物理学 講義ノート

物理学 講義ノート #3
担当 : 井上 純一
URL : http://chaosweb.complex.eng.hokudai.ac.jp/˜j inoue/Physics/Physics2011.html
平成 23 年 5 月 9 日
目次
運動量と力積
4
14
運動量と力積
4
前回 (4/25) の講義では運動方程式
dp
(67)
= F
dt
を学び, 物体に力が働いていない状況 F = 0 では, 物体は一様運動量 (速度) で等速直線運動する
か, あるいは静止し続けるという運動の第 1 法則 (慣性の法則) をこの方程式から確認した. さて,
p = mv は運動量と呼ばれる量であったから, F = 0 の場合の運動方程式
dp
dt
=
0
(68)
は
p = p0 (時間に依らない一定値)
(69)
となり, 運動量保存則を表している. これは一質点の場合であったが, 前回 (4/25) 配布の講義ノー
トで見たように, 質点間に働く力がお互いに打ち消し合い, 結果的に質点系に外から働いている力
が無ければ, その質点系全体の運動量は保存した.
ここで, 先に進む前に一点だけ注意しておきたい. 以上の話では力のベクトルが恒等的にゼロ, つ
まり, F = (Fx , Fy , Fz ) = (0, 0, 0) の場合を扱った. しかし, こうでなくても, F のある特定の成分
がゼロならば, 対応する運動量の成分は保存することになる. こう言ってもわかりにくいと思うの
で, 以下に簡単な例を用いて説明しょう.
例: 電荷を持つ粒子の磁場中の運動
電荷 q を持つ速度 v = (vx , vy , vz ) の粒子には, 磁場 B = (Bx , By , Bz ) から, ローレンツ力 F =
qv × B を受ける. ここで a × b のようなベクトル間の演算を「ベクトル積」あるいは「外積」と
呼ぶ. この演算の意味については後に述べることにして (ここでは, これ以上触れない), この演算
の下で, ローレンツ力は成分で書くと


