FT-Raman によるポリペプチドの構造解析1 - Thermo Fisher Scientific

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FT-Raman によるポリペプチドの構造解析
1)
IR/Raman
Customer
News Letter
サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社 IR/Raman 営業部
編集発行 : マーケティング部
M94007
はじめに
Key Words
y FT-Raman
FT-IRやFTラマン分光法により、種々のタンパク質や合成ポ
y 近赤外レーザ
リペプチドのコンホメーションが検討され、最近では波形解
析による定量的評価も試みられてきている。近赤外光励起
FTラマン分光法は、従来のレーザラマンに比べ蛍光の影響
y ポリペプチド
y 二次構造変化
を受けにくく、測定方法も非常に容易である。我々はこれま
で、ギ酸処理したポリ(γ-メチル-L-グルタメート)
(PMLG)膜表面のFT-IR全反射(ATR)スペクトルから、β構
造などの二次構造を定量的に評価し、処理時間の増加とと
もに、また最表面へ近づくとともにそのβ構造含有率が増加
することを明らかにしてきた。2) また、ポリ(β-ベンジル-L
-アスパルテート)(PBLA)を加熱処理し、その表面のFT-IR
ATRスペクトルから、ω-ヘリックス部分からβ構造の分子
間水素結合が生まれ、これを核にして両ヘリックス部分から
次々と分子鎖間の水素結合が形成されていき、β構造へと
転移していくと推察した。3)
本研究では、上記処理を施したPMLGとPBLAポリペプチド
の近赤外FTラマンスペクトルから、それらの二次構造変化を
評価し、膜表面の FT-IR ATRスペクトルの結果と比較検討し
た。
実験
PMLGにギ酸を加え、40℃で所定時間処理後、ギ酸を除去
し40℃で真空乾燥を行った。ギ酸処理時間は1、3、5、およ
び 1 4 時 間 と し て 、 それぞれPMLG-FA1 、PMLG-FA3、
PMLG-FA5、およびPMLG-FA14とした。一方PBLAの加熱
処理は真空中で行い、150℃で1時間あるいは24時間処理し
たものを各々PBLA-H1、PBLA-H2とした。また150℃で1
時間処理して室温まで冷却後、さらに引き続き210℃で1時
間、9時間あるいは24時間加熱処理したものをそれぞれ
PBLA-H3、PBLA-H4、PBLA-H5とした。
FTラマン測定には、サーモフィッシャー社製フーリエ変換ラ
マン分光装置を用い、1064nmダイオードレーザーを180°
入射で測定した。レーザ光強度は500mW、検出器はGe、分
解能は4cm-1、積算回数は500回とした。また、波形分離を行
図1 PMLGとPBLAのFTラマンスペクトル
結果および考察
図 1 に 、 PMLG と PBLA の FT ラ マ ン ス ペ ク ト ル を 示 し た 。
PBLA の 場 合 、 1657cm-1 に C=O ( ア ミ ド Ⅰ ) 、 1609cm-1 と
1588cm-1 に Benzene ring stretching、1033cm-1と1006cm-1に
C-H in-plane bending と C-C in-plane bending motion が認
められた。ラマンスペクトルでは、アミドⅡのピークは小さく観
測されにくく、アミドⅢはC-Hの変角振動と重なった。PBLA
では890cm-1、PMLGでは925cm-1付近に見られるピークはα
-ヘリックスとランダム構造を含む骨格振動であり、β構造
への転移に伴って顕著に減少することが知られている。
図2および図3に、各処理を施したPMLG-FAとPBLA-H
の拡大スペクトルを示した。図2のPMLGの場合、α-ヘリッ
クスに基づく925cm-1のピーク強度がギ酸処理時間の増加と
ともに減少した。
うためのデコンボリューションプログラムを使用し、各コンホ
メーションに対応するピークを検討した。
図2
PMLG, PMLG-FA1, PMLG-FA3, PMLG-F5,
PMLG-FA14のFTラマンスペクトル.
M94007
サーモフィッシャー
サイエンティフィック株式会社
図3
PBLA, PBLA-H1, PBLA-H2, PBLA-H3, PBLA-H4、
PBLA-H5のFTラマンスペクトル.
スペクトロスコピー営業本部
IR/Raman 営業部
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さらに、アミドⅠのα-ヘリックスに基づく1657cm-1 付近の
ピークが徐々に減少し、β構造に帰属されると思われる
1673cm-1 のピーク強度が増加した。これらの結果は、FT-IR
ATR2) によるα-ヘリックスの減少とβ構造の増加の傾向と
一致した。またPBLAの場合は、α-ヘリックスに基づく
890cm-1 付近のピーク強度が加熱処理時間の増加とともに
減少した。さらにアミドⅠのα-ヘリックスに基づく1657cm-1
付近のピークが減少し、PBLA-H1では1675cm-1 に新たな
ピークが現われ、PBLA-H3では1679cm-1に少しブロードな
シ ン グ ル ピ ー ク と な り 、 さ ら に PBLA - H4 お よ び H5 で は
1681cm-1のピークのみ認められた。これまでFT-IR ATR 2) の
結果から、PBLA-H1ではほぼ100%α-ヘリックス、PBLA
-H1でω-ヘリックスが約40%導入され、PBLA-H3では
β構造が約25%形成、PBLA-H5では100%β構造になる
ことを明らかにしてきた。FTラマンの結果は、これらFT-IR
ATRの結果と良く対応しており、すでに得られた定性的結
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図4
PMLG(1)ならびにPBLA(2)の二次構造変化
図5
PMLG ならびに PMLG-SFAの顕微FTラマン
スペクトル
果 4)、5) と比較検討を加え、アミドⅠラマンバンドのデコンボ
リューションを含む波形解析により、コンホメーションの定量
的評価を試みた。結果を図4に示す。
また、PMLGキャストフィルムを一方向からギ酸処理を行い、
その断面の表面部分および内部を顕微ラマンにより
20μmφのスポットで測定を行った。その結果を図5に示
す。表面ではβ構造に基づくピーク、内部ではα構造のま
ま構造変化は起きていないことが簡単に確認できる。この手
法により、デプスプロファイルを行い、処理時間と構造変化
の相関を検討中である。
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(日本)
文献
1) 西尾・奈良・久後・水谷・西野
www.thermo.com
(グローバル)
第43回1994年高分子討論会(九州大学)
予稿集
2) K.Kugo, M.Okuno, K.Kitayama, T.Kitaura, J.Nishino, N.Ikuta, E.Nishio, and
M.Iwatsuki, Biopolymers, 32, 197-207(1992).
3) K.Kugo, T.Chuma, Y.Ohnishi, J.Nishino, and M.Iwatsuki, Chemistry
Express, 6, 1021-1024(1991).
4) E.Nishio, K.Kugo, and J.Nishino, Chemistry Express, 8, 73-76(1993).
5) E.Nishio, K.Kugo, and J.Nishino, Chemistry Express, 8, 413-416(1993).
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