放射線療法, 化学療法後根治術を施行できた膀胱扁平上皮癌の 1 例

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放射線療法, 化学療法後根治術を施行できた膀胱扁平上皮
癌の1例
松本, 成史; 西岡, 伯; 秋山, 隆弘; 朴, 英哲; 栗田, 孝; 石川,
泰章
泌尿器科紀要 (2001), 47(1): 43-46
2001-01
http://hdl.handle.net/2433/114440
Right
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Departmental Bulletin Paper
publisher
Kyoto University
泌 尿 紀 要47:43-46,2001
43
放射線療法,化 学療法後根 治術 を施行 で きた
膀胱扁平上皮癌の1例
近畿 大学 医 学 部 堺病 院泌 尿 器科(主 任:秋
松本
成 史,西
岡
伯,秋
山隆 弘教 授)
山
近畿 大 学 医 学 部 泌尿 器 科 学教 室(主 任:栗
隆弘
朴
英 哲*,栗
田
田
孝 教 授)
孝
石 川泌 尿 器 科(院 長:石 川 泰 章)
石
川
泰
章
A CASE OF SQUAMOUS CELL CARCINOMA OF THE BLADDER
THAT WAS SUCCESSFULLY TREATED WITH
MULTIDISCIPLINARY
THERAPIES
Seiji MATSUMOTO,
Tsukasa NISHIOKAand Takahiro AKIYAMA
From the Departmentof Urology,Sakai Hospital, Kinki UniversitySchoolof Medicine
Young Chog PARK and Takashi KURITA
From the Department of Urology,Kinki UniversitySchoolof Medicine
Yasuaki ISHIKAWA
From the Ishikawa UrologicalClinic
A 45-year-old man with hematopyuria detected at another hospital visited our department for
further examination. Endoscopic examination revealed a disintegration abscess between the bladder
neck and prostatic urethra. Transurethral biopsy demonstrated squamous cell carcinoma of the
bladder. He received 40 Gy of radiation combined with M-VAC (methotrexate, vinblastine,
dovorubicin cisplatin) chemotherapy. Pathologically, a complete response was found when he
underwent total cystourethrectomy. There has been no sign of reccurence for one and a half years
postoperatively.
(Acta Urol. Jpn. 47: 43-46, 2001)
Key words : Squamous cell carcinoma of the bladder, Radiation, Chemotherapy, Radical surgery
緒
言
現病 歴:1998年7月25日,10日
ほ ど前 よ り出現 した
排 尿 時痛,残 尿 感 を主 訴 に近 医受 診.検 尿 に て血 膿 尿
膀 胱 扁平 上皮 癌 は原 発性 膀 胱 腫 瘍 の うち約5-・IO%
を認 め た ため膀 胱 炎 の診 断 で抗 生 剤 な どに て経 過 観 察
を占め る比 較 的稀 な腫 瘍 で あ るが,浸 潤 増 殖 傾 向 が 強
す る が軽 快 せ ず,症 状 お よび血 膿 尿 が継 続す る ため 同
い ため 一般 的 に予 後 不 良 と され てお り,手 術 的摘 除 以
年9月29日
外 に他 の補 助 療 法 は確 立 され て い ない た め適 切 な治療
な った.
近 畿 大 学 医学 部 附 属 病 院 泌 尿 器 科 紹 介 と
方 法 の 選択 が必 要 にな る.今 回,わ れ わ れ は放 射 線療
受 診 時現 症:体 格,栄 養 中等 度.胸 腹 部 理 学所 見 に
法 と化 学療 法 施 行 後根 治術 を施 行 で きた膀 胱 扁 平 上皮
異 常 を認 めず,直 腸 指 診 で は前立 腺 中等 度 肥 大,弾 性
癌 の1例 を経 験 した の で,若 干 の 文 献 的考 察 を加 え報
軟,左 葉 に軽 度 圧痛 を認 め た.
受 診 時 検 査:尿
告 す る.
所 見;WBC50--99/hpf,RBC
50∼99/hpf,尿Tbc(一),尿
症
患 者:45歳,男
性
主訴:排 尿 時 痛,残 尿 感
既 往 歴1特 記 す べ きこ とな し
例
培 養(一),尿
細胞 診;
claSSII.
