ヒッグス粒子と超対称性の 発見が切り拓く21世紀の 素粒子物理学

想定問答
(1) 前の特定領域科研費(ヒッグス超対称性)の延長ではないのか?
前の特定領域科研費の目的は、エネルギーフロンティアのLHC実験と低エネルギーでの大強度実験
MEGの2つを行うことにより、ヒッグス粒子や超対称性を発見し、関係する理論研究を総結集して研究を
広げようというものでした。お陰さまで両実験とも準備が万全に整い、期間内に実験開始することができ
ました。しかしながら、特にLHCについては、加速器の故障があり、本格的に実験が開始されたのは、本
年3月末になってしまいました。この度の新学術領域科研費は、LHC実験を主軸に据え、そこでの初期の
発見(ヒッグス粒子や超対称性)を主導的に行い、次世代のエネルギーフロンティア実験につなげることを
主目的しています。従いまして、前の研究の一部を大きく発展させ、エネルギーフロンティア素粒子研究
を結集して、「テラスケール物理」という新しい研究領域を創成するものであります。
(2) 計画が遅れたら、領域科研費期間内に成果が出ないのでは?
CERNは2年前の事故の経験を最大限に活かし、二度とこのようなことのないよう万全の対策をし、態勢を
整えております。CERNはこれまで50年以上にわたり、PS、ISR、SPS、SppS、LEPと次々に大型加速器を
建設し、運転してきており、必ず計画通りの性能を出してきました。この技術力はまさに世界最高のもの
です。現在の運転計画は、安全サイドに立ったもので、むしろ予想より大きな成果も期待できるのではと
考えます。
(3) 研究は今後もずっと続くようで、領域科研費には馴染まない。
本領域研究はこれから5年の研究期間内に、まとまりのある成果を出すことができます。それは、この5年
間のうちに、LHCで初期の大きな発見をすること、それを受けて直ちに次世代のエネルギーフロンティア
実験への道筋を立てること、です。本領域研究終了後は、単なる延長ではなく、より狙いを定めた研究へ
と進むものと思われます。
想定問答
(4) 経費の中では旅費が突出している。積算根拠は?
これまでの実験(LEP、LHC)での実績・経験を踏まえ、科研費の実績から算出したものです。
多数の研究者が長期間現地に滞在して実験に参加する事が国際共同実験では本質的に重要です。
素粒子の国際協力実験は生き馬の目を抜く世界で、現地でvisibilityを発揮して貢献する事なしには、
速攻的に重要な物理の結果を主導的に生み出す事が不可能です。
(5) 謝金も多い。必要理由は?
次世代エネルギーフロンティア実験へ向けての加速器・検出器の開発研究や、テラスケール物理
の理論研究を広範囲にわたって行い、かつ国際的にもリーダーシップを発揮するためには、
多くの研究者を結集する必要があります。
(6) 他財源とその年次計画を示せ。その財源があるのに領域科研費がなぜ必要か?整合性が見え
ない。科研費は全体の何%になるのか?
ATLASの場合は測定器の建設、解析センターの費用は別途要求しております。旅費などは競争的
資金を獲得するように指導されております。従って今後の予算を獲得するためにも、競争的資金
の獲得は必須であり、現地に研究者が複数滞在して、諸外国の研究者と協力・競争して成果を上
げるためには本領域科研費の獲得が極めて重要です。科研費は全体の約15%に相当します。
(7) 加速器や検出器技術の開発研究の経費は、この領域研究科研費で十分なのか?
本領域科研費に計上している開発研究経費は主にポスドクの雇用経費と、試作や試験に必要と
なる消耗品などです。本研究は、基礎技術開発・技術検討の範囲内であり、加速器の実用化検証
などに必要となるプロトタイプ等の開発費用は含まれません。
(8) 森氏へ配分される研究経費はどうするか?
計画研究代表の駒宮へ配分し、連携研究者の大谷と共同で研究を行う予定です。
想定問答
(9) 領域代表者のリーダーシップはあるか?
