FT-Ramanによる脂肪酸の特性分析(PDF形式、816KB)

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FT-Raman による脂肪酸の特性分析
IR/Raman
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News Letter
サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社 IR/Raman 営業部
編集発行 : マーケティング部
M93002
はじめに
Key Words
y FT-Raman
y 近赤外レーザ
y 脂肪酸
y ヨウ素価
y 異性体
y 定量分析
油脂においては長鎖の脂肪酸がその性質を大きく変化させ
ることが知られている。この脂肪酸の特性は、直鎖の長さと飽
和度によって決定される。不飽和の二重結合部分は自由回
転が起こらないので、トランス型とシス型の異性体が存在し、
二重結合が増えれば、異性体の数も増加する。そのため、
油脂の脂肪酸鎖の不飽和度、シス / トランス異性体の存在
比は物理的特性に大きな影響を及ぼし、医学的にも体内代
謝に及ぼす影響について検討されてきた。
これらは既に標準検査方法が確立されている。脂肪中の不
飽和度を示す値としてヨウ素価が用いられる。ヨウ素価は湿
式法により、多くの時間を費やした後、滴定をおこなうか、ガ
スクロマトグラフィ(GC)で測定する。GCによる分析結果は良
好であるが、油は十分な揮発性を示さないためにかなり煩雑
な前処理が必要である。また、分離した各成分に対する測定
は、もう一度、滴定結果と関連づける必要がある。
今回、我々は本実験を通じて脂肪酸の不飽和度とシス / トラ
ンス異性体の存在比の分析における、フーリエ変換ラマン分
光分析(FT-Raman)の有用性について検討した。同分野に
おいては、すでにフーリエ変換赤外分光装置(FT-IR)による
研究例があるが、FT-Ramanを利用した場合には数種の利
点がある。まず第一にFT-Ramanは、FT-IRより不飽和脂肪酸
の存在を示すC=C結合の感度がはるかに高い。他の特徴と
して、サンプル調整をおこなわなくてもよい点が挙げられる。
サンプルの前処理の必要がなく、測定プロセスは、ほぼ非破
壊である。これはサンプルの処理効率という面から考えると
非常に重要である。さらにFT-Ramanは励起光として近赤外
レーザを用いており、サンプルからの蛍光励起を回避できる
ほか、サンプルを入れるバイアルやセル、キャピラリチューブ
などガラスを通して測定が行える。ガラスは中赤外領域で非
常に強い吸収を有し、また赤外法で用いるガラス以外のセ
ル材料は壊れ易くて高価であるため、汎用的とはいえない。
実験
サンプルは、特別な前処理は行わず、それぞれを洗浄した
NMR試料管に入れ、装置内の標準ホルダーにセットした。サ
ンプリングジオメトリーとして f / 0.4, 180°反射鏡を用いて散
乱光を集光した。レーザーパワー約400mW、積算回数100
回、分解能8cm-1の条件でラマンスペクトルを測定した。サン
プル1点あたりの測定所要時間は、サンプルをNMR試料管
に入れて装置にセットするのに約2分、データの取り込みに
約2分である。
図1 Italian Extra Virgin Olive Oil の FT-Ramanスペクトル
結果と考察
ラマンと赤外のデータはお互いに相補的である。赤外では
弱い吸収しか示さない不活性な振動モードでも、ラマンでは
強いピークとなって現れることが多い。しかし、逆のケースも
ある。ラマンスペクトルの解釈は、赤外と同様、既に確立され
ている官能基と波数との帰属を用いることが可能である。
図1にオリーブオイルのラマンスペクトル示す。赤外と同様、
3000cm-1 付近のピークは、C-H伸縮振動によるものである。
3005cm-1付近のピークはオレフィン系のC-H伸縮振動で、不
飽和度の測定に利用できる。C=C伸縮振動は、ラマンスペク
トルでは1660cm-1 付近に強くてシャープなバンドとなって現
れる。1750cm-1付近のピークはカルボニル基に基づくもので
ある。
ヨウ素価の計算
ヨウ素価は、サンプルの不飽和度を決定する手法として確
立されているため、これらの結果とラマンスペクトルによる分
析結果との間に良い相関がなければならない。各スペクト
ルに対して1660cm-1 のC=C結合によるピーク面積を計算
し、これと1440cm-1のCH2 変角振動によるピーク面積との比
を求めた。文献からサンプルのヨウ素価を調査し、図2の検
量線を作成した。縦軸は上記方法で求めたピーク面積比
で、横軸は文献からのヨウ素価である。実際のサンプルに
ついて測定したヨウ素価ではないため、誤差はあると考え
られるものの、非常によい直線関係にあることから、ラマン
スペクトルから計算した不飽和度と、文献から引用した従
来の湿式法による値とは、良好な相関を示していることが
わかる。また、作成した検量線から他のサンプルを測定し
てそのヨウ素価を求めることが出来る。これを図3に示した。
M93002
この結果からも良好な直線関係にあることがわかる。
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図2 ラマンスペクトルのピーク面積とヨウ素価(文献値)
との比較
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異性体の分析
図1のラマンスペクトルにおいて、1380~1200cm-1付近に複
雑なピークが確認できるが、これは3つのバンドが重なり
あっているためである。この領域についてデコンボリュー
ション及びカーブフィットをおこなった結果を、図4に示す。
中央の一番大きなピークは (CH2)n 骨格の面内変角振動
によるものである。また、1265cm-1のバンドはサンプル中の
シス型異性体の濃度を求めるのに有効である。このバンド
は赤外には不活性であるため、FT-IRによる同様の分析は
できない。1326cm-1付近にショルダーとして観察できるピー
クは、トランス型異性体の =CH 変角振動によるものである。
このことから、シス型とトランス型の異性体の存在比を求め
ることが出来る。
まとめ
図3 検量線を利用し、FT-Ramanスペクトルから予測
されたヨウ素価
油脂の研究におけるFT-Ramanの有用性について検討した
が、現在利用されている方法(滴定法、GC、ならびにFTIR)に比べて、測定の簡便さやサンプルの分子構造に関す
る特徴を直接的に得ることができること、など数々の利点が
あった。また、ラマンスペクトルは、この種の分析に関して、
多くの情報を有していることも示された。ラマンスペクトルの
ピーク面積比は、不飽和度を示す基準となるヨウ素価と非
常に良好な相関関係を示した。不飽和二重結合による、シ
ス / トランス型異性体のピークも、それぞれ個々に検出でき
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た。異性体の定量方法として、ラマン法の有用性が、今後
注目されると考えられる。
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図4 Italian Extra Virgin Olive Oil のラマンスペクトル
領域拡大とカーブフィットによるピーク分離