内視 鏡検 査:膀 胱 頸部 か ら前 立 腺部 尿 道 に膿 瘍 様 自
壊 像 を認 め た.膀 胱 内 に特 記 す べ き所 見 は なか った.
以 上 よ り前 立 腺 膿 瘍 の診 断 で 同 年10月5日
精査加療
目的 にて 入 院 とな った.
*現:ぼ
く泌 尿 器 科 ク リニ ック
入 院 時検 査 所 見:末 梢 血 液 像,血 液 生化 学所 見 に異
44
泌尿 紀 要47巻1号2001年
常 を 認 め ず,ま
PAP2.4,γ
た 前 立 腺 腫 瘍 マ ー カ ー もPSAO.9,
一SM〈3.Ong/mlと
異 常 を 認 め ず,尿
正 常 範 囲 内 で あ っ
道 膀 胱 造 影(UCG)で
は膀胱 頸部
挙 上 お よび不 整 像 を認 め た.経 直 腸 的前 立 腺 超 音 波 検
た.
査 で は膀 胱 頸 部 か ら前 立 腺 にか けて辺 縁,内 部 エ コ ー
画 像 所 見:排
泄 性 腎 孟 造 影(DIP>で
ど もに不 整 で あ った.
は上 部 尿 路 に
1998年10月12日 腰 椎 麻 酔 下 に生 検 目的で 経 尿 道 的 切
除術 を施 行 した.外 来 で 施 行 した 内視 鏡 検 査 と 同様,
膀胱 頸 部 か ら前 立腺 部 にか けて膿 瘍 様 の 自壊 を認 め た
(Fig,1).同
部 分 の2時,5時
切 除 し,病 理標 本 と した.さ
方 向 をTUPル
ープで
らに異 常 部 分 を切 除 して
い く と膀胱 頸部 を中 心 に深部 に まで 同様 の 所 見 が 存在
した ため,こ の時 点 で 手術 を終 了 した.病 理 組織 診 断
は膀 胱 扁平 上皮 癌 で あ った(Fig.2).
術 後 の 尿 細胞 診 はclassVで,骨
盤 部MRIで
は膀
胱 内 に突 出 す る腫 瘍 像 が 存在 し,生 検 に よる切 除部 分
Fig.1.Endoscopicfindingsrevealedadisin-
が 示 さ れ て い た(Fig.3).腫
瘍 マ ー カー と して は
SCCが3.5ng/ml(<L5)と
高 値 で あ っ た.全
Gaシ
tegrationabscessbetweenthebladder
neckandprostaticurethra.
ンチ お よ び全 身 骨 シ ンチ で は異 常 所 見 は認 め な
か っ た.以
IVaと
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断 ・∵
上 よ り,臨 床 病 期 はpT4NOMO,stage
診 断 した.
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Fig.3.PelvicMRIshowedatumorprotrudingintothebladderwithadefect
causedbytransurethralbiopsy.
der(H.E.stain,×200).
H/l3
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10/1210/27111121219且/4
Fig.4.Serialmeasurementofthetumormarker(SCC)andpelvicMRI,
suggesteddecreasesinSCCandshrinkingofthetumor.TC十IC:
Totalcystourethrectomyandconstructionofilealconduit
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biopsydemonstratedSCCoftheblad-
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Fig.2.Histologicalfindingsbytransurethral
1
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松 本,ほ か:膀 胱 扁 平 上皮 癌 ・根 治術
根 治 術 を考 慮 し,術
行 し た.放
前 に放 射 線 療 法 と 化 学 療 法 を 施
射 線 療 法 は 同 年10月27日
40Gy/20回/31日
を 施 行 し た.ま
か ら全 骨 盤 腔 に
た 化 学 療 法 は 同 年11
月12日(第1日),13日(第2日)にM-VAC療
法に
準 じ て(第1日;MTX30mg/m2,第2日;CDDP
行 し た.こ
に,経
施
の 間 の 効 果 判 定 と し てFig.4に
時 的 に 腫 瘍 マ ー カ ー の ・SCCの
MRIを
施 行 し,SCCの
れ た.放
射 線 療 法 と化 学 療 法 施 行 中,特
示す よう
測 定 と骨 盤 部
減 少 と腫 瘍 の 縮 小 が 認 め ら
記 す べ き副作
用 は 認 め な か っ た.
