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解析数理工学演習 第 2 回
2014 年 5 月 21 日 (水)
松井 千尋 1
PDE の分類
2
今回は PDE を大まかに分類する. まず階数を定義し, 次に線形性, 準線形性を定義す
る. 1 階の (準) 線形 PDE は特性曲線法により常微分方程式に帰着されることを見る. ま
た, 2 階線形 PDE の型を定義する.
2.1
階数
独立変数を x = (x1 , . . . , xn ) と表し, 未知関数 u の k 階偏導関数を並べたものを
D u := (uxi1 ···xik )ni1 ,...,ik =1 と表すことにする. 一般に PDE は, ある整数 d とある関数
k
→ Rp
∈
7→ F (x, U0 , U1 , . . . , Ud )
(x, U0 , U1 , . . . , Ud )
を用いて
d
∈
F : Rn × R × Rn × · · · × Rn
(
)
F x, u, Du, . . . , Dd u = 0
という形で与えられる. ただし, F (x, U0 , U1 , . . . , Ud ) は Ud の少なくとも一つの成分に依
存するものとする. 関数 F は一意的には定まらないが, 整数 d は一意に定まる. この d を
階数という. また, この PDE は d 階であるという.
問 21. 以下の PDE それぞれについて, 階数を述べよ.
(a) xuy − yux + uz = 0.
√
(b) 1 + u2 ux + 2xuy + u = 0.
(c) (1 + exp(x + y))uxy + u = x2 .
(d) exp(ux ) + exp(uy ) = 1.
(e) uxx uyy − u2xy = 1.
1
まつい ちひろ, 工学部 6 号館 432 号室, [email protected]
1
2.2
線形性
一般に, 多変数関数 f : RK → RL (K, L は任意の自然数) がアファインであるとは, 任
意の y, z ∈ RK および任意の実数 α に対して
f ((1 − α)y + αz) = (1 − α)f (y) + αf (z)
を満たすことと定義する. 任意の x ∈ Rn に対して, 写像
(U0 , . . . , Ud ) 7→ F (x, U0 , . . . , Ud )
がアファインであるとき, 方程式 F (x, u, Du, . . . , Dd u) = 0 を線形 PDE と言う. 例えば,
xux + yuy − u + 1 = 0 は線形 PDE であり, ux + uuy = 0 は線形 PDE ではない.
問 22. 問 21 の各方程式について, 線形 PDE か否かを判定せよ.
問 23. a(x, y), b(x, y), · · · , g(x, y) を 2 回連続的微分可能な関数とする. 線形 PDE
auxx + 2buxy + cuyy + dux + euy + f u + g = 0
の独立変数を ξ = ϕ(x, y), η = ψ(x, y) と変数変換して得られる PDE を書き下せ.
問 24. PDE が線形 PDE であるという性質は, 独立変数の座標変換に対して不変な性質で
あることを示せ.
問 25. 線形 PDE に対して成り立つ重ね合わせの原理について説明せよ.
問 26 (変数分離法). u = u(t, x) に対する 2 階線形 PDE
ut = uxx
(t > 0, x ∈ R),
lim |u(t, x)| < ∞ (t > 0)
|x|→∞
を考える. 関数の形を u(t, x) = T (t)X(x) と仮定すると, ある定数 λ, a, b ∈ R が存在して
u(t, x) = exp(−λ2 t){a cos(λx) + b sin(λx)}
と書けることを示せ.
問 27. 写像 f : RK → RL がアファインであるための必要十分条件は, ある y0 ∈ RK と
行列 A ∈ RL×K が存在して f (y) = f (y0 ) + A(y − y0 ) (∀y) と書けることである. これを
示せ.
2
2.3
準線形性
任意の x ∈ Rn および (U0 , . . . , Ud−1 ) に対して, 写像
Ud 7→ F (x, U0 , . . . , Ud )
がアファインであるとき, 方程式 F (x, u, Du, . . . , Dd u) = 0 を準線形 PDE と言う. 例え
ば uuxx + sin(u)ux uyy − u3y = 0 は準線形である (線形ではない). 一般に, 1 階の準線形
PDE は次式で表される:
n
∑
ai (x, u)uxi = c(x, u).
i=1
問 28. 問 21 の各方程式について, 準線形か否か判定せよ.
問 29. 線形 PDE は準線形であることを示せ.
