卵巣チョコレート囊胞術後再発予防における ジエノゲスト長期投与の有効

日エンドメトリオーシス会誌
; :
−
101
〔一般演題/薬物療法
〕
卵巣チョコレート囊胞術後再発予防における
ジエノゲスト長期投与の有効性の検討
日本医科大学産婦人科
中尾
仁彦,明樂
重夫,関根
仁樹,小野
修一
大内
望,峯
克也,市川
雅男,竹下
俊行
緒
言
後管理として,主治医がインフォームドチョイ
卵巣チョコレート囊胞に対して腹腔鏡下囊胞
スにより,経過観察(妊娠希望を含む)
,LEP
mg/day)の薬剤投
摘出術を施行後,その高い再発率は知られてお
もしくはジエノゲスト(
り,当科における過去の検討でも術後無治療で
与から選択した.ただし, 歳以上,喫煙,合
は .%に再発を認めている〔 〕
.再手術によ
併症等血栓のリスクが高いものはジエノゲスト
る卵巣機能の低下や苦痛を避けるために,いか
もしくは経過観察を薦めた.いずれも ヵ月以
に再発を抑えるかが課題であり,低用量エスト
上同じ方針を継続できており,経過観察群は
ロゲン・プロゲスチン配合薬(以下 LEP)お
例,LEP 群は 例,ジエノゲスト群 は 例 で
よびジエノゲストの長期投与が薦められている
あった.投薬群は手術後初回の月経より投与を
〔 〕
.LEP に関しては長期投与において,服用
開始した.診察は術後
ヵ月目とその後
∼
を継続することで有意に再発を予防するエビデ
ヵ月ごとに行った.再発の定義は経腟超音波も
ンスが確立しつつある〔 ,〕
.一方,ジエノゲ
しくは MRI で
ストに関しては
年から使用されているが,
認めたものとした.経過観察群のうち妊娠した
ヵ月以上の長期投与によるチョコレート囊胞
症例はその時点で,投薬群は妊娠希望や副作用
術後再発予防効果ついてはまだ結論がでていな
などにより薬剤を中止した時点で観察終了とし
cm 以上のチョコレート囊胞を
群間で Kruskal-
い.われわれは当科におけるジエノゲスト長期
た.統計は臨床背景について
投与による再発予防効果につき検討を行った.
Wallis 検定を行い,Steel-Dwass 法で多重比較
方
当科で
年
月から
を行った.結果に関しては Kaplan-Meier 法に
法
年
よる非再発率とログランク検定による非再発率
間に卵巣チョコレート囊胞に対し腹腔鏡下手術
年 月までの
の差の検定を行った.p 値< . を有意差あり
をした
例を検索した.手術時年齢が 歳以
とした.
下で,
cm 以上の囊胞に対しての手術で術後
病理学的に内膜症性囊胞と診断されているもの
まず,臨床的背景は表
績
のとおりであった.
術お
ジエノゲスト群,経過観察群,LEP 群の順に
年以上当科
記す.年齢(歳)
は .± ., .± ., .±
であること,術式で両側付属器切除と焼
よび妊娠中であるものを除外し,
成
で観察できたものを条件とすると,対象は
.であり,ジエノゲスト群と LEP 群間にのみ
例であった.なお,当院での術者は原則として
有意差を認めた.r-ASRM スコアは .± .,
日本産科婦人科内視鏡学会技術認定を受けた医
.± ., .± .であり,ジエノゲスト
師が,もしくはその取得を目指す医師がスーパ
群は経過観察群と LEP 群に比し,有意に高か
ーバイザーの指導を受けながら行っている.術
った.CA
(IU/ml)は, .± ., .±
102 中尾ほか
表
群間における臨床的背景
ジエノゲスト
(n= )
経過観察
(n= )
LEP
(n= )
.± .
.± .
.± .
年齢
*
.±
.± .
r-ASRM スコア
.
.±
.
.
.±
.
*
*
CA
(U/ml)
卵巣腫瘍径(cm)
.± .
.±
.± .
.± .
.± .
*
p< .
