FT-IR ATR による黒ゴムの分析 - Thermo Fisher Scientific

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FT-IR ATR による黒ゴムの分析
IR/Raman
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ダイヤモンド と ゲルマニウム によるATRスペクトルの比較
サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社 IR/Raman 営業部
編集発行 : マーケティング部
M05014
はじめに
Key Words
y ATR
ATR法は全反射法とも呼ばれ、FT-IRと組み合わせることで
y FT-IR
種々の材料の分析に広く利用されている。さまざまな種類の
アクセサリが市販されており、原理や応用に関する著作物も
多数出版されている。以下にATR法の概要を説明する。
y 黒ゴム
y ダイヤモンド
y ゲルマニウム
y 屈折率
ATRアクセサリの選択におけるいくつかの項目については
先に述べたが、ここでサンプルとクリスタルの屈折率と入射
角の関係、ならびに、しみこみ深さを理解しておこう。
先述の2つの条件の内、臨界角(θ c, ,法線に対する角度)、
すなわち光がクリスタル内で全反射する最小の入射角度
は、次式で求められる。
θc = sin-1(Ns/Nc)
屈折率の異なる2つの物質間では、光は進行方向を変えるこ
とが知られている。これは「スネルの法則」と呼ばれ、屈折は
レンズの作用や虫眼鏡による集光など、身近な例が挙げら
れる。屈折の後、光はガラスなどの光学材料をそのまま通過
してしまうと思われがちだが、次の2つの条件が満たされる場
合、光はその中で全て内部反射(全反射)するようになる。
▪
▪
・・・(1)
ここで Ns はサンプル、Nc はクリスタルの屈折率である。例
えば、屈折率1.5(一般的なポリマーでの値)のサンプルを、
ダイヤモンド(Nc=2.4)で測定する場合、少なくともθ c=39°
以上の入射角度が必要であることが分かる。ゲルマニウム
Ge(Nc=4.0)の場合では、θc=22°となる。
光の進行方向が、高屈折率から低屈折率媒体
光の進入角度が、臨界角より大きい
水族館の水槽の側窓を例に、内部反射を説明してみよう。
もし、斜め方向の大きな角度から水槽を観察しようとする場
合、水槽内は見えずに、内部反射によって鏡面のようにな
る。さらに、側窓に指を軽く押しつけ、その部分を覗き見るこ
とで、内部反射のもうひとつの特性を見ることができる。内部
反射で見えるのは、指紋の「隆線」部分だけで、「溝」は見え
ない。これは内部反射光が側窓表面からわずかにしみで
て、窓に密接した表皮、しかもごく表面だけで吸収され、その
部分だけが影のように見えるからである。しみだし光はエバ
ネッセント波と呼ばれ、しみだしの距離は、ごくわずかであ
る。高屈折率媒体に密接した物体に、内部反射光がわずか
に吸収され減衰する、これがATRと呼ばれる現象である。
ATRは、赤外分光法では非常に有用なサンプリングアクセ
サリとなる。赤外光透過材料で作られた内部反射エレメント
(IREやクリスタル、プリズムなどと呼ばれる)にサンプルを密
着させるだけで、容易にスペクトルが得られる。ATRアクセサ
リの選択で重要な項目は、透過波数領域、化学・物理特性、
屈折率、しみこみ深さ、そして入射角度である。例えばダイ
ヤモンドATRを選択した場合、硬さや化学的安定性、測定
領域が理想的で、多くの試料に応用できる。しかし、ATR法
を正しく利用するためには、光学的な理解が必要になる。こ
こでは具体例を挙げ、注意点を説明する。
図1に示す黒ゴムは、自動車タイヤやガスケットなどに利用さ
れているが、これらには耐久性を増すためにカーボンブラッ
ク(添加量20-30%、またはそれ以上)が含まれている。黒ゴム
の組成変化や劣化状態を分析するには、赤外分光法が適
切と考えられる。しかしカーボンブラックを含む材料は薄片
