肩手症候群に対する鍼治療の一症例 Acupuncture Therapy for

全日本鍼灸学会雑誌.2002年,第52巻4号,435-441
(59) 435
臨床体験レポート
肩手症候群に対する鍼治療の一症例
對木 麻里1)
會川 義寛2)
安野富美子1)2)
福田 文彦3)
横川 孝一1)
坂井 友実4)
1)財務省東京病院 東洋医学センター
2)お茶の水女子大学 人間文化研究科
3)明治鍼灸大学 臨床鍼灸医学教室 4)筑波技術短期大学 鍼灸学科 Acupuncture Therapy for Shoulder-Hand Syndrome (SHS)
TSUIKI Mari1) YASUNO Fumiko1,2) YOKOKAWA Koichi1)
AIKAWA Yoshihiro2) FUKUDA Fumihiko3) SAKAI Tomomi4)
1)Hospital of Printing Bureau of Ministry of Finance, Oriental Medicine Center
2)Graduate School of Humanities and Sciences, Ochanomizu University
3)Department of Clinical Acupuncture and Moxibustion, Meiji University of Oriental Medicine
4)Laboratory of Acupuncture Science, Tsukuba College of Technology
Key words: SHS, RSD, acupuncture, rehabilitation, thermograph
Zen Nihon Shinkyu Gakkai Zasshi (Japan Society of Acupuncture and Moxibustion, JSAM), 2002, 52(4), 00-00
(Accepted; 6 July, 2001)
Ⅰ.緒言
痛・腫脹・異常感覚などを呈しSHSが疑われた片
肩手症候群(Shoulder-Hand syndrome:以下
麻痺患者に対して、症状の軽減ならびにリハビリ
SHS)は手の疼痛と腫脹を主徴とした難治性の疼
テ−ションの支援を目的とした鍼治療を行い、そ
痛疾患であり、西洋医学的にも十分に確立した治
の有効性と皮膚血流の変化について検討したので
療法はないとされている1)。特にリハビリテ−シ
報告する。
ョン領域では、片麻痺に合併し発症したSHSの疼
痛・しびれなどの各種愁訴はリハビリテ−ション
Ⅱ.症例
を行う上での阻害因子であり、これらをいかに軽
【患者】70歳、男性。会計士。
減・除去するかが重要な課題である。SHSに対し
【主訴】左肩の運動時痛と、左前腕から手部全体
ての治癒機構を含めた鍼治療の報告はあるものの
にかけてのうずくような感覚と腫れぼったい重
2)、SHSの病態は複雑であり、更に検討をする必
要があると思われる。今回われわれは、上肢の疼
痛(安静時痛)。
【既往歴】慢性胃炎(66歳)、高血圧(指摘されて
―――――――――――――――――――――――――――
〒114-0024 東京都北区西ヶ原2-3-6 財務省東京病院東洋医学センター
Hospital of Printing Bureau of Ministry of France, Oriental Medicine Center, 2-3-6 Nishigahara, Kitaku, Tokyo 114-0024, Japan
受理日;2002年7月6日
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對木麻里、他
いたが、発症まで未治療)
。
【現病歴】2000年11月14日、両手のしびれを自覚。
数時間後言語障害も出現したためM病院に緊急
入院。MRIにて脳梗塞(右橋)と診断された。
全日本鍼灸学会雑誌52巻4号
レス鍼(セイリン社製)を使用し、低周波通電
機器はPULSE GENERATION APPARATUS PG5000(鈴木医療器製)を使用した。
【評価方法】主訴である疼痛についてはペインス
点滴治療を経て、4日目よりリハビリテ−ショ
ケールを用いて評価した。SHSに特徴的な腫脹、
ンを開始。開始約半月後より左肩と左前腕部の
異常感覚、皮膚温変化の症状については、下記
疼痛が徐々に出現。同年12月12日リハビリテ−
ション継続目的で当院へ転院。しかし疼痛に加
