Page 1 Page 2 研究会報告 ー, 流体系と統計力学 複雑な定常状態に

KURENAI : Kyoto University Research Information Repository
Title
Author(s)
Citation
Issue Date
URL
定常プラズマの統計力学(基研研究会「統計物理の展望」
,研究会報告)
伊藤, 伸泰
物性研究 (1999), 71(4): 632-635
1999-01-20
http://hdl.handle.net/2433/96542
Right
Type
Textversion
Departmental Bulletin Paper
publisher
Kyoto University
研究会報告
定常プラズマの統計力学
東京大学工学系研究科 ・伊藤仲春
1 流体系 と統計力学
複雑 な定常状態 にある流体系の構造 を、統計力学的な手法で調べ ようとす
る試みは古 くか ら続け られている。 しか し、今の ところ、大 きな成功 をお さ
めている とはいい難 い。なぜ だろ うか ?
例 えば、ナ ビエス トークス乱流 を扱 う時 には、一様等方な系 に発達 した ど
の方向 に も並進対称 な乱流場 を対象 とする。 一方 、流体系 に とって境界条件
は、移流非線形項 とともに重要な要素である。 このため、一様等方 な状況か
らのアナ ロジーだけでは捉 え切 れない部分があるのではないだろ うか ?それ
な らば、一般の形の領域 についての統計理論 を構成 してみれば うま くゆ くの
ではないだろ うか ?実は これ まで、一般の領域での流体の統計理論 を構成す
るために必要な状態空間 (
位相空間)が見つか らなか ったため に、これは試
み られてこなかった。
c
l
l
ar
dJor
dal
l
(
Mi
c
hi
gal
l大数学)ととも
筆者 は、吉 田善幸 (
東大工 )、Ri
に、一般 の領域 でのある種の流体の運動 を統計力学的 に扱 うことので きる状
態空間 を発見 し、自己組織化 したプ ラズマの構造 など- の応用 を試みた。以
下で簡単 に紹介 しよう。 詳細 、実際の応用 については、参考文献
照 されたい.0
抑
【
2
】を参
2 流体系の状態空間 と不変測度
ある定常状態 の統計理論 を構成するため には、力学的 な性 質 として
●系の状態 の集合である状態空間
●系の運動方程式の不変測度
● 定常状態 を特徴付ける保存量 ・状態量
が必要 となる。 保存量 ・状態量 は、注 目する状態の巨視的な性 質か ら選ぶ必
要がある。 ここでは、状態空間 と不変測度 とを扱 う。
流体系の運動状態は、ベ ク トル場 によって指定 される。 領域 に閉 じ込め ら
れた湧 き出 しのないベ ク トル場は、ベ クトル演算子 ローテーション (
r
ot
,
)の固
有ベ ク トル場で展開する と便利 である つ ま り、考 えている領域 を5
7と して、
。
f
?の中で
r
of
,
p
-iニス
i
p
i
, di
vp-i- 0,
-6
3
2-
f
2の表面で
p
i・
元-0
(
1
)
「
統計物理の展望」
なる r
ntの固有ベ ク トル場 を考 える。 この ような固有関数は連続個ではな く
可算個であるこ とがわかる 。 0に閉 じ込め られた湧 き出 しのないベ ク トル場
C
i
p
iと展開で きることが示 されている。 卯 ま、L2
ウは、卯 こよってウニ∑i
内積で正規直交完全系 をなす ようにとれる。
オイラー方程式 に従 う非粘性非圧縮の流体 の速度場 を¢とし、系 内に湧 き
C
i
p
iと展開で きる。 さらに、この展開係
出 しがない とする。 この時、ウニ∑i
数のルベーグ測度 dJ
u -nidc
iが 、オ イラー方程式∂t
,
¢+(
¢・grad)
¢-
p- g
r
a
dpの不変速度であることがわかる。
また、理想電磁流体の磁場 をB
、流れの速度場 を¢とすると、
i-∑ ibip-i、
ウ ニ∑i
C
滴 と展開で きる。 さらに、この展開係数のルベーグ測度 dJ
u -ni
dbin idciが 、理想 MHD 方程式
- ◆
∂t
B
-- rot(
VxB)
, ∂+
,
¢+(
¢・grad)V= (rot
,
B
)×B
-一gradp (
2
)
の不変測度であることがわかる。
3
自己組織化 したプ ラズマの統計 力学
プ ラズマを領域Oに閉 じ込め、適当な初期状態か ら放置す る。 す る と、プ
ラズマは 自己組織化 しゆ く。 電気抵抗が小 さいプ ラズマの場合 、初期条件 か
らまず急激な緩和 し、その後 しば ら く定常状態 に留 まる。 この定常状態が ど
うい う構造 を記述す る統計力学 を考 えよう。 全節 (
2
)の理想 MHD 方程式 を
運動方程式 として使 う。
粒子の流れが磁場 と比べて軽視で きるようなプラズマの場合 (
太陽 コロナ
や宇宙論的なプ ラズマ)、流れウを無視 して磁場B
-のみ を扱 って よいだろ う。
巨視的な保存量 として、磁場のエ ネルギー E-J
nB2d
x
-と磁場のヘ リシテ ィ
H-J
nB
-・
A
dx
Tを扱 う
。 ここで、A
lまベ クトルポテ ンシャルである。 全節の
ot
,の固有ベ ク トル
相空間、不変測度 を使 って統計分布 を作 ろ う。 磁場Bを、r
場で展開 してこ
i
/
B
--∑c
i
p
i
+∑ a
,
.
