融雪プレキャスト版の開発と施工 耐久性に優れたロ-ドヒ-ティング 小川

融雪プレキャスト版の開発と施工
耐久性に優れたロ-ドヒ-ティング
小川
登*1
リ-トの使用により,版厚を薄くすることが可能となり,か
1.はじめに
近年の異常気象(日本海北部で温帯化気圧の異常発生な
つ耐久性・耐摩耗性に優れたコンクリ-ト舗装を実現した.
ど)の影響により,冬期の降雪や積雪は想定外の被害をもた
(図-1)
らしている.こうした中で冬期の交通事故に目を向けると,
② 剛性を高めるためのラチストラス鉄筋を使用
路面の積雪や凍結によるものが多く,その対策としては除雪,
圧縮側および引張り側の鉄筋を連結したトラス状のラチス
融雪剤・凍結防止剤の散布,散水,無散水のロ-ドヒ-ティ
トラス鉄筋を組入れることにより,薄い版厚であるにもかか
ング(温水・電熱・地熱),凍結抑制舗装などが挙げられる
わらず高剛性を実現した.(写真-1)
が,それぞれに以下のような問題を抱えている.
③ 部分交換を可能にしたコッタ-式継手の使用
・道路の除雪作業については除雪オペレ-タ-の高齢化によ
維持管理上の部分的な取外しに対しても,コッタ-式継手
る人材不足や除雪機械の確保問題.
を外すだけで,道路用PRC版本体を損傷させることなく簡
・散水は地下水の有無,凍結防止剤では周辺の環境への影響.
単な版交換を可能とした.又,継手のボルトを締付けること
・ロ-ドヒ-ティング(以下RHという)は設置費や維持費
で版同士にプレストレスが導入されるため剛性が増す(図-
が高いといった経済性.
2)
・凍結抑制舗装にも凍結防止剤の散布による環境への影響.
④ 目地部にホゾを導入
ここでは,北陸自動車道のトンネルの坑口部において車線
道路用PRC版同士の接合面に,ホゾを設置することによ
規制しながらの施工という条件から「融雪プレキャスト版の
り,グラウト充填後,せん断力および曲げモ-メントに抵抗
開発と施工」について報告する.
し,目地部における高い荷重伝達率を実現した.(図-3)
⑤ 不同沈下対策としてリフトアップが可能
圧密沈下や暗渠横断部などで不同沈下が想定される場合で
2.融雪プレキャスト版の開発
も,特殊な治具(オプション)を内蔵することにより容易に
以下に融雪プレキャスト版について述べる.
2006年に名神高速道路醒井地区で採用された融雪プレ
リフトアップを可能とした.
1)
キャスト版は,空港や港湾で使われていた高強度PRC版
(高強度コンクリ-トを使用したプレキャスト製のRC舗装
版,以下PRC版という)の技術がベ-スになっていた.そ
の後2009年に重交通道路に耐える高耐久性を実現しなが
らも,版厚の薄肉化,鉄筋量の削減などを改良した
道路用PRC版というプレキャスト版の技術が開発された.
今回北陸自動車道での融雪プレキャスト版はこの道路用PR
C版をベ-スに開発した技術である.
道路用PRC版は,長期供用性舗装として交差点,トンネ
ル内,自動車道サ-ビスエリア及び料金所等に適用すべく開
発されたものである.道路用PRC版本体構造および目地部
図―1 標準図
の基本構造は,これまで空港等で実績のある技術を採用し,
舗装設計手法として道路用PRC版の下面に疲労ひび割れが
発生してもそのあとは鉄筋が疲労限界に達するまで舗装は供
用できるとした「疲労度設計法」2)を適用した,安全性,経
済性にも優れた舗装版である.また道路用PRC版本体の構
造的設計期間は,耐荷性の観点から40年以上を目標に開発
したものである.
道路用PRC版の特長を以下に示す.
