第 7 セッション 生活環境(一般演題) 一般口述 39 意識調査アンケート結果から見えた下肢切断者の引き継ぎに重要なこと 吉原 拓平(よしはら たくへい)1),関 恵美1),足立 香織1),長井 桃子2) 京都民医連第二中央病院 リハビリテーション部1), 京都大学大学院医学研究科附属先天異常標本解析センター2) キーワード 下肢切断者,連携,意識調査アンケート 【目的】 回復期リハビリテーション病棟から介護保険下のリハビリテーション(以下リハ)へ下肢切断者を引き継ぐ際 に重要なことは何かを明らかにするため,下肢切断者(義足装着者)に対しての意識調査を行った. 【方法】 当法人を含む近隣の通所リハ(以下デイケア)13 施設と病院 26 施設に勤務している理学療法士(以下 PT) ,デ イケア職員に共通の項目を含むアンケートを行った.統計学的解析はカイ 2 乗検定,Spearman の順位相関係数を 用いた.なお有意水準は 5% 未満とした. 【結果】 施設回収率 33.3% で PT50 名,デイケア職員 42 名から回答を得た.PT に対して,下肢切断者を担当した経験 は「ある」48%,「ない」52% であった.下肢切断者を担当した PT で,仮義足の作成に関わったことは「ある」 29%, 「ない」 71% であった.デイケア職員に対して,今までデイケアに下肢切断者が来たことがあるかについて は来たことが「ある」42.9%, 「ない」54.7% であった.下肢切断者を特殊なケースと感じるかという設問に対し て,担当したことがある PT の 50% が「特殊」と感じており,担当したことがない PT の 84% が有意に「特殊」 と感じていた.デイケア職員では「特殊」と 54.8% が感じており, 「特殊」と 45.2% が感じていなかった. 【考察】 今回,回復期リハ病棟で仮義足を作成した下肢切断者を担当した.しかし,原疾患の悪化により積極的なリハ を望まれず十分なリハを実施しないまま自宅退院となった.介護保険下のリハ施設に情報提供を行ったが,連携 先の PT より本義足の作成に関して苦情を受けた.その内容から下肢切断者に対する理解の不一致や意識の温度 差を感じ,アンケート調査を実施するに至った.今回の調査にて,担当した事がない多くの PT が下肢切断者を特 殊と感じていることが分かった.その理由には義足作成に関する知識や経験の少なさと制度の煩雑さが考えられ る.また多くの下肢切断者は血行障害性疾病に起因することから,様々な病態に ADL が左右されるため,義足の 作成時期も様々であるという事も挙げられる.一方,申し送る側の PT は下肢切断者を特に特殊なケースと考えて はおらず,そこに意識の差が生まれていることが今回の調査で示唆された.今回特殊と感じる理由は調査してい なかったが,有意に特殊と感じている PT が多く存在し,彼らの働く分野や環境を理解する必要が感じられた. 病院の機能分化が進む中,下肢切断者を術後から本義足作成まで 1 人の PT が担当することはほとんどない.リ ハ計画に加え,誰が,いつ,義足作成をするかのイニシアチブを明確にする必要がある.今回の研究により,苦 情を招いた要因の 1 つに自分が医療保険下の施設と介護保険下の施設で働いている双方の仕事環境を理解してい なかったことがあることに気付くことが出来た.次のリハにバトンを渡す時には,気軽に双方が相談し合える環 境を作れるよう今後努めていきたい. 1 第 7 セッション 生活環境(一般演題) 一般口述 40 「アパシー(意欲低下) 」から日々の関わりを考えた一考察 三好 千恵梨(みよし ちえり),安藤 愛美 協和マリナホスピタル リハビリテーション科 キーワード アパシー,うつ,独居 【目的】 日常の臨床場面で患者の意欲低下により,理学療法が計画通りに進まないことを経験することがある.Marin (1990) は動機付けの欠如ないしは減弱した状態をアパシーと定義したが, 発生の頻度や原因は不明なことが多い. そこで本研究では回復期リハビリテーション病棟入院患者のアパシーの発生傾向を調査し,理学療法を行う際の 関わり方や進め方を検討する一助とすることを目的とした. 【方法】 対象は,平成 26 年 7 月∼平成 27 年 3 月に当院へ入院され,認知症や失語症のない患者 36 名とした.