正しい脊椎牽引療法の原理と治療期間について - e-CLINICIAN

◎正しい脊椎牽引療法の原理と治療期間について
①老人が月余、年余にわたって、骨盤牽引、頸
椎牽引を行っている症例に遭遇する。有効・無効
の判定は、治療開始より何カ月目に行うべきであ
ろうか。
②牽引療法が有効である理由は何か。ある整形
外科医は、引っぱると椎間板腔が広がり、突出し
た椎間板が靱帯の弾性により正常位に復するから
と説明したが正しいのか。
③ 骨粗籟症の患者を牽 引 す る こ と は 、 か え っ て
危険ではないのか。 ︵ 三 鷹 市 、 内 科 ︶
部を牽引します。この方法の目的は、頸椎部の動
屈曲位とし、5㎏程度の重錘で45度の角度で後頭
的因子を解消し、脊髄の安静を保持し、これによ
って脊髄循環を改善することにあります。したが
って、頸椎安静持続牽引は、頸椎症性脊髄症、頸
椎後縦靱帯骨化症や頸椎椎間板ヘルニアによる頸
髄症に適応されます。われわれも7例の頸椎椎間
板ヘルニア例のMRI像で牽引前・後の椎間板の
形態的変化について調べたところ、5例には変化
を認めなかったが、2例の突出型ヘルニア塊の退
縮や硬膜外静脈叢の縮小が認められました。しか
し、臨床症状は全例に改善を認めたことより、椎
法︵骨盤牽引︶とがあり ま す 。 頸 椎 牽 引 は 、 持 続
脊椎牽引療法には、頸椎牽引療法と腰椎牽引療
について、まず回答させていただきます。
ご質問の②﹁牽引療法が有効である理由は何か﹂
ます。患者に座位をとらせ、頸椎が屈曲位になる
有する頸椎椎間板ヘルニアや頸椎症例に適応され
頸椎間欠牽引は、外来患者で頸部痛や根症状を
な根拠と考えられます。
れず、安静による脊髄循環動態の改善が第一義的
間板の局所形態変化のみが効果の根拠とは考えら
牽引と間欠牽引とに分けられます。持続牽引は、
方向に10㎏、10分間程度施行させます。本法の効
回答高知医科大学整形外科教授 山本博司
患者をベッド上に安静位をとらせて、頸部をやや
CLINICIAN,98No.47382
(744)
腰椎骨盤牽引にも持続牽引と間欠牽引とがあり
に お い ても確かめられて い ま す 。
ります。このことは、私共のサーモグラフィ検査
への作用により、上肢・手部の血流増大効果もあ
経症状がみられる症例には禁忌です。症状を増悪
は、脊柱管狭窄症を有する高齢者で、上下肢に神
頸椎であれ腰椎であれ、外来での問欠牽引療法
法が大切となります。
り、勧められません。むしろ、慢性例では運動療
筋萎縮などのマイナス効果も発現する可能性があ
4週を越えても効果の現れない持続牽引は中止し
ますが、持続牽引がより効果的です。いずれの牽
させる恐れがあります。このような症例には、入
果の理由は、間欠牽引により頸部周囲筋のパンピ
引にせよ、股関節と膝関節とを十分に屈曲させて、
院の上安静持続牽引を約1ヵ月間行わせることが
て、MRI画像を参照しつつ、手術療法など他の
腰轡部の筋を弛緩させ、腰椎の前蛮を減少させる
効果的でしょう。骨粗霧症患者の牽引も、比較的
ング・リラクゼーション作用︵いわゆるマッサー
ことが肝要です。効果の理由は、椎間高を増加さ
療法に切り替える必要があります。頸椎や腰椎の
せ、椎間板の突出を減少させ、神経への圧迫を減
禁忌と考えられます。骨粗霧症患者では、椎間板
ジ効果︶による筋の血流 改 善 と 前 角 細 胞 へ の 求 心
少させるとともに、安静により、椎間関節や神経
軟骨は、よい状態に保たれている状態が多いよう
性刺激の減少による筋スパズム改善にあります。
根の炎症を鎮静化させ、椎間板への栄養供給を改
です。そして、脆弱な粗籟椎骨に骨傷の生じる恐
ことは、効果が乏しく、椎間関節へのストレスや
善させることなどが考えられています。
れもあります。症状のある骨粗籟症症例には、装
外来での問欠牽引も、2∼3ヵ月を越えて続ける
持続牽引の効果は、2週後より現れ、約4週で
具療法や薬物療法がより効果的と思われます。
さらに、間欠牽引マッサ ー ジ 効 果 に 伴 う 交 感 神 経
期待される治療効果が達成されます。したがって、
(745)
83CLINICIAN,98No.473