① 高強度コンクリ-ト(60N/m㎡)を使用
写真―1 ラチストラス鉄筋
プレキャスト製品の特長である高品質かつ高強度のコンク
*1 (株)ガイアートT・K 技術開発部
場合は,道路用PRC版で使われている模様シ-トを型枠底
面に貼ってから逆打ちする,本工事で使用する融雪プレキャ
スト版は,道路用PRC版と同様に逆打ち方法で製造するた
めにヒーティングユニットの固定方法を検討した.
その結果,ヒーティングユニットを鉄筋籠に結束してから
メッシュ筋でヒーティングユニットを挟み込むように固定す
ることで逆さまにしてもヒーティングユニットがたるまない
ように,しかも,版厚が薄くなったことでヒーティングユニ
ットの被りが少なくなったことによる表面の強化も考慮し,
メッシュ筋の採用に至った.(写真-3,4,5)
図―2 コッタ-式継手
写真-3 ヒーティングユニット断面
図―3 目地部のホゾ断面図
今回の融雪プレキャスト版の開発に当っての課題の一つは,
以前の版厚より薄い道路用PRC版にヒ-ティングユニット
を内蔵する方法であった.
PRC版の製造は型枠底面が舗装版の表面になる(コンク
リート逆打ち)打設方法のため,ヒ-ティングユニットを固
定した鉄筋籠を反転させてセットしなくてはならない.この
セット方法では,鉄筋に固定したヒーティングユニットがた
るんでしまうことから,前回は型枠上面を融雪プレキャスト
版表面とする(コンクリート正打ち)打設方法とした.(写
真-2)
写真-2 前回製作の鉄筋篭及びヒーティングユニット
のセット状況
しかしこの方法だとヒーティングユニットがたるんで表面
に出るようなことはないが,仕上げに時間がかかることや,
融雪プレキャスト版表面に模様などをつけにくいことなどが
ある.コンポジット舗装の場合は,表面の仕上げは多少粗面
でもよいが,この融雪プレキャスト版を表層として使用する
写真-4 メッシュ筋で押さえ込んだヒーティングユニット
写真-5 鉄筋篭及びヒーティングユニットのセット状況
更に融雪プレキャスト版に使用するコンクリ-トの骨材に
熱伝導率の高い粗骨材と通常の粗骨材を使い分けて,温度・
水分センサ-を内蔵させた版を2種類製作し,スイッチング
による通電時間を比較する試験を実際のフィ-ルドで行うた
め,当社で運営している長野県軽井沢の白糸ハイランドウェ
イに於いて融雪プレキャスト版を表層として設置し平成24
年から2年間の試験を行い,その融雪機能について確認した.
(写真-6)
そのため,採用に当っては以下のような理由が考慮された.
・設置後も断線が起こりにくいこと.
・表層の打ち換え時に埋設線を損傷させないこと.
・トンネル内にも設置するため車道幅員に余裕がない中で終
日車線規制で片側5日間といった限られた時間の施工に対応
できること.
その結果,以前名神高速道路醒井地区で使われたことがあ
るPRC版の中に電熱ヒ-ティングユニットを内蔵した融雪
プレキャスト版3)が採用された.(写真-9)
写真-6 白糸ハイランドウェイでの試験状況
3.採用経緯
敦賀トンネルや今庄トンネルでは1977年からトンネル
の出入り口を囲うように配置されていた,トンネル換気塔,
換気ダクト,坑口の側壁などの構造物の撤去工事に伴い坑口
がトンネル内側に移動して既設のRHの位置では坑口部の融
雪面積が不足するためRHの増設が計画された.(写真-
7)本来なら既設のアスファルト舗装内埋設型のRHを延長
させれば良いが,現在設置されているRHは夏場の路面流動
写真-9 名神高速道路の融雪プレキャスト版2006年
や轍掘れによるヒーティングユニットの断線が原因で一部機
4.施工概要
能していない状態であった.