えて前腕部の腫脹・熱感も出現してきた為、積
の基準で評価し経過を観察した。
1)腫脹:MP関節部と手関節部の2カ所におい
て周径を測定した。
極的な上肢のリハビリテ−ションを行うことが
2)異常感覚:アロディニア誘発試験の触・痛・
困難となった。主治医の紹介で2001年1月16日
温冷覚検査を行い3)、健側との差を「はっきり
鍼治療を開始。
差が見られる:++」「やや差が見られる:+」
【身体所見】身長165cm、体重60kg、血圧120/70
mmHg(服薬管理)。
【現症】上肢深部腱反射は右正常、左やや亢進、
「差なし:−」とカテゴリー化して評価した。
3)皮膚温変化:同一検者が触診を行い、2)と
同様のカテゴリーにて評価した。皮膚温を客観的
下肢深部腱反射は左右とも正常、病的反射は左
に評価するサーモグラフィ(THERMOVIEWER
右とも陰性。握力は右28kg左10kg。肩関節可動
JTG-3570 JOEL製)を用いた。また皮膚血流の
域は屈曲右170°左120°
、外転右160°左100°
。
変化を検討するために手部の冷水負荷試験
なおBrunnstrom Stageでは上肢がⅣ、手指がⅣ、
(10℃の冷水に3分間浸水)を行った。試験は
下肢がⅤであった。
左前腕から手部にかけて腫脹が認められた。
初診時と治療7回目(2週間後)および15回目
(6週間後)とし、負荷前・負荷直後・以後3
MP関節部での周径は右18.5cm 左20cm、手関節
分毎に18分まで撮影した。試験評価は左右差と
部での周径は右15.5 cm 左16.5cmであった。ま
冷水負荷による皮膚温の回復状態を観察すると
た知覚検査では左前腕部から手背部にかけて軽
ともに手背部の平均皮膚温をグラフ化して検討
度の触・痛覚刺激を痛みや違和感として感じる
した。
異常感覚が認められ、同様の部位に熱感も認め
られた。
【経過(図1)】3日間の観察期間の後、2001年1
月16日より鍼治療を開始。治療開始1週間後に
【西洋医学的治療】入院時より降圧剤や脳代謝改
症状が悪化しており、疼痛と腫脹および異常感
善薬などが投薬されていたが、SHSに伴う痛み
覚は初診時以上に強くなった。以後も治療を継
に対しての投薬や神経ブロックなどは行われて
続したところ、治療開始約2週間後には疼痛と
いない。また、リハビリテ−ションは週5日関
異常感覚がやや軽減し、腫脹も軽減し始めたの
節可動域(ROM)訓練、筋力強化訓練や歩行
で低周波鍼通電療法を加療。低周波鍼通電療法
訓練等の理学療法および作業療法を受けている。
を加えてから、一時的に異常感覚と熱感が強く
【鍼治療の方法】治療は週1∼2回の頻度で約6
なったものの自覚的な症状は落ち着いており、
週間行った。患者に鍼灸治療の経験がないこと
直後より手が軽くなる気分がすっきりするなど
から、刺激量を考慮して初めは置鍼術のみを行
の効果も認められるようになった。治療開始約
い、様子を見て低周波鍼通電療法を加えた。置
3週間後より自覚的な症状と異常感覚および熱
鍼術の治療穴は過去の文献を参考に、症状のあ
感は減少するようになり、治療後に悪化するこ
る手背部や肩関節周囲の経穴である合谷、八
ともなくなった。治療開始6週間後の治療終了
骨
邪、外関、曲池、肩隅
■ 、肩膠
骨■ とした2)。低周波
鍼通電療法は1Hz、約20分間の条件で合谷、手
時の評価でペインスケールは10→2となった。
三里に行った。使用鍼は40ミリ・20号のステン
した。左右差のはっきり見られていた異常感覚
腫脹はそれぞれの周径において0.5cm以上減少
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図1.鍼治療中の症状の変化
図は鍼治療期間中の疼痛、腫脹、異常感覚、及び熱感の変化とサーモグラムを示す。手部の異常感覚と熱感のグラフは触
診による左右差を表す(※)
。 ※: (++);はっきり差が見られる、(+);やや差が見られる、(−);差なし
図2.冷水負荷試験後の皮膚温変化
図は左から初診時、治療7回目、治療15回目に行った冷水負荷試験のサーモグラムを示す。10℃の冷水に、手部を3分間
浸水させた後、3分毎に18分後まで経過を観察した。また下段は手背部の平均温度をグラフ化したものであり、治療の回数
に伴い健側と患側の温度差は減少した。
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はわずかに残る程度となり、熱感についても左
可能であるが、その中でも痛覚系と交感神経系の
