フィリップス・カーブ~名目賃金上昇率と失業率のトレード・オフ

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連載
物価 古今東西 第 3 回
フィリップス・カーブ
∼名 目 賃 金 上 昇 率 と失 業 率 のトレード・オフ∼
竹光 大士
失業率、名目賃金の下方硬直性
落はリーマンショックの影響と考えられ
る。
フィリップス・カーブは本来、名目賃
金上昇率と失業率に逆相関(トレード・
政策とその影響
オフ)の関係があることを経験的に示し
たものである。山本・黒田(2003)によれ
日本の物価連動債は流動性が低く期待
ば、労働市場の価格調整メカニズムが機
インフレを計測するのに適さないと言わ
能していれば需給悪化によって生じてい
れているが、参考までに紹介するとブレ
る失業は実質賃金の低下によって解消さ
ーク・イーブン・インフレ率(≒利付国
れるはずである。しかし、名目賃金の下
債利回り―物価連動債利回り、残存年限
方硬直性がある場合、これらのメカニズ
は同じ)は足元 1%台後半まで上昇して
ムが働かなくなると考えられている。こ
きた。日銀は 4 月から期待インフレに働
れがもたらす悪影響は、デフレが進行す
きかける政策を実施しているが、これが
る状況では企業は賃金調整ができず、実
成功すれば、2%前後での安定的な物価上
質賃金が上昇してしまうことである。そ
昇が実現することになる。それを達成す
の場合、雇用調整(一時帰休、解雇等)
るには①景気改善によるフィリップス曲
で対応せざるを得なくなる。その結果、
線上のシフト(失業率の低下とインフレ
フィリップス・カーブがフラット化する
率上昇)に加え、②期待インフレの押し
との見方も可能である。
上げによるフィリップス曲線そのものの
上方シフトが必要である。これらが 15 年
直近のトレンド
近く続いてきたデフレ脱却に不可欠とさ
れている。
1981∼96 年の名目賃金上昇率と失業率
を表した図表 1 はバブル崩壊後の名目賃
名目賃金上
昇率(%)
金上昇率と失業率が 1980 年代からフラ
2
ット化した様子を示している。2003∼12
0
年のデータでは、逆相関を描くのが難し
-1
3
3.5
く失業率が上昇したという状態を示して
-5
4
2006
2007
-4
2010
2011
4.5
2008
-2
-3
名目賃金上
昇率(%)
2005
1
くなり、名目賃金上昇率とあまり関係な
いる。なお、09 年に大きな名目賃金の下
図表2 名目賃金上昇率と失業率 (2003∼12年)
5
5.5
失業率(%)
2004
2012
2003
資料:図表1
と同じ
-6
2009
-7
<参考文献>
図表1 名目賃金上昇率と失業率(1981∼97年)
山本勲・黒田祥子(2003)「名目賃金の下方硬直性が失
6
5
1981∼89年
4
1990∼97年
業率に与える影響−マクロ・モデルのシミュレーション
による検証ー」、日本銀行金融研究所
3
2
失業率
(%)
1
0
-1
2
2.5
-2
金融市場2013年6月号
3
3.5
資料:総務省統計
局「労働力調査」よ
り作成
38
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農林中金総合研究所