工事名 北陸自動車道敦賀管内トンネル構造物撤去工事
またアスファルト舗装に埋設する場合,表層打ち換えの路
発注者 中日本高速道路株式会社金沢支社 敦賀保全・サー
面切削時にヒ-ティングユニットをひっかけてしまう可能性
ビスセンター
が大きい.(写真-8)
受注者 名工建設(株)
融雪プレキャスト版施工箇所 敦賀トンネル,今庄トンネル
施工面積(融雪版)585㎡(坑口3箇所)
施工期間(融雪版)H26.9~11(予定)
施工場所は,北陸自動車道の敦賀トンネルと今庄トンネル
の坑口の一部である.この辺は山岳ハイウェイで急勾配が多
く,吹雪による視界不良や路面凍結などによるスリップ事故
が多いところである.(図-4)
写真-7 坑口の撤去状況
図-4 位置図
写真-8 切削面に出たヒーティングユニット
5.2 施工の実施
5.施工状況
融雪プレキャスト版は,急速施工に対応できることや車線
5.1 施工計画
施工にあたり事前に現地調査をした結果,電気設備や版の
ごとに施工できるため通行止などの交通規制が必要なく施工
割り付けについていくつかの検討事項が生じた.
できること,工場製作であるため高品質を確保できるメリッ
・電源について
トがある.
既設の融雪設備の最大電力量は55kW/箇所と推測された.
既設RHと新設の融雪プレキャスト版全て機能させるために
以下に融雪プレキャスト版の作業手順を示す.(終日車線
規制 片側5日間として)(図-7)
は最大電力量を80kW程度上げなくてはならず,制御盤の
ブレ-カ等の増設が必要なので,今回は既設のRHの一部を
停止することになった.
・融雪プレキャスト版の割付について
道路用PRC版の規格サイズである1.75m幅の融雪プ
既設舗装版撤去~路盤
1日目
遮熱シート、ビニールシート敷設
2日目
版設置
レキャスト版を4枚並べた場合,現況の道路幅員(7.0
m)と同じになるため配線と保安材を設置するスペ-スが取
高さ調整、ケーブル接続
れなくなる.
そこで走行と追い越しの間の既設舗装を一部残して融雪プ
目地部及び裏込めグラウト充填・養生
3日目
表面処理
4日目
レキャスト版を設置する形になった.(図-5)
CL
コッター継手トルク導入
アスファルト舗装
プレキャストロードヒーティング版
間詰めコンクリート
電気配線
プレキャストロードヒーティング版
舗装復旧
プレキャストロードヒーティング版
5日目
既設舗装
交通開放
図-7 施工フロ-図
本工事に於いて,通常の施工方法と大きく変えた点は,版
図-5 断面図
設置の機械をクレ-ン車からフォ-クリフトに変更したこと
・配線方法について
融雪プレキャスト版への電気配線方法は1箇所が故障して
も他のユニットは機能できる並列接続とした.
H・H
新設プレキャストロ-ド
である.
前回の名神高速道路醒井地区の工事では路肩が有効に使え
たため通常のようにレッカ-を設置(写真-10)できた.
既設ロ-ドヒ-ティング
ヒ-ティング版
凡例
H・H
新設埋設管
既設埋設管
図-6 概略配線図
写真-10 前回の施工状況
・その他
本工事ではトンネル内の片車線内での施工のためレッカ-
既設アスファルト舗装側の接続部にはRHが埋設してある
のアウトリガ-の張り出しは困難であり,ブ-ムを上げるこ
ため,既設RH端部から300mm離して設置した.トンネ
とも不可能なため,ブームを水平にした状態で融雪プレキャ
ル側の既設のコンクリ-ト舗装版との接続箇所へは削孔をし
スト版を吊る為には通常使用するレッカー(25t)よりも
てスリップバ-で繋いだ.
大きなものが必要となる.
