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特 集
オピオイドの使用方法
日本大学医学部麻酔科学系麻酔科学分野
駿河台日本大学病院麻酔科
佐伯 茂
PROFILE ────────────────────────────────
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佐 伯 茂 日本大学医学部麻酔科学系麻酔科学分野 診療教授
Shigeru Saeki
1980年:日本大学医学部卒業
同 年:日本大学医学部麻酔科入局
(駿河台日本大学病院麻酔科勤務)
1990年:米国カリフォルニア大学サン・ディエゴ校麻酔科学教室 Research Fellow
1993年:日本大学医学部麻酔科学教室 講師
1999年: 同 助教授
2010年:日本大学医学部麻酔科学系麻酔科学分野 診療教授
趣味:バラの栽培
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はじめに
オピオイド系鎮痛薬
(以下、オピオイド)
のうち、我が国で非がん性慢性疼痛に使
用可能な医療用麻薬には、速放性モルヒネ製剤、コデイン製剤、フェンタニル貼付
剤(デュロテップ® MTパッチ)の 3 種類がある。さらに最近、非麻薬性オピオイド
が非がん性慢性疼痛に使えるようになった。一つはオピオイドであるトラマドール
と解熱鎮痛薬であるアセトアミノフェンの合剤である。もう一つは麻薬拮抗性鎮痛
薬ブプレノルフィンの貼付剤である。
非がん性慢性疼痛に対して使用できるオピオイドの種類が増えたこと、特に、
麻薬取扱者免許がなくても処方できるオピオイドが使用できるようになったこと
から、今後、非がん性慢性疼痛患者へのオピオイドの使用が増加することが予測
される。本稿ではこれら非がん性慢性疼痛に適応が認められたオピオイドの使用方
法について解説する。
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オピオイドを使用するに
あたり
適応の有無を十分検討したうえで、患者とその家族からオピオイドを投与するこ
とに関するインフォームド・コンセント(副作用、依存、耐性、運転や危険な作業
の禁止、保管方法、服用方法、治療方法などについて)を得る必要がある。また、
オピオイド特有の嘔気・嘔吐、眠気、便秘などの副作用が起こり得るので、副作用
対策を講じておくべきである。
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使用開始薬剤について
我々の施設では2000年 3 月〜2011年 5 月の間に非がん性慢性疼痛108症例にオピ
オイドが投与されているが、内訳はコデインリン酸塩(以下、コデイン)83例
(76.8%)、モルヒネ塩酸塩(以下、モルヒネ)が15例(13.9%)と、これら 2 薬剤で全
体の約 9 割を占めていた。コデインの方が「モルヒネ」という名称に比べ、患者に
とって抵抗感が少ないこと、医師にとって説明しやすいことの表れと考えられる。
以下、使用頻度の多かったコデイン、モルヒネの使用方法を当科のデータを交え
解説する。さらに、フェンタニル貼付剤、トラマドール・アセトアミノフェン合剤、
ブプレノルフィン貼付剤の一般的な使用方法についても解説する。
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コデイン製剤
(a)
一般的事項
粉末と錠剤がある。粉末 1 g中にコデイン 1 gが含まれる製剤(100%:原末)、
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100mg含まれる製剤(10%)、10mg含まれる製剤( 1%)がある。前二者は麻薬指定
であるが、後者は麻薬指定ではない。錠剤は 1 錠中に 5 mg、20mg含有されている
製剤(麻薬指定)がある。コデインはモルヒネよりも効力は弱く、有効限界もある。
しかしながら、嘔気、便秘などの副作用の発現率はモルヒネよりも低いことから、
軽度〜中等度の痛みで副作用の発現を抑えたい場合にはよい適応と考える。依存性
はモルヒネよりも弱く、耐性の発現もモルヒネより遅い。作用発現は15〜60分、
30〜120分で最大の鎮痛効果が得られ、効果は 3 〜 4 時間持続する。
(b)
薬理学的特徴
コデインの生体内利用率は40%とされている。約10%がCYP2D6により脱メチル
化されモルヒネに変換され、このモルヒネが鎮痛作用を発揮する。
(c)
用量・用法
健康成人には60mg/日(毎食後、就寝前に分服)投与するが、症状、年齢に応じて
増減する。就寝前に内服させることにより良好な睡眠が得られる可能性がある。
鎮痛効果の判定は、投与開始後12〜24時間以内に行う。維持量が決まるまでは 1 〜
3 日分の処方とし、鎮痛効果が不十分であれば 1 日量の 1 / 2 を増量して内服させる。
前述の83症例の平均開始量、平均最大投与量を調査したところ、それぞれ71±
30mg/日、187±157mg/日であった。
コデインからモルヒネに変更する場合、コデインの 1 日投与量の 1 / 6 がモルヒネ
の 1 日投与量となる。
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(a)
一般的事項
モルヒネ製剤
原末、錠剤などの速放性製剤が用いられる。投与量を調節する上では原末が使用
しやすいが苦みがあるのが難点である。
(b)
薬理学的特徴
モルヒネ10mgを 4 時間毎に投与したときのモルヒネとその代謝産物であるモル