問 30. 準線形性は, 独立変数・従属変数それぞれの座標変換に対して不変な性質であるこ
とを示せ.
2.4
特性曲線法 (線形の場合)
1 階線形 PDE のうち, u を陽に含まないもの
n
∑
ai (x)uxi = c(x)
(1)
i=1
は, 関数 u の方向微分係数を指定していると見なすことができる. ここで, 方向微分係数
とは, Rn 内の曲線 x(s) = (x1 (s), . . . , xn (s)) (s ∈ R) に沿って u(x) を微分したもの
n
∑
du(x(s))
dxi (s)
=
uxi
ds
ds
i=1
である. そこで, 次の連立常微分方程式を満たす曲線 x(s) (s ∈ R) を考える:
dxi (s)
= ai (x(s)) (i = 1, · · · , n).
ds
(2)
この曲線の上では, (1) 式は
du(x(s))
= c(x(s))
ds
(3)
という式に帰着される. (2) 式を満たす曲線 x(s) を (1) 式の特性曲線という. 特性曲線は
初期位置 x(0) を変えることにより無数に存在し, Rn を埋め尽くす. 各特性曲線において
3
(3) を積分すれば, 元の PDE の一般解が得られる. より具体的に言うと, 特性曲線の集合
を, (n − 1) 次元パラメータ θ ∈ Rn−1 を用いて x(s, θ) と表すことにすれば, (3) 式は
∂u(x(s, θ))
= c(x(s, θ))
∂s
と書ける. θ を固定して s について積分すると
∫ s
u(x(s, θ)) = f (θ) +
c(x(s′ , θ))ds′
(4)
0
となる (f は任意関数). 最後に座標 (s, θ) を x に書き換えれば, 一般解が得られる. なお,
各特性曲線と 1 点だけで交わる(接さずに交わる)曲面 C ⊂ Rn を考え, C における関
数値を与えると, 解が一意に定まる. このような境界値問題をコーシー問題という. コー
シー問題の解は, C = {x(0, θ) | θ ∈ Rn−1 } となるように s の取り方を変えれば, (4) 式か
ら求まる.
問 31. 以下の各 PDE に対して, 特性曲線を全て求め, 一般解を求めよ. (検算もせよ.)
(a) ut = ux .
(b) ut + tux = x.
(c) xux + yuy + zuz = 1. (ただし, 第一象限 x > 0, y > 0, z > 0 のみでよい.)
問 32. 次の各コーシー問題を解け. ただし, セミコロン (;) の後が境界条件を表す.
(a) ut = ux ; u = 1/(1 + x2 ) if t = 0.
(b) (λx + y)ux + (λy + x)uy = x2 + y 2 ; u = 1 if x2 + y 2 = 1.
問 33. 線形 PDE (1) 式は, 両辺に 0 でない関数 p(x) を掛けても本質的に同じ方程式を
表す. 一方, (2) 式の右辺に p(x(s)) を掛けると方程式が変わり, 結果として得られる x(s)
が変わる. これは特性曲線が不変でないことを意味するだろうか?
問 34 (2 変数 1 階線形 PDE の特性曲線). a, b, c を (x, y) の関数とする. PDE
aux + buy = c
の解 u(x, y) と, 任意の曲線 (x(s), y(s)) (s ∈ R) を考える. 以下の問いに答えよ.
(a) 曲線 (x(s), y(s)) 上で u の値が定まっているとき, 同じ曲線上で ux , uy の値が一意
に定まらないための必要十分条件が次式で与えられることを示せ:
[
]
a b
det
=0
(5)
x′ y ′
ただし x′ = dx/ds などと略記した.
(b) 特性曲線は (5) 式を満たすことを示せ.
(c) 曲線 (x(s), y(s)) を z(x, y) = 0 と陰関数表示する場合, (5) 式は azx + bzy = 0 と同
値であることを示せ.
4
2.5
特性曲線法 (準線形の場合)
特性曲線の方法は準線形 PDE へ拡張される. 1 階準線形 PDE
n
∑
ai (x, u)uxi = c(x, u)
(6)
i=1
を考えよう. 次の連立常微分方程式を満たす, Rn+1 内の曲線 (x(s), z(s)) (s ∈ R) を考
える:
dxi (s)
= ai (x(s), z(s)) (i = 1, · · · , n),
ds
dz(s)
= c(x(s), z(s)).
ds
(7)
このとき, x(s) を特性曲線と呼ぶ 2 . 特性曲線は初期位置 (x(0), z(0)) を変えることによ
り無数に得られる. 各特性曲線に沿って u(x(s)) := z(s) とおけば, (6) 式の解が得られる.