また,レッカ-での作業の場合,荷を積んだトレ-ラ-も
シ-トを敷くが,融雪プレキャスト版の場合さらにその下に
トンネル内で荷降ろしするため,狭く見通しの悪いトンネル
アルミ製の遮熱シ-トを敷いて断熱効果を上げた.(写真-
内を大型レッカ-とトレ-ラ-が配置されることで作業環境
14 )
が悪くなる.そこでフォ-クリフトによる版の設置専用の吊
り治具について検討した.(写真-11 )
写真-14 遮熱シ-ト,ビニルシ-ト敷設
融雪プレキャスト版の設置は,レッカ-での設置に比べる
写真-11 吊りジグを装着したフォ-クリフト
と運転席から手元が見えないため,精度良く据え付けるには
既設舗装はアスファルト舗装部分とコンクリ-ト舗装部分
多少時間が掛かったが,すぐ横を一般車両が高速で走行して
がある.既設舗装の撤去は一般車両への影響も考えてブレ-
いるトンネル内での施工としては良好であった.(写真-1
カ-ではなくカッタ-で小さく切断したものをバックホ-に
5 )
て撤去する方法とした.(写真-12 )
写真-12 既設舗装撤去状況
写真-15 融雪プレキャスト版設置状況
既設舗装を撤去したあと路盤の強度を確認し,フォ-クリ
またヒーティングユニットを繋ぐスペ-スも今回はサイズ
フトが降りられるように段差部にスロ-プを設置,更にフォ
ダウンを図ったが,接続作業的にも特に問題無かった.(写
-クリフトのタイヤが路盤を乱さないように敷鉄板にて路盤
真-16 )
を養生した.(写真-13 )
写真-16 ケ-ブル接続ボックス部
写真-13 スロ-プと敷鉄板
通常路盤の上にはグラウトの流れを良くするためにビニル
融雪プレキャスト版の高さ調整後に裏込めグラウト,目地
グラウトを注入して目地部のコッタ-式継手に所定のトルク
を導入すると融雪プレキャスト版の設置が完了する.ここま
部以外は融雪機能を維持できること.しかもコッタ-式継手
での作業が約4日間,最後に舗装を施工して5日間の規制期
を外すことで損傷部だけを簡単に交換することが可能である.
間内で1車線を完成した.(写真-17,18,19)
本工事ではコンポジット舗装として使用されたが,将来的
には白糸ハイランドウェイで実証されていることから融雪プ
レキャスト版を表層として使うことを考える.期待できる効
果はアスファルト舗装におけるRHに比べ電気消費量がおよ
そ50%の低減が予測できることである.
現在歩道用の融雪プレキャスト版の技術開発を進めている
ため,トンネル監査路への持込雪などの対策にも展開したい.
このような技術開発によって冬期の道路管理を安全に,そ
して少しでも楽にすることができればと考える.
今回の施工にあたっては,この融雪プレキャスト版を採用
していただいた発注者である中日本高速道路株式会社金沢支
写真-17 グラウト充填状況
社 敦賀保全・サービスセンター及び,受注者である名工建
設(株)に感謝したい.
【参考文献】
1) 高 強 度 P R C 版 研 究 会 ホ ー ム ペ ー ジ :
http://www.koukyoudoprc.com
2) 北口航ほか:疲労解析に基づいたプレキャストRC版
舗装の構造設計法の開発,土木学会舗装工学論文集
第11巻 2006年12月
3) 融 雪 プ レ キ ャ ス ト 工 法
写真-18 コッタ-式継手トルク導入状況
写真-19 完成
6.まとめ
本開発及び施工を通して,路面の積雪や凍結対策としての
融雪プレキャスト版の優位性について以下に述べる.
・現場条件に高さや幅といった制限があるトンネル内に於い
ては,今回工夫したフォ-クリフトによって融雪プレキャス
ト版を安全かつスピ-ディ-に据え付けを行うことが可能で
あること.
・全面規制を行わず,車線ごとに期間内で施工できること.
・融雪プレキャスト版の耐久年数は40年と長く,埋設され
たヒーティングユニット材の断線も起こり難いこと.
・部分的な損傷が発生した場合,並列接続しているため損傷
高速道路調査会:
http://www.express-highway.or.jp