膀胱癌, 前立腺癌の経過中に出現した骨盤内悪性リンパ腫の 1 例

KURENAI : Kyoto University Research Information Repository
Title
膀胱癌,前立腺癌の経過中に出現した骨盤内悪性リンパ腫
の1例
Author(s)
小林, 義幸; 安永, 豊; 吉岡, 俊昭; 松田, 稔; 織谷, 健司; 久山,
純; 大西, 俊造; 多田, 安温; 宮川, 光生
Citation
Issue Date
URL
泌尿器科紀要 (1989), 35(11): 1925-1928
1989-11
http://hdl.handle.net/2433/116742
Right
Type
Textversion
Departmental Bulletin Paper
publisher
Kyoto University
1925
泌 尿 紀 要351925-1928,198g
膀胱 癌,前 立腺癌 の経過 中に出現 した骨盤 内悪性 リンパ腫 の1例
大 阪 大学 医 学 部 泌 尿 器科 学 教 室(主 任:園 田孝 夫 教 授)
小林
義 幸,安
永
豊,吉
岡
俊 昭,松
田
稔
大 阪 大学 医学 部 第 二 内科 学 教 室(主 任:蕪 井 清一 郎 教 授)
織
谷
健
司,久
山
純
大 阪大 学 医 学 部 医療 技 術 短 期 大 学 衛生 技 術 学 科(主 任:大 西 俊 造 教 授)
大
西
俊
造
行 岡病 院
多
田
安
宮
りIiう1己
温
宮 川 医院
TRIPLE
CARCINOMA,
MALIGNANCY
杢k
INCLUDING
PROSTATE
CARCINOMA
LYMPHOMA:
A CASE
BLADDER
AND
MALIGNANT
REPORT
Yoshiyuki KOBAYASHI,
Yutaka YASUNAGA,
Toshiaki YOSHIOKA
and Minoru MATSUDA
From the Department
of Urology,OsakaUniversitySchoolof Medicine
Kenji ORITANIand Jun KUYAMA
From the SecondDepartment
of Medicine,OsakaUniversitySchoolof Medicine
Shunzo OHNISHI
From the OsakaCollegeof Biochemical
Technology
of Medicine
Yasuharu TADA
From YukiokaHospital
Mitsuo MIYAGAWA
FromMiyagawaClinic
A 70-year-old man was admitted to our hospital with the complaint of lower abdominal mass.
Previously, he had received partial cystectomy and radiation of 38 Gy for bladder transitional cell
carcinoma and transurethral
resection of prostate and diethylstirbestrol
administration for prostatic adenocarcinoma.
The third tumor was located between the bladder and lower abdominal wall
with inguinal lymphnode swelling. Biopsy specimen revealed malignant lymphoma.
After 2 courses of combination chemotherapy consisting of vincristine, prednisolone
and procarbazine,
complete remission
gans.
was achieved.We
discuss about
multiple
malignancies
including urological
or-
(Acta Urol. Jpn. 35: 1925-1928, 1989)
Key words:
Multiple malignant tumors, Triple
carcinoma, Malignant lymphoma
malignant
tumors,
Bladder
carcinoma,
Prostate
た,三 重 複 悪性 腫 瘍 の1例 を経 験 した の で報 告 す る.
言
唖
伊
緒
症
近 年 診 断 技 術,治 療 法 の 進 歩 に 伴 い,多 重 複 悪性 腫
瘍 の 報 告 は 増 加 す る傾 向 に あ る.最 近,わ れ わ れ は,
患 老:70歳,男
膀 胱 癌,前
主 訴'下 腹 部 腫 瘤
立 腺 癌 の経 過 中 に 悪 性 リ ンパ 腫 が 出現 し
性
1926
泌 尿紀 要35巻ll号1989年
家 族 歴:父
が 胃癌 で 死亡
既 往 歴=1979年9月
某 病 院 に て,膀
膀 胱 部 分 切 除 術.こ
1981年9月,再
の 時,術
いて
発性 膀 胱 腫 瘍 お よび 前 立腺 腫 瘍 の た め
当 科 に て,TUR-B,TUR-P,除
後,骨
胱 腫 瘍 に 対 し,
中 に 心 筋 硬 塞.続
盤 部 に38Gyの
現 病 歴=退
睾 術 を 施 行 さ れ,術
放 射線 照 射 を 受 け て い る・
院 後,1981年12月
よ り,近
医 に て リ ン酸
ジエ チ ル ス チ ル ベ ス トロー ル投 与 を 受 け経 過 観 察 され
て い た と こ ろ,1987年3月
頃 よ り下 腹 部 に 腫 瘤 が 出 現
し,再
て 膀 胱 か ら腹 壁 に 連 続 す る
度 当 科 受 診CTに
腫 瘍 を 指 摘 さ れ,5月28日
入 院 時 現 症=身
68mmHg.左
入 院 と な っ た.
