Application Note K-Alpha:ポリマーの化学状態マッピング サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社 XPS 営業部 編集発行 : マーケティング部 AN31093 日本語版 Key Words y K-Alpha y 表面分析 y 化学状態 y マッピング y ステージスキャン はじめに 完全自動XPS装置K-AlphaにはモノクロX線源とマルチ チャンネル検出器が標準で搭載されておりますが、両者 の特徴を上手く利用することで理想的な化学状態マッピ ングが実施できます。使用するX線のスポット径を変え ることでマッピング画像の空間分解能を変更することが でき、また、マルチチャンネル検出器を利用した“ス ナップショット・モード”(非スキャン・モード)により、 マッピング時の各ピクセル毎のスペクトル取得が非常に 短時間に実施できます。さらに、新開発の帯電中和銃に より絶縁物での化学状態マッピングも簡単に実施できる ようになっております。 図2 全ピクセルのC1sスペクトルを総和したスペクトル におけるピーク分離 試料の作製 画像の構築(マップの作成) アクリル膜をコーティングしたシリコン基板上に銅グ リッドを密着させ、フロロカーボン(モノマー)・プラズ マップを作成する方法の一つに、単純にある特定の結合エ ネルギーにおけるピーク強度で表示するというものがありま す。図3はこの方法で作成したマップで、10の異なる結合エ マ中に暴露しました。これによりグリッドと同じ模様の フロロカーボン・ポリマー膜を作製し、図1に示す領域 でK-Alphaを用いた分析を実施しました。 図1 試料作製の手順、および使用したグリッドと K-Alphaによる分析領域 測定方法 X線源には30μm径にフォーカスしたモノクロX線を使 ネルギーにおけるピーク強度マップです。 図3 それぞれの結合エネルギーにおけるピーク強度マップ 図4中の(a)および(b)はそれぞれ結合エネルギー284.7eV のハイドロカーボンおよび291eVのフロロカーボンのピーク強 度マップで、この2つを重ね合わせたものが(c)です。 用し、ステージスキャン式のマッピング方法によりス テージを10μmずつ移動させながら、計67x94個のすべ てのピクセルにおいて、スナップショット・モードによ りC1sとF1sのスペクトルを測定しています。 ピーク分離 図2はこのマッピングで測定したすべてのピクセルの C1sスペクトルを足し合わせたものです。ピーク分離の 結果から、エステルとフロロカーボンの両方が見えて いることがわかると思います。 図4 (a)284.7eVのハイドロカーボンのマップ、 (b)291eVのフロロカーボンのマップ、 (c)2つのマップの重ね書き さらに、たとえばまず図2のようなピーク分離を実施し ておき、マッピングで測定したすべてのピクセルの一つ ひとつに対して、これと同じ成分ピークを使ったピーク 分離を行うということも可能です。こうすることで、 ピーク分離したそれぞれの成分のピーク面積強度や原子 濃度のマップを作成することも可能になります。一例と して図5に示したのがハイドロカーボンとフロロカーボ ンそれぞれの原子濃度マップです。このときのピーク分 離には"非線形最小二乗フィッティング法"を用いており、 図7 非常に短時間で大量のピーク分離を実施しています。 フロロカーボンの膜厚マップ ステージスキャン式マッピングの利点 K-Alphaではマッピングはステージスキャン式で行いま すが、この方法には数々の利点があります。 ・空間分解能が使用するX線のスポット径にのみ 図5 (a) 各ピクセルのスペクトルをピーク分離した結果 得られたハイドロカーボンの原子濃度マップ、 (b) 同じくフロロカーボンの原子濃度マップ スペクトルの再構築 各ピクセルそれぞれにスペクトルが存在するということ を利用すると、マップの任意の領域の平均スペクトルを 取り出すということも可能になり、つまりは微小領域測 定と同じ結果が事後的に得られるということになります。 図6はそのようなデータ解析の例で、それぞれマップの 異なる領域から再構築したスペクトルです。フロロカー ボン膜が付いているはずの領域では基板のピークも同時 に観察されていますが、フロロカーボン膜が付いていな いはずの領域では基板のピークのみが観察されています。 依存するため、画像の周辺部でのボケやニジミが 発生しない。 ・各ピクセルごとに完全なスペクトルが存在する ので、化学状態ごとの濃度マップや膜厚マップが 簡単に作成できる。 ・マッピングの方法が原理的にレンズ系の設定と は無関係なため、最大感度の得られる設定のまま 効率よくマッピングできる。 ・マッピング時のデータ測定が常にレンズの視野 中心で行われるため、マッピングの全領域で感度 変化等のない完全な同一条件下での測定となる。 ・X線ビームは固定したままなので、マッピング の全領域でX線のエネルギーや輝度が変化しない。 ・最大で60mmx60mmまでの広域マッピングが AN31093 日本語版 サーモフィッシャー サイエンティフィック株式会社 スペクトロスコピー営業本部 XPS 営業部 横浜本社 TEL.045-453-9201 FAX.045-453-9235 E-mail [email protected] 実施できる。 まとめ K-Alphaではあらゆる意味で非常に精度の高いマッピン 図6 マップ上の指定した領域から再構築したC1sスペクトル 膜厚マップ 上記のようにフロロカーボンの膜が付いている領域で は、基板のピークも検出されています。これは、フロ ロカーボン膜が数ナノメートル程度の厚さであること を示しています。そこで、装置付属のAvantageデータシ システムの一機能である"膜厚計算プログラム"を利用し て膜厚マップを作成したのが図7です。計算の際、2つ のポリマーの密度はそれぞれのバルク状態での密度と 等しいと仮定しています。 グが実施できます。スナップショット・モードでの同時 スペクトル測定により、データポイント数の多い高精 細なスペクトルが一瞬にして取得できるため、定量分 析や化学状態分析が短時間で実施できます。 また付属のAvantageデータシステムにより存在する化学 状態を明確にし、その2次元分布を知ることもできます。 さらに、薄膜の場合には非破壊で膜厚マップを作成す ることも可能です。 謝辞 www.thermofisher.co.jp (日本) www.thermo.com (グローバル) 本実験を行うに際し、サンプルを提供して頂いたPlasso Technology Ltd., のKristina Parry氏およびJason Whittle氏 に感謝致します。 ©2007 Thermo Fisher Scientific Inc. All rights reserved. All trademarks are the property of Thermo Fisher Scientific Inc. and its subsidiaries. Specification, terms and pricing are subject to change. Not all products are available in all countries. Please consult your local sales representative for details.
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