麦 -高品質化に向けた技術開発- 第1章 わが国における品 種の開発動向 二条大麦 誌名 麦 著者 農林水産省農林水産技術会議事務局, 巻/号 23号 掲載ページ p. 31-36 発行年月 2000年3月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波事務所 Tsukuba Office, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat 3 . ニ条大麦 ( 1 ) ビール醸造用 ビール醸造用二条大麦の栽培は, 1 8 7 6年に北海道開拓使の札幌麦酒醸造所設立 8 9 6年に大阪麦酒株式会社と京都の作人 と共に始まった 28) 一方本州での栽培は, 1 組合が契約を結んで、からである川.当時の栽培種は北海道では「シバレーj17.18), 本州では「ゴールデンメロン」同であった.これらは明治の始めに海外より多数導 入された品種の内,ビール原料に適し,比較的日本の気候に適応するものとして 選択された品種である.品種改良は明治の後期から主として純系分離により始め 1 特に「栃木ゴールデンメロン JI 関東晩生ゴールJI キリン直 1号」などゴ られ1 ールデンメロン系の純系種が多く作出された山これらは醸造に適していたが, 長梓・晩熟で栽培性は良くなかった.交雑育種は他の作物に先駆けて 1 8 9 1年に玉 利氏によって始められた17).1 9 0 0年には金子氏が「ゴールデンメロン」と六条種「四 , 1 9 3 5年に愛知県立農事試験場で「ゴ 石」との自然交雑から「金子コ守一/レデンj24)を ールデンメロン」と六条種「大正麦」との人工交配により「愛知早生ゴールデン メロン」聞を育成している.両品種とも六条種由来の早生,短稗特性を有し,普及 はしなかったが,交配母本として育種系譜上の重要な位置を占めている. 1 9 1 7 年 に札幌農学校で育成された「北大1 号」刊土「シバレー」などの導入品種に変わり北 9 2 6年には大日本麦酒杜博多工場で倒伏性難の「博多 2号j1.24)が育 海道で普及し, 1 成され西日本で普及している. 1 9 2 0年代からビール会社による品種改良が本格化し,晩生・長梓のゴールデン メロン系品種にかわる早生・短稗品種の育成が行われた.早 中生・短 中梓・ 多収の「交 Aj,I 交 Cj,I アサヒ 5号 j ,I アサヒ 1 9号j1.24)などが育成され,戦後の 原料不足の状況下で増産に貢献したが,六条種から早生,短稗因子を求めたこと から,醸造品質は劣っていた.北海道では明治後半からオオムギ斑葉モザイク病 (BSM) による不稔発生に苦慮、していたが34), 1 9 4 7年に抵抗性品種「ハルピン二 条j17)が導入・選定された.さらに 1 9 5 2 年には「ハルビン二条」を母本にした抵抗 性品種「春星j1.24)が育成されている. 9 5 1年以降民間による品種改良が再聞きれ,早生・ 戦時中の育種停滞期を経て, 1 短梓化に加え,粒の外観による選抜の徹底と後期世代で、の製麦試験実施により, 一3 1 品質選抜が強化された.それにより, 1 9 6 4 年に中生,多収で麦芽品質が一様に優 7 号 j I ) , 1 9 6 5年に中生,多収で、エキス量に優れた「さっき二条J 効ず育 れた「成城1 9 8 8 年まで育種が行われ,短梓・ 成され西日本の主力品種となった.愛知県では 1 多収の「初風」叫などが育成されているが,ビール用二条大麦の育種は長らく民間 1 9 5 4 年に栃木県が品種改良に着手し(現栃木指定試験地)2 1 . 2 6 ),1 9 6 1 主導であった . 年に鳥取県農業試験場東伯分場 ( 1 9 7 0 年まで), 1 9 6 5 年に福岡県農業試験場にそれ ぞれ育種指定試験地が設置されて町公立試験場による品種改良が本格化した.