右差は見られなくなった。上肢の疼痛や異常感
双方が関与した疼痛の悪循環(図3)8)が中心的
覚により制限されていた上肢および肩関節のリ
な発症機序と考えられている9,10)。
ハビリテーションでは、治療開始1週間後に運
本症例は、脳血管障害後の計画的なリハビリ
動時痛が軽減したことによって、患者が苦痛を
テ−ションが重要となる時期に、SHSによる患側
感じることなくROM訓練や筋力訓練および作業
の上肢痛や異常感覚、およびそれらに起因する肩
療法を行うことが可能となった。低周波鍼通電
関節ROM制限などのリハビリテ−ション阻害因子
療法加療後は更に動きが改善され、患者自身の
となる症状を呈していた。特にROM制限は不動化
みならず家族や理学療法士も良好な変化を実感
が続くことで拘縮が進行し、リハビリテ−ション
するようになり、その後のリハビリテーション
のみならず日常生活動作(ADL)にも影響を及ぼ
はスムーズに進んだ。
す重要な問題である。鍼治療を行った結果、疼痛
サーモグラフィによる手背部の皮膚温分布に
の軽減をはじめ腫脹や皮膚温変化、異常感覚など
も経過に伴う変化が見られた。初診時の負荷前
の症状は軽減し、肩関節ROMの改善が認められ
平均皮膚温は右(健側)31,5℃ 左(患側)34℃
た。皮膚血流についてはサーモグラフィを用いた
であり、冷水負荷直後は両側とも約22℃まで大
冷水負荷試験により検討した。その結果、皮膚温
幅な温度低下を示した。また患側では負荷後9
低下の程度と回復異常の程度はいずれも経過と共
分までの間に急激な皮膚温上昇が見られた。治
に改善した。初診時に強く見られた負荷直後の皮
療7回目における負荷直後の皮膚温は患側28℃
膚温低下は寒冷刺激に対し自律神経が過剰に反応
健側25℃まで低下したが、初診時に見られた急
したものと思われる。経過と共に皮膚温低下の程
激な皮膚温上昇は見られなかった。治療15回目
度が改善されたことは自律神経機能の異常が改善
における負荷前平均皮膚温は患側、健側とも約
したのではないかと推察される。回復異常が徐々
33℃であり差はなかった。負荷直後の皮膚温は
に改善された機序については、自律神経系を介し
いずれも約30℃まで低下し、皮膚温回復時の左
た末梢機序への鍼治療の効果が考えられる。また
右差もほとんど見られなくなった(図2)。
腫脹が軽減した作用機序についても、鍼治療によ
る末梢循環の改善が悪循環中の筋や血管の攣縮に
Ⅲ.考察
影響を及ぼし、筋ポンプを正常に機能させること
SHSは反射性交感神経性ジストロフィ−(RSD)
で腫脹の軽減が得られたものと考える。SHSの悪
または complex regional pain syndrome(CRPS) type-
循環で最も問題となり、リハビリテ−ションの阻
Ⅰの範疇に含まれ、多くは外傷によって発症する
害因子にもなっていた疼痛や腫脹が鍼治療により
が、脳血管障害や心筋梗塞などの循環器系疾患や
軽減されたが、これらを取り除いたことにより
帯状疱疹後に発症するものもある5)。脳血管障害
ROMの改善および不動化が解消され、悪循環を断
後遺症の片麻痺患者におけるSHS発症には、患肢
ち切ることができたのではないかと考える。この
肩関節の亜脱臼や関節周囲組織の損傷による末梢
ことから、患側への鍼治療はリハビリテーション
神経障害がきっかけとなる可能性が指摘されてお
の機能障害に有効であることが示唆された。
り、日常臨床においては患側上肢の運動時痛や腫
また、本症例は鍼治療(置鍼術)開始後に自覚
脹で気づかれることが多い6)。一般的なSHSの治
的、他覚的所見が悪化し、低周波通電療法に変更
療法は交感神経ブロック、カルシトニン、ノイロ
することでそれらが改善するという経過を示した。
トロピン等の薬物療法、交代浴などの物理療法で
この経過については(1)自然経過、(2)置鍼術によ
あるが、治療により症状を悪化させる場合もあり、
る血流増加による作用、(3)置鍼術に加えた低周波
それぞれに適応する治療を慎重に行う必要がある
鍼通電療法の効果が考えられる。まず(1)はSHSに
とされている7)。SHSには多くの症候群が含まれ
は病期があり、3期に分けられたそれぞれが3∼
ており、一つの説のみで病因を説明することは不
6ヶ月の経過を取ると言われている。中でも第1
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図3.悪循環説(一部改編)
図はSHSの発症機序の一つと考えられている悪循環説を示す。外傷や内臓疾患による疼痛が関節運動を制限し、これによ
