ジエノゲストが著効した稀少部位子宮内膜症の 例 - エンドメトリオーシス

132 日エンドメトリオーシス会誌
; :
−
〔一般演題/希少部位
〕
ジエノゲストが著効した稀少部位子宮内膜症の
例
NTT 東日本関東病院産婦人科
朝見
友香,鈴木美奈子,上野山麻水,近藤
佐藤奈加子,忠内
緒
薫,杉田
言
一成,喜多川
匡聡,角田
亮
肇
れた.イレウス管挿入後も臨床所見の改善はみ
稀少部位子宮内膜症は消化器系,泌尿生殖器
られず,第
病日に緊急手術にて,回腸の狭窄
系や呼吸器系など,性器および骨盤外に発生す
部位を含んだ小範囲切除が施行された.狭窄部
る子宮内膜症の総称〔 〕であり,その治療は,
位の組織所見で内膜症変化が認められ当科へ紹
診断的意義を含め,外科的切除を行う場合が多
介となった(図
い.われわれはジエノゲストが著効した稀少部
臨床経過:GnRH アゴニストを計
位子宮内膜症を
その後ジエノゲストへ変更し症状の再燃は認め
症例経験したので,報告する.
症
【症例
】 歳,
既往歴:
回経妊
)
.
回投与し,
ていない.
例
【症例
回経産.
歳,卵巣内膜症性囊胞指摘.
】 歳,
既往歴:
回経妊
回経産,未婚.
歳,慢性副鼻腔炎手術.
現病歴:月経時の下血を主訴に近医受診,下部
現病歴:臍部痛・臍出血の増悪を主訴に当科を
消化管内視鏡にて直腸 Rs に腫瘤を認め直腸癌
受診した.
疑いにて当院外科を紹介受診した.
身体所見:子宮付属器に異常なし,臍に約
画像検査:注腸造影,下部消化管内視鏡で直腸
大の硬結を触知した.
癌を思わせる腫瘤形成を認めたが,生検では癌
臨床経過:MRI で臍部腫瘤を認め臍内膜症と診
mm
は認めなかった.MRI 撮影で上部直腸に腫瘤
性病変を認め,直腸内膜症と診断された(図
)
.
また,左卵巣に約 mm 大の内膜症性囊胞を認
めた.
臨床経過:外科的治療は希望されず外科より当
科へ紹介.GnRH アゴニストを
回投与し自覚
症状の改善を認めた.その後低用量エストロゲ
ン・プ ロ ゲ ス チ ン 製 剤(Low dose Estrogen
Progestin ; LEP)へ変更すると腹痛が増悪し
たため,ジエノゲストへ変更したところ再度症
状は改善した.
【症例
】 歳,
回経妊
回経産,未婚.
既往歴:なし,開腹歴なし.
現病歴:腹痛を主訴に当院救急センター受診,
CT 検査にて小腸閉塞と診断されイレウス管を
挿入した.CT,内視鏡からクローン病が疑わ
図
MRI:T 強調画像矢状断
約 mm の左卵巣内膜症性囊胞とともに
上部直腸腹側の腫瘤を認め,腸管子宮内
膜症と診断された.
ジエノゲストが著効した稀少部位子宮内膜症の
図
断(図
例 133
CT 冠状断(左)
,狭窄部位病理所見(右)
CT では回腸末端に閉塞機転があり(←)
,手術は回腸の狭窄部位を含んだ小範囲切除が行
われ,狭窄部位の組織所見で内膜症病変を認めた.
)
.LEP を開始したが臍の痛みは強く
なるため,ジエノゲストに変更したところ,臍
出血,疼痛は改善した.ジエノゲスト投与開始
から ヵ月後に転倒し骨折.骨塩量測定にて骨
粗鬆症と診断された.ジエノゲスト投与中止と
臍腫瘤摘出手術を提案したが本人はジエノゲス
ト継続を希望し,ビスホスホネートを追加し投
与を継続中である.
【症例
】 歳,
既往歴:
回経妊
回経産,未婚.
歳,卵巣内膜症性囊胞指摘.
現病歴:右鼠径部腫瘤と疼痛を主訴に当科を来
院された.
診察所見:右鼠径部には約
mm 大の可動性良
好な腫瘤を触知した.
