家族信託の様々な形 家族信託の事例Ⅱ Ⅰ 前提条件 - 堀光博税理士

23号(26・2)
家族信託の世界
相続対策の専門家
堀光博税理士事務所
092-292-5138
家族信託の様々な形
家族信託の世界 19 号から、しばらく時間が空きましたが、今回から事例の検討を再
開させていただこうと思います。
家族信託の事例Ⅱ
以前もご紹介しましたが、私は昨年より障がい者就労継続支援施設の運営に携わらせ
ていただいているのですが、御両親をはじめ御親族の皆さんから、御相談をいただくケ
ースが増えてきています。今回は、御本人と御両親の承諾をいただきましたので、その
ケースを事例として検討してみたいと思います。ただし、これは現在進行中のケースで
すので、信託内容は変更される可能性があります。
この原稿も、一度ご本人に読んでいただきました。後ほど出てきますが、病気の完治に
関する記述にどのような反応をされるかが気になり、お尋ねしたのですが、全く問題は
ありませんので、掲載して下さいとのお話でしたので、今回の紹介事例としました。
Ⅰ
前提条件
○家族構成:高齢の御両親(父:85才、母:83才)と同居の障がい者(長男、パ
ーキンソン病、要介護2で54才)
、既に嫁いでおられる姉がお二人の、計5名の
御家族です。ご両親は特別な資産家ということではありませんが、御長男の今後
を非常に心配されており、御相談に来られました。
ご希望:嫁がれている姉二人は、御長男を大切にしておられることから、御両親の現
在のお住まいや金融資産などは、全て御長男のために使ってほしいとのことでした。
パーキンソン病(パーキンソンびょう、英: Parkinson's disease)は、脳内のドーパ
ミン不足とアセチルコリンの相対的増加とを病態とし、錐体外路系徴候(錐体外路症
状)を示す進行性の疾患である。神経変性疾患の一つであり、その中でもアルツハイ
マー病についで頻度の高い疾患と考えられている。日本では難病(患者数の少なさと
症状の重症度、長期の療養が必要なため、治療薬が高額。発病の詳細メカニズムは不
明で、治療方法も未確立。特定疾患)に指定されている。本疾患と似た症状を来たす
ものを、原因を問わず総称してパーキンソン症候群と呼ぶ。本症はパーキンソン症候
1
群の一つであるということもできる。中年以降の発症が多く、高齢になるほどその割
合も増える。主な症状は安静時の振戦 (手足のふるえ)、筋強剛 (手足の曲げ伸ばしが
固くなる)、無動・動作緩慢などの運動症状だが、様々な全身症状・精神症状も合併す
る。進行性の病気だが症状の進み具合は通常遅いため、いつ始まったのか本人も気づ
かないことが多く、また経過も長い。根本的な治療法は 2012 年現在まだ確立していな
いが、対症的療法 (症状を緩和するための治療法) は数十年にわたって研究・発展し
ており、予後の延長や QOL の向上につながっている。また 20 世紀末ごろから遺伝子研
究・分子生物学の発展に伴いパーキンソン病の原因に迫る研究も進んでおり、根本治
療の確立に向けての努力が行われている
Ⅱ
(出典:Wikipedia)
信託の目的
障がい者である御長男の病気は、進行すると一人での生活は難しいため、障がい者グ
ループホームなどを利用することになるのではないかと考えられることから、この信託
の目的は「御長男の生活資金を支援する」ということになります。ただし、たとえ信託
契約をしたとしても、御両親の生活を守る必要があることから、信託契約の発効時期を
考えなければなりません。
Ⅲ
信託契約の内容
では具体的には、どのような形になるのでしょうか。
①関係者
ⅰ 委託者:不動産名義人であるお父様(委託者の地位はお父様亡き後はお母様が引
き継ぐこととするが、その後は引き継がない)
ⅱ 受託者:御家族全員で設立する合同会社
ⅲ 収益受益者:御長男
ⅳ 元本受益者:御長男および姉2名(受益内容は現在検討中)
②信託の発効
現在はお元気である御両親のいずれかが、死亡又は重度の介護を必要とする状況にな
った場合は、
(御長男、姉2名と御長男の後見人予定者(今回、任意後見の届け出をする
予定)の計4名の合意による開始決定)
注)御両親も任意後見の届け出をする予定ですが、相互に任意後見人とするような届
出となる予定です
③契約等の流れ
ⅰ 委託者は公正証書遺言を作成し、不動産資産は全て長男名義となるようにする
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遺留分は金融資産の一部を予定しておく(姉2名は委託者死亡後に相続放棄をす
ると言っているが、しなかった時のことを考慮して計画しておくものとする。
)
ⅱ 信託契約により、不動産資産と金融資産の一部を信託財産とする
御両親名義の預金等は、生活資金として必要であるため、信託発効後に信託財産
として組み込む。
④財産の流れ
ⅰ 御両親の財産を全て御長男が相続(遺留分を除く)
ⅱ 信託財産であるご自宅などの不動産資産を処分して、金融資産とする
これにより、信託財産は全て金融資産に転換される
ⅲ 御長男個人名義の口座に入金される年金や、就労支援による給与は信託財産には
組み込まない
⑤信託の終了
ⅰ 御長男の死亡
ⅱ 御長男の病気の完治
ⅲ 御長男の結婚(婚姻届の提出=信託の終了ではなく、期間の定めが必要との意見
もあり、今後さらに検討の余地あり)