り不動化、浮腫(柔らかい腫脹)が生じる。これに組織が反応して血管攣縮が誘発され、これが再び疼痛の原因となる。そ
の結果、関節拘縮、関節機能不全、組織萎縮が引き起こされる。この機序には交感神経の過剰反射が関与していると報告さ
れている。
期(急性期)から第2期(亜急性期)に移行する
流の正常化に有効であったと考えられる。最後の
段階では、疼痛の範囲や程度が拡大するとされて
(3)については置鍼術よりも低周波鍼通電療法の鎮
いる5)。本症例で見られた所見の増悪はこの時期
痛効果が高いという報告は多く見られており、本
に該当していた可能性があり、痛みの病期経過に
症例にも低周波鍼通電療法が効果的であった可能
は数回の置鍼術では効果が少ないことが示唆され
性はある。低頻度、高強度の鍼通電刺激は脳内で
た。しかし、SHS自体がその経過の中で様々に変
内因性オピオイドを放出させ、その結果下行性疼
化する病態を特徴としているため、経過の観察は
痛抑制系を賦活させて鎮痛を起こすと考えられて
重要であり、臨床的には各症例に見合った治療の
いる12)。馬場らは深部体温の計測を指標に刺鍼群
必要があると考えられる。次に(2)について、鍼刺
と鍼通電群で効果を比較した結果、鍼通電群の方
激が体表の血流を増加させることは一般的に知ら
がより効果的であったとしている13)。しかしSHS
れている。しかしSHSでは既に末梢の血流増大が
の病態は複雑であり、病期や症状によって治療法
認められている例が多い。比較的初期の片麻痺で
を選択する必要があると思われる。
は患側の血流増大があり、高位自律神経障害によ
今回の鍼治療では患側上肢の諸症状に対する局
る血管運動神経異常がSHSの発症に関与している
所的アプローチに加えて健側にも治療を行った。
という報告もある11)。丁らの報告でもSHSに対す
これは、脳血管障害が健側の自律神経機能にも影
る鍼治療の即時効果として更に血流増大が見られ
響を及ぼすといわれていること7)から、健側の血
るが、長期的には皮膚血流の低下(正常化)を来
管運動神経に対する鍼治療の効果も期待できるの
すとしている2)。これらのことから本症例の所見
ではないかと考えたためである。また歩行訓練な
の悪化は、置鍼中の更なる血流増大が関与した可
どのリハビリテ−ションに際しては杖や平行棒、
能性も示唆されるが、低周波鍼通電療法による高
車椅子の操作など健側上肢を酷使する機会は多
位自律神経への作用などにより長期的には皮膚血
く、過用による外傷や障害が起こりやすい14)。健
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側への鍼治療を行ったことで訓練の疲労を早く解
ンにおいて阻害因子となる症状の緩和とリハ
消させ、より高度なリハビリテ−ションが可能に
ビリテ−ション・プログラムを円滑に進行さ
なるなど、健側強化のための支援的アプローチと
せるための治療手段の一つになることが示唆
しても鍼治療が期待できるのではないかと考えた
された。
ためである。リハビリテ−ションにおける治療方
針は、主に機能障害に対する「治療」的アプロー
謝辞
チ、能力障害に対する「適応」的アプローチ、社
稿を終えるにあたり、ご助言とご指導を賜りま
会的不利に対する「環境改善」的アプローチの三
した明治鍼灸大学大学院丹沢章八教授、並びに同
本柱である15)。このうち患側上肢への鍼治療は機
大学臨床鍼灸医学教室、矢野忠教授、石崎直人先
能障害に対するアプローチ、健側および遠隔部の
生に謹んで深甚なる謝意を表します。
経穴を用いた鍼治療は能力障害に対するアプロー
チに相当すると考えられる16)。すなわち鍼治療が
文献
患側上肢の諸症状の軽減のみならず、全身的な体
1)石橋徹.肩手症候群.整形外科.1990;41(5)
調を整え訓練に対する順応性や耐久性を高めるな
増大号:608-16.
ど、直接的またはリハビリテーションを介した間
2)丁珊,上土橋浩,下堂薗恵,日吉俊紀,田中
接的な形で、患者の能力向上に寄与し、QOLの向
信行.脳卒中後の肩手症候群に対する鍼治療
上にもつながるものと考える。
の効果とその作用機序について.日温気候物
一般的な鍼治療の効果としては、疼痛の軽減以
外にもADL・QOLに対する効果が多く報告されて
いる。本症例でも鍼治療により主訴及び諸症状の
軽減以外に、体が軽くなる、すっきりするなど、
理医会誌.1993;56(2):95-102.
3)小川節朗.RSDの診断と治療.日臨麻会誌.
1998;18(2):134-41.
