石 炭 灰 (Fly Ash・ Ash・Clinker Ash) 石炭灰は石炭を燃焼した際に発生することから、石炭の種類(分類)、石炭の輸入 量、日本における産業別石炭消費量、日本における一次エネルギー供給源について示 し、次いで石炭灰の種類、石炭灰の発生量、石炭灰の特長と用途について示す。 1.石炭の 石炭の種類( 種類(分類) 分類) 石炭とは、湖底や海底に層状に堆積した植物が地殻変動や造山活動等により、地中 に埋められ、地圧や地熱の影響により、長い年月をかけて石炭化(炭素が濃縮される) したことにより生成した物質の総称である。石炭は炭素の他に、燃焼成分として水素 と酸素、その他硫黄、灰分(植物中のミネラルや土壌)、水分を含んでいる。 石炭の成因植物としては、紀元前 2 億 4 千万年前~3 億年前の石炭紀時代に、湿地 帯に大森林を形成していた巨大なシダ類および紀元前 2 千 5 百万年~6 千万年の第三 紀時代にできた植物(針葉樹類など)が考えられる。 石炭の種類はいろいろあるが、その分類法としては a. 石炭化度(炭素の濃縮の程度)による分類: 石炭化度の高い方から、無煙炭、瀝青炭、亜瀝青炭、褐炭、亜炭、泥炭に分類 される。(日本では一般に無煙炭から褐炭までを石炭と呼んでいる。) 石炭化度による石炭の分類のパラメーターとして、日本では発熱量と燃料比(固 定炭素÷揮発分、通常では無煙炭:4以上、瀝青炭:1~4、褐炭:1以下)を 用いていますが、国際的には一般に揮発分が用いられている。 b. 利用のされ方による分類: 原料炭(製鉄用などのコークスや都市ガス製造、石炭化学工業の原料となる石 炭)、一般炭(発電用ボイラーなどで使用する石炭)に分類される。 c. 形状・粒度による分類: 粒度の大きいものから、切込炭、塊炭、中塊炭、小塊炭、粉炭、微粉炭に分類 される。[1] 表-1 に石炭の種類とその特徴を示す。 表-1 石炭の種類と特徴[2] 石炭の種類 英 名 特 徴 粘結性 (石炭化度) 無煙炭 炭素含有 量% Anthracite 石炭化度が高く、燃やしても煙の少ない良質の 非粘結 石炭。工業炉用燃料や練炭・豆炭などの成形炭 として一般家庭でも使用される。カーバイドの 原料。 90 以上 瀝青炭 亜瀝青炭 Bituminous 粘結性(加熱すると溶けて固まる性質)が高く、 強 粘 結 ~ 83~90 coal コークス、製鉄用燃料に使用される。 Subbitumin 瀝青炭と性質は似ている。水分を 15~45%含 弱 粘 結 ~ ous むため扱いにくい。主にボイラーに使用され 非粘結 coal 粘結 78~83 る。埋蔵量が多い。日本で生産されていた一般 的石炭。 褐炭 亜炭 Brown 石炭化度は低く、水分、酸素が多い。工業用、 非粘結 coal(Ligni 暖房用、練炭・豆炭などの一般用燃料として使 te) 用される。 Lignite 褐炭の質の悪いものに付けられた俗名。褐炭も 70~78 含めて亜炭と呼ぶ場合もある。現在は肥料原料 70 未満 として少量が利用されている。 泥炭 Peat 品質が悪いため、工業用燃料の需要は少ない。 ウイスキーに使用する大麦麦芽を乾燥する燃 料として、香り付けを兼ねて使用されている。 土質改良材 日本国内の火力発電所では、亜瀝青炭及び粘結性が弱い瀝青炭が使用されている。 2.石炭の 石炭の輸入量[3] 日本における石炭の生産は少量であり、2004 年度に 127 万トン(亜瀝青炭)生産を 行ったに過ぎず、石炭のほぼ全量を輸入に依存している。財団法人石炭エネルギーセ ンター(JCOAL)によれば 2005 年には 180,805 千トン輸入した。その内訳は原料炭 78,747 千トン(44%)、一般炭 96,172 千トン(53%)、無煙炭 5,886 千トン(3%) であった。 表2~表4に各種石炭の国別輸入量を示す。 