. . ( . ): ∼ 一般講演 7 術後にアミオダロンによる間質性肺炎を発症した チアノーゼ型成人先天性心疾患の1例 吉澤 弘行1) 大内 秀雄1) 宮] 文1) 鎌倉 史郎2) 石原 温子1) 山田 修1) 坂口 平馬1) かったので,4月下旬にアミオダロンを2 0 0 mg/日か はじめに ら100 mg/日に減量した.その1カ月後の6月に失神 未修復チアノーゼ型先天性心疾患(cCHD)の成人期 を認め,緊急入院となり直流除細動にて頻脈は静止し には,心不全や難治性頻拍を合併することが多い.ま た.アミオダロンを20 0 mg/日に戻した後,グレン手 た,低酸素血症や心不全のため,呼吸障害の臨床診断 術施行前に頻脈の回路を同定すべく,8月に心臓電気 が困難な場合がある. 生理検査 (EPS) およびカテーテルアブレーションを施 今回われわれは,開心術後に重度心不全を伴い,ア 行した.EPSにて心房頻拍と診断し,アブレーション ミオダロンによる間質性肺炎を発症したcCHDの成人 は不成功に終わったので,グレン手術にcryoablation 例を経験したので報告する. を追加する方針となった. 術 前 検 査 所 見:ヘモグロビン1 99 . g/dL,ヘマトク 症例呈示 リット628 . %と多血を認めた.動脈血液ガスはPaO2 症 例:3 8歳,女性. 4 31 . mmHg,PaCO2372 . mmHg,SaO277%であった. 診 断:右胸心,右側相同,共通房室弁,両大血管 アミオダロンの血中濃度は07 . μg/mL,代謝物デスエ 右室起始,肺動脈狭窄. チルアミオダロンは05 . 4μg/mLと,いずれも高値では 既往歴:5歳時に右BTシャント術. なかった.呼吸機能検査は,DLCO 1 327 . %,全肺気量 現病歴:25歳時から失神を伴う頻拍を繰り返し,11 (TLC) 993 . %と正常範囲内であった. 月19日(3 7歳) に不整脈の治療目的で当院紹介された. 1 2誘導心電図では,頻脈発生時に2種類のQRS波形 心房頻拍が頻発し,房室弁逆流が重度で心拡大が著明 が認められ,二重房室結節 (twin AV node) による融合 であった.弁逆流および心容量負荷に対して利尿薬, 収縮 (fusion beat) と考えられた. ACE阻害薬,β遮断薬の投与を開始した.頻脈に対し 術後経過:8月2 8日に心容量負荷軽減を目的とした ては同年12月1 1日よりアミオダロンを導入し,開始後 グレン手術,共通房室弁形成術ならびにcryoablation 2週間したところで頻脈は改善し,動悸は消失した. を施行した.術後に重度の心拍出量低下を認めた.原 翌年2月頃から動脈血酸素飽和度 (SpO2) の低下を認 因を検索すべくカテーテル検査を行い,両心室間の同 めたが,KL―6とSP―Dの上昇はなく,呼吸機能検査お 期不全を認めたため,術後2 2日に心臓再同期療法のた よび胸部X線写真で異常を認めなかったため,経過観 めペースメーカー植え込み術を施行した.これにより 察とした. 心拍出量低下は改善したが,その後も低酸素血症と原 翌年4月から,息切れ,ふらつきの訴えが強くなり, 因不明のCRP高値,発熱が遷延した.胸部CTとGaシ β遮断薬の増量を中止した.頻脈をしばらく認めな ンチを施行したところ,Gaシンチにて両肺野にびまん 性の高度Ga集積像がみられ,高分解能CTにて両肺野 1)H. Yoshizawa,A. Miyazaki,H. Ishihara,H. Sakaguchi, H. Ohuchi,O. Yamada:国立循環器病センター小児循環器診療 部 2)S. Kamakura:同心臓血管内科 に小葉間隔壁の肥厚とすりガラス状陰影を認めたこと から,間質性肺炎と診断した. ― ( 667)― . アミオダロンによる薬剤性間質性肺炎を疑い術後6 7 気管支肺胞洗浄液中に認められたCD8陽性リンパ球の 日目にアミオダロンを中止し,プレドニゾロン静注を 増加,補体C3の沈着などが挙げられている1).一方, 行ったが,低酸素血症の進行と画像所見の悪化を認め, 心臓手術施行前にアミオダロンを内服していた3 1例中 術後76日目にステロイドパルス療法に変更した.一時 6例が術後に急性呼吸促迫症候群 (ARDS)を発症した 的に低酸素血症の改善を認めたが,プレドニゾロン内 ことから,心臓手術前のアミオダロンの長期内服は術 服に変更後再燃し,ステロイドパルス療法を繰り返し 後肺障害のリスクになるとの報告もある2).また,人工 たが緑膿菌性肺炎を合併し,術後1 0 4日目に死亡した. 心肺を用いた開心術症例において,CD8陽性リンパ球 病理学的所見は光学顕微鏡により多数の泡沫化した が増加すると報告されている3).開心術が免疫機能の マクロファージを認め,電子顕微鏡でマクロファージ 低下を引き起こした結果,術後のアミオダロン肺障害 内に多層化したアミオダロン封入体を多数認めた. を惹起した可能性があると考えられた. 