子宮内膜症の術後再発予防におけるジエノゲストの効果 - エンドメトリ

154 日エンドメトリオーシス会誌 2013;34:154−156
〔一般演題/薬物治療
〕
子宮内膜症の術後再発予防におけるジエノゲストの効果
日本医科大学産婦人科
重見
大介,明樂
峯
緒
重夫,大内
克也,市川
言
望,小野
雅男,竹下
修一
俊行
ぞれの作用,副作用やコストを説明し,合併症
子宮内膜症は,卵巣から分泌されるステロイ
や喫煙状況などない場合は患者本人に選択して
ドホルモンにより増大・維持されることから生
いただいた.
統計はFisher’s test, chi square test, Student-
殖年齢の女性に好発することはよく知られてい
05を 有 意
Newman-Keuls test を使 用 し,P<0.
.また良性疾患でありながら,術後の再
る〔1〕
差ありとした.
発率が術後
年間で約30%と高いと報告さ
∼
.以前に当科で施行した検討で
れている〔2―4〕
成
図
績
に各群の臨床背景を示す.ジエノゲスト
も,術後薬剤投与なしでは25.
8%で再発が認め
継続群,ジエノゲスト休薬群,LEP 継続群,LEP
.近年,低用量エストロゲン・プロ
られた〔5〕
休薬群について,手術時年齢(歳)はそれぞれ
ゲスチン配合薬(LEP)の術後長期投与(
35.
6±6.
71,32.
4±6.
34,30.
5±6.
45,30.
0±
∼
年程度)が再発防止に有効との報告がある〔6〕
一方で,ジエノゲストについては結論がでてい
5.
14であり,ジエノゲスト継続群と LEP 継続
群,ジエノゲスト継続群とジエノゲスト休薬群
ない.今回われわれは,当科で経験した症例を
の そ れ ぞ れ で 有 意 差 を 認 め た(と も に P<
もとにジエノゲストの再発予防効果につき検討
0.
01)
.しかし,Re―ASRM score は72.
2±33.
0,
を加え,さらに LEP との比較を行った.
49.
25±31.
54,53.
79±14.
55,59.
17±30.
11,
42±58.
77,54.
06
術 前 CA125(mg/dl)は70.
対象および方法
月の間に当
±47.
95,62.
58±52.
11,64.
53±74.
34,追跡期
院でチョコレート囊胞に対する手術療法を施行
対象は,2008年
56±12.
07,18.
90±12.
97,20.
31
間(月)は21.
ヵ月以上フォローアップできた255症例と
±12.
04,21.
83±14.
98であり,各群において
し
月から2012年
した.手術内容は腹腔鏡下卵巣囊腫摘出術また
は患側付属器切除術であり,これを術後療法別
に
群に分類し,ジエノゲスト群53例(うち内
いずれも有意差を認めなかった.
.ジエノゲスト群(全53例)
継 続 群32例(60%)の う ち,再 発 例 は
例
,LEP 群54例(う
服継続群32例,休薬群21例)
,薬剤投与な
ち内服継続群36例,休薬群18例)
し群148例であった(図
)
.なお,服用開始時
2008年 1 月から2012年 6 月の間に当院で
チョコレート囊胞に対する手術療法を
施行した症例:255例
期は術後初回の月経発来時とした.継続群は観
察期間を通じて
ヵ月以上継続的に内服できた
症例,休薬群は何らかの理由で内服を中止した
症例とした.再発の定義は画像検査(超音波検
査または MRI)で認められた長径
cm 以上の
チョコレート囊胞とした.薬剤の選択は,それ
ジェノゲスト
:53例
LEP:54例
継続群:
休薬群:
32例
(60%) 21例
(40%)
図
薬剤投与
なし:148例
継続群:
休薬群:
36例
(67%) 18例
(33%)
各群の振り分け
子宮内膜症の術後再発予防におけるジエノゲストの効果 155
ジェノゲスト
(継続群)
n=32
ジェノゲスト
(休薬群)
n=21
LEP
(継続群)
n=36
LEP
(休薬群)
n=18
手術時
年齢(歳)
35.6±6.71
32.4±6.34
30.5±6.45
30.0±5.14
ReASRM
score
72.2±33.0
49.25±31.54
53.79±14.55
59.17±30.11
CA 125
(mg/dl)
70.42±58.77
54.06±47.95
62.58±52.11
64.53±74.34
追跡期間
(月)
21.56±12.07
18.90±12.97
20.31±12.04
21.83±14.98
*
図
各群の臨床背景
=0.
47)
.
(3.
