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人材/人材育成の視点
組織開発に取り組む人々
—組織イノベーション研究会の活動から—
小西 明子(こにし あきこ)
人材開発部長
東レ(株)人事部で総合職採用、新入社員教育に長く従事するほか、総務部で役員秘書業務、
(財)東レ科学振興会で理科教育賞運営、勤労部で労務管理を担当。2009 年 6 月から現職。
Point
❶ 組織開発は 1950 年代に生まれ、米国で発展してきた「変革の実践」を中心テーマとした領域で
あるが、近年は日本でも「人事の新しい武器」として注目されている。
❷ グローバルに事業展開する優良企業の中には、組織開発を専門に取り組む専任部署や担当役員を置
く企業が出てきている。
❸ 本稿では組織開発に正面から取り組む企業担当者が集まって情報交換を行う「組織イノベーション
研究会」の活動の様子を紹介する。
「多様な価値観を生かして成果を上げる組織を
セスに行動科学の理論や技法を用いて、組織の体
つくる、イノベーションを生み出すようなチャレ
質強化や協調体制を図っていく組織戦略を指し、
ンジを促す風土を育てるなど、現代の難しい人事
「 OD( organization development )
」ともいう。組
課題を解決するには、組織開発の視点を持ったア
織の改編や制度、手続きの変革を主とするのでな
プローチが必要」と言われたとき、
「組織開発」と
く、組織人の持てる力を十二分に発揮させ、協働
いう言葉にピンとくる人はどれくらいいるのだろ
の成果が上げられるような風土作りを目指すこと
うか。
に焦点をおいた活動である。
(中略)この際、問題
学校法人産業能率大学総合研究所のホームペー
ジではこの言葉を下記のように説明している。
分析や診断、介入のためには、職場診断アンケー
トや対決会議、チームビルディング会議、オーガ
ニゼーション・ミラーなどを用いる。
」
「組織開発とは、組織の効果性と健康性を高め、
また組織が環境変化にタイミングよく適応してい
くために、組織を動かしている人の価値観や態度、
また、世界大百科事典には次のような記述もあ
る。
人と人との関係などをより良い方向に変革を図っ
ていくことを指す。具体的には、組織活動のプロ
「変化の激しい現代社会のなかで組織がその存
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続を確保していくためには、組織自体が絶えず新
しく作り変えられなければならない。そこで現代
組織論の重要な課題として、組織の変革をどのよ
図表 1 人材開発と組織開発のアプローチの違い
人材開発では
対象となる
「人」にアプローチする
組織開発では
人と人との「関係性」にアプローチする
うに行っていくかという点が論じられるように
なった。組織開発はこのような時代の要請を反映
した、組織変革に関する一つの接近方法にほかな
らない。組織開発なる用語は、広狭二つの意味で
使われている。広くは構造・風土両側面の変革を
表す<組織変革>一般の概念と同一視する考え方
であり、狭くは組織の風土的側面の変革に限定す
る考え方である。
」
組織開発(以下、OD )は、概念としては 1950
出所:(株)リクルートマネジメントソリューションズHP掲載図表を基
に筆者が作成
が重要になっているのだ(図表 1 参照)
。
年代に生まれ、米国で発展してきたもので、日本
この話は「組織イノベーション研究会」という
では人材開発関係者以外にはあまり浸透していな
勉強会で OD を専門分野としている大学の先生か
いかもしれない。多様な社会的背景を持った人々
ら聞いた。
「組織イノベーション研究会」は株式会
が集まる米国では、人を集めたからといって組織
社スコラ・コンサルトでプロセスデザイナー(一
として動けるわけではなく、だからこそ人をまと
般的にはコンサルタントと呼ばれる役割)として
めたり、組織にするためのテクノロジーが必要
活躍する三好博幸氏が中心になって、昨年度から
だったため、OD の理論研究、実践手法が発達した
立ち上げたものだ。基本的にはスコラ・コンサル
という見方もある。
ト社の支援を受けて組織開発や組織風土改革、コ
逆に言えば、多様性の少ない日本企業ではこれ
ミュニケーション改革、企業理念の浸透などの活
まであまり OD が表舞台に出てくることがなかっ
動に取り組む数社から担当者が集まって情報交換
たといえるだろう。多くの日本企業では、より効
するクローズドな勉強会だが、上記のような OD
果的な経営を行うための
「組織の形」