長165cm,体
〆
Fig.2.
た,右
圧120/
tologicaldiagnosiswastransitionalcelI
carcinoma,pT3,G3.
鼠 径 部 に 腫 大 した リソパ節 を
'ろ
触 知 し た.
赤 沈 ・1時
間 値70mm,2時
、..》
∫.'ぜ
Hb13.69/dl,Ht42.3%.
血 液 生 化 学:Nal42mEq/l,K4.6mEq/1,CllO5
麟 藩 案麗ゴ 払懇 藩1磯
mEq/1,BUN15mgfdl,CrnO.8mg/dl,TP7.3g/
熱熱繋
∫
鱗 藩議
d1,AIGI.o,GOT75u/1,GPT26u/1,LDH
一FP<5ng/m1,AcP
2.3U,PAPO.4U.
数,
の
、、 無
ノ
㌔
"
﹃縫
陥
、7
喝
島 再
)
、
WBC10∼15/hpf.尿
細 胞 診:Papanicolaouclass
V.
膀 胱 鏡 所 見:膀
る が,粘
L
胱 頸 部 狭 窄 あ り,容
量 の 減 少 を認 め
膜 は 平 滑 で 腫 瘍 は 認 め られ な か っ た.
CT所
見:膀
胱 前 壁 か ら 腹 壁 に 続 く,充
実性 の 腫瘍
が 認 め られ た(Fig.1).
病 理 組 織 所 見 ・膀 胱 腫 瘍(第1次
'
島
圏 鰍
∴ 靴
.
薪 薄
'鮮r
、で
繍
紬 ♂踏紬
白(+),RBC多
Fig.3.Microscopicappearanceofprostatlctu.
mor(thesecondtumor).Pathohistologicaldiagnosiswasundifferentiated
adenocarcinoma.
pT3,G3移
(第2次
腫 瘍)の
行 上 皮 癌 で あ っ た(Fig.2).前
腫 瘍)の
(Fig.3).こ
立腺腫瘍
の と き の 再 発 性 膀 胱 腫 瘍 は 初 回 同 様G3
の 移 行 上 皮 癌 で あ った.今
回 入 院 後1987年6月8日
行 し た 一ド腹 部 腫 瘤 生 検 の 紺 織 像 は,胞
に施
体に乏 し くクロ
マ チ ンに 富 む 類 円 形 核 を 有 す る 腫 瘍 細 胞 の び ま ん 性 浸
R
L
commonantigenお
れ ら はleukocyte
よ びB-cellに
対 す る モ ノク ・
・
一 ナ ル 抗 体 に よ る 特 殊 染 色 に 陽 性 で,LSG分
Fig.1.CTscanoflowerabdominalmass.The
massIocatedbetweenbladderandlower
組織像は
病理診断は 未 分 化 型 腺 癌 で あ った
潤 が 皮 下 組 織 の 深 部 に 認 め られ,こ
abdominalwall.
・ジ を
饗 〆謬欝
血 液 一 般:RBC422×104/mm3,wBC3,880/mm3
尿 所 見:pH6,糖(一),蛋
冷 ガ;1'嶺
間 値100mm.
(Neu76.0,Eo2.1,Ba1.4,Lym17.8,Mo2.1),
602u/1,cEA3.2ng/ml,α
も
tumor(the丘rsttumor).Pathohis-
重50.4kg,血
鼠 径 部 よ り恥 骨 上 方 に か け て の 硬 い 腫
瘤 を 触 知 した.ま
、"蔚'轡
Microscopicappearanceofbladder
diffuselymphoma,B-celltype,medium-sizedcell
typeに
相 当 し た(第3次
腫 瘍)(Fig.4).
類の
小 林,ほ
臨 床 経 過:悪
1927
重 複 癌 ・悪 性 リ ン パ 腫
性 リ ン パ 腫 の 診 断 に 対 し てvincris-
tine,prednisolone,procarbazineに
よる 化学 療 法
瘍 の 消 失,右
鼠径部 リ
・野
ー ル 施 行 した と こ ろ,腫
、P
を2ク
か:三
tt
tttt㌻
ンパ 節 腫 大 の 消 失 を 認 め た.ま
LDHお
た,こ
の 時点 で 血 清
よび 尿 細 胞 診 も 正 常 化 し た が,肺
が 疑 わ れ た た め,8月21日
結核の合併
瓦
転 院 し た.