Kruskal-Wallis 検定および Steel-Dwass 法
表
群間における観察期間および再発の結果
ジエノゲスト
(n= )
観察期間(月)
.± .
再発人数(人)
( .%)
.±
(
LEP
(n= )
.
.%)
.±
.
( .%)
.
[中央値 ]
平均再発時期
(月)
Kaplan-Meier法
異積無再発率
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
経過観察
(n= )
0
10
20
30
LEP
図
40
50
観察期間
ジエノゲスト
60
70
80
90
経過観察
カプランマイヤー法による解析結果
., .± .といずれの群間も有意差を認
であった.ログランク検定を行うとジエノゲス
めなかった.腫瘍長径(cm)
は, .± ., .±
ト群と経過観察群の比較では p= . < .
., .± .といずれの群間も有意差を認め
と有意に再発が抑制されていることが示され
なかった.続いて表
に結果を示す.観察期間
(月)は .± ., .± ., .± .で
ジエノゲスト群は経過観察群および LEP 群に
比し,有意に長かった.
再発人数は
人( .%)
,
再発時期(月)は
人( .%)
,
人( .%)であった.平均
, .(中 央 値 )
,
た.ジエノゲスト群と LEP 群においては p=
. と有意差は認めなかった.
考
察
今回,後方視的研究ではあるが,ジエノゲス
トは平均 ヵ月の長期使用でも経過観察群に比
で
し有意に再発を抑制すると考えられた.卵巣チ
あった.Kaplan-Meier 法の結果のグラフを図
ョコレート囊胞術後の再発リスク因子として,
に示した.無再発率は .%, .%, .%
年齢,最大腫瘍径等が挙げられる〔 〕が,ジ
卵巣チョコレート囊胞術後再発予防におけるジエノゲスト長期投与の有効性の検討 103
エノゲスト群と経過観察群において有意差はな
かった.
まとめ
ジエノゲストは ヵ月以上の長期使用におい
ジエノゲストは,LEP と同じ視床下部―下
ても LEP とともに卵巣チョコレート囊胞術後
垂体―卵巣機能の抑制による間接作用のみなら
の再発予防に選択されるべき薬剤であると考え
ず,in vitro において子宮内膜細胞増殖抑制と
られた.
いう直接作用を有するとされている〔 ,〕
.
Miyashita らは,個体差の問題や LEP や GnRH
アゴニストとの比較がないことから結論付けて
はいないものの,in vivo においてジエノゲス
文
献
〔 〕Ouchi N, et al. Recurrence of ovarian endometrioma
after laparoscopic excision : Risk factors and prevention. J Obstet Gynaecol Res
; :
−
ト使用後の患者の卵巣子宮内膜症病変で細胞増
殖,アロマターゼ発現が抑制されており,アポ
トーシスが増加していることを報告している
〔 〕
.臨床的には,ジエノゲストの 週間の長
期投与試験の間,疼痛に関して Visual Analog
Scores が持続的に改善していくことや,治療
終了後から少なくとも 週間は効果が持続する
ことが報告されており,その理由の
つとして
直接作用が推測されている〔 〕
.長期使用で局
所再発および新規病変発生の抑制効果があるこ
とに関しては,今回のわれわれの臨床的検討で
も明らかとなり,確実な再発抑制のために直接
作用も寄与している可能性もあると思われた.
なお,ジエノゲスト継続中の患者に対して適
宜,血算,肝機能を含めた血液生化学検査,凝
固機能検査および骨密度検査を定期的に行って
いるが,現在のところ中止すべき副作用は認め
ていない.しかし,当科における調査で投与初
期に起こる不正性器出血は %に上り,投与群
のうち %がこれを理由に中止となっている
〔 〕
.当科では長期投与により出血の頻度が下
がってくることの説明や GnRH アゴニスト投
与後にジエノゲストを投与することにより〔 〕
不正性器出血を予防し継続できるよう工夫して
いる.
〔 〕産婦人科診療ガイドライン外来編
〔 〕Vercellini P et al. Postoperative oral contraceptive
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AJOG
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〔 〕Vercellini P et al. Long-term adjuvant therapy for
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Acta Obstet Gynecol Scand
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