をどうするか、
の理論家や実践者をゲストに招いて話を聞くこと
その組織を支えるための「制度」をどうするかと
もあり、貴重な勉強の機会として活用させていた
いうことについては、経営企画や人事部門のメイ
だいている。
ンの仕事として担ってきたが、そもそも組織が意
組織イノベーション研究会の参加メンバーは、
図する目的を果たしうる器となっているか否かの
各々の所属企業において全社プロジェクト的な位
チェックやフォローなどの OD 的な介入を担う担
置付けのもと、かなりのエネルギーをかけてそれ
当者や部署を置いているという話はあまり聞いた
ぞれの活動に従事しており、その意味では OD に
ことがない。おそらく組織や制度そのものの研究
真正面から取り組んでいる企業に属している。そ
ほどの労力をかけてこなかったのではなかろう
んな彼らにとっても担当役員や専任組織を設ける
か。だが今日、グローバルに展開する優良企業の
企業群が存在することは、かなりインパクトのあ
多くが、人事・人材開発以外に OD 担当の役員を
る事実だったようである。
選任し、専任の部署を置いて日常的に組織開発に
以前本欄でも紹介したように、スコラ・コンサ
取り組んでいるという。多様性に富んだ組織で強
ルト社の組織風土改革は<スコラ式>という独自
みを発揮していくには、個々の能力開発とともに、
の手法によるものだが、その基本にはやはり OD
人と人との関係性にアプローチする「組織開発」
の理論や手法が生かされている。そのメインツー
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組織開発に取り組む人々
ルは心理的にも物理的にもバリアフリーな場で行
で行われた実践がこんな風に受け止められた」と
われる「オフサイトミーティング」という気楽で
か「変革実践のこの段階ではこのようなコンフリ
まじめな話し合いだ。参加企業は
「オフサイトミー
クトが起きた」というような内容にすぎない。だ
ティング」を社内で展開しながら、それぞれの課
からといってそれが参加者にとって役に立たない
題に取り組んでいる。取り組みの動機も、例えば
かといえばそうではなく、各自が今まで通ってき
従業員満足度調査の結果を受けてとか、急激に会
た変革の道筋を振り返って整理し、これから起こ
社の規模が拡大してマネジメントが追いつかなく
りうるコンフリクトを予測して対処する上で、相
なっている状況を正確に把握し、改善につなげる
互に非常に参考になり、触発し合えているという
ためとか、コンプライアンス上の問題指摘を受け
印象だ。そこには成功事例を自社だけのものとし
て取り組まざるを得なくなった業務プロセス改善
て独占しようとしたり、全社で取り組むプロジェ
を、現場の士気を下げずに浸透させるためなど、
クトの過程で生じるコンフリクトを隠しだてしよ
それぞれだ。
うという意図は感じられない。
「オフサイトミー
特徴的なのは、各社それぞれの取り組みについ
ティング」という共通のツールを、目的や活動の
て、かなりオープンに情報交換がなされているこ
浸透度合い、組織の状況に合わせながら使いこな
とだ。もちろん、あくまで差し支えのない範囲で
していく工夫を共有しあうことが、各々にとって
とは思うが、例えば取り組みで効果があった部分
メリットになるという確信が感じられる。
やうまくいかなかった部分、取り組み途中で出て
こうした顧客同士の横の連携はスコラ・コンサ
きた不満や葛藤などについては、おおむね包み隠
ルト社にとってある種ノウハウの流出にもつなが
さず率直に共有されている印象だ。
りそうに見えるが、そうしたことを気にする様子
このオープンな雰囲気は、そもそも OD が「変
はまったくない。むしろ、OD や組織変革に正面か
革の実践」を主要テーマにしているためではない
ら取り組んでいる先進企業が集まって、独自に
「日
かと思う。変革に直面する人や組織が多様で、応
本の企業を元気にする」活動や発信ができないか
用する手法も多様なため、両者の組み合わせとし
と模索しながら毎回の勉強会のテーマアップをし
ての変革実践は状況に応じて無数に存在する。し
ているようだ。ある意味、いちコンサルタントと
たがってある組織で成功した実践が他の組織でそ
しての活動を超えているように思えるこのような
のまま適用できるわけではない。研究会の場で行
活動がどこまで広がっていくのか、日本企業にお
われている事例の共有も、
「こういう組織状況の中
ける OD の広がりとともに、非常に興味深い。
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