察
考
重 複 悪 性 腫瘍 は近 年,Warren&Gatesi)の
驚
灘
継 韓,
欝罎
定義
に 基 づ き報告 され て い る こ とが 多 い.す なわ ち,1)各
Fig.4.Microscopicappearanceoflowerabdom-
腫 瘍 が 一 定 の悪 性 像 を 示 す こ と,2)各 々別 個 に 区 別 さ
inalmass(thethirdtumor).This
れ る こ と,3)他 の腫 瘍 の 転 移 で あ る 可能 性 が 除 外 され
る こ と,の3項
biopsyspecimenproveddiffusclym-
目で あ る.本 症 例 は膀 胱 癌,前 立 腺癌
phoma,B-celltype,medium-sizedcell
type・
の 経 過 中 に 骨盤 内悪 性 リ ンパ腫 が診 断 され,組 織 学 的
に も この 基 準 を 満 たす 三 重 複 悪 性 腫 瘍 で あ る と考 え ら
TableI.Statisticsofmultip[eprimarycancers
重複癌の頻度
年度
昭 和
56年 度
冒
症例 数
1重
5フ年 度
20762
癌204gg
(93.5%)
2重
癌1344
3重
癌
1618
(6.1%)
(6,6%)
悪 性 腫 瘍21931
(7.0%)
152
(0.6%)
1750
(6.6%)
(0.7%)
1925
2039
〔7.1%》
23937
(8.0%}
162
(O.5%)
1589
(91.2%)
1866
1747
127
(0.5%)
(0.4%)
癌1442
21263
(84.7%)
(6,6%)
129
60年 度
21202
(85.8%)
1457
88
59年 度
21178
(86.7%)
(6.1%)
2-4重
58年 度
(8,8%)
(7.フ%)
25036
24673
23302
全症例 数
三重 複 悪 性 腫 瘍 部 位 別 頻 度(泌 尿 器 系)
年度
昭和
56年度
部位(88例)
7
胱
7
腎
副
腎
計
27
40
27
138/658(21.0%)
13
21
14
72/658(10.9%)
11
16
11
15
4
そ の他
度
17
60/658(9.1%)
16/658(2.4%)
2
1
6
6
1
0
2
0
3/658(O.5%)
3
3
1
4
15/658(2.3%}
0
孟
度60年
23
1
腎
度59年
(129例}(127例)(162例)(152例)(658例)
1
2
前立腺
膀
57年 度58年
泌 尿器 系40
(計)
57
60
81
(悪性
リンパ腫)(9)
(9)
(4》
(8、)
66
304/658(46.2%}
(10)(40/658(6.1%)》
一 日本病理 剖検輯 報よ リー
1928
泌 尿 紀要35巻Il号1989年
れ る.
文
近 年,早
期 診 断,治
献
療 技 術 の 向 上 に 伴 い重 複 悪 性 腫
瘍 の 頻 度 が 増 加 し て い る.日
本 病 理 剖 検 輯 報2)に
よれ
ば,企
悪 性 腫 瘍 剖 検 例 に対 す る 重 複 悪 性 踵 瘍 の 頻 度
は,昭
和60年 度 で8.8%,三
1)WarrenSandGatesO:Multipleprimary
malignanttumors:surveyofliteratureand
statisticalstudy.AmJCancer16:1358-
重 複 悪 性 腫 瘍 は0.7%で
1414,1932
あ る.三
粛 複 悪 性 腫 瘍 の 泌 尿 器 系 合 併 頻 度 は 高 く3 5),
2)日
本 病 理 学 会 編
最 近5年
間 で は 全 三 貢 複 悪 性 腫 瘍 の46.2%に
3)三
方 律 治,木
い る.中
で も 前 立 腺 癌,膀
胱 癌,腎
も 達 して
性 重 複 癌.癌
癌 の順 に合 併 が 多
4)岩
い(Table1).ま
た,悪
日 本 病 理 剖 検 輯 報,1981-1985
下 健 二:泌
尿 器 科 癌 が 関 連 し た 原 発
の 臨 床29:183-186,1983
動 孝 一 郎,杉
本 雅 彦,赤
座 英 之,新
尿 器 科 領 域 に お け る 重 複 癌
症 を 伴 う頻 度 に つ い て,primaryかsecondaryか
は
不 明 で あ る が,Watsonら6)は1,073例
%),Weimarら7)は1,068例
上,手
術 時,あ
方 律 治,鈴
信 男,友
中72例(6.74%)にX線
秋,伊
るい は剖 検 の 際 に 泌 尿 器系 の異 常 所 見
が 認 め られ た と 報 告 し て い る.