A
J
j
t j
=1
(
3
)
●
,
jl
ま固有値入- 0 となる固有ベ ク トル場 、す なわち、コホ
と書 く。 ここで 、A
,
は領域Oの第-ベ ッチ数 を表す。和 ま、固有値が 0でな
モ ロジー場である。 i
ot9
i- hjなるベ ク トル場9
Jをつか って、B
-のベ
い固有ベ クトル場である。 r
ク トルポテ ンシャルは、
J
ノ
A
に ∑ 岩糾
i ∼
∑ 痛
j
=1
(
4
)
と書 き表 される。 ここで、鋸 ま¢it直交 している とは限 らない ことに注意 さ
れたいo内積△
i
.
,
・
-(
¢i
,
9
,
I
)は、コホモ ロジー と各モ ードをヘ リシテ ィーを
-
6
33 -
研究会報告
-∑.
:
;
=
1
F
j
通 して結 び付ける係数の役割 を果 たす。Li
Ai
.
jを、コホモ ロジー
i
、Fjであるが 、項 ま運動方程式 と境界条件
係数 と呼ぶ。 また、力学変数 は c
とか ら不変であることがわかる。 エ れ レギー、ヘ リシテ ィーは、
i
E-∑c
Z
+∑珠
j
∑
宕
+
∑LjFj
・
i
∫i
方-
(
5
,
と書 き表 される。
統計分布 を作 るに際 して、エ ン トロピーを選択する必要がある。 プ ラズマ
の場合、部分系 の統計的記述が どの程度可能 か明 らかではないため、一般 に
は レニエ ントロピーを使 う必要がある。 が 、ここでは簡単のため、シャノン
エ ン トロピーを仮定す る。 す る と、分布 は
-I
Ipi(ci)dci Pi(ci)I
e
xpト β(
E-1H)
]
d・
u
e
xpl
-p(
1-; )
(
c
i
-C'
i
'
)
2
]
,
(
6)
となる。 ここで、
ct
'-
lAL
i
i
(
7)
2
(
li- A)
とした。この分布関数か ら、領域 の種数が 1以上で コホモ ロジー磁場がある
場合 、各モー ドは 0ではない平均値
<c
i>
-C
Tをとるこ とがわかる
。
この古典統計では、黒体輯射の場合の レ- リー ・ジー ンズの発散 (
紫外発
敬 ) と同様 の発散があ り、エ ネルギーやヘ リシテ ィは収束 しない。何 らかの
方法で この発散 を除 く必要がある。
係数 ciを量子化することによ り収束 させ るこ とが考 え られ る 【
1
】。 c
iが ボ
ゾ ンとなる とし、線形分散 を仮定する として得 られるボーズア インシュタイ
ン統計か ら、エ ネルギー、ヘ リシテ ィ、お よびヘ リシテ ィのゆ らぎの空間波
/
k2,
1
/
k2,
1
/
た1 と予想 される
数 た依存性 が、それぞれ 、1
また、 ミクロカノニカルア ンサ ンブル として収束 させ ることもで きる 【
2
1
。
この場合は、流れ場¢も含めて理想 MHD方程式 を扱 うことが可能である す
。
る と、系の仝エ ネルギーは、流れ場の分 も加 えて E -I
s
7
(
B2+V2)
/
2
d
・
T
Tとな
J
る。 さらに、磁場 と流れ場の クロスヘ リシテ ィ- K- o
B
-・
Vd
・
T も巨視 的
な保存量 としてつか う。 この ミクロカ ノニカル理論 か らは、巨視的 な状態が
6
(
E-(H -E
K)- 0か ら決 まるこ と、コホモ ロジー場があ る と粒子 の巨視
的な流れが生 じること (
定量的 な関係 も含めて)な どが予想 される。
4 最後 に
ここで扱 った状態空間は、運動方程式の不変測度 を与 えるとともに運動領
域 の形状 を自然 に反映 している とい う特徴がある。 今後 、さまざまな流体系
ー
63 4
-
「
統計物理の展望」
へ の応用 が期待 され る。 プ ラズマ の統計 力学 と して、 ここに述べ た どうい う
場 合 に どの理論 が妥 当なのかは 、各理論 か らの予想 の当否 を実験 に よって検
証す る こ とに よ り決定 で きるで あ ろ う。
謝辞
この研究 は、国際高等研究所 ワー クシ ョップ 「複雑系 の秩 序 と構造 」か
ら始 まった。
l
l
]N.I
t
1
0al
l
dZ
.
Yos
hi
da,
"
Sf
,
at
,
i
s
t
i
c
l me
a
c
l
la
ni
c
sofl
nagnet,Ohydl
・
Odyna1
1
1
i
cs
,
"Pl
l
yS
・Re
v・E53(
1
996)520 .この論 文 中で 、MHD の統 計理論 の一つ の
可能性 と して 、現象論的量子化 を使 った量子統計 を定式化 している 。 これ を
使 って、十分 に半径 の大 きい トーラスの場合 につ いて、具体 的 な計算 を行 なっ
てい るが 、その規格化 因子 の計算 に誤 りがあ る (正 しい表式 は、次 の文献
【
2
】
中に与 えてあ る)0
[
2
]R.Jor
dall,
Z
・Yos
l
l
i
daal
l
d N.It
,
0, "
St
,
at
,
i
s
t
,
i
c
l Me
a
cllani
c
sofTl
lr
ee-
l
Di
me
ns
i
ol
l
a
lMagne
t
ol
l
ydr
ndynami
c
si
naMl
lt
i
pl
yConne
ct
e
dDol
nai
l
l
,"
Phys
i
c
aDl14(
1
998)251
.
-
635
-