表2 原料炭の国別輸入量 石炭種類 輸入国名 オーストラリア 1995 年 2000 年 単位:千トン 2005 年 % 31,564 40,684 43,643 55.4 5,454 9,812 16,681 21.2 ダ 15,124 12,141 6,644 8.4 国 2,166 3,393 5,672 7.2 ア 2,966 2,357 3,282 4.2 アメリカ 7,638 991 2,063 2.6 その他 3,807 3,834 762 1.0 68,719 73,212 78,747 100.0 インドネシア カ 原料炭 JCOAL 出典:石炭年鑑 ナ 中 ロ 小 シ 計 表3 一般炭の国別輸入量 石炭種類 輸入国名 JCOAL 出典:石炭年鑑 1995 年 オーストラリア % 46,459 59,650 62.0 5,557 11,369 16,326 17.0 インドネシア 3,379 4,226 12,729 13.2 ロ シ ア 2,004 3,106 6,594 6.9 カ ナ ダ 1,697 1,268 730 0.8 南アフリカ 2,629 1,645 143 0.1 アメリカ 3,118 3,095 0 0.0 86 2,829 0 0.0 50,994 73,997 96,172 100.0 国 その他 小 計 表4 無煙炭の国別輸入量 石炭種類 輸入国名 JCOAL 出典:石炭年鑑 1995 年 ベトナム 中 ロ 無煙炭 2005 年 32,524 中 一般炭 2000 年 単位:千トン シ 朝 % 1,033 2,350 39.9 国 1,880 1,737 1,968 33.4 ア 72 0 819 13.9 8 576 435 7.4 399 351 277 4.7 1,245 37 0.6 4,942 5,886 100.0 鮮 その他 小 2005 年 1,116 オーストラリア 北 2000 年 単位:千トン 計 3,475 3.日本における 日本における産業別石炭消費量 における産業別石炭消費量[4] 表5 産業別石炭消費量 資源エネルギー庁 単位万トン 資源エネルギー庁の総合エネ ルギー統計 2004 年度版によれ 分類 産業分野 % 7,164 38 211 1 7,549 40 544 3 化学工業 1,400 8 ている。石炭の消費量は過去3 セメント・窯業 1,075 6 0年間増加の一途にあり、2004 その他 723 4 年度は 1 億 8666 万トンに達し 合 18,666 100 ば、石炭はその利用目的により 原料炭 製鉄 消費量(万トン) コークス 原料炭と一般炭に分けられる。 発電 原料炭は主に製鉄に、一般炭は パルプ・紙 火力発電に最も多く利用され ている。 一般炭 計 4.日本における 日本における一次 における一次エネルギー 一次エネルギーの エネルギーの供給源[5] 資源エネルギー庁の平成20年度におけるエネルギー需給実績によれば、我が国の 一次エネルギー供給量を発熱量単位で比較すると、石油(46%)、石炭(21%)、天 然ガス(17%)、原子力(10%)、水力・地熱(3%)、新エネルギー等(3%)の順 であり、石炭は石油の次に多く使われている。身近な二次エネルギーである電気に限 ってみても、原子力(31%)、ガス(28%)、石炭(22%)、水力(9%)、石油(9%)、 その他(1%)であり、石炭は発電には欠かせない重要な地位を占めている。 表6 一次エネルギーの供給源別推移 資源エネルギー庁 2008 1995 年度 エネルギー源 エネルギー量 2000 年度 単位:PJ 2008 年度 比率% エネルギー量 比率% エネルギー量 比率% 石 油 12,430 54.8 12,008 50.8 10,776 46.4 石 炭 3,750 16.5 4,286 18.1 4,978 21.4 ス 2,479 10.9 3,061 13.0 3,883 16.7 力 2,700 11.9 2,873 12.2 2,248 9.7 761 3.4 778 3.3 666 2.9 自然エネルギー 45 0.2 37 0.2 48 0.2 地熱エネルギー 29 0.1 30 0.1 24 0.1 489 2.2 550 2.3 596 2.6 22,685 100.0 23,622 100.0 23,219 100.0 天 然 原 ガ 子 水 力 未活用エネルギー 合 計 注)自然エネルギー:太陽光発電、太陽熱発電、風力発電、バイオマス直接利用 未活用エネルギー:廃棄物発電などが含まれる 5.石炭灰とは 石炭灰とは[6] 石炭火力発電所では、微粉砕した石炭をボイラ内で燃焼し蒸気を発生させそのエネ ルギーにより発電を行っている。この石炭の燃焼により溶融状態になった灰の粒子は、 高温の燃焼ガス中を浮遊しボイラ出口で温度が低下することに伴い、球状微細粒子と なって電気集塵機に捕集される。