光学材料その2

微小変形時の複屈折の高速測定
液晶ディスプレイ用位相差フィルムでは大きな複屈折を制御す
るのに対して、その他のほとんどの光学材料では複屈折が小
さいことが求められていますように、複屈折の制御は光学材料
の設計の基本になります。
レーザー光、グラントムソンプリズム、周期的に位相差を印加さ
せる光弾性変調器、フォトダイオードからなる複屈折測定装置
を構築することで、位相差(複屈折x試料厚み)が0.01nm以下の
高精度で0.01秒以内の高速で複屈折の測定が可能になりまし
た。また、熱延伸器を装着することで、広い温度領域での高分
子フィルム試料の延伸時あるいは応力緩和時の応力と複屈折
の同時測定が可能になっています。
Motor
Load cell
45º
90º
Stretching
45º
Photo diode
LASER
Sample
Analyzer
A/D
converter
PC
PEM
Stretching
Tensile controller
Lock in amplifier
Polarizer
スチレン系高分子の複屈折緩和挙動
スチレン系高分子の一軸延伸後の応力・複屈折緩和挙動の結
果から、ガラス領域において複屈折が正から負へと符号が変
化していることがわかります。
複屈折緩和の分離評価から、複屈折の符号の変化はフェニル
基のコンフォメーション変化によると考えられ、その緩和時間は
0.15sと長く、固体NMRから求められるフェニル基の回転振動に
基づくβ緩和に比べて極めて遅いことがわかりました。
応力緩和曲線
10
Glassy
Rubbery
Transition
Flow
o
30 C
o
50 C
o
80 C
o
90 C
o
100 C
o
115 C
o
110 C
o
115 C
o
120 C
o
125 C
8
Shift Factor
8
6
7
Log aT
Log (E / Pa)
9
6
4
2
0
-2
5
-4
20
40
60
rotational angle 
 = 28
80 100 120 140
Temperature / oC
4
-8
-6
-4
-2
0
2
4
6
8
increasing time
Log (Time aT-1 / s)
複屈折緩和曲線
-1
Log (n・-1)
(+) -2
Dn(t/aT)/e
-3
-4
歪みの緩和
+
 = 48
ー
-3
側鎖の
コンフォメーション変化
(-) -2
配向の緩和
-1
-8
-6
-4
-2
0
2
Log
(Time・aT-1
/ s)
4
6
8
弾性変形後の複屈折
高分子を延伸すると歪み量が弾性変形領域内であれば延伸を
解除することで応力はゼロに戻ることが知られています。ところ
が、複屈折はゼロに戻らない場合もあることがわかりました。
スチレン系高分子をガラス領域の60℃で応力緩和させた後に
30℃へ急冷するとともに歪みを解除すると、複屈折がゼロにな
らずに正から負へと変化することが見いだされました。また、
90℃での応力緩和後に急冷と歪み解除を行うと、負の複屈折
値はゼロに近づかずに、より負に大きくなりました。
このように複屈折がゼロに回復せずに負の複屈折が残留する
ことは、歪みの解除により正の複屈折を示す「歪み」複屈折が
解消されるのに対して、負の複屈折を示す「配向」複屈折が解
消されずに残留することによると理解できます。
-1
(+) -2
Log (n ・-1)
ガラス状態
60℃
Dn:+ → -
90℃
-3
-4
30℃
-3
(-) -2
-1
-1
0
1
2
Log (Time / s)
3
4
ポリカーボネートの弾性変形後の複屈折
ポリカーボネートではガラス領域における「配向」複屈折が大き
いために、スチレン系高分子と同様に歪み解除後に残留複屈
折が生じます。
残留複屈折は歪みを長時間保持するほど、また、高温ほど大
きくなります。
弾性変形域 (0.5%)で
一軸延伸
Birefrigence×10
-4
8
歪み解除
6
歪み解除
4
2
延伸
残留複屈折
0
100
150
200
250
300
350
400
450
残留複屈折
time / msec
3
残留複屈折 vs 温度
残留した 配向 の尺度
nRD / %
2
残留複屈折:
0
20
残留した Δn
 100[%]
一軸延伸よる Δn
90mm/s
1
30
40
50
60
Temperture / C
○
70
高分子/低分子系の一軸延伸中の複屈折挙動
ポリメタクリル酸メチル(PMMA)/m-ターフェニル(低分子)ブレ
ンドの一軸延伸過程の応力・複屈折同時測定を行ったところ、
応力は歪みに対して線形に増加したのに対して、複屈折は非
線形に増加することが見いだされました。
このような特異な複屈折挙動は、高分子(PMMA)と低分子は協
同的に配向されるのではなく、高分子の配向中に低分子のみ
が配向緩和することによると考えられます。
BirefringenceΔn (×10-4)
0
PMMA
延伸速度 10mm/s
複屈折が線形
に増加
-0.2
95/5混合系
-0.4
■ 95/5
-0.6
PMMA/m-terphenyl
-0.8
-1
△ 100/0
0 0.5 1
複屈折が非線形
に増加!!