栃 9 6 5 年に「ニューゴールデン J 2 0 ), 木分場では会社から移管された系統の中から, 1 1 9 7 1年に「アズマゴールデンj2) 5を育成した.いずれも醸造品質にやや難があった 9 5 3 が,早生・短強稗・多収で,関東を中心に広〈普及した.一方,北海道では 1 年,北見農業試験場に指定試験地が発足し判(現県単育種), 1 9 7 2 年には醸造適性 は本州産に及ばないものの極多収性の「ほしまさりj22)を育成している. 1 9 6 0 年頃から民間育成地及ぴ栃木分場に小型製麦装置が導入され,また, 1 9 7 1 年には栃木分場内に品質改善指定試験地が設置され同,官民共に本格的な品質育 9 6 7 年,キリン韮崎試験地で品質の重要特性であるエキス収量が 種が始まった. 1 6 )が育成されている. 高い「ふじ二条J 1 9 6 8 年から育種関係者が集まりビール大麦育種打合会が開催されている.この 会議でそれまで官民で異なっていた新品種採用までのルールが統ーされると共に, 各試験地の育成系統を互いに評価しあう比較試験が発足し,醸造品質の評価基準 . 1 7 )1 9 7 8 年にサッポロ新田試験地で、 も統ーされ,高品質品種の育成が促進された 5 麦芽エキス等品質が世界最高水準の「はるな二条j27)が,周年キリン福岡試験地で ' 0 ) が育成された.また 1 9 9 0 年,北見農試 栽培性・品質が共に優れる「あまぎ二条 J で良質の「りょうふう」叫が育成されている. 1 9 5 0 年噴から蔓延し始めた縞萎縮病に対応するため,サッポロ試験地では抵抗 新田系1J5)が育成 性母本「木石港-3Jを用いた抵抗性系統の育成が図られ問, r U n i o n Jに由来するうどんこ病抵抗性も有し,高品質・病害抵 された.本系統は r 3 7 )と「きぬゆたか J l1)の母本となった.栃木分場でも 1 9 7 4 年に「木 抗性の「とね二条 J 石 港 -3Jに由来する抵抗性遺伝子ym5をもった「南系 B 4 6 41 J , r 南系 B 4 7 1 8 Jを 9 8 3 年に世 育成しため.これらと高品質の「はるな二条」などとの交配後代から, 1 界初の抵抗性品種「ミサトゴールデン J(栃木)叫が育成され,続いて高品質の抵抗 -32- 性品種「ミカモゴールデン J( 1 9 8 7 年,栃木)43)と「ニシノゴールド J( 1 9 8 6 年,福岡) ゆ)が育成され,壊滅的ダメージから産地を救っている.その後,縞萎縮病抵抗性 で麦芽品質の優れる「なす二条 J 1 2 ), I アサカゴールドJ4 ) 4 ,I 夕カホゴ一ルデデ、ン J 9 ) 的) 「きぬか二条」問, Iミハルゴ一ルドF J 4 5 , ) へ I みようぎ二条j2へ 9 )I おおみゆたカかミ」ム, I ほ うしゆんj3)冶カがf育成きれ,現在栽培されている.また,栃木分場では低蛋白質中間 日大系 H C 1 5 )y, 30)を育成している. 母本「中間母本農 1号 (I ( 2 ) 精麦用 明治期に導入された二条大麦は当初は精麦用に使用されていた 17) また,東伯分 場でビール醸造用に育成された「ダイセンゴールド j叶ま「あまぎ二条」とともに 精麦用として広〈栽培されていた.精麦用二条大麦専門の育種が始まったのは, 六条大麦の育成地であった九州農業試験場大麦育種研究室が, 1 9 6 1年をもって二 条大麦の育種に切り替えてからである.当時は畜産用濃厚飼料の不足から飼料用 麦の育種が急がれており,密播・多肥に耐える強稗性と多収性を有する「カワサ 1 9 7 4 年)凶, イゴク J( I カワホナミ J( 1 9 7 6 年)同, I カワミズキ J( 1 9 7 9 年)4 0 ) が相次 1 9 7 7 年噴より縞萎縮病が蔓延し,抵抗性品種の普及が急がれた ため, I はがねむぎj由来の抵抗性を有した「イシュクシラズJ41)が1 9 8 1年品種登録 され,さらに栃木分場から抵抗性品種の委譲を受けた. 