調査項目 はアパシーの有無の判定に apathy scale(やる気スコア),更に FIM,QIDS J(簡易抑うつ尺度),疾患名,入院 前の生活世帯を入院時調査し,アパシーの有無とそれぞれの調査項目との関係性を分析した.統計は χ2 検定を用 ! い,有意水準は 5% 未満とした.なお対象者にはヘルシンキ宣言に則り書面にて説明を行い,同意を得た. 【結果】 アパシー有は 36 名中 11 名,内訳は運動器疾患 20 名中 9 名(34%),脳血管疾患 10 名中 2 名 (20%) であった. アパシーの有無と,疾患や FIM の能力別との間には有意差を認めなかったが,入院前の生活世帯では独居の方は 同居の方に比べ有意にアパシー傾向にあった. またうつの有無はアパシー有群・無群で有意差を認めなかったが, 両群ともに約 80% の方がうつを呈していた. 【考察】 先行研究において脳血管疾患とアパシーの発生に関係があることは報告されているが,本研究では運動器疾患 においてもアパシーが存在することがわかった.また FIM の能力別やうつの有無では有意差を認めなかったが, 入院前の生活世帯では入院前に独居の方は有意にアパシー傾向にあることや, 対象者の約 80% がうつを呈してい ることがわかった.これより疾患や FIM の能力に関係なく,受傷によるショックと非日常的な入院生活の中で, 多くの方がうつ傾向となっていることが考えられる.特に独居の方は介助者のいない生活に戻る必要があり,そ れが困難な場合,施設入所や同居など入院前とは異なる環境での生活を強いられることとなる.そのため入院中 に抱える不安が大きく,アパシー傾向となるのではないかと考える.今回の結果より,我々理学療法士は患者と 接する中で,疾患や能力に関係なくどの患者においてもアパシーやうつを呈している可能性があることを念頭に おく必要があることが示唆された.このことから患者には入院早期より自宅へ戻るイメージを十分持って頂くた めに,自宅内の環境や動作方法,習慣など細かく情報収集を行い,具体的な目標をたて患者と共有する必要があ ると思われる.また身体機能面のみでなく,特に独居の方では心理的変化にも意識しながらコミュニケーション をとる必要があることが示唆された.そうすることでアパシーを発生することなく十分な理学療法が行えるので はないかと考える. 2 第 7 セッション 生活環境(一般演題) 一般口述 ! 41 精神疾患患者における Frail CS10 の有用性について 一村 秀和(いちむら ひでかず)1),四方 公康1),中村 翼2) 宇治おうばく病院 リハビリテーション科1),宇治おうばく病院 看護部2) キーワード 精神疾患,歩行自立度,転倒予防 【はじめに】 精神科病棟内では転倒事故が多く発生しており,日本精神科病院協会所属の 184 施設 45,867 床のうち,1 年間の 転倒総事故数は 22,023 件(48.0%)と約半数の割合で起こっている.しかし精神疾患患者を対象とした病棟内自立 歩行の許可を目的とした身体能力を測定する評価指標は確立されていない.要因として,精神疾患患者に対する 理学療法評価は患者の精神状態に左右される場合があり,複雑で多くの口頭指示を必要とする評価指標の測定を 実施できない場面が多い点や,精神科に常勤している理学療法士は平成 24 年度で 62 名と少なく,量的研究が十 分に行える環境とは言えない点が挙げられる.そのため早急な評価指標の確立が求められる.虚弱高齢者用 10 秒立ち上がりテスト(以下 Frail CS 10)は虚弱高齢者の下肢筋力を簡便に評価する方法として知られ,先行研究 において Frail CS 10 は Time UP & Go Test(以下 TUG)や歩行速度などバランス能力,歩行能力との関連があ ることが報告されている.そこで本研究では,精神症状を有する慢性期精神疾患患者における Frail CS 10 の有用 性を検討した. 【方法】 対象者はインタビューが可能なコミュニケーション能力を有し検査・測定が遂行できる者,本研究の趣旨に理 解と同意を得られた閉鎖病棟に入院している慢性期精神疾患患者 11 名(男性 10 名,女性 1 名,平均年齢 58 歳± 15.5 歳)を対象に Frail CS 10 を測定した.