 Fx
Fy


Fz
=
=
vy Bz − vz By
vz Bx − vx Bz
= vx By − vy Bx
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(70)
物理学 2011 #3
酪農学園大学 獣医学部獣医学科
となるから, 運動方程式は各成分ごとに
dvx
dt
dvy
m
dt
dvz
m
dt
m
= vy Bz − vz By
(71)
= vz Bx − vx Bz
(72)
= vx By − vy Bx
(73)
と書ける. さて, 磁場が x 軸方向に一定値, つまり, B = (Bx , By , Bz ) = (B, 0, 0) の場合を考えて
みよう. このとき, 上運動方程式 (71)(72)(73) は
dvx
dt
dvy
m
dt
dvz
m
dt
m
=
0
(74)
=
vz B
(75)
=
−vy B
(76)
となる. ここで注目すべきは (71) 式であり, これから直ちに vx = vx0 , つまり, px ≡ mvx = mvx0 =
一定 となり, 運動量の x 成分が保存することがわかる. つまり, 外力がゼロの成分があれば, 運動
量のその成分は保存するのである.
ちなみに磁場が y 軸方向に一定 B = (Bx , By , Bz ) = (0, B, 0) の場合には運動方程式 (71)(72)(73)
は
dvx
dt
dvy
m
dt
dvz
m
dt
m
= −vz B
(77)
= 0
(78)
= vx B
(79)
となり, 運動量の y 成分が保存し, 最後に磁場が z 方向で一定値 B = (Bx , By , Bz ) = (0, 0, B) の場
合には運動方程式 (71)(72)(73) が
dvx
dt
dvy
m
dt
dvz
m
dt
m
= vy B
(80)
= −vx B
(81)
=
(82)
0
となり, 運動量の z 成分が保存する1 .
さて, 運動方程式で力がゼロで無い場合, 形式的に両辺を積分することができる. つまり, (67) 式
で両辺に dt をかけ
dp = F dt
(83)
これを時刻 t = t1 から t2 まで積分すると
∫ p(t2 )
∫
t2
dp =
p(t1 )
1
F dt
(84)
t1
この問題の場合には一般的に「粒子の運動量の磁場方向成分は保存する」と言える.
ここは 15 ページ目
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酪農学園大学 獣医学部獣医学科
従って
∫
p(t2 ) − p(t1 ) =
t2
F dt ≡ Φ
(85)
t1
が得られる. この左辺は時刻が t1 から t2 まで経過する間にどれくらいの運動量が変化したか, と
いう運動量の変化量である. 一方, 左辺 (これはベクトル量であることに注意) の
∫
t2
Φ =
(86)
F dt
t1
は t1 から t2 までの力積と呼ばれ, (85) 式の意味するところは
☛
✟
質点の運動量の変化量は, その間に質点に作用した力積に等しい
✡
✠
ということである. (85) 式はベクトルに関する関係式であるから, これを成分で書くこともできる.
例えば,基本ベクトル i, j, k を用いて p = px i + py j + pz k = (px , py , pz ), F = Fx i + Fy j + Fz k =
(Fx , Fy , Fz ), Φ = Φx i + Φy j + Φz k = (Φx , Φy , Φz ) とすれば, x, y 及び z 成分について
∫ t2
px (t2 ) − px (t1 ) =
Fx dt = Φx
py (t2 ) − py (t1 ) =
pz (t2 ) − pz (t1 ) =
(87)
t1
∫ t2
Fy dt = Φy
(88)
Fz dt = Φz
(89)
t1
∫ t2
t1
が成り立つ. このとき, 例えば, Φx は図 7 の Fx (t) 及び t2 − t1 で囲まれた部分の面積に相当し, 通
常は 時間間隔 t2 − t1 が短ければ小さい (図 7 左参照). つまり, 質点が微小時間に得る (または失う)
Fx (t)
Fx (t)
t1
t2
t1
t2
図 7: 力積 Φx は図の Fx (t) 及び t2 − t1 で囲まれた部分の面積
運動量は微小である. 一方, 微小時間に極めて大きな力が働き, たとえ時間間隔が微小でも, その力
積の大きさが有限に残るケースがある (図 7 右参照). このような力のことを衝撃力と呼んでいる.
実際に衝撃力の場合, 短い時間間隔でどのように Fx (t) を測定するのかは非常に難しい問題であ
る. 従って, (85) 式の右辺を用いて力積を算出することは困難であるから, それをあきらめて, 通常
は衝撃力が働いた前後での運動量の変化量を測定し, それから (85) 式を用いて間接的に与えられた
力積を評価することを行う. これを次の簡単な例で確認しておこう.
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酪農学園大学 獣医学部獣医学科
例: ボールの壁への衝突
質量 m のボールが壁に速度 −v で衝突する.このとき, 壁への衝突後の速度を v とすると (逆向
きの速度を得るので符号に注意), ボールの質量は衝突前後で変わらないので, 衝突前後の運動量は
p = −mv 及び,p = mv となる. よって運動量の変化量, つまり, 力積 Φ は
Φ
= mv − (−mv) = m(v + v )
(90)
となる.
さて, 壁との衝突により, ボールの速さが衝突前と比べて, どの程度減少したか, という尺度は跳
ね返り係数によって与えられる. 衝突後の速さ (速度の絶対値) はこの係数 e : ( 0 ≤ e ≤ 1) を用
いて
v
= ev
(91)
で与えられる. e = 1 の場合には v = v となり ((90) 式から力積は Φ = 2mv), 衝突前後でボール
の速さは変化せず, 従って, 運動エネルギーも変化しない (エネルギーの損失がゼロの衝突). この
場合の衝突を完全弾性衝突と呼んでいる.
一方, e = 0 の場合, v = 0 となるが, これはボールが壁にあたって止まってしまった状況である
((90) 式から力積は Φ = mv). この場合, ボールが衝突前に持っていた運動エネルギーは, 例えば,
壁に全て吸収されてしまったことになる (壁が粘土のようなものでできているとすると,壁が変形
するのに要するエネルギーとして費やされたと考えられる). この場合の衝突を完全非弾性衝突と
呼ぶ.
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