マイクロ・エンドドンティックス - 新潟大学歯学部

歯学部歯学科 5 年生講義 統合科目 II 講義ノート
象牙質/歯髄複合体の基礎と臨床
第 8 回 2008 年 11 月 21 日(金)4 限
マイクロ・エンドドンティックス
東京都渋谷区開業
井澤常泰
行動目標(到達目標)
・根管治療において、拡大視することの重要性を理解する。
近年、“歯を残したい。
”という患者さんの希望は、一世代前とは比べものにならないく
らい高まってきています。この意識変化を反映し、歯を保存することにおいてそのはたす
役割が大きい根管治療は、1990年代に入り大きく革新されました。数ある新技術のな
かでも手術用顕微鏡の応用は、根管治療に画期的な変化をもたらしたと言っても過言では
ありません。何故ならば、暗くて狭い根管を手探りで“カン”に頼る、あるいは見えない
ことを理由に解剖学的な形態を無視してきた根管治療が、これまで見ることができなかっ
た歯の微細部を、見ながら治療することができるようになったからです。このことにより
治療の精度が向上しただけではなく、これまで不可能であった治療が可能となったのです。
言い換えれば、今までは疑いも無く抜歯されていたような歯でも、保存することができる
ようになってきたのです。マイクロエンドドンティクスとは顕微鏡下で行われる根管治療
のことで、外科処置についてはマイクロサージェリーとも呼ばれます。
最後に手術用顕微鏡の写真を載せておきますが、新潟大学の外来にも同様のものがありま
すので、是非ご覧になってください。ここで分かり易い症例を見ていただきます。下の写
真は、上顎第1大臼歯を根管治療中のものです。
我々は解剖学で、上顎大臼歯の根管形態を学んだはずです。それでは近心根にいわゆる第
4根管が存在する頻度はどのくらいでしょうか。5根管あるのは何%くらいでしょう。さ
らに下顎第1小臼歯が複根管であるのは何%くらいでしょうか。上の写真では近心根に3
つの根管口(矢印)がありましたが、臨床において根管を見つけることは直接見ないこと
には不可能なのです。我々は見えないものは治療できないのです。
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歯学部歯学科 5 年生講義 統合科目 II 講義ノート
象牙質/歯髄複合体の基礎と臨床
第 8 回 2008 年 11 月 21 日(金)4 限
次は別の症例ですが、同じく上顎第1大臼歯の歯根断面です。
これは根尖切除手術中の写真で、見やすくするためメチレンブルーという色素で染色して
あります。歯根断面、向かって右に白く見えるのが根管充填された頬側根管、左に青く点
状に見えるのが口蓋側根管、その間をつなぐ線状の部分はイスムスと言われる歯髄腔が細
くつながったものです。これは約20倍に拡大されており上記の解剖学的な形態が良く見
えますが、肉眼視することは不可能です。これまでの根尖切除手術でできることは、この
断面にラウンドバーで適当に穴を開けアマルガムを充填することでした。現在では超音波
チップにより根管、イスムスの部分に正確な逆根管窩洞を形成し、封鎖性の良い逆根管充
填材を充填することが可能です。したがってこれまで約60%と言われてきたこの手術の
成功率は飛躍的に向上し、現在顕微鏡下で行われるマイクロサージェリーは90%を超え
る成功率が報告されています。
当日の講義はビデオも使い、顕微鏡下で行われる根管治療、根尖外科処置をご覧いただ
きますが、特に外科処置は学生の皆さんには理解が難しいと思われます。教科書に目を通
し、治療の目的、術式等を予習されるとより理解が深まり興味をお持ちいただけると思い
ます。
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