化しても赤外光のほとんどを吸収、散乱し不透明となる。反
射法による測定が必須となるが、外部反射による反射率は
低いため、感度よく測定するにはATR法が便利である。
図1
黒ゴム製品の例 - 自動車タイヤ、ワイパー、
ガスケットなど
ATRのしみこみ深さ(dp)は、次式によって求められる。
dp = λ / (2 πNc (sin2 θ -(Ns/Nc))1/2)
・・・ (2)
上式より、ダイヤモンドでは、1,000cm-1
(λ=10μm)で約
2μm のしみこみ深さとなり、Ge(Nc=4.0)では 0.67μm と、より
浅くなることが分かる。
実験
Nicolet 380 FT-IR に Smart OrbitTM 1回反射型ATRアクセ
サリを組み合わせたシステム(図2)を用い、カーボンブラック
含 有 量 の 異 な る 数 種類の黒ゴム( CBゴム)を測定した。
Smart Orbit は、トッププレートを交換するだけで、ダイヤモン
ド、Ge、あるいはシリコンなどのクリスタルを迅速に変えること
ができる。スペクトル分解能 4cm-1、積算回数 32回とし、ダイ
ヤモンドと Ge クリスタルでATRスペクトルを測定した。
図3は、20%CBゴムのATRスペクトルの違いである。ダイヤ
モンドによる測定では、Geに比較してスペクトルが微分形に
変形しているのが分かる。入射角度45°のダイヤモンドATR
では、一般的なポリマーは比較的良好なスペクトルが得られ
る。しかし、黒ゴムのような屈折率の高いサンプルでは、内部
反射の条件から外れてしまうか、あるいは臨界角付近で、吸
収にともなう屈折率の異常分散が顕著となりスペクトルが変
形する。ピーク位置も低波数側へ大きくシフトする。
一方 Ge では、クリスタルそのものが高屈折率で、黒ゴムのよ
うなサンプルでも十分に内部反射条件を満たし、スペクトル
の変形もほとんど見られない。しみこみ深さは浅くなるが、変
良好なATRスペクトルが得られることが分かる。
図4に、30%CBゴムのATRスペクトルの比較を示す。Geが
光学的にマッチし、正しい結果もたらすことが明白である。
図5に、Geによる40%CBゴムのスペクトルと「ポリマー・添加
図2
Nicolet 380 FT-IR+Smart Orbit 1回反射型
ATRアクセサリ
剤ライブラリ」による検索結果を示す。ヒット率も高く、エチレ
ン・プロピレンを原料とする非ジエン系ゴム(EPM、EPDMな
ど)であることが分かる。
サーモフィッシャー
サイエンティフィック株式会社
スペクトロスコピー営業本部
IR/Raman 営業部
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結果
まとめ
ゴム試料は密着性がよく、ATRクリスタルの種類による密着
度の差はほとんどない。従って、ダイヤモンドとGeのATRス
ペクトルでは、しみこみ深さの違い(約3倍)がそのまま観察さ
FT-IRと1回反射型ATRアクセサリの組合せ、そして豊富な
れるはずだが、分析深さの違いにもまして、特に黒ゴムのよ
うな高屈折率物質では、スペクトルの「形状」に違いが見られ
ることが多い。この違いは、ATRの光学的理由によってもた
赤外スペクトルライブラリは、様々な材料の分析に優れた問
題解決を提供することができる。しかし、適切に利用するた
めには、スペクトルの歪みの原因(特に光学的原因)を正しく
理解しておく必要がある。黒ゴムの分析には Ge のような、高
らされる結果であることに注意しなければならない。
屈折率のクリスタルを用いるのが適切であると言える。
図3
M05014
20%CBゴムのGe(上)およびダイヤモンド(下)
ATRスペクトルの比較
図4
30%CBゴムのGe(上)およびダイヤモンド(下)
ATRスペクトルの比較
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図5 40%CBゴムの Ge ATRスペクトル(1段目)を用いたライブラリ検索結果(2-4段目)