さらに 5m 歩行,TUG,片脚立位,握力を測定し関連性を検討した. 統計処理には Spearman の相関係数を使用し,有意水準を 5% とした.なお,本研究は宇治おうばく病院倫理審 査委員会の承認(承認番号:第 20150218 2 号)を得て実施した. 【結果】 Frail CS 10 は 5m 歩行(r=−0.86,p<0.01) ,TUG(r=−0.74,p<0.01),片脚立位(r=0.90,p<0.004)そ れぞれに有意な相関が認められた.握力については (r=0.56,p<0.07) 相関が認められなかった.5m 歩行や TUG, 片脚立位との関連について,5m 歩行と TUG で(r=0.92,p<0.003)で有意な相関が,5m 歩行と片脚立位で(r= !! !! !! !! ! !! −0.77,p<0.01),片脚立位と TUG で(r=−0.70,p<0.02)有意な相関が認められた. 【考察】 Frail CS 10 は片脚立位で有意な正の相関が,TUG と 5m 歩行で有意な負の相関が認められた.先行研究による Frail CS 10 は 5m 歩行,TUG の関連性の報告と本研究結果が同様であり,歩行能力やバランス能力との関連があ ることが示唆された.また,片脚立位は有意な相関が認められたことについて,先行研究において片脚立位時の !! !! 立脚側下肢筋力と片脚立位時間の有意な正の相関が認めたものや,静的バランス能力と密接な関係が報告されて いるように片脚立位時間が長いほど Frail CS 10 の立ち上がり回数が増えることや,静的バランス能力について も反映されることが示されたと考える.本研究結果から,Frail CS 10 は慢性期精神疾患患者における有用性が示 され,病棟内自立歩行の許可する際の評価指標の一つに成り得る可能性が示唆された. !! !! 3 第 7 セッション 生活環境(一般演題) 一般口述 42 当院初期物忘れ外来における社会的側面から見たフレイルの関連性 村川 佳太(むらかわ けいた)1),上原 光司1),西川 黎奈1),小西 彩香1),欅 篤2) 愛仁会 高槻病院 技術部 リハビリテーション科1), 愛仁会 高槻病院 診療部 リハビリテーション科2) キーワード " E SAS,人とのつながり,フレイル 【目的】 日本では一人暮らしの高齢者が 1980 年に男性 4.3%,女性 11.2% であったのが,2010 年には男性 11.1%,女性 20.3% と増加する一方である.また,西らは社会的フレイルとは地域社会や人との関係性が減少している生活状態 としている.そういった社会的側面はフレイルの第一段階ともされており,身体機能・認知機能にも大きく影響 することが考えられる.当院初期もの忘れ外来の中でも認知機能や身体機能だけではなく,社会的側面の評価を する必要性を感じ, 日本理学療法士協会が開発した 『Elderly status Assessment Set』 (以下 E SAS)を導入した. E SAS の『人とのつながり』に着目し,身体機能や認知機能にどのような関連を示すのか調査を行ったので報告 する. 【方法】 対象は 2012 年 7 月∼2015 年 6 月の間に,当院初期もの忘れ外来を初めて受診された 124 名(男性 63 名,女性 61 名) の 65 歳以上が対象で平均年齢は 77.4±5.3 歳.全例独歩可能で日常生活は自立していた.身体機能検査は, BMI,握力,大腿四頭筋筋力体重比(以下体重比) ,10 m 歩行,Timed up and go test(以下 TUG) ,開眼片脚立 位を測定した.神経心理検査は,Mini Mental State Examination(以下 MMSE)を今回の研究対象とした.また E SAS の基準値に準じて人とのつながりが 15 点以上を一般高齢者,14 点以下を特定高齢者や要支援群とし 2 群に分けて比較検討した.統計解析には Mann Whitney 検定を用いた. 【説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき,各対象者には本研究の施行ならびに目的を説明し,研究への参加に対する同意を得 た. 