延伸に伴い複屈折の
負の変化が増大
1.5
2
2.5
3
3.5
Strain / %
高分子・低分子
配向
混合系
延伸
低分子のみ緩和!!
延伸
ブロック共重合体の一軸延伸中の複屈折挙動
ブロック共重合体は球状や棒状など様々な形状の10nmオー
ダーの規則的な相構造、つまりはミクロ相分離構造を自己組織
的に形成しています。
ゴムマトリックス中にサイズが数十nmで棒状のプラスチックドメ
イが分散したミクロ相分離構造を有するブロック共重合体を室
温で一軸延伸したところ、マトリックスがゴムで形成されている
にも関わらず、応力は明確な降伏点を示し、降伏後に急激に
増加しました。それに対して、複屈折Δnは降伏後に急激に増
加して、歪み0.5以降は徐々に増加することから、光弾性係数
Δn/は歪みの増加に対して一定値を示さないことがわかりま
した。
8
応力σ
6
4
4
複屈折Δn
2
0
0.0
6
Δn×103
σ×10-6(Pa)
8
2
0.5
Strain
歪み
1.0
0
1.5
降伏後から歪み0.5の間の急激な増加は棒状プラスチックドメイ
ンの配向による形態複屈折に起因します。
ゴムセグメントの分子配向に基づく複屈折の増加と棒状ドメイ
ンの配向による形態複屈折の増加を分離評価することで、平
行に配列した棒状プラスチックドメインが配向して、歪み0.5まで
にその配向係数が0から約0.6に増加することで形態複屈折が
増大して、その後は棒状ドメインの配向の度合いは変化せずに、
ゴムマトリックスのみが配向することが示唆されました。
ε =0-0.1
ゴムセグメントの
みが配向する
ε=0
ε~0.1
ε~0.1
ε~0.5
ε =0.1-0.5
棒状プラスチック
ドメインが急激に
配向する
ε =0.5-1.5
ゴムセグメントの
み配向する
ε~0.5
34
ε~1.5
複屈折フリーポリマーブレンド
高分子の成形加工時に生じる配向複屈折はほとんどの光学材
料に好ましくありません。互いの複屈折が正と負で、しかも分子
レベルで相溶するポリマーブレンドであれば透明性を損なうこと
なく、非複屈折材料を得ることができます。
一相系ポリマーブレンドのポリ塩化ビニル(PVC)/PMMAブレン
ドのフィルム試料を熱延伸すると、延伸によりPMMAは負の複
屈折、PVCは正の複屈折を有し、複屈折相殺組成(18/82)のブ
レンドでは、いくら延伸しても複屈折がゼロになります。
このように正と負の複屈折性ポリマーを相溶させた材料を用い
れば、分子配向が残存・凍結されても成形物の複屈折をゼロ
にできます。
0/100
40/60
20/80
PVDF/PMMA
PVDF/PMMA系の射出成形試料を
2枚の偏光板に挟んで撮った写真