骨盤臓器脱に対する腹式および 腹腔鏡下膣仙骨固定術の初期経験 亀田メディカルセンター・ウロギネコロジーセンター 野村昌良、三輪好生、右田雅子、堀新平、 平川倫恵、三輪幸、神山剛一、清水幸子 緒言 • 近年、再発率・合併症の低さおよび性交渉への影響の低さ から骨盤臓器脱に対する腹部からのアプローチによる手術 が注目されている。とくに腹腔鏡の機器が大きく進歩したこ とから、欧米では腹腔鏡下膣仙骨前面固定術が広く行われ るようになっている。 • 本邦において骨盤臓器脱に対する治療として、経膣メッシュ 手術が広く普及している。一方、性交渉への影響、股関節 の可動域制限、直腸脱や卵巣病変の合併などを考慮する と、経膣メッシュ手術だけでは対応できない症例もみられる。 • したがって、今後は腹部からのアプローチによる骨盤臓器 脱手術は重要な選択肢の一つとなると推測される。 目的 当院ウロギネコロジーセンターにおいて、症例を選 び骨盤臓器脱に対して腹部アプローチによる手術 (腹式および腹腔鏡下仙骨前面固定)を行ったので、 その手術成績や手術法の違いおよび注意点につい て報告する。 対象 • 骨盤臓器脱のために腹式膣仙骨前面固定術を行っ た2例と腹腔鏡下膣仙骨固定術を行った6例。 • 腹式膣仙骨固定術(n=2) – 平均70歳、ともに開脚制限あり • 腹腔鏡下膣仙骨固定術(n=6) – 平均71歳(65-76歳) 腹式膣仙骨固定術 • 下腹部正中に約6-7cmの切開 • 子宮上部切断 • 前膣と膀胱の間、後膣と直腸の間 を可及的に剥離 • 前後膣壁にメッシュを非吸収糸で固定 • 膣断端とメッシュを固定 • 前後メッシュを縫合 • 腹膜を切開して、後腹膜を露出 • 岬角を露出し非吸収糸でメッシュを固定 • 腹膜を吸収糸で縫合し、メッシュを後腹膜化 • 閉創 腹腔鏡下膣仙骨固定術 E. Mandron & A. Wattiezの術式に準じたLSC • • • • • • • • • • • • • • 4ポートを挿入 トレンデレンブルグ体位(20-25度) S状結腸のつり上げ 岬角の露出 5mm 子宮上部切断術 腹膜切開後、直腸の露出 直腸と膣の間を剥離 恥骨直腸筋を露出し後メッシュを固定 膀胱と前膣の間を剥離 前膣壁と前メッシュを固定 前後メッシュと子宮頚部と仙骨子宮靭帯を縫合 岬角にメッシュを固定 腹膜を縫合し、メッシュを後腹膜化 ポートを摘出して手術終了 12mm 12mm 5mm 腹腔鏡下膣仙骨固定術 E. Mandron & A. Wattiezの術式に準じた 結果:治療成績 手術時間 出血量 周術期 合併症 腹式 膣仙骨固定術 (n=2) 3時間15分 350ml なし 腹腔鏡下 膣仙骨固定術 (n=6) 6時間8分 30ml なし 再発 1例なし 1例あり Aa= 0 Ap= -1 C= -6 全例なし 手術によりわかったこと 腹式手術は直腸および膀胱から膣壁の剥離の際に術野が深く、 臓器が隣接しているために膣の遠位部まで剥離できず、膣断 端付近の膣壁にメッシュを固定するにとどまった。 上部切断後の膣断端 腹腔鏡の画像から 腹式ではlevel 1サポートにとどまる。 手術によりわかったこと 腹腔鏡下手術では、肛門挙筋と遠位部膣壁にメッシュ固定 が可能であった。 直腸 直腸 恥骨直腸筋 恥骨直腸筋 膣壁 直腸 膣壁 直腸 手術によりわかったこと 腹腔鏡下手術では、膀胱頚部膣壁にメッシュ固定が可能で あった。 膀胱 膀胱 膣壁 膣壁 膣壁 腹腔鏡下では良好な視野により 膣壁 Level 2(anterior)とLevel3 (posterior)のサポートも可能 腹式膣仙骨固定術の長期成績に関する最近の知見 • 骨盤臓器脱に対する腹式仙骨膣固定術の長期予後と、尿失禁手術 (Burch手術)の追加が予後に影響するかの研究 • POPとSUIを有する女性に対して腹式仙骨膣固定術をおこない、さらに、 Burch術の有無で予後を比較したRCT。観察期間の中央値は7年。 • その結果、治療失敗率は、以下のように評価された。解剖学的には Burch術あり27%、Burch術なし22%。症候性には、B+ 29%、B- 24%。 • 骨盤臓器脱に対する腹式仙骨膣固定術の治療失敗率は、Burch尿道 固定術の有無にかかわらず、20%以上にみられた。またこの失敗率 は時間経過とともに増加した。 腹式膣仙骨固定術の長期成績は疑問が残る? Take home message • 視野の良さ、侵襲の低さから今後、主流は腹腔鏡 下手術 • 手技の難易度もあるがトレーニングにより改善可 能 – 文献的にもlearning curveのturning pointは18-24例. Laparoscopic sacrocolpopexy for female genital organ prolapse: establishment of a learning curve. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2010 • 高度肥満症例、高度な癒着、緑内障、呼吸機能障 害などは腹式のほうがメリット • 症例による使い分けが必要 謝辞 腹腔鏡下膣仙骨固定術を行うにあたり、技術指導してい ただいたEric Mandron先生(IrCardプログラム)、安倍先生 (静岡済生会病院)および腹腔鏡トレーニングのための 設備を準備していただいた亀田総合病院には深謝しま す。
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