領域代表者の小林は、これまでATLAS日本グループのリーダーとして、検出器の提案から建設、コミッ
ショニングに至るまでグループを指揮し、ATLAS検出器の完成に大きな貢献をしました。また、その前の
LEP/OPAL実験においても、東大が担当した鉛ガラス電磁シャワー検出器建設の責任者として、研究者
とCERN技術者の共同グループを指揮し、高性能で安定した検出器を作り上げました。このような経験と
実績に加え、次世代のリニアコライダーILCの実験計画を審議する国際委員会のメンバーも務めており、
本領域「テラスケール物理」の代表としてはベストの人材と考えられます。本領域科研費申請にあたって
も、関係者の合意とサポートは得られております。
(10) ニュートリノとかBファクトリーで十分に日本の高エネルギー・素粒子理論は活躍している。なぜ外国
まで行って実験する必要があるのか?
わが国においては、ニュートリノやBファクトリーで成果を上げていますが、世界最高エネルギーの加速
器は今の所ありません。この数年間で、将来の素粒子物理学の方向を決定する大きな発見が期待され
ます。このような機会にわが国が主導的に実験に参加し、重要な成果を上げて国内外で世界に認められ
ることが重要であります。
(11) 日本の独自性は発揮できるのか?
ATLAS実験では、わが国は実験全体の研究者数の3%を占めるに過ぎませんが、実験の主要な部分を
分担し、現地に研究者をグループで送り、成果を上げてきたという実績があります。測定器の建設だけで
なく、加速器への貢献、GRIDを用いたデータ解析システムの整備、物理解析の準備研究など、各マイル
ストーンを守って他の模範となるような成果を上げてきました。今後更に多くの研究者を現地に送り込み、
ますますわが国の独自性を発揮いたします。
想定問答
(12) 公募研究はなぜ必要なのか?
LHCは世界で唯一の加速器です。わが国にはこのような研究に参加したいと考える研究者や、今後の研
究の発展に応じて新たに関心を持つ研究者が増えるはずです。実験関係の公募研究は、本領域研究に
新たに直接参加したい研究者があったり、新たな測定器技術、物理解析のアイデアを持って参加したり、
本領域研究が目指す将来計画の検討を行なうために必要です。理論関係の公募研究は、本領域研究を
近隣分野まで拡大し、期待される大きな実験的成果の解釈を広範に行なうと同時に、宇宙論などへのイ
ンパクトへと展開するために必要です。
(12) ヒッグス粒子が発見されなかったらどうするのか?
ヒッグス粒子が発見されない場合は、今までの理論の方向が大きく間違っていた事になり、新たな理論体
系の構築が必要となります。この場合においても、ヒッグス粒子に代わる新粒子がTeVのエネルギー領
域に必ず存在することがモデルを仮定せずに一般的に予言されます。理論家が予想だにしなかった新現
象・新粒子の発見は実験家冥利につきるものであり、実はこの発見も密かに期待しております。
(13) 超対称性が発見されない場合はあるのか?
超対称性粒子が非常に重ければ、本領域研究終了時までに発見できないという可能性はゼロではあり
ません。しかしながら、この場合は理論的に不自然なものとなり、素粒子物理の新たな方向への展開を
意味します。超対称性は電子のようなフェルミ粒子が存在すれば時空の対称性の自然な拡張ですから、
超対称が存在しないというのは、殆んど考えられません。
(14) この領域研究に宇宙分野は入れないのか?
宇宙分野の研究は、公募研究で行うことを予定しています。
想定問答
(15) ノーベル賞がとれるか?
ヒッグス粒子が発見されたら…、Peter Higgs(?)
超対称性が発見されたら… 、Wess, Zumino(?)
ブラックホールが発見されたら… 、Stephen Hawking(?)
誰も予想してないものを発見したら… 、発見者がノーベル賞。
いずれにせよ、LHCで発見されるものは超ノーベル賞級。
(16) 大実験の中でこの科研費が役に立つのか?
大変役に立ちます。というより、死活問題です。この科研費をいただければ、これまでの実績を活かして、
LHC実験での発見に大きな貢献ができます。そしてそれは次世代の国際共同実験の推進に、わが国の
研究者が大きく関与する基盤ともなります。しかし逆に、この科研費が今年度からいただけない場合は、
実験が始まった最初の年に研究者が実験現場に行けないことになり、(たとえ来年度から得られたとして
も)その影響は数年に及びます。従って、LHCで成果を上げる重要な時期にわが国の研究者が関われな
いことになります。