【結果】 全対象者の人とのつながりは 14.9±6.9,BMI は 22.1±3.2kg m2,握力は 25.7±8.5 kg,体重比は 0.43±0.13kgf kg, 10m 歩行は 7.1±2.7 秒, TUG は 8.3±2.8 秒, 開眼片脚立位は 18.4±11.7 秒, MMSE は 25.3±3.3 となった. " " " " " " ! ! 人とのつながりを点数で 2 群に分けると 15 点以上 68 名,14 点以下 56 名となった.2 群の比較の結果,14 点以下 の群では握力(p<0.05) ,10 m 歩行(p<0.01) ,TUG(p<0.05),MMSE(p<0.05)で有意な低下を示した.年 齢,BMI,体重比,開眼片脚立位に有意差はなかった. 【考察】 本研究では,当院初期もの忘れ外来を受診した 65 歳以上の 124 名を対象とし,社会的側面である人とのつなが りが身体機能や認知機能にどのように関連しているのかを検討した.先行研究によると身体的フレイルを有する ものでは社会的フレイルの要素を持つ割合が 52.2% にもなるといわれており,身体機能・認知機能と密接な関係 があるといえる.人とのつながりは,生活のひろがりに制限を与え,身体機能や認知機能低下などのフレイルや サルコぺ二ア発生につながる.本研究でも人とのつながりが薄いと,歩行能力や認知機能が有意に低下している ことが分かった.一人暮らし高齢者が増加している現在,理学療法士として,身体機能の問題点や動作能力の把 握のみでなく,社会的側面の評価,活動・参加に関する情報提供も同時に実施する必要がある. 4 第 7 セッション 生活環境(一般演題) 一般口述 43 動的バランス評価としての足踏み動作の有効性の検討(第 3 報)―足踏み回数 の違いからの検討― 河西 謙吾(かわにし けんご)1,2),小澤 拓也2),河合 あづさ1) 社会医療法人協和会 加納総合病院 リハビリテーション科1),社会医療法人 協和会2) キーワード 動的バランス,足踏み動作,重心動揺 【目的】 我々は動的バランスの評価法として足踏み動作の有効性を検証しており,バランス能力が低下している症例ほ ど総合立脚期平均割合・総合両脚支持期平均割合(以下立脚期・両脚期)が増加し,総合遊脚期平均割合(以下 遊脚期)が減少すること,そして総合 COP 外周面積・総合 COP 前後幅(以下外周面積・前後幅)が増大するこ とを報告した.また,バランス能力の低い症例を抽出するためには任意のリズムで足踏みを行わせる事が有効で あることも報告した.これらより,下肢の支持性が低下している症例が足踏み動作を反復すると開始位置に留ま ることが困難なことが立証されたが,数的に有意な変位を生じさせる足踏み動作の反復回数は不明である.そこ で,簡便且つ安全な動的バランス評価としての足踏みテストの最適条件を足踏み動作の回数より検討したので報 告する. 【方法】 対象は平成 25 年 7 月から平成 27 年 5 月に当院に入院し,支持なく足踏み動作が可能な患者 59 名とし,Berg Balance Scale の 46 点を基準として高得点群と低得点群の 2 群に分類した.測定の開始肢位は前方を注視する姿 勢とし,任意のリズムで,出来る限りその場で足踏みを行うことを条件とした.測定にはアニマ社製ツイングラ ビコーダー GP 6000 を用い,測定項目は立脚期・両脚期・遊脚期,外周面積・前後幅とし,データは 1 歩目から 左右各々 15 歩を取り込み周期 100Hz で採取した.また,このデータを 1 歩目から左右各々 5 歩・10 歩・15 歩毎 に分割処理をした (以下,5 歩・10 歩・15 歩).統計解析は高得点群・低得点毎に各測定項目における足踏み回数 の違いを Bonfferoni 法による多重比較(検討①) ,足踏みの回数毎に高得点群と低得点群の 2 群における各測定項 目の差を Mann Whitney U test・Student s t test・Welch s t test を用い(検討②)比較・検討した. 【結果】 検討①では,高得点群・低得点群とも足踏み回数の増加に伴い,外周面積や前後幅が有意に増加した.検討② では高得点群に比して,低得点群の 10 歩と 15 歩は外周面積・前後幅が有意に増加し,全ての歩数間で有意に立 ! ! ! ! 