1%)認められた.ジエノゲスト内服開始
ヵ月後に,卵巣囊腫核出術を施行した卵巣と対
側の卵巣に経腟超音波検査で
*
cm の囊胞が認
.ジエノゲスト群と LEP 群の休薬率(妊娠希望
除く)
められたが,内服継続中に消失した.これにつ
休薬群のうち妊娠希望による症例を除くと,
いては,ジエノゲスト投与中に排卵が生じると
ジ エ ノ ゲ ス ト 群 は 全47例 中 休 薬 が15例
,以後再発が認められなかっ
の報告もあり〔8〕
たためチョコレート囊胞の再発ではなかった可
能性も高いと考えている.休薬群21例(40%)
のうち再発は
9%)
,LEP 群は全45例中休薬が
(31.
であるが,休薬率に有意差は認められなかった
19)
.
(P=0.
5%)に認められ,休薬
例(9.
の理由としては妊娠希望とコンプライアンス不
例(20%)
考
察
今回われわれの結果では,術後の継続服用に
例ずつであった.継続群と休薬
おいてジエノゲストの再発抑制効果は LEP と
群の再発率に有意差は認められなかった(P=
有意差がなかったことから,術後再発予防にジ
0.
56)
.なお,休薬群の休薬理由は妊娠希望
エノゲスト内服が有効だという可能性が示唆さ
例,不正出血
れた.しかし,現時点では薬剤投与期間も追跡
良がそれぞれ
アンス不良
例,薬疹
例,てんかん増悪
価高価
例,服薬コンプライ
例,更年期症状
例,気分不良
例,子宮筋腫増大
例,薬剤抵抗感
例,不明
期間もまだ十分でなく,今後も継続してデータ
例,薬
例であっ
を集積し報告していきたい.
これまで,卵巣チョコレート囊胞の再発に対
して,保存手術後の LEP の術後
た.
ヵ月間投与
.LEP 群(全54例)
,GnRH agoは有効性が認められていなく〔7〕
継 続 群36例(66%)
,休 薬 群18例(34%)で
nist も
.
ヵ月では無効であるとされている〔8〕
あり,ともに再発は認めなかった.休薬群の休
したがって,ジエノゲストの術後の長期投与に
薬理由は妊娠希望
おける検討が待たれるなかで,その内服中止例
例,薬疹
明
例,不正出血
例,月経不順
例,浮腫
例,めまい
例,不
例であった.
の検討において,ジエノゲスト内服休薬群では,
妊娠希望を除くと不正性器出血を含めた積極的
.ジエノゲスト継続群と LEP 継続群の再発率
ジエノゲスト継続群では32例中再発は
1%)
,LEP 継続群では36例中再発は
(3.
を減らすことは重要な課題と考えられる.今回
例
例(
%)であるものの有意差は認められなかった(P
休薬が原因の
割を占めていた.当科で以前行
った検討でもジエノゲストの投与中止症例での
中止原因として不正性器出血が33%を占め最多
156 重見ほか
であった〔9〕
.近年ではジエノゲスト投与前に
GnRH agonist を先行投与することでジエノゲ
ストによる破綻出血を抑制する方法も報告され
,当科でもそのような工夫を開始
ており〔10〕
し検討しているところである.また,投与開始
前の丁寧な説明と副作用対策の工夫が薬物療法
の継続に大きく影響しうるものと推察される.
今後も症例の集積を続け,さらなる検討と報告
をしていきたい.
文
献
〔1〕Olive DL et al. Endometriosis. N Engl J Med
1993;328:1759
〔2〕Koga K et al. Recurrence of ovarian endometrioma
after laparoscopic excision. Hum Reprod 2006;
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〔3〕Kikuchi I et al. Recurrence rate of endometriomas
following a laparoscopic cystectomy. Acta Obstet
Gynecol Scand 2006;85:1120
〔4〕Liu X et al. Patterns of and risk factors for recurrence in women with ovarian endometriomas.
Obstet Gynecol 2007;109:1411
〔5〕大内 望ほか.子宮内膜症の薬物療法 当科におけ
る卵巣チョコレート囊胞の術後プロトコール 薬物
の投与基準を含めて.日エンドメトリオーシス会誌
2011;32:94−100
〔6〕Vercellini P et al. Long-term adjuvant therapy for
the prevention of postoperative endometrioma recurrence : a systematic review and meta-analysis.
Acta Obstet Gynecol Scand 2013;92:
〔7〕Muzii L et al. Postoperative administration of
monophasic combined oral contraceptives after laparoscopic treatment of ovarian endometriomas :
a prospective randomized trial. Am J Obstet Gynecol 2000;183:588−592
〔8〕日本産婦人科学会.子宮内膜症取り扱い規約 第
部 治療編・診療編 第 版 東京:金 原 書 店,
2010;83−88
〔9〕峯 克也ほか.子宮内膜症及び子宮腺筋症におけ
るジエノゲスト投与中止例の検討.日エンドメト
リオーシス会誌 2012;33:178−180
〔10〕Kitawaki J et al. Maintenance therapy with dienogest following gonadotropin-releasing hormone agonist treatment for endometriosisassociated pelvic pain. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol 2011;157:212−216