1 9 8 7 年にその中から耐病 いで育成された. 性で当時要望の強かった味噌・焼酎用として優れた精麦特性を持つ「ニシノチカ ラ」叫が育成されている.実需者からの焼酎用など用途に応じた品質強化の求めに 1 9 9 7 年に焼酎用・ 食用品質の優れる「ニシノホシ J31)が育成された.また,北海道では 1 9 8 7 年に飼料 応じ,遺伝資源の検索や品種間差の研究 2, 38, 39)を進めると共に, 用多収品種の「あおみのりj23)が北見農試で育成されている. (栃木県農業試験場栃木分場谷口義則) 文 献 1 ) 麦酒酒造組合.日本の二条大麦.東京 ( 1 9 6 8 ) 2 ) 土井芳憲・塔野岡卓司.少量掲精法による高白度大麦遺伝子源の検索.九州、│農 2 8 ( 3 ):1 1 9 1 3 7( 1 9 9 5 ) 試報告 . qJ q a 3 ) 古庄雅彦ほか.ビール大麦新品種‘ほうしゅん'の育成.福岡農総試研報 . 1 8 :2 6 (1 9 9 9 ) 31 4 ) 花房嘉士ほか.二条大麦新品種「ダイセンゴールド j について.鳥取農試研 1 3:1 8( 1 9 7 3 ) 報. 5 ) 長谷川康ーほか.ビール麦縞萎縮病抵抗性高品質品種の育成.米麦改良 . 3 :3 3 4 7( 1 9 9 3 ) 6 ) 平井 慎ほか.ビール大麦新品種「ふじ二条」についてーその育成経過・特性 および栽培法.麟麟麦酒株式会社原料部ビール麦栽培指導資料シリー ズ. 1( 1 9 6 8 ) 7 ) 石川直幸ほか.醸造用低タンパク質二条大麦中間母本「大系 HC-15J (二条大 号)の育成.栃木農試研報 . 4 4:67-82( 1 9 9 6 ) 麦中間母本農 1 8 ) 伊藤昌光ほか.二条大麦新品種「ニシノゴールド Jの育成.福岡農総試研報 .A 一6:1 7 2 4( 1 9 8 7 ) 9 ) 河田尚之ほか.二条大麦新品種「タカホゴールデン」の育成(二条大麦農林1 6 号).栃木農試研報 . 4 3:1 0 7 1 2 6( 1 9 9 5 ) 1 9 7 9 ) 1 0 ) キリンビール株式会社.ビール大麦新品種「あまぎ二条」について.( 1 1 ) キリンビール株式会社.ビール大麦新品種「きぬゆたか」について.( 1 9 8 7 ) 1 2 ) キリンビール株式会社.ビール大麦新品種「なす二条」について.( 1 9 8 8 ) 1 3 ) キリンビール株式会社.ビール大麦新品種「きぬか二条」について.( 1 9 9 7 ) 1 4 ) 相山 毅ほか.二条大麦新品種“カワサイゴク"について.九州農試報告 . 1 8 ( 1 ):53-70( 1 9 7 5 ) 1 5 ) 桐山 毅ほか.二条大麦新品種“カワホナミ"について.九州農試報告 . 1 9 ( 3 ): 2 5 9 2 8 0 ( 1 9 7 8 ) 1 6 ) 京都府農業協同組合中央会.京都のどール麦 1 0 0年のあゆみ . p . 2 .京都.( 1 9 9 1 ) 1 7 ) 増田澄夫ほか.わが国におけるビール麦育種史.ビール麦育種史を作る会.東 1 9 9 3 ) 京.( 1 8 ) 目黒友喜.ビールムギの育種を顧みて.農業技術2 4 ( 2 ):92-95( 1 9 6 9 ) ,M.B r e e d i n go fM a l t i n gB a r l e yV a r i e t ywhichi sR e s i s t a n tt o 1 9 ) Muramatsu B a r l e yYellowM o s a i c .B a r l e yG e n e t i c sI I I:476-485( 1 9 7 5 ) 2 0 ) 中山保ほか.二条大麦新品種「ニューゴールデン」について.栃木農試研 3 4 報. 1 0:9-20( 1 9 6 7 ) 21)中山 保.栃木農試ビール麦育成の茨の道.一育種学会賞の噴ー.農業技術3 3 ( 6 ):262-267( 1 9 7 8 ) 2 2 ) 成田秀雄.