ヒネ−6−グルクロナイド(M−6−G)の最大血中濃度(Cmax)はそれぞれ19.5±8.1ng/
mL、85.2±21.3ng/mL、最高血中濃度到達時間(Tmax)はそれぞれ0.5±0.2時間、
1.1±0.4時間であった1)。薬理学的活性の強いM−6−Gの血中濃度の上昇は副作用増
強に関与するので、肝・腎機能障害のある症例には注意が必要である。
(c)
用量・用法
健康成人であれば60mg/日程度から開始するが、年齢、全身状態により増減する。
鎮痛効果の発現は20〜30分と早いものの、作用持続時間が約 5 時間と短いため、
4 時間毎に内服させ、就寝前には良好な睡眠を確保するために 2 回分投与する。
我々の施設での15例を対象とした調査では、平均開始量42±42mg/日、平均最大投
与量190±343mg/日であった。中止時には漸減する。
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フェンタニル貼付剤:デュロ (a)
一般的事項
テップⓇMTパッチ
フェンタニル貼付剤が非がん性慢性疼痛患者においてモルヒネ徐放錠より有効、
かつ便秘、眠気などの副作用発現率が少ないこと2,3)、QOLの向上という面からモ
ルヒネよりもフェンタニルを選択する患者の方が多いことが報告4)されている。2.1、
4.2、8.4、12.6、16.8mgの製剤がある。本薬剤を処方するにはインターネットに
よるe-learningを受講しなければならない。
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(b)
薬理学的特徴
健康成人に16.8mgを 1 枚、あるいは2.1mgを 8 枚、クロスオーバー法で72時間単
回貼付した際のTmaxは貼付後30〜36時間と長時間である。
(c)
用量・用法
オピオイドから切り替えて使用するのが原則で、コデイン、モルヒネに対する忍
容性を確認し本剤に変更する。オピオイドからの換算法をTable 1 に示した。3 日
毎(約72時間)に貼り替えるが、①貼付する皮膚面をアルコールで拭かない、②貼
付面の皮膚温を上昇させない、③発熱時に貼付しないなど、吸収が亢進するような
状況での使用は控えなければならない。
Table 1. モルヒネ、コデインの経口投与からフェンタニル貼付剤への換算
モルヒネ経口薬(mg/日)
<45
45∼134
135∼224
225∼314
コデイン経口薬(mg/日)
<270
270∼
ー
ー
デュロテップ MTパッチ
3日貼付用量
2.1mg
4.2mg
8.4mg
12.6mg
定常状態における推定
平均吸収速度(μg/hr)
12.5
25
50
75
定常状態における推定
平均吸収量(mg/日)
0.3
0.6
1.2
1.8
®
また、他のオピオイドから本剤に切り替える場合の切り替え方は、オピオイドの
1 日の投与回数、投与経路により異なる。詳細はTable 2 に示した。中止時には漸
減する。
Table 2. 他のオピオイド鎮痛薬からフェンタニル貼付剤への切り替え方
使用していたオピオイド
鎮痛薬の投与回数
オピオイド鎮痛薬の使用方法例
1日1回投与
投与12時間後に本剤の貼付を開始する。
1日2∼ 3回投与
本剤の貼付開始と同時に 1回量を投与する。
1日4∼ 6回
本剤の貼付開始と同時および 4∼ 6時間後に1回量を投与する。
持続投与
本剤の貼付開始後6時間まで継続して持続投与する。
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一般的事項
トラマドールとアセトアミノ (a)
フェンの合剤:トラムセットⓇ
1 錠中にトラマドール37.5mg、アセトアミノフェン325mgを含む合剤である。
適応は非オピオイド鎮痛薬で治療困難な非がん性慢性疼痛、抜歯後の疼痛である。
本剤による乱用発現頻度は0.25件/10万人でトラマドール単剤よりも低い頻度であ
る5)。
(b)
薬理学的特徴
トラマドールとその活性代謝物であるM1(モノ− o − 脱メチル体)のオピオイドμ
受容体に対する作用、セロトニン、ノルアドレナリン系の下行性抑制系を賦活する
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作用、解熱鎮痛薬であるアセトアミノフェンによる中枢性の作用により鎮痛効果を
発揮する。トラマドールの鎮痛効力はモルヒネの 1 / 5 である。
(c)
用量・用法
成人には、1 回 1 錠、1 日 4 回経口投与する。アセトアミノフェンが含まれてい
る関係上、1 日の最大投与量は 8 錠(トラマドールとして300mg、アセトアミノフェ
ンとして2,600mg)までとされている。副作用である嘔気、嘔吐の予防には漸増法
( 1 日 1 錠を夕食後内服を 1 〜 3 日間⇒ 1 日 2 錠を朝・夕食後分服を 1 〜 3 日間⇒ 1 日
3 錠を朝・昼・夕食後分服を 1 〜 3 日間)が好ましい6)。中止時には漸減する。
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(a)
一般的事項
ブプレノルフィン貼付剤:
ノルスパンⓇテープ
ブプレノルフィンを5mg、10mg、20mg含有する3種類の製剤がある。非オピオイ
ド鎮痛薬で十分な疼痛管理ができなかった腰痛症および変形性関節症による慢性痛
が適応である。すでに世界各国で販売され、その有効性が報告7,8)されている。
(b)
薬理学的特徴
ブプレノルフィンは初回貼付72時間後まで血中濃度が徐々に上昇し、Tmaxは平
均102〜126時間である。
(c)