これを一般にフライアッシュと呼んでいる。このフ ライアッシュは、サイロに乾燥状態で貯蔵され、用途に応じて調合または分級器で粒 度調整を行い製品別サイロに貯蔵している。クリンカアッシュは、ボイラ内で燃焼に よって生じた石炭灰の粒子が相互に凝集し、多孔質な塊となってボイラ底部のクリン カホッパに落下堆積したものを粉砕機で砂状にしたもので、これを脱水槽等で脱水し た後、用途に応じてふるい機等で粒子調整を行っている。このフライアッシュとクリ ンカアッシュを一般に石炭灰と呼んでいる。 図1に石炭火力発電所の工程の概略を示す。(日本フライアッシュ協会:石炭灰がで きるしくみを参考に編集) 6.石炭灰の 石炭灰の種類及び 種類及び特性[6] 石炭灰は、石炭をボイラで燃焼した後、集塵装置で集められたフライアッシュとボ イラ底部で回収される溶結状の石炭灰を砕いたクリンカアッシュに大別される。シン ダアッシュはボイラの燃焼ガスが、空気余熱器・節炭器などを通過する際に落下回収 された石炭灰である。 石炭灰の主成分はシリカ(SiO2)とアルミナ(Al2O3)であり、この二成分で全体 の 70~80%を占めている。その他、酸化第二鉄(Fe2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、 酸化カルシウム(CaO)が少量ふくまれている。 石炭灰の物理的性状は、フライアッシュとクリンカアッシュでは発生場所及び生産 工程が異なっているため、粒子径・表面状態など、固有の特性をもっている。フライ アッシュは微細粒子で球形であるため、コンクリートゃモルタル用原料の一部にフラ イアッシュを用いると、施工時の流動性が増大するため、土木・建築分野で利用され ている。クリンカアッシュの粒子は、ほとんど細礫と粗砂であり、砂に近い粒度分布 である。径 0.2~20μm 位の小さな孔隙が多数あいており、排水性、通気性がよく、 保水性に優れていることから、その特長を活かし利用されている。 7.石炭灰の 石炭灰の発生量[7] 表7 石炭灰発生量の推移 財団法人石炭エネルギーセンター「石炭 灰全国実態調査報告書(平成19年度実績) 」単位:千トン 財団法人石炭エネ 石炭使用量 ルギーセンターの調 石 炭 灰 発 発生 石 炭 灰 生量 比率 利用量 利用率 埋立量 査結果によれば、 1995 年度 52,695 7,123 13.5 4,782 67.1 2,341 2007 年度に日本国 1996 年度 53,644 7,208 13.4 5,058 70.2 2,150 内で消費した石炭量 1997 年度 56,007 7,298 13.0 4,958 67.9 2,340 は 105,103 千トンで 1998 年度 56,042 6,789 12.1 5,090 75.0 1,699 あり、その約 11%に 1999 年度 62,640 7,600 12.1 6,135 80.7 1,465 相当する 11,994 千ト 2000 年度 69,714 8,429 12.1 6,931 82.2 1,498 ンの石炭灰が発生し 2001 年度 74,299 8,810 11.9 7,173 81.4 1,636 た。また、発生した 2002 年度 82,971 9,236 11.1 7,724 83.6 1,512 石炭灰の約 97%に相 2003 年度 88,671 9,866 11.1 8,380 84.9 1,486 当する 11,625 千トン 2004 年度 96,081 10,853 11.3 9,792 90.2 1,071 2005 年度 100,349 11,152 11.1 10,673 95.7 479 2006 年度 98,257 10,969 11.2 10,657 97.2 312 2007 年度 105,103 11,994 11.4 11,625 96.9 369 がセメント、コンク リート、土木分野等 で有効利用されてい る。 8.石炭灰の 石炭灰の特長と 特長と用途[6] 財団法人石炭エネルギーセンターの調査結果によれば、フライアッシュの 65%は セメント分野で消費されている。フライアッシュをセメント原料、コンクリート混和 剤として使用した場合の特長は次の様である。