この中でいくつかの疑問点があると思いますので、考えていくことにします。
①-ⅰ 受託者
家族信託では受託者を信頼できる個人とするケースが多いのですが、今回のように御
家族全員の協力があるようなケースの場合は、家族が参加する法人を受託者とするこ
ともあります。今回は合同会社を選択しました。
法人を受託者とした場合は、各種の課税がなされることになりますが、個人では死亡
や病気などにより、その職務が遂行できなくなってしまうという可能性がありますが、
法人ではありません。今回のケースでは受益者が最も年下であることから、他の御家
族全員が先に死亡することも考慮し、信託の目的が達成できるよう、死亡の心配がな
く、信託監督人や協力者の皆さんで受益者の職務を遂行できる法人を選択しました。
合同会社:合同会社の内部関係はシンプルな設計であり、社員全部が有限責任という
こともあり、新規設立が認められなくなった有限会社に代わって今後多く設立される
ことが見込まれる会社形態である。
「合同」という名称だが、代表社員 1 名のみで設立
登記することが可能である。
(出典:Wikipedia)
3
①-ⅱ 元本受益者
信託が終了した際に、信託財産を受け取る権利を持つ方のことですが、あえて3人の
姉弟としました。御長男の病気は難病指定を受けているもので、根本治療法は確立
されていないのですが、本人は強い望みを持っており、今回の信託契約でその後押し
をしてあげたいとの、御両親の希望に沿う形としました。御結婚も同様の考えからで
す。この御長男もそうですが、障がい者の皆さんは特別扱いを嫌う傾向にあります。
健常者と言われる人たちと同様の生活が送りたいと望んでいます。完治するかどうか
は別として、希望を持っていただきたいと思います。
②信託の発効
不動産および預金は、ほとんどがお父様名義なのですが、御両親の死亡順は分からな
いことと、御両親とも現在ははっきりしている判断能力が、いつどのような状態でな
くなるのかがわからないことに加え、現在の年齢や体力から考えて、お一人に介護が
必要になった場合には、施設入所しかなくなることが考えられるためです。当然にこ
のような場合には、残された方の精神的、肉体的負担は大きく、介護を必要とする可
能性は非常に高くなると考えられます。これを考慮して、御両親いずれかの死亡また
は介護状態を契機として、受益者と後見人の合意で開始できるとしました。
③-ⅰ 相続放棄
資産の所有者であるお父様の相続人のうち、金銭的メリットがほとんどないのが、姉
2名となります。
(受託会社の給与はあります。
)仲が良く、弟の心配をされるやさし
いお姉さまですから、心配はないと思われますが、遺留分請求の可能性だけは否定で
きないことと、御両親からも遺留分くらいは渡してほしいとの依頼があったためです。
障がい者に絡む信託契約の一般的なケースでも、この相続財産と遺留分の考え方が最
も難しいと言えます。これは障がい者でなくてもの部分なのですから、当然と言えま
すね。
ただし、障がい者の生活必要資金計算において、信託財産では不足することもあり
ます。このような場合も含めて、信託財産の設定は非常に難しくなるものと思います。
④-ⅱ 不動産資産処分
信託財産である不動産を処分して、金融資産とするのですが、売却に必要な手数料や
税金などを細かく計算しておくことが必要になります。必要資金額に不足することも
あるかもしれませんので、不動産の専門家のアドバイスや、リバースモーゲッジの検
討などもしておかなければならないと思います。
4
リバースモーゲッジ(Reverse mortgage)とは、自宅を担保にした年金制度の一種。
自宅を所有しているが現金収入が少ないという高齢者世帯が、住居を手放すことなく
収入を確保するための手段。自宅を担保にして銀行などの金融機関から借金をし、そ
の借金を毎月の年金という形で受け取る。年月と共に借入残高が増えていき、残高に
対する利息も未払いのまま残高に加算される。契約満期または死亡時のどちらか早い
時期に一括返済しなければならない。現金で返済できない場合は、金融機関は抵当権
を行使して担保物件を競売にかけて返済に充当する。契約者死亡の場合は返済義務は
契約者の相続人が承継する。通常のモーゲッジ(=抵当・担保)ローンでは年月と共に
借入残高が減っていくが、この制度では増えていくのでリバース(逆)モーゲッジと呼
ばれる。最終的に自宅を手放す(可能性が高い)ことはその家を売却することに似てい
るが、契約の期間中はその家に住み続けられることが特徴である。
大きく分けて以下の 2 つのタイプがある。
○自治体などの公的機関が「返済の期待される生活保護」として貸し付ける。
○商業銀行によるもの。
(出典:Wikipedia)
今回御紹介した事例は、私にいただいた相談の一つですが、現時点で相談件数は 20
件を超えています。全てが家族信託で出来るわけではありません。しかし、相談パター
ンは似通ったものです。
今後高齢化社会はさらに進んでゆくと言われますし、障がい者も必ず高齢者になりま
す。このような方々の不安や悩みを少しでも解消するためのお手伝いができればと考え
ています。
次回の家族信託の世界は、一般事例の御紹介をしながら、その内容の検討をしていき
たいと思います。
by T.Senoo
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