同 年12月9日
術,回
とPEPの
ら8)はCDDP
併 用 は 効 果 的 で あ っ た と報 告 して い る.ま
た 早 川 ら8)はCDDP動
てCRを
注 療 法 と放 射 線 療 法 の 併 用 に
得 ら れ た と 報 告 し て お り,同 様 に 杉 浦 らlo)
注 療 法 と放 射 線 療 法 の 併 用 後 膀 胱 全 摘 除
術 を 施 行 しCRを
得 ら れ た と 報 告 し て い る.こ
れ ら
既 報 は 膀 胱 扁 平 上 皮 癌 の 化 学 療 法 と し て は,CDDP
の 単 剤 ま た は 多 剤 併 用 療 法 は 有 効 で,放
射 線 療 法 を併
用 した 膀 胱 扁 平 上 皮 癌 に 対 す るneoa(ljuvanttherapy
は有 効 で あ る と述 べ て い る.し
か し膀 胱 扁 平 上 皮 癌 自
体 が 比 較 的 稀 で 症 例 数 も少 な く一 般 的 に 予 後 不 良 で あ
全 身麻 酔 下 に根 治 的 膀 胱 尿 道 全 摘 除
腸 導 管 造 設 術 を 施 行 し た,摘
織 学 的 に腫 瘍 細 胞 を 認 め ず,壊
出 標 本 よ り病 理 組
死 組 織 や角 質 の み存 在
す る と い う診 断 で あ り,pathologicalCRと
判 定 され
た.
術 後1年
に 有 効 で あ っ た と の 報 告 が あ り7),郭
もCDDP動
lOOmg/m2VBL2mg/m2,ADM20mg/m2)を
45
り,本 邦 で は 膀 胱 扁 平 上 皮 癌 の 臨 床 的 検 討 に お い て
neoa(ljuvanttherapyの
が 実 際 で,こ
検 討 まで に は至 って い ない の
れ は 各 施 設 でneoadjuvantthcrapyの
内 容 が 異 な る こ と が 一 因 で あ る と考 え る.今
設 問 で のneoa(ljuvanttherapyを
半 を 経 た 現 在,再
発お よび転移 の兆候 な
く,外 来 観 察 中 で あ る.
考
後 は多 施
含 む臨床 的検討 が
望 ま れ る.
わ れ わ れ はneoa(ljuvanttherapyと
して 放 射 線 療
法 と化 学 療 法 の 併 用 療 法 を施 行 し,全 摘 標 本 に お け る
察
病 理 組 織 学 的 検 討 でpathologicalCRが
得 ら れ た.
膀 胱 扁平 上 皮 癌 は原発 性 膀 胱 腫 瘍 の うち約5∼10%
膀 胱 扁 平 上 皮 癌 に対 して は放 射 線 療 法 と化 学 療 法 の 併
を占め る比 較 的稀 な腫瘍 で あ るが,浸 潤 増 殖 傾 向 が強
用 療 法 は 補 助 療 法 と して 有 効 で あ り,手 術 療 法 を 組 み
い た め一 般 的 に予 後 不 良 と さ れ て い る1'2)Kantor
入 れ た 集 学 的 治 療 に て 根 治 術 を施 行 で き た.ま
ら3)は,膀 胱 扁平 上皮 癌 の うち尿 路 感 染 の既 往 が3回
症 例 は 腫 瘍 マ ー カ ーSCCとMRIが
以 上 あ る もの は,な い もの に比 べ 約5倍 の危 険率 があ
有 効 で あ っ た.
た,本
治 療効 果 判定 に
る と報 告 して お り,他 に も尿 路 感 染 との 関連 を示 す 報
結
告 も多 い.ま た,脊 損 患 者 にお い て 長期 間 カテ ー テ ル
留 置 と慢 性 炎 症 が 扁 平上 皮 癌 発 症 の 誘 因 と な って い る
語
放 射 線療 法 と化学 療 法 の併 用 療 法 後,根 治 術 を施行
とす る報 告 も見 られ4),慢 性 炎 症 刺 激 に よる膀 胱 扁 平
で きた膀 胱 扁 平 上皮 癌 の1例
上 皮化 生 か ら発 生 す る と考 え られ て い る.