なお, PDE の係数 ai (x, u) が u に依存しない場合 (半線形という), 異なる特性曲線は交
差しない. 交差する例は問 37 を参照せよ.
問 35 (同次関数). 線形 PDE
n
∑
xi uxi = λu (λ > 0)
i=1
の特性曲線を求め, 一般解を求めよ. ただし (x1 , . . . , xn ) ̸= (0, . . . , 0) とする.
√
問 36 (半線形 PDE). 半線形 PDE ut + xux = 1 + u2 の特性曲線を求めよ. また,
u(x, 0) = g(x) として初期値問題を解け.
問 37. 準線形 PDE の初期値問題
ut + uux = 0,


if x ≤ 0,
 1
u(x, 0) =
1 − x if 0 < x ≤ 1,

 0
if 1 < x
の特性曲線を調べ図示せよ. (ヒント: f (v) = u(v, 0) とおき陰関数表示 G(x(v), t(v)) :=
x − v − tf (v) = 0 を解くことに帰着させよ.)
2.6
2 階線形 PDE の型
2 階線形 PDE
n
∑
aij (x)uxi xj +
i,j=1
n
∑
bi (x)uxi + c(x)u = d(x)
i=1
(8)
∑n
に対して i,j=1 aij uxi xj を主要部という. 主要部の係数行列 A = (aij )ni,j=1 (対称行列と
する)の固有値のうち, 正, 零, 負の固有値の個数をそれぞれ π, ζ, ν とおく. このとき
PDE の型を以下のように定義する.
2
(x(s), z(s)) を特性曲線と呼ぶ場合もある.
5
• (π, ζ, ν) = (n, 0, 0) or (0, 0, n) : 楕円型.
• (π, ζ, ν) = (n − 1, 0, 1) or (1, 0, n − 1) : 双曲型.
• ζ > 0 : 放物型.
• ζ = 0 and 2 ≤ π ≤ n − 2 : 超双曲型.
π, ζ, ν は固有値を求めなくても, A = LDL⊤ (D は対角行列, L は正則行列) の形に分解
できれば, D から計算することができる (Sylvester の慣性則). なお, 行列 A は一般に独
立変数 x に依存するので, PDE の型も x に依存する.
問 38. 以下の 2 階線形 PDE について, 型を求めよ (独立変数の個数 n は, 適宜定めよ).
(a) uxx + uyy + uzz = 0. (ラプラス方程式)
(b) ut = uxx + uyy + uzz . (拡散方程式)
(c) utt = uxx + uyy + uzz . (波動方程式)
(d) uxx + 2xuxy + yuyy + ux = 0.
(e) uxx + 6uxy + uyy + 2uyz + uzz = 0.
問 39. Sylvester の慣性則を証明せよ. Sylvester の慣性則:対称行列 A に対して, ある正
則行列 R が存在して R⊤ AR は {+1, −1, 0} からなる対角行列にでき, かつ +1, −1, 0 の
個数は R の選び方に依存しない.
問 40. 2 階線形 PDE の型は独立変数の座標変換に関して不変であることを示せ (問 39 参
照).
問 41 (2 階線形 PDE の特性曲面). PDE (8) 式の解 u(x) と, Rn 内の曲面 z(x) = 0 (陰関
数表示) を考える. u の 2 階偏導関数を D2 u = (uxi xj ) と行列で表すとき, 以下の問いに答
えよ.
(a) 曲面 z(x) = 0 の上で (uxi )ni=1 の値が分かっているとき, 曲面に接する任意のベクト
ル v ∈ Rn に対してベクトル (D2 u)v の値は定まることを示せ.
(b) 曲面 z(x) = 0 の上で (uxi )ni=1 の値が分かっているとき, 同じ曲面上で D2 u の値が
一意に定まらないための必要十分条件が次式で与えられることを示せ:
n
∑
aij zxi zxj = 0.
(9)
i,j=1
(c) (9) 式を満たす曲面 z(x) = 0 を特性曲面と呼ぶ. 特性曲面と PDE の型の関係につ
いて考察せよ.
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