パルスデトネーションエンジンにおける 壁面推力損失の研究

筑波大学大学院博士課程
システム情報工学研究科修士論文
パルスデトネーションエンジンにおける
壁面推力損失の研究
小島亮太
(構造エネルギー工学専攻)
指導教員:村上正秀
2007 年3月
修士論文概要
パルスデトネーションエンジン(PDE)とはデトネーション波を間欠的に発生させ,
推力やエネルギーを取り出す内燃機関の一つであり,次世代航空宇宙機用エンジンや発
電の分野で期待されている.PDE は従来の内燃機関と比較し構造が単純であるか,また
は熱効率が高いという特徴を持っている.
PDE の作動時には高温の既燃ガスが高速で管内を流れ周囲に排気される.その際,高
温の既燃ガスから低温の管壁への熱伝達が発生しエネルギー損失が行われる.また,高
速で排気される既燃ガスと管壁との間に発生する摩擦力による運動量損失も発生する.
熱伝達や摩擦の無い理想的な PDE 作動においては,Endo らによって理論モデルが提
案されている.熱伝達によるエネルギー損失は,既燃ガスと管壁との間の温度差,熱伝
達率,管の内径 D に対する管の長さ L の比 L/D によって変化することがこれまでに
Kasahara らによって行われた実験や,Radulescu and Hanson による数値解析で示されて
いる.また,管側壁での摩擦力による運動量損失は内壁の表面粗さと L/D の影響を受け
ると考えられる.
本論ではこのエネルギー損失と運動量損失の L/D による影響を,条件を変えそれぞれ
別々に計測,吟味し何が支配的であるかを定量的に明らかにすることを目的とする.
実験には弾道振子法を用いる.PDE 管は内壁の表面粗さの異なる 3 種類の管を L/D
を変化させて使用した.推進剤にはエチレン・酸素,水素・酸素,の 2 種類を 1 気圧完
全充填したものを用いた.推力の計測は 1 サイクルあたりの正味の比インパルスをレー
ザー変位計と,ビデオカメラを用いて計測した.また,閉管端に圧力ゲージを取り付け,
圧力の時間履歴を計測することで比インパルスを計測した.
これらの結果を比較した結果,PDE の比インパルスの減少は管内部に特別な構造物な
どがある場合を除き,熱伝達を原因とするものが主であるという結果を得た.熱伝達に
よる推力の減少は L/D が大きくなるほど増大した.また,既燃ガスの粒子速度が速いほ
ど熱伝達率が増大し,推力の減少も大きくなると考えられた.その一方で,C-J のマッ
ハ数が大きい推進剤を用いると,総発熱量が大きくなり熱伝達の影響が小さくなるとい
う結果も得られた.
以上のことから PDE の推力の損失には,管の内径,長さ,既燃ガスの粒子速度,デ
トネーション波のマッハ数が支配的な要素であると考えられる結果を得た.
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