用量・用法
成人に対し、前胸部、上背部、上腕外部又は側胸部に貼付し、7 日毎に貼り替え
る。初回は 5 ㎎製剤とし、十分な鎮痛効果が得られない場合には 5 〜10mgずつ貼り
替え時に増量するが、20㎎を超えないようにする。中止時には漸減する。また、
高用量(経口モルヒネ換算量80㎎/日を超える量)のオピオイドから切り替えた場合
には、十分な鎮痛効果が得られない可能性が高いので、本剤に変更する前のオピオ
イドの投与量を考慮し、変更の是非を判断する。
(d)
投与継続期間と薬剤変更時の注意点
4 週間の投与で効果が得られない場合には、他のオピオイドへの変更(本薬剤を
剥離後24時間以上あけて投与)、鎮痛法自体の変更を考慮する。ただし、ブプレノ
ルフィンのオピオイドμ受容体への親和性は他のオピオイドより強いため、切り替
え直後には他のオピオイドが十分に受容体に結合できず、十分な鎮痛効果が得られ
ない可能性がある。
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オピオイド投与に際しての副
作用対策
副作用に対する予防薬を併用する。
1 )嘔気・嘔吐に対し、①メトクロプラミド、②ドンペリドン、③プロクロルペ
ラジン、④ジフェンヒドラミン・ジプロフィリンなどを使用する。
2 )便秘に対し、①センノシド、②ピコスルファート、③酸化マグネシウムなど
を併用する。
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おわりに
慢性痛に使用できるオピオイドの選択肢は増え、慢性痛の緩和目的にオピオイド
を使用している症例数も今後増えていくことが予想される。他施設ですでにオピオ
イドを投与されている症例の疼痛管理に携わらなければならない状況も想定され
る。痛みの治療を専門とする医師であれば、オピオイドの使用に関する知識に広く
習熟している必要がある。
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引用文献
1 )平賀一陽, 横川陽子, 尾熊隆嘉, 他:モルヒネ徐放錠および水溶液投与後の癌
患者におけるモルヒネの体内動態. 臨床薬理 20:639−647, 1989.
2 )Clark AJ, Ahmedzai SH, Allan LG, et al.:Efficacy and safety of transdermal
fentanyl and sustained-release oral morphine in patients with cancer and
chronic non-cancer pain. Curr Med Res Opin 20:1419−1428, 2004.
3 )Dellemijn PL:Opioids in non-cancer pain:a life-time sentence ? Eur J Pain
5:333−339, 2001.
4 )Allan L, Hays H, Jensen NH, et al.:Randomised crossover trial of transdermal fentanyl and sustained release oral morphine for treating chronic non-cancer pain. BMJ 322:1154−1158, 2001.
5 )Cicero TJ, Inciardi JA, Adams EH et al.:Rates of abuse of tramadol remain
unchanged with the introduction of new branded and generic products:results
of an abuse monitoring system, 1994−2004. Pharmacoepidemiol Drug Saf
14:851−859, 2005.
6 )Choi CB, Song JS, Kang YM, et al.:A 2-week, multicenter, randomized,
double-blind, double-dummy, add-on study of the effects of titration on tolerability of tramadol/acetaminophen combination tablet in Korean adults with
knee osteoarthritis pain. Clin Ther 29:1381−1389, 2007.
7 )Sorge J, Sittl R:Transdermal buprenorphine in the treatment of chronic
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8 )Landau CJ, Carr WD, Razzetti AJ, et al.:Buprenorphine transdermal delivery system in adults with persistent noncancer-related pain syndromes who
require opioid therapy:a multicenter, 5-week run-in and randomized, doubleblind maintenance-of-analgesia study. Clin Ther 29:2179−2193, 2007.
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