高分解能・精密質量( HR/AM)システムによる 環境サンプル中の未知

Application Note LCMS14005
高分解能・精密質量(HR/AM )システムによる
環境サンプル中の未知化合物のスクリーニング
サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社
キーワード
HPLCシステム
高分解能、
精密質量、
ノンターゲットスクリーニング、
Orbitrap質量分析計
オンライン サン プル 濃 縮 システムには、
Thermo Scientific™
EQuan™ を使用しました(図 1)。容量 1000 µL のサンプルを
Thermo Scientific Hypersil GOLD™ 20 × 2.1 mm トラップ
カラムに注入し、Thermo Scientific Accucore™ RP-MS 分離
はじめに
カラムにより分析しました。図 2 に示す溶媒グラジエントを採用
LC-MSによる食品および環境サンプル中の汚染物質のターゲッ
しました。これにより、サンプル注入、オンライン濃縮、クロマトグ
ト分析と定量分析は、迅速かつコスト効率に優れたルーチンアプ
ラフィー分離の合計サイクル時間が 15 分となりました。
リケーションとなりました。しかし、ターゲットしていない化合物
が 含まれていた 場 合は、この 方 法では 対 応できません。また、
MSシステム
LC-MSによるノンターゲット分析は、手間と時間がかかり、ルー
Thermo Scientific Exactive™ Plus 質量分析計を使用し、フル
チンアプリケーションにすることは非常に困難でした。
スキャン/All Ion Fragmentation(AIF )モードで分析を行いまし
当社は、ルーチンでスクリーニングと定量を一連のワークフロー
た。このモードでは、フルスキャンと AIF スキャンが交互に実施さ
に統合したソフトウェアを開発しました。このソフトウェアは、候
れます。
分解能は、
70,000(m/z 200 における FWHM )に設定
補化合物をスクリーニングおよび定量する機能と、未知化合物を
スクリーニングする機能を連携しており、ターゲット分析に加え、
しました(図 3)。質量範囲を m/z 103 ∼ 900(AIF スキャン:
m/z 70 ∼ 870、分解能 35,000)に設定し、存在する可能性のあ
手間のかかっていたノンターゲット分析のルーチン化も可能にし
る汚染物質に対応できるようにしました。システムの質量軸の校
ました。
本アプリケーションノートでは、一つのデータセットを使用して、
正は、校正用標準混合液を使用して、測定前に 1 回実施しまし
た。それ以外の機器の最適化(チューニング)は不要でした。
高度に自動化されたルーチンのハイスループット定量分析と汎用
性の高いノンターゲット分析を行う方法を示します。
Accela 600 ポンプ
オートサンプラー
大容量
サンプルループ
6ポート
バルブ
6ポート
バルブ
通常容量
サンプルループ
Accela 1250 ポンプ
6ポート
バルブ
3 µm Accucore
RP-MS
分離カラム
図 1:EQuan オンライン固相抽出および分離システムの概略図
メソッド
サンプル前処理
表流水サンプルを四つの異なる地点から採取し、前処理を行わ
ず、そのまま分析しました。また、標準液(対照)1 サンプルおよ
び水道水(参照)1 サンプルを、同時に分析しました。
12 µm Hypersil GOLD 濃縮カラム
2
結果
候補化合物スクリーニング
未知化合物スクリーニングより簡単な手法として、候補化合物ス
クリーニングがあります。この手法では、サンプル中に存在してい
る可能性のある化合物を多数含むリストを使用します(図 4)。こ
のスクリーニングでは、網羅的に環境汚染の原因物質を検出する
ことはできませんが、保持時間やマススペクトルの確認のために
標準物質を使用する必要はありません。本検討では、約 1,000成
分の化合物名、元素組成、フラグメント情報が登録されている内
蔵データベースを 使 用しました。さらに、約 4,000 の HR/AM
MS2スペクトル情報が含まれているスペクトルライブラリーも、ソ
フトウェア上で利用可能です。最終的に、同位体パターンマッチン
グ、フラグメントイオン検索、
MS2ライブラリー検索の各機能を用
いて結果を確認しました。
確認に用いた 3 種類の項目がすべて一致する、多数の汚染物質
が同定されました。一方、同一バッチで分析した標準液(通常は、
このようなサンプルのターゲット分析で使用)の結果を見ると、
図 2:LC グラジエント条件
この手法では、サンプルに含まれるすべての化合物を同定できな
いことも明らかとなりました。さらに、フラグメントイオン情報と
ライブラリースペクトルが、確認のための追加情報として役立つこ
データ解析
とも判明しました(図 5)。
データ解析には、Thermo Scientific SIEVE™ 2.1 ソフトウェア
上記に加えて、2,900 成分の情報が含まれている大規模データ
および Thermo Scientific TraceFinder™ 3 .1 ソフトウェアを
ベースも使用しましたが、このリストに含まれていない汚染物質
使用しました。TraceFinderで取得したデータは、自動的にSIEVE
が存在する可能性を否定することはできませんでした。
に送られ、解析後にTraceFinder上で結果を確認できます。最終
処理、レポート作成、アーカイブについても、
TraceFinderで確認
できます。
図 3:Exactive Plus メソッド設定
3
図 4:候補化合物スクリーニングの結果画面
未知化合物スクリーニング
候補化合物スクリーニングで検出できない化合物があったため、
未知化合物スクリーニングを実施しました。このスクリーニング
では、差異解析ソフトウェアSIEVE に測定結果を送り、試料間で
差異がある成分の解析を行いました。必要な設定やパラメーター