考 察 おわりに cCHD症例は,その特殊な血行動態によりチアノー 本症例は,チアノーゼ型先天性心疾患に対する開心 ゼの進行を来すことがある.本症例においては,術後 術後に心収縮不全を伴い,呼吸障害がマスクされたこ の心拍出量低下により肺血流量が減少し,低酸素血症 とから間質性肺炎の診断に苦慮した.間質性肺炎の診 が進行した.cCHDにおいてSpO2が低下する原因は多 断においては,高分解能CTとガリウムシンチが有用 岐にわたり,間質性肺炎の診断が困難な場合がある. であった. KL―6およびSP―Dの上昇が病初期にはみられず,Gaシ ンチが契機となり,高分解能CTで間質性肺炎の確定 診断に至った. また,アミオダロン投与開始3カ月後から,血行動 態で説明できない低酸素血症の進行と息切れの訴えが みられた.開心術後にCRPの上昇と重度の低酸素血症 が出現しており,術前から間質性肺炎が発症し,開心 術により悪化した可能性が疑われた. アミオダロン誘発性肺障害の発症機序は,リン脂質 の蓄積や活性酸素による直接性障害と,免疫機序によ 文 献 1)Martin WJ2nd, Rosenow EC3rd:Amiodarone pulmonary toxicity. Recognition and pathogenesis(Part 2) . 48. Chest 1 9 88;9 3:12 42―12 2)Mickleborough LL, Maruyama H, Mohamed S, et al: Are patients receiving amiodarone at increased risk for cardiac operations? Ann Thorac Surg 1994;58: 9. 622―62 3)酒井 寛,岩谷泰之,片山善章ほか:各種人工心肺を 用いた開心術症例におけるリンパ球subpopulationお 96. よびsubsetsの変動.臨床病理 1 989;3 7:390―3 る間接性障害と指摘されている.後者の根拠としては ― ( 668)― 第14回アミオダロン研究会講演集 質疑応答 (国立循環器病センター心臓血管内科部長) 座長/鎌倉 史郎 (横浜薬科大学臨床薬理学教授) 橋本敬太郎 (国立循環器病センター小児循環器診療部) 演者/吉澤 弘行 橋本(座長) どうもありがとうございました.大変 山村(九州大) 非常に教育的なご報告をありがとう 難しい症例ですね.質疑をお願いします. ございます.確かに,このような症例では間質性肺炎 高橋(洛和会音羽病院) 貴重な症例をご提示いただ を発症した時期の判断が難しいと思いますが,術前の きましてありがとうございます.この症例は術前から カテーテル検査では肺静脈酸素飽和度の低下といった BNPが低値でしたが,このような所見はcCHDの患者 所見を認めなかったのでしょうか.当初から肺のガス さんによくみられるのでしょうか.また,間質性肺炎 交換に問題があったのか,それとも純粋に肺血流量の 診断時のX線写真にもCRT本体が写っていませんで 問題なのか,ある程度は判断できたのではないかと思 したが,右胸心の患者さんに対してどのようにCRTを いますが,いかがですか. 導入されたのでしょうか. 吉澤 カテーテル検査は術前に2回ほど施行し,心 吉澤(演者) cCHDの患者さんは,心容量負荷がか 拍出量の低下は認めましたが,血液ガスのデータには かることによってBNP高値を呈しがちです.症例にも 特に異常がありませんでした. よりますが,心不全が重症であれば1 0 0 pg/mL,時に 山村 この患者さんはKL―6も上昇していませんで は300 pg/mLを超えることもあります. したね.こうした症例の間質性肺炎を予防するには, 高橋 この症例は2 68 . pg/mLと著明な低値ですね. ルーチンのCT撮像などが必要だとお考えでしょうか. 吉澤 利尿薬の投与で低下した面もあります.初診 吉澤 アミオダロン内服3カ月で低酸素血症を認め 時には10 0 pg/mL前後でした. た後,咳なども生じてきましたので,たとえ各種検査 CRTに関しては,両心室の収縮が同期せず,右室の 値に異常がなくても,ほかに説明がつかなければGaシ 収縮後に遅れて左室が収縮するパターンを認めました ンチや高分解能CTを用いた方が良いのではないかと ので,3点ペーシングで行っています. 考えています. 宮](共同演者) 本症例では経静脈的なCRT植え 山村 参考になりました.ありがとうございます. 込みが不可能でしたので,開胸手術で導入しています. 橋本 どうもありがとうございました.では次の演 できるだけプラス極とマイナス極を離し,心外膜側か 題に進みます. ら3点でペーシングを行うようにしました. ― ( 669)―
© Copyright 2024 ExpyDoc