臨床経過:MRI で右鼠径部内膜症の診断とな
図
MRI:T 強調画像矢状断
臍に境界明瞭な腫瘤を認め(→)
,臍内膜症と
診断された.
り,ジエノゲスト投与を開始し自覚症状の改善
を認め投与継続中である.
考
理組織的な確定診断は得られるが,癒着が高度
察
で手術手技が難しく,病巣切除のみでなく多臓
稀少部位子宮内膜症は,消化器系,泌尿生殖
器合併切除が必要となる場合がある.内分泌療
器系や呼吸器系など,性器および骨盤外に発生
法の first choice とされるのは GnRH アゴニス
する子宮内膜症を総括する名称として
トである〔 〕
.効果は強力だが,副作用として
年
月に日本エンドメトリオーシス学会が新たに提
は卵巣ホルモン欠落症状や骨量減少が認めら
唱した〔 〕
.稀少部位子宮内膜症の治療は,診
れ,最大
断的意義を含めた外科的切除と,子宮内膜症に
症状が増悪することが多い.LEP も内分泌療
準ずる内分泌療法が存在する.外科的切除は病
法として広く用いられ,副作用も比較的軽度で
ヵ月の投与後は再度月経が再来し,
134 朝見ほか
表
症例のまとめ
症例
年齢(歳)
経産回数(回)
発生部位
直腸
小腸
臍
鼠径
卵巣内膜症性囊胞
あり
なし
なし
あり
病理学的診断
なし
あり
なし
なし
自覚症状
改善
不変
改善
改善
他覚症状
PR
NE
PR
PR
ジエノゲストの効果
PR ; Partial response
NE ; not evaluated
ある.しかし,消褪出血時に症状の増悪するこ
出血は全症例で認めたが,内服継続とともに軽
とがある.ジエノゲストは長期投与が可能であ
快した.
る子宮内膜症治療薬として本邦で認可された.
有害事象としては不正性器出血を .%に認め
たが,投与開始から
ヵ月以内にほとんどの症
例が不正出血の改善を認めた〔 〕
.症例
結
語
有症状の稀少部位子宮内膜症に対しては,月
経時に症状の増悪(下血,腫脹,疼痛など)が
は,
あり,LEP では効果が不十分なことが多い.
ジエノゲスト投与 ヵ月で骨粗鬆症と診断され
一方,GnRH アゴニストは一定の効果が期待で
た.投与前の骨塩量測定がなされていないので
きるが,長期投与できない.この点,有症状の
ジエノゲストとの因果関係は不明であるが,臨
稀少部位内膜症に対しては,長期投与が可能で
床試験では,腰椎の骨密度は投与開始前を基準
あるジエノゲストは有効であると考えられた.
に投与 週および 週の骨密度変化量は,各々
一方,ジエノゲスト投与の問題点としては,
− .%および− .%でいずれも有意に低下し
症状軽減により手術療法の受け入れが悪く,稀
たが,投与 週から 週にかけての変化量は−
少部位子宮内膜症の病理学的確定診断がつかな
.%で投与期間の延長による骨密度減少は認
い点が挙げられた.
められなかった〔 〕ことから,ジエノゲスト
との関連性は低いと考えられる.
今回経験した
,
症例を表
にまとめた.症例
で LEP では効果が認められず,ジエノ
ゲストへ変更し症状が軽快した.また,病理学
的に子宮内膜症と確定された症例
では,ジエ
ノゲストの効果判定は不可能だが,臨床診断と
して稀少部位子宮内膜症と診断された残り
例
ではジエノゲストは自覚的にも他覚的にも奏効
していた.ジエノゲストの副作用としての不正
文
献
〔 〕片渕秀隆.子宮内膜症の不思議.日エンドメトリ
オーシス会誌
; : −
〔 〕日本産科婦人科学 会.子 宮 内 膜 症 取 扱 い 規 約.
; −
〔 〕苛原 稔ほか.ジエノゲストによる子宮内膜症治
療―有効性と副作用対 策 に つ い て―.Prog Med
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−
〔 〕Momoeda M et al. Long-term use of dienogest
fot treatment of emdometriosis. J Obstet Gynaecol Res
; ⑹:
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