木
誠,石
井
石 純 三,福
原
・尿 管
治,大
創,国
谷 恵 子,河
原
毅=同
・前 立 腺 癌(三
沢 義 隆,森
辺 香 月,倉
時 に 発 見 治 療
重 複 癌)の
山
本
し た 直
一 例.癌
の 臨
床32:837-842,1986
性 リ ン パ 腫 は そ の 発 生 部 位 に よ り,リ
ンパ
6)WatsonEM,SauerHRandSadugorMG:
Manifestationofthelymphoblastomainthe
節 ・脾 な ど本 来 の リ ン パ 系 器 官 に 発 生 す るnodal
Iymphomaと
最 新 医 学40:1704-
1710,1985
5)三
中80例(7.8
腸
通 常,悪
島 端 夫;泌
性 リンパ腫 が 泌尿 器 系 の 合併
genitourinarytract.JUrol61:626-642,
そ れ 以 外 の 臓 器 に 発 生 す るextranodal
1949
lymphomaに
phomaの
分 け ら れ て い る.extranodallym-
7)WeimarG,CulpDA,LoeningSand
NarayanaA:Urogenitalinvolvementby
発 生 頻 度 は,non-Hodgkin'slymphoma
で は 約25∼50%と
さ れ て お り,悪
の 浸 潤 に つ い て はSufrinら8)に
れ た と報 告 さ れ て い る.重
malignantlymphomas.Jurol125:230-231,
性 リンパ 腫 の膀 胱 へ
よ れ ば13%に
認め ら
1981
8)SufrinG,KeoghB,MooreRHandMurphy
複 悪 性 腫 瘍 が偶 発 的に 発 生
GP:Secondaryinvolvementofthebladder
す る 頻 度 の 期 待 値 は 馬 場 ら9)に よ り報 告 さ れ て い る
inmalignantIymphoma.JUrol118:251-
が,実
253,1977
際 の 報 告 は 期 待 値 よ り も高 頻 度 で あ り,重
の 発 生 機 序 に つ い て は,1)遺
伝 的 要 因,2)第
複癌
一癌に
9)馬
場 謙 介,下
里 幸 雄,渡
辺
癌 の 統 計 と そ の 問 題 点.癌
よ る 宿 主 抵 抗 力 の 低 下,3)環
境 因 子,4)癌
治 療 行 為 に よ る 発 癌 因 子,等
る.本
ま た,膀
症 例 に お い て は,家
に対 す る
の要 因 が考 え ら れ て い
系 内 に 癌 が 存 在 す る こ と,
胱 癌 お よ び 前 立 腺 癌 を2年
間 隔 で次 々 と発 症
漸,田
島 知 行:重
複
の 臨 床17:424-436,
1971
10)PothJL,GeorgeJrRP,CregerwPand
SchrierSL:Acutemyelogenousleukemia
followingIocalizedradiotherapy.ArchIntcrnMed128:802-805,1971
し て い る こ と よ り宿 主 側 に な ん ら か の 要 因 の 存 在 を 示
唆 で き る こ と,さ
は,同
らに悪 性 リ ンパ 腫 の発 症 に 関 して
部 位 がextranodalIymphomaの
て ま れ で あ り,し
発 生 部位 と し
か も既往 放 射 線 照 射 域 内 か らの発 生
11)BakriK,ShimaokaK,RaoUandTsukada
Y;Adenosquamouscarcinomaofthethyro三d
afterradiotherapyforHodgkin'sdisease.
Cancer52:465-470,1983
12)sherrilDJ,GrishkinBA,GalalFs,zajtchuk
で あ る こ とか ら 放 射 線 照 射 と の 間 に な ん ら か の 関 連 が
考 え られ る こ と1。-14),等 か ら 複 数 の 因 子 が 相 互 に 作 用
し,三
重 複 悪 性 腫 瘍 を 発 症 す る に 至 っ た と 推 察 さ れ る.
R,GraeberGMRadiationassociated
malignanciesoftheesophagus.Cancer54:
726-728,1984
13)SiblyTF,KeaneRM,LeverJVandSouth・
結
語
woodWFW:RectalIymphomainradiation
injuredbow1.BrJSurg72=879-880,1985
70歳 男 性 の 膀 胱 癌,前 立 腺 癌,悪 性 リンパ 腫か らな
14)Weiss,RB,KleinMA:Non。Hodgkin's
る三 重 複 悪 性 腫 瘍 の1例 を報 告 す る と共 に,若 干 の文
lymphomaaftersuccessfultherapyofsmall
献 的考 察 を 行 った.
celllungcarcinoma.CancerChemother
Phamacol14:9-i1,1985
本 論 文 の 要 旨は,節121回
お い て 発 表 した.
日木 泌 尿 器 科 学 会 関 西 地 方 会 に
(1989年2月10日
受 付)