器を使用している重 症患者において深部静脈血栓症は予防すべく重要な合併症である。予防法としては、下肢 運動や、早期離床、弾性包帯装着等があげられる。 3
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