二条大麦新品種「ほしまさり Jの育成について.北海道立農試集 報. 2 5:48-58( 1 9 7 2 ) 2 3 ) 成田秀雄.飼料用大麦新品種「あおみのり」の育成について.北海道立農試集 報. 5 9:8 1 9 1( 1 9 8 9 ) 2 4 ) 日本麦類研究会.日本の麦 . p . 7 9 1 3 1 .東京.( 1 9 6 2 ) 2 5 ) 野中舜二ほか.二条大麦新品種「アズマゴールデン」について.栃木農試研 報. 1 6:1 5 3 0( 19 7 2 ) 0年史.p . 1 1 2 1 2 7.東京.( 1 9 7 8 ) 2 6 ) 農林水産技術会議事務局.指定試験事業5 2 7 ) サッポロビール株式会社.ビール大麦新品種「はるな二条 J .(1980) 2 8 ) サッポロビール株式会社広報部社史編纂室.サッポロビール 1 2 0年 史 . p . 3 4 5 7 . 東京.( 1 9 9 6 ) 2 9 ) サッポロビール株式会社植物工学研究所.ビール大麦新品種「みょうぎ二 .(1996) 条J K a r l由 来 の 低 蛋 白 ビ ー ル 大 麦 系 統 の 育 成 . 栃 木 農 試 研 3 0 ) 佐々木昭博ほか . 報. 3 8:27-36( 1 9 91 ) 31)佐々木昭博ほか.二条大麦新品種「ニシノホシ」の育成.九州農試報告 . 3 5 :1 1 8( 1 9 9 9 ) 3 2 ) 佐藤和広ほか.二条大麦新品種「りょうふう Jの育成について.北海道立農試 6 0:31-43( 19 9 0 ) 集報 . 3 3 ) 瀬古秀文ほか.二条大麦新品種「ミサトゴールデン」について.栃木農試研 報. 3 2:43-64( 1 9 8 6 ) 3 4 ) 高橋隆平.北海道のビール大麦の品種退化問題と麦斑葉モザイク病.育種学最 近の進歩 . 2:99-101( 1 9 6 1 ) 0 ( 3 ):2 7 2 3 5 ) 高 橋 隆 平 . ビ ー ル 用 大 麦 品 種 ゴ ー ル デ ン メ ロ ン の 由 来 . 育 雑3 275( 1 9 8 0 ) 3 6 ) 立松鑑一郎 麦酒麦の早熟品種「早生ゴールデン」に就て.農及園 . 1 2 ( 9 ):2373 2 3 8 0 ( 1 9 3 7 ) Fυ 内 qJ 3 7 ) 栃木県ビール麦協議会.平成 2年度(平成3 年産)ビール大麦契約栽培品種の概 要.栃木.( 1 9 9 0 ) 3 8 ) 塔野田卓司・土井芳憲.オオムギにおける澱粉含有率の品種間差異.九州農業 研究 . 5 8:2 1( 1 9 9 6 ) 3 9 ) 塔野岡卓司ほか.オオムギの低タンパク質遺伝資源のスクリーニングとタン 6 4:3 9 4 1( 1 9 9 8 ) パク質組成の差異.日作九支報 . 4 0 )鶴 政夫ほか.二条大麦新品種「カワミズキ」について.九州農試報告 . 21 ( 4 ): 4 8 9 5 0 8( 1 9 8 1 ) 4 1 ) 鶴政夫ほか.二条大麦新品種「イシュクシラズjについて.九州農試報告 . 2 2 ( 4 ):5 2 7 5 5 2( 19 8 3 ) 4 2 ) 鶴政夫ほか.二条オオムギ新品種「ニシノチカラ j について.九州農試報 告. 2 6 ( 2 ):1 6 7 1 8 6( 1 9 9 0 ) 4 3 ) 吉田 久ほか.二条大麦新品種「ミカモゴールデン J(二条大麦農林1 3号)の育 3 5:3 1 5 0( 1 9 8 8 ) 成.栃木県農試研報 . 4 4 ) 吉田智彦ほか.ビール大麦新品種「アサカゴールド」の育成.福岡農総試研報. A-ll:2 7 3 0 ( 1 9 9 1 ) 4 5 ) 吉川 亮ほか.ビール大麦新品種‘ミハルゴールド'の育成.福岡農総試研 報. 1 6:1 7 2 2( 19 9 7 ) -36-
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