はすべて TraceFinder から SIEVE に自動的に送られます。第一
段階では5,000 の成分が検出されましたが、意味のない成分も
含まれるため、リストの絞り込みが必要です。そこで、参照サンプ
ルとして水道水を使用し、結果リストからマトリックスシグナルと
バックグラウンドシグナルを除去する処理を行った結果、リスト
図 5:候補化合物スクリーニングにおける 3 段階の確認: 同位
体パターンマッチング、フラグメントイオン検索、MS2ライ
ブラリー検索。A: 同位体パターンの比較、B: フラグメント
イオンの比較、C: MS2ライブラリーの比較
に残った成分は 1,829 になりました。
このリストの主成分分析を
行いました。その結果、3 種類の水サンプルの類似性が非常に高
いことが 明らかになりました。一方、成分に差異が 認められる水
サンプルが 1 種類(図 6、表流水1を参照)ありました。データを
フィルター処理することにより、これらのサンプル間の差を示す
成分を抽出することが可能です。
4
標準
表流水 2
表流水4
表流水3
水道水
表流水1
図 6:主要な差異に関する主成分分析(PCA: principle component analysis )結果
次に、表流水 1 サンプルと表流水 2 サンプルの主要な差異のみ
この検索により、
1,529 の成分が同定されました。この結果リス
を検出するフィルターを設定しました(図 7)。その結果、リストを
トは、SIEVE アプリケーションを終了した際 TraceFinderに自動
1,671 成分まで絞り込むことができ、ChemSpider データベー
的に送信され、新しい化合物データベースとしてインポートされま
スに送り、
化合物の同定を実施しました。
す。
図 7:SIEVE による未知化合物スクリーニング結果の確認(プロピコナゾールの例)
。所定の保持時間における抽出イオンクロマトグラ
ムからは夾雑物質の影響のないクリアなシグナルが得られ、同位体パターンマッチングではほぼ完全に重なることを確認できま
す。
Application Note LCMS14005
得られた結果の確認とレポート作成のため、この化合物データ
A
ベースを使用して、候補化合物スクリーニングを実施しました。結
果をTraceFinderに戻すと、ターゲット分析、候補化合物スクリー
ニング、未知化合物スクリーニングのすべてを一つのソフトウェア
で取り扱うことができ、一つの解析画面上で結果のレビューとレ
ポート作成ができるという利点があります。
一部の化合物が多数のマトリックスと共溶出していることが明ら
かになり、また、周囲のマトリックスから重要なシグナルを抽出す
B
ることが可能で、シグナル強度が低くても質量精度を完全に維持
することができました。図 8 に、ロキソプロフェンの例を示しま
す。周囲のマトリックスシグナルは、化合物のモノアイソトピック
および同位体シグナルとほぼ同じ強度で検出されていました。
しかし、対象化合物のシグナルは、
マトリックスシグナルやバック
グラウンドシグナルから十分に分離されており、化合物を簡単に
検 出し 確 認することができます。このように対 象化合 物とマト
リックスのシグナルを明確に分離できる理由は、この分析で採用
した高い分解能、R = 70000(m/z 200)によるものです。
図 8:化合物同定のために高い分解能を用いる重要性: モノア
イソトピックシグナル( A )および同位体シグナル(B )
は、同 程 度の強 度のマトリックスシグナルに囲まれてお
り、本実験で使用した高い分解能でのみ分離が可能
最終的な解析を一つのソフトウェアで実施するため、ターゲット
分析、候補化合物スクリーニング、未知化合物スクリーニングの結
結論
果を簡単にまとめることができ、結果のレポート作成とアーカイ
環境分析において、一つのアプリケーション内で高度に自動化さ
ブも一つのステップで行えます。二つのソフトウェア間のデータ送
れた未知化合物のスクリーニング分析が、ターゲット化合物およ
受信はすべて自動的に行われます。表 1 に、最初のターゲットス
び候補化合物のスクリーニングで対応できない部分をカバーでき
クリーニングでは検出されず、未知化合物スクリーニングでは検
ることがわかりました。高分解能・精密質量分析計Orbitrap™ の
出された化合物の例を示します。
一つであるExactive Plus の分解能は、分析対象化合物のピーク
をマトリックスシグナルやバックグラウンドシグナルから分離す
るために役立つことから、得られた結果の選択性および信頼性を
支える原動力となっています。
表 1:ターゲット分析および候補化合物スクリーニングでは検出されなかった汚染物質の例
化合物名
ビソフロロール
カンデサルタン
カルボフラン
ジベンジルアミン
イルベサルタン
ロキソプロフェン
メキサカルベート
オキサゼパム
プロピコナゾール
トラマドール
化学式
) RT(測定値) 同位体パターンスコア(% )
m/z(Apex ) m/z(Delta(ppm )
C18 H31 NO4
C24 H20 N6 O3
C12 H15 NO3
C14 H15 N
C25 H28 N6 O
C15 H18 O3
C12 H18 N2 O2
C15 H11 ClN2 O2
C15 H17 Cl2 N3 O2
C16 H25 NO2
326.2330
441.1671
222.1127
198.1277
429.2401
247.1332
223.1443
287.0584
342.0774
264.1961
0.57
-0.50
-0.19
-0.66
-0.03
0.45
-0.06
0.48
0.21
0.10
5.12
6.56
5.18
7.31
6.45
5.52
5.53
6.29
7.43
4.35
100
100
98
98
100
85
96
96
89
100
本アプリケーションノートは、ASMS2013ポスターから抜粋しました。
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