察 を加 え報 告 した.
を経 験 した ので 文 献 的考
初 診 時 の主 訴 は,血 尿 以 外 に膀胱 刺 激 症 状 が多 いの
が 特徴 的 で あ り,既 に筋 層 に浸 潤 して い るT2以
腫 瘍 が 多 い こ と を裏 付 け て い た.腫 瘍 径 は3cm以
文
上の
上
の大 きな症 例 が 多 く,い ず れ も広基 性 で あ り,こ れ ら
1)真
胱 扁 平
川 修 一,三
神 一 哉,ほ
の 臨 床 的 検 討.西
か;膀
胱 扁 平
日 泌 尿56:ll48-
3)KantorAF,HartgeP,HooverRN,etaL:Ur孟nary
tractinfectionandriskofbladdercancer。AmJ
の補 助 療 法 と して他 臓 器 の 扁 平 上皮 癌 と同様 に放 射 線
Epidemiolll9:510-515,1984
4)杉
術 前 照 射 療 法 と膀 胱 全 摘 除 術 が
本 賢 治,梅
川
徹,朴
英 哲,ほ
患 者 に 発 生 し た 膀 胱 腫 瘍 の2例.泌
か:脊
髄 損傷
尿 紀 要43:
359-362,1997
最 善 と述べ て い るが,深 達 度 の 高 か っ た症例 の予 後 は
良 くなか った と報 告 して い る.ま た化 学 療 法 に 関 して
か:膀
尿 器 外 科2:845-848,
Il51,1994
向 が強 い ため,手 術 的摘 除 以 外 に他 の補 助 療 法 は確 立
い て はMarufら5)は
本 浩 造,中
上 皮 癌9例
膀胱 扁 平 上 皮癌 の治 療 は,前 述 の よ うに浸 潤増 殖 傾
に対 す る感 受性 が高 い と考 え られ る.放 射線 療 法 につ
崎 明 郎,ほ
1989
2)杉
され て お らず 早期 の積 極 的 治 療 が推 奨 され て い る.他
弥 良 浩,岩
上 皮 癌 の 臨 床 統 計.泌
が 膀胱 扁 平 上 皮癌 の特 徴 で あ る とい え,予 後 が悪 い原
因 とな って い る1'2)
鍋 文 雄,阿
献
5)MarufNJ,GodeccJ,stromRL,etal.:unusual
therapeuticresponseofmassivesquamousccll
は,扁 平 上 皮癌 に著 効 を示 す ブ レオマ イ シ ン も,そ の
carcinomaofthebladdertoagg1essiveradiation
腫 瘍 に対 す る感 受 性 は発 生 母地 も重 要 な素 因 とな って
お り6),移 行 上 皮 よ り発生 す る扁 平 上 皮 癌 に対 して は
andsurgery.Jurol77:805-812,1996
6)勝
感 受 性 が低 くな る と考 え られ,有 効 と はい い 難 い.補
助 化 学 療 法 と してM-VAC療
法 が,膀 胱 扁 平 上 皮 癌
岡 洋 治,高
の1例.癌
7)鈴
木 正 泰,黒
橋 秀 寿,坂
部
準:膀
胱 扁平 上 皮 癌
の 臨33:322-326,1987
田
淳,浅
野 晃 司,ほ
か:化
学療 法
46
泌 尿 紀 要47巻1号2001年
が 有 効 で あ っ た 膀 胱 扁 平 上 皮 癌 の2例
.臨
泌
47:579-582,1993
8)郭
春 鋼,津
島 知 靖,那
上 皮 癌 の2例.西
9)早
川 隆 啓,松
59:553-555,1997
10)杉
須 保 友 ,ほ
か:膀
日泌 尿55:1134-1137,1993
田 忠 久:放
胱扁平
扁 平 上 皮 癌.臨
射線 併 用 動 注化 学 療 法 後
が 著 効 し た 膀 胱 扁 平 上 皮 癌 の1例.西
浦 啓 介,宮
日泌 尿
内 勇 貴,宇
用 動 注 化 学 療 法 後,膀
田 晶 子,ほ
か:放
射線併
胱 全 摘 除 術 を施 行 し た 膀 胱
泌54:63-65.2000
'Received on March 2, 2000'
Accepted on July 22, 2000,