(日本フライアッシュ協会 石炭灰の 現状より編集) ① 長期強度の増進:セメントにフライアッシュを混合した場合、ポゾラン反応が長 期間継続するため、セメントだけの場合よりも長期強度が増進し、水密性、耐久 性に富んだ構造物ができる。 ポゾラン反応:フライアッシュの主成分であるシリカ(SiO2)とアルミナ(Al2O3) は水硬性をもたないが、微細粒子の状態で、かつ水分の存在下では、アルカリま たはアルカリ土類と反応して不溶性化合物を生成する。例えばセメントと混合し た場合、セメントの水和によって生成される水酸化カルシウム(Ca(OH)2)と反応 して、カルシウムシリケート水和物(3CaO・2SiO2・3H2O)、カルシウムアルミネー ト(3CaO・Al2O3 ・6H2O)エリトリンガイト(3CaO・Al2O3 ・3CaSO4 ・32H2O)などを 生成する。 ② アルカリシリカ反応の抑制:フライアッシュを一定量以上混和したコンクリート はコンクリート中の骨材に含まれる反応性シリカ鉱物とセメント中のアルカリ成 分と反応して骨材表面にケイ酸ソーダを生成し、水分を吸収して膨張しひび割れ が発生するアルカリシリカ反応を抑制する効果がある。 その他、フライアッシュを混合することにより、コンクリートやモルタルの乾燥収縮 を減少する効果、コンクリートの流動性が改善されコンクリートの打設が効率的に行 われ、填隙性が良くなり、仕上がり面が滑らかで美しくなる効果がある。 表8 石炭灰の用途[7] 「石炭灰全国実態調査報告書(平成19年度実績)」単位:千トン 石炭灰発生事業分野 石炭灰利用分野 内 容 電気事業 利用量 セメント分野 利用量 構成比% 2,349 74.7 7,344 63.2 セメント混合材 110 1.3 150 4.8 260 2.2 77 0.9 0 0.0 77 0.7 5,182 61.1 2,499 79.4 7,681 66.1 地盤改良材 273 3.2 84 2.7 357 3.1 土木工事用 563 6.6 32 1.0 595 5.1 電力工事用 17 0.2 0 0.0 17 0.1 道路路盤材 142 1.7 221 7.0 363 3.1 9 0.1 0 0.0 9 0.1 294 3.5 0 0.0 294 2.5 1,298 15.3 337 10.7 1,635 14.1 222 2.6 153 4.9 375 3.2 0 0.0 0 0.0 0 0.0 38 0.4 2 0.1 40 0.3 260 3.1 155 4.9 415 3.6 40 0.5 17 0.5 57 0.5 0 0.0 0 0.0 0 0.0 17 0.2 80 2.5 97 0.8 57 0.7 97 3.1 154 1.3 下水汚水処理剤 1 0.0 1 0.0 2 0.0 製鉄用 6 0.1 5 0.2 11 0.1 その他 1,675 19.8 52 1.7 1,727 14.9 1,682 19.8 58 1.8 1,740 15.0 8,479 100.0 3,146 100.0 11,625 100.0 計 炭坑充填材 小 計 建材ボード 人工軽量骨材 コンクリート2次製品 小 計 肥料(含:融雪剤) 魚礁 土壌改良材 小 その他 構成比% 58.9 アスファルト・フィラー材 農林・水産分野 利用量 計 4,995 小 建築分野 構成比% 合 セメント原材料 コンクリート混和材 土木分野 一般産業 小 計 計 有効利用合計 9.参考資料 [1] 資源エネルギー庁, エネルギー白書 2004 [2] 直方市石炭記念館 ホームページ http://www.nogata-navi.com/sekitan/ 2010 年2月 [3] 財団法人 石炭エネルギーセンター [4] 出口剛太 コンサルタンツ北海道 [5] 資源エネルギー庁 第 110 号 「平成20 年度におけるエネルギー需給実績」2010 年 [6] 日本フライアッシュ協会 [7] 財団法人 http://www.jcoal.or.jp/ 2010 年 7 月 http://www.japan-flyash.com/ 2010 年 7 月 石炭エネルギーセンター 年度実績)」 「石炭灰全国実態調査報告書(平成 19
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