現行の膀胱と尿道の解剖学と生理学を見なおす

DOI: 10.3179/jjmu. JJMU.R.86
◇ STATE OF THE ART 女性排尿障害の超音波診断 ◇ 現行の膀胱と尿道の解剖学と生理学を見なおす
渡辺 泱
抄 録
現行の膀胱・尿道に関する解剖学・生理学において定説とされている 5 件の事項について,物理学・超音波医学の
立場から,次のような修正すべき提言を行った.①蓄尿・排尿に際して,膀胱支配神経は膀胱の物性を 2 段階に変
換させるための on-off 制御にしか関わっていない.②膀胱壁の厚さ,すなわち膀胱重量は,排尿に必要な収縮力(尿
道抵抗)に応じて極めて速やかかつ動的に変動している.③尿道の主な機能は蓄尿時における閉鎖作用より排尿時
における開大作用にあり,尿道の開大効果が排尿行動を主導しているらしい.④男性尿道は膀胱から前立腺を貫い
て連続する長大な尿道筋束を有し,従来から外尿道括約筋と呼ばれている部分はその下端部分に過ぎない.⑤膀胱
は,少なくとも睡眠時にはかなりの量の尿中水分を吸収している.
Several proposals for revision of conventional anatomy and physiology of the urinary
bladder and urethra
Hiroki WATANABE, SJSUM
Abstract
With respect to five established principles in conventional anatomy or physiology of the urinary bladder and urethra, the
following revisions were proposed from the viewpoint of physics and ultrasound : ① Throughout urinary storing and
micturition, only involving action from the motor neurons into the bladder may be an on-off switching between two steps
of bladder property as a material. ② The weight of the bladder(thickness of the bladder wall)varies quickly and
dynamically with the change in the stress necessary for contraction(urethral resistance). ③ The main function of the
urethra may not be the closure during storing but rather opening during micturition, and this opening function may control
the overall micturition behavior. ④ The male urethra is surrounded by a long-ranged muscle unit throughout the prostate.
The so-called“external sphincter muscle”described in current anatomy is no more than the caudal end of that muscle
unit. ⑤ The bladder may absorb a considerable amount of water from the urine inside it, at least while sleeping.
Keywords
bladder property, UEBW, urethral opening, AFMS, bladder absorption
1.は じ め に
そこでこの機会に,「女性」というキーワードに
は特に捉われず,私たちがこれまで永年に亘って従
「超音波医学」の編集部から「女性排尿の解剖」
事してきた,膀胱と尿道の形態と機能を物理学的に
について寄稿するよう依頼を受けた.
扱った五つの研究についてまとめておきたいと思う.
私は 1967 年に経直腸的超音波断層法の実用化に
ここでは超音波が研究手段として大きな貢献を果た
世界で初めて成功して以来,泌尿生殖器領域の対象
してきた.
を,超音波を中心に主として物理学的手法によって
研究してきた.現代医学においては化学的な研究ば
2.膀胱の蓄尿と排尿の力学
かりが異常に多く,物理学的なものの考え方があま
膀胱内圧は蓄尿時には全く上昇せず排尿時には強
りに少ない傾向がある.しかし生体は自然界に存在
く上昇することが,古くからよく知られている.そ
するあらゆる法則を万遍なく美しく駆使して,生命
の理由について現行の学説では,「蓄尿・排尿の機
を全うしている.だから生命現象を物理学の視点か
能は中枢および末梢支配神経により微妙に調節され
ら眺めることによって,これまでとは全く異なる風
ている」
(「必修泌尿器科学」1))・「蓄尿・排尿のメカ
景が見えてくるものである.
ニズムは神経機構の働きによる」
(「排尿障害のすべ
渡辺記念長命研究所
Watanabe Memorial Choumei Research Laboratory, 37︲1 Choumeiji-cho, Omihachiman, Shiga 523︲0808, Japan
Received on March 10, 2016; Accepted on April 8, 2016 J-STAGE. Advanced published. date: July 19, 2016
Jpn J Med Ultrasonics