脚期・両脚期が延長,遊脚期が短縮した. 【考察】 検討①より足踏み回数が増えるに従い,足部位置の変位が大きくなることが分かった.また,低得点群は下肢 の支持性が低下している可能性が高く,足踏み動作に不安定さを有しているため,高得点群に比して,同じ位置 で動作を反復することが困難であると考えられた.しかし,5 歩での足部位置の変位は僅かであり,動的バランス の能力差を見出す上では不十分と考えられた.今回の結果では 10 歩と 15 歩で動的バランスの能力差を見出せる と考えられたが,転倒のリスクを考えると可能な限り少ない回数で行えることが,安全且つ簡便な動的バランス 評価として有用であると考えられる.このことから重心動揺計を用いた足踏みテストにおいては,10 歩でバラン ス能力の良否を判断出来る可能性が見出された. 5 第 7 セッション 生活環境(一般演題) 一般口述 44 歩行能力の維持向上を目的として考案した運動プログラムの有用性の検討 鳥井 勇輔(とりい ゆうすけ)1),谷川 貴則1),西村 典子2),田川 武弘2) アシックスジャパン株式会社 新規事業開発部1),株式会社アシックス スポーツ工学研究所2) キーワード 介護予防,高齢者,運動 【目的】 高齢者にとって,歩行能力の低下は,自立した生活を妨げる大きな不安要素となる.本研究は,歩行能力の維 持向上を目的とした機能訓練特化型運動プログラムを考案し,要介護 (要支援) 認定者に対して実施することで, その有用性について検討を行なった. 【方法】 対象は,要支援 1 から要介護 4 までの状態にある虚弱高齢者男女 41 名(平均年齢 79.8±8.0 歳).運動プログラ ムは,マシンを使った筋力トレーニング,レッドコード(座位中心)を用いたバランストレーニングを,週に 1 または 2 回の頻度で 3 ヶ月間実施した.身体機能測定は,トレーニング開始前,及び 3 ヶ月後の 2 回実施した.測 定項目は,5 回立ち座り時間(5CS),5m 歩行速度(WS) ,左右片脚立ち保持時間平均値(OLS),筋量(全身・ 上肢・胴体・下肢)とした.解析は,対応のある t 検定を用いて初回通所時と 3 ヶ月通所後の身体機能の比較を 行った.また,相関分析を用いて各測定値の相関を調べた. 【結果】 5CS は有意に減少し(p<0.01) ,WS においても向上が見られた(p<0.1) .一方,OLS に有意な変化は見られ なかった.筋量においては,全身,上肢,胴体に有意な増加が見られたが (p<0.01) ,下肢には見られなかった. また各項目の変化量と筋量の変化量の関係においては,5CS の変化量と胴体筋量の変化量において相関関係が 有意(p<0.01)に認められ,歩行速度の変化量と下肢筋量の変化量についても,同様に相関関係が有意(p<0.05) に認められた.OLS の変化量と筋量の変化量については有意な関係は認められなかった. 【考察】 歩行能力の維持向上を目的とした機能訓練特化型運動プログラムを実施することによって,要介護 (要支援) 認 定者においても,5CS,WS において有意な改善が認められた.これは即ち, 「立つ」 ,「歩く」という自立した生 活に必要な能力が改善されたと考えることができる.また筋量においても,全身,上肢,胴体において有意な改 善が見られた.加齢による筋量の減少を防ぐだけでなく,適切なトレーニングを実施することで筋量が増加した 点は,意義深い結果といえる.一方,下肢筋量の増加は観察されなかった.これについては今回,実践した運動 プログラムが,安全性を重視し,座位姿勢での内容が多かったことが原因と考えられる.OLS においても有意な 改善が見られなかったが,同様の理由が原因と思われる. 今回の結果より,要介護 (要支援) 認定者に対して,座位姿勢を中心とした運動プログラムを実施することで, 「立つ」 , 「歩く」 という自立した生活に必要な能力が改善され,また全身の筋量も増加し,その有用性を確認する ことができた. 「転ばない」 ためのバランス・注意能力の改善においては,安全性を考慮した上での立位姿勢でのトレーニング の実施が,今後の課題と思われる. 6
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