4)芝田宏美,井垣歩,山本智子,柴田陽子,松
患者の心身状態にも変化が見られ、リハビリテー
岡瑛.糖尿病性末梢循環障害における冷水負
ションへの意欲向上につながった。SHSの病態と
荷サーモグラフィの臨床的評価.Biomed
考えられる痛みの悪循環には患者の精神的素因
Thermol. 1996;16(2):66-9.
(不安、恐がり、いつも何かに不満がある等)が
5)弓削孟文,森脇克行,河本昌志.末梢神経損
関与していることが多いという報告もあり8)、鍼
傷に起因する痛み.反射性交感神経性ジスト
治療が患者の精神的・身体的な支援となり、訓練
ロフィ・カウザルギー.ペインクリニック療
意欲の増進やQOLを向上させることにも役立つ可
法の実際.南江堂.240-52.
能性が示唆された。今後は症例を増やして、さら
6)安達充芳,永田博司.神経内科領域における
なる鍼治療の効果についての検討を進めて行きた
RSD.医のあゆみ.1995;175(7):467-9.
いと考える。
7)戸田克広,宗重博,麻生智洋.反射性交感神
経 性 ジ ス ト ロ フ ィ ー ( R S D ). 整 形 外 科 .
Ⅳ.結語
2000;51(8):1094-100.
1)SHSによる疼痛などの上肢症状を有した片麻
8)水関隆也,畑野栄治.反射性交感神経性ジス
痺患者に、症状の軽減を目的とした鍼治療を
トロフィー(RSD)の病態と診断.骨・関
行った。
節・靱帯.1996;9(11):1173-80.
2)治療終了時(約6週間後)には疼痛・腫脹・
皮膚温変化・異常感覚などの軽減が認められ
た。またサーモグラフィによる所見の経過か
らも皮膚温異常の改善が認められた。
3)SHSの悪循環を断ち切る治療として行う鍼治
療は有用であり、片麻痺のリハビリテ−ショ
9)熊沢孝朗.交感神経依存性疼痛―RSDとSMP
―.医のあゆみ.1995;175(7):461-5.
10)佐藤純.Sympathetically Maintained Painの末
梢機序.Biomed Thermol.1997;16(3):126-8.
11)江藤文夫,吉川政巳,森松光紀,平井俊策,
上田敏.片麻痺に合併する肩手症候群につい
2002.8.1
(65) 441
臨床体験レポート
て.日老医会誌.1975;12(4):245-51.
14)大串幹,山鹿眞紀夫,高木克公.5 肩の痛み.
12)大沢秀雄,佐藤優子,志村まゆら.鍼灸療
法.ペインクリニック.2000;21(2):173-81.
J Clin Rehabil.1999別冊:100-3.
15)上田敏.目でみるリハビリテーション医学.
13)馬場俊輔,長谷川伊美子,渡辺和弘,岩間
裕.刺鍼および鍼通電刺激の深部体温に及ぼ
第2版第2刷.東京大学出版会.1996;16.
16)丹沢章八.リハビリテーション・鍼灸・QOL.
す影響.ペインクリニック.2000;21(2):246-
明治鍼灸医.1995;(17):43-54.
9.
要 旨
肩手症候群(Shoulder-Hand syndrome:以下SHS)は患側上肢の疼痛と腫脹を主徴とした難治性の疼痛疾患
であり、片麻痺に合併したSHSはリハビリテーションの阻害因子となっている。今回われわれは、脳血管
障害後遺症の片麻痺患者で患側上肢の疼痛・腫脹・異常感覚などの症状を呈し、SHSが疑われた症例に対
して、症状の軽減ならびにリハビリテーションが円滑に行われるための補助療法として鍼治療を行い、そ
の有効性と鍼治療による皮膚血流の変化について検討した。
治療は上肢の低周波鍼通電療法と置鍼術にて、週2回の頻度で全14回行った。結果、ペインスケールお
よび肩手症候群に特徴的な症状である腫脹、異常感覚に軽減が認められた。また、治療期間中3回の冷水
負荷試験を行ったが、回復異常は徐々に改善し皮膚温異常の改善も認められた。SHSの発症機序は末梢機
序や中枢機序が関与し悪循環が形成されると考えられている。鍼治療により血流の改善、疼痛や腫脹の軽
減が得られたことが悪循環を断ち切る手段となり、リハビリテーション・プログラムを円滑に進行させる
ための治療手段の一つになることが示唆された。
キーワード:肩手症候群、反射性交感神経性ジストロフィ−、鍼治療、リハビリテ−ション、サ−モグラ
フィ