化学反応論 2 補足資料 衝突理論 1 マクスウェル分布 (p. 807) 平衡状態の分子の速度分布はマクスウェル分布によって表される。マクスウェル分布の形を具体 的に求めよう。 速さの成分が (vx , vy , vz ) である分子の運動エネルギーは、 E= 1 1 1 mvx2 + mvy2 + mvz2 2 2 2 (1) である。したがって、速さの成分 (vx , vy , vz ) をもつ分子の割合 f は、 f = Ke−E/kT = Ke−( 2 mvx + 2 mvy + 2 mvz )/kT 2 1 1 2 1 2 = Ke−mvx /2kT e−mvy /2kT e−mvz /2kT 2 2 2 (2) K は規格化のための比例定数である。気体は等方的で、x, y, z 方向の速度成分は互いに独立である から、f = f (vx )f (vy )f (vz ) というように各方向の成分に分解できる。 f (vx ) = K 1/3 e−mvx /2kT 2 f (vy ) = K 1/3 e−mvy /2kT 2 f (vz ) = K 1/3 e−mvz /2kT 2 となる。x 方向に着目すると、分子の速さは −∞ < vx < ∞ の範囲にあるので、 ∫ ∞ f (vx )dvx = 1 (3) −∞ であるはずである。ここに式 (3) を代入すると ∫ ∞ ( m )1/2 2 1 = K 1/3 e−mvx /2kT dvx = K 1/3 2πkT −∞ したがって、K の大きさは K= ( m )3/2 2πkT (4) (5) と求められる。 分子の速さが vx から vx + dvx 、vy から vy + dvy 、vz から vz + dvz の間にある確率は、 f dvx dvy dvz = f (vx )f (vy )f (vz )dvx dvy dvz = ( m )3/2 2 e−mv /2kT dvx dvy dvz 2πkT (6) である。ここで、v 2 = vx2 + vy2 + vz2 である。方向に関係なく、分子の速さが v から v + dv の間に ある確率は、dvx dvy dvz を 4πv 2 dv に置き換え1 、 f (v)dv = 4π ( m )3/2 2 v 2 e−mv /2kT dv 2πkT (7) となる。式 (7) で表される速度分布は、平衡状態において、気体分子の速度が従う分布関数であり、 これをマクスウェル分布とよぶ。 1 (v , v , v ) を軸とする空間の積分を、直交座標による積分のしかたから、極座標による積分のしかたへ変換すること x y z に相当する 1 化学反応論 2 補足資料 2 平均速さ マクスウェル分布を用いると、分子の平均速さ c¯ は、 ∫ ∞ c¯ = vf (v)dv 0 ( m )3/2 ∫ ∞ 2 v 3 e−mv /2kT dv = 4π 2πkT 0 ( m )3/2 1 ( 2kT )2 ( 8kT )1/2 = 4π × = 2πkT 2 m πm (8) と求められる。 3 衝突頻度 ある 1 個の分子に着目した時に、その衝突頻度は単位時間当たり単位体積当たりの衝突回数で 定義される。単位時間あたりに分子が通過する体積は、衝突断面積と分子の相対平均速さの積に 等しく、その体積内に含まれる A の数が衝突回数に等しい。したがって、A 分子の気体の中で 1 個の A 分子に着目すると その衝突頻度 z は、衝突断面積 σ 、分子の相対平均速さ c¯rel 、分子 A の数密度 NA 2 の積で表される。 z = σ¯ crel NA c¯rel は、平均速さ c¯ を用いて c¯rel = √ (9) 2¯ c (10) 式 (8) の c¯ を換算質量 µ = 21 m を用いて表すと、 ( と書くことができるので、 c¯rel = √ )1/2 c¯ = 4kT πµ ( )1/2 2 4kT πµ (11) ( = 8kT πµ )1/2 (12) と求められる。 全衝突密度は、気体の中で、単位時間当たり単位体積当たりの全衝突回数で定義される。衝突回 数は 1 個の分子あたり z であり、これに数密度をかければ全衝突回数になる。したがって、同種分 子同士の全衝突密度は、 1 1 zNA = σ¯ crel NA2 (13) 2 2 で表される。1/2 の因子があるのは、ぶつかる分子も、ぶつかられる分子もともに A であるので、 ZAA = 単に zNA としてしまうと同じ衝突が二重にカウントされてしまうからである。一方、分子 A と B を含む気体中で、A と B との全衝突密度は、 ZAB = σ¯ crel NA NB = σ¯ crel NA2 [A][B] で表される。ここに、式 (12) を代入すると、p.932 の式 (24.3a) が得られる。 2 分子 J の数密度は NJ = NA [J] である。ここで、NA はアボガドロ定数、[J] はモル濃度である。 2 (14)
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