災害論の構成ー東日本震災を ふまえて 2012年経済理論学会報告 宮本憲一 はじめに • 東日本震災は自然災害と社会的災害が重複し、広 域に渡って地域経済を破壊した近代史上最大最悪 の災害である。 • 災害や戦争という非常時にその国の性格が明らか に現れる。震災とその後の政治は現在の日本社会 の欠陥を露呈した。 • 復興を通じてエネルギー政策や地域政策の転換は もとより、日本の未来の選択がおこなわれるであろ う。 • 政治経済学に重大な挑戦状が突きつけられている。 1.東日本震災の政治経済学の研究 • 政治経済学の災害論の研究はこれまで少数であっ たが、原発災害後多くなった。以下代表的な研究。 • 宮入興一「東日本大震災と復興のかたち」等 この震災の特徴を明らかにし、便乗型の「創造的復 興」でなく、「人間復興」を最初に提唱。 ・原発の社会科学研究は遅れていたといってよい。 1977年の永井進の欧米の原発反対運動の紹介・ 再生エネルギーの提案。環境社会学の長谷川公一 『脱原子力社会の選択』(1996年,2011年増補)は 核燃料リサイクルの調査と国際的事故の研究から 早くから再生エネルギーへの移行を提唱した。今回 の事故についても『脱原子力社会』(岩波新書)で地 域政策の差別を告発し、エネルギーのグリーン化を 提唱している。 研究成果(2) • 大島堅一『再生可能エネルギーの政治経済 学』(2010年)有価証券報告を使い膨大な項 目に上る補助金交付金の制度的実態を明ら かにし、原発コストの神話をあばき、再生可 能エネルギー普及を提唱。『原発のコスト』 (岩波新書)で、原発事故のコストなど解明。 • 清水修二『差別としての原子力』(1994年)は 早くから原発立地の不当と事故の危険を警 告。直後に「原発災害を乗り越えるために」で 21項目の被害を挙げ、復興の基本方針「故 郷に住み続ける権利の維持など」5項目提言。 研究成果(3) • 吉田文和「最大最悪の公害としての原発災 害」(2012年)公害論の蓄積を土台に原発災 害の原因、責任、賠償、今後のエネルギー政 策について全面的解明をしている。被害者救 済よりも加害者救済が先行していることを指 摘。ドイツの脱原発の道を紹介。 • 除本理史・大島堅一『原発事故の被害と補 償』(2011年)足尾鉱毒事件以来の公害によ る集団離村。固有の価値を持つコミュニティ の復元を社会的費用として提起。 研究成果(4) • 金子勝『原発は不良債権』(2012年)廃炉(終 結まで40年)放射能廃棄物処理・再処理の失 敗などを考えると東電は企業として存立は不 能。電力会社の解体を提言。 • 森永謙二・石原和彦・宮本憲一『終わりなきア スベスト災害ー地震大国日本への警告』(岩 波ブックレット)を阪神大震災と9・11事件の経 験をもとに2011年1月出版。偶然2か月後に 震災。すぐに環境省・関係自治体に警告。私 はがれきの処理の調査をしているが、震災関 連の論文はこれが初めてである。 2.復旧・復興の現状と課題 (1)被害の全体像は不明 ・公害論では「被害に始まり被害に終わる」とい う格言があるが被害の全体像を明らかにしなけ れば、対策も救済も予防も、そして責任も確定 しない。救済の失敗の典型が水俣病問題。 ・物的損害と異なって、人的被害特に健康被害 は人権意識を持って本人・家族が救済を訴求し ない限り潜在化する。放射能汚染地域の住民 が災害難民として差別される状況の下では被 害は顕在化しない。さらに適正な補償措置がな いと被害は潜在化し、解決は永続する。 被害の範囲と規模 • 死者1万5869人、行方不明者2847人、震災 関連死は1632人だが、半年後も増える。 • 震災の経済的被害の政府の当初発表18兆 円。原発災害は評価していない。 • 大島堅一は原発事故のコストを8兆5040億 円。除染などの原状回復費は含まれていな い。すべてを入れ50兆円という予測もある。 • 先の除本・清水の指摘のようにコミュニティの 復元が必要だが、市場価値では測れない。 被害と救済のアンバランス • 被害の負担には、産業別に相違がある。同じ 被害額でも大企業と農漁業の間には軽重が ある。地域間世代間にも被害の相違がある。 ・放射能の健康に及ぼす影響は公式的には まだ明らかにされていない。福島市の子供の 甲状腺の検査結果では甲状腺がんが1人、 結節や嚢胞があるものが42%に上るという発 表があったが、福島県はがんは放射能との 因果関係はなく、他の症状も問題ないとして いる。 ストック災害の対策 • 放射能災害はアスベスト災害と同じくストック 公害であって、10年以上経って症状が顕在 化するが、早期発見が決め手である。暴露し た住民特に子供を登録して、健康診断を長期 に行うのが正しい。これは大きな資金が必要 であり、差別される危険から強制できないと いわれるが福島県は制度化の意向。 • 高齢化が進むので、早期の被害認定と救済 は急がねばならない。水俣病、アスベスト災 害の二の舞はしてはならないだろう。 (2)震災の責任 • 自然災害の企業や個人の復旧は原則自主 自責である。阪神震災の時の市民運動の成 果として、国の責任で300万円が支給されて いるが、500万円の要求は実現していない。 • 原発災害は、世論などの圧力で東電が全面 的責任を負うことになり、原子力賠償機構か ら2兆5000億円、国は国営を要求して1兆円 支出した。公害のPPPや生産者拡大責任原 則さらに予防原則に従えば東電に第1次責任 がある。しかし予防原則などから国の共同責 任がある。 責任論の国際比較 • チェリノブイリ事故は、社会主義体制の下で、 すべて国家の責任であったので、アスベスト や水俣病を例に考える。 • アスベスト災害ではアメリカは国家賠償はなく すべて汚染企業の責任を裁判で訴求してい る。被害者はもれなく救済できず、賠償金は 高いが裁判費用に多く取られている。フラン スは国の法的責任を認め、申告被害者をも れなく救済するために社会保障的な行政救 済制度で賠償金は米国より低い。 日本の賠償制度 • 日本はアメリカ型でもフランス型でもなく曖昧 である。水俣病では公健法で、認定患者約 2900人を1600-1800万円で救済し、裁判で 認定基準が覆されると2回の政治的解決で、 非認定患者数万人に210-240万円の見舞 金で救済するが、認定を巡り紛争続く。 • アスベスト災害は名目上はもれなく救済する ために行政的救済制度を作ったが、国の法 的責任は認めないために、労災の10分の1 の300万円の見舞金。クボタは公害を否認、 200人に2400-4600万円を見舞金。 国と製造業者の法的責任 • 原発事故の被害が明らかになると東電が支 払い不能になる恐れがある。国の共同責任 があるかどうか、国はどの範囲で、賠償する か。最近の薬害や公害の裁判で国の法的責 任が明らかになっても国は従わない。あるい はアスベスト裁判のように否認される。原発 事故の国の法的責任の訴求はこれから。 • 拡大生産者責任論からすれば、GEやWHな どの責任が問われなければならない。日本は 生産者拡大責任論の訴求が弱いが、国際的 にはこれが論点になる。 (3)進まぬ復興 • 復興は遅れている。 • がれきの処理は第1表のように津波堆積物 935万トンを除く2765万トンの22%しか処理 されていない。特に放射の廃棄物の多い福 島県は12%。政府は環境省が費用負担をし 宮城県岩手県のがれきの10%程度を広域処 理に回す計画で東京都や北九州市で処理が 始まっているが、住民の反対にあっている • 広域処理よりは封じ込めるのが安全だが処 理能力と処理地域で行き詰まっている。福島 県の放射能汚染物処理場は未定。 第1表東日本震災の災害廃棄物 等の処理状況 県 災害廃棄物 災害廃棄物 処理処分割 津波廃棄物 処理処分割 総量千トン 千トン 合(%) 千トン 合(%) 岩手県 5,250 3,947 18.8 1,304 0 宮城県 18,726 12,004 25.5 6,722 6 福島県 3,674 2,161 12.3 1,513 1 27,650 18,112 22.5 9,538 4 三県 避難者の状況 • 震災直後避難者46万人が現在34万人。そ のおおくが仮設住宅5万3000戸に収容。3 年間で退去。その後の住宅対策の一つとして 宮城県は復興公営住宅2万2000戸を計画 しているが、完成は1%。 • 仮設住宅地域を含めてコミュニティの回復は 高齢化もあって、医療体制の整備が必要だ が、もともと医療体制の貧困地域で、震災で 致命的な打撃を受けている。これがコミュニ ティの再生を妨げている。 街づくりの未着手 • 阪神震災では震災直後から急スピードで、3 か月で区画整理を終えようとし、紛争があっ た。拙速も困るが、東北地域は区画整理事業 は計画はあるが進んでいない。危険地域で の再建を制限していること、高台などへの新 市街地の土地の取得、資金のめどが立たな いことなどの理由があるが、集団移転270地 区のうち住民の同意が得られたのは8地区に とどまっている。 • 住宅立地は職場や雇用条件とも関連し、経 済の回復がないと進まない。 復興のアンバランス • 全体の遅れとともにアンバランスが問題。 • 日経新聞によれば大企業はほぼ復旧が終わ ったが、中小企業は停滞気味、農漁業のよう な生業は遅れている。被災農地2万1500ヘ クタール中再開39%、水産加工物復旧は55 %、水揚げは4分の3。失業者約20万人。 • 復旧・復興事業の中心は建設業である。がれ きの処理、街づくりいずれもゼネコンが請け 負っている。その利益は東京に流れていると いわれる。 • 県・地域間のアンバランスもある。 余った復興予算 • 国の復興予算は5年間19兆、10年間23兆 と計画され、今年度予算でその手当はされた しかしそれが使い切れず、約6兆円が余って しまった。復興庁はできたが、縦割りの補助 金行政で調整ができていない。 • 石巻市をとると通常の4年分の予算が来て、 それを消化するには人手が足りない。市町村 合併をはじめ、公共部門のコストカットによる 人員削減に加えて、震災による職員の犠牲 があり、行財政能力が著しく落ちている。 • 今必要なことは基礎的自治体に専門家を含 む人員の確保であろう。 (4)エネルギー政策 • 震災後の最大の全国問題はエネルギー政策 の転換である。政府は未規制のまま大飯3, 4号機再稼働によって、原発0への道を閉ざ し、市民の強い反発を受けている。 • 政府は7月に3案を示し、国民の判断を求め ていたが、世論に押されて、2030年代に原発 0の原案を示さざるを得なくなっていた。しかし アメリカ政府、国際原子力業界、財界、自民 党や地元などの強い反対で、原発0の閣議決 定はできず、またその前に建設中の原発2基 や再処理工場の継続を認めていた。 原発0は必然 • この夏の実態を見ても原発停止は可能。 • 地震国日本で福島原発事故の再来を否定で きない。原発については不可逆的損失が累 積しこれまでのリスク論は適用できない。 • 核燃廃棄物の処理が不可能に近づき、再処 理の技術の未完の産業を持続できない。 • 地球温暖化防止を急がねばならぬことを考え ると、まず省電、さらに早急に再生可能エネ ルギーの開発を進め、長期的には都市や地 域の在り方を変えねばならぬ。 (5)地域・国土政策 • 震災の最大の警告は東京圏をはじめ大都市 化した国土構造がこのままでよいのか、海岸 を埋め立て臨海部に工業地帯や都市機能を 集中させた国土開発の失敗である。 • 他方原発基地や米軍基地を僻地に負担させ その経済を補助金依存で自立を喪失させる ような地域政策の誤りが明らかになった。 • 第2表は交付金と固定資産税に依存した原発 基地の財政、第3表は交付金使途、第4表は その地域経済が生産的な自立産業がなく、 原発依存の異常な経済になっている状況。 第2表電源開発交付金と固定資産 税の町村財政への比重 町村名 2000-9年度 合計(百万円) 内電源交付金 内固定資産税 歳入に占める 割合(%) 女川町(宮城 県) 13,401 1,283 11,758 64.7% 東通村(青森 県) 18,833 6、064 12,769 62.9% 六ヶ所村(青 森県) 21,846 5,253 16,593 62.1% 高浜町(福井 県) 6,450 5,199 7,135 55.4% 泊村(北海道) 6,450 2,882 3,569 53.9% 玄海町(佐賀 県) 12,451 4,138 8,314 53.2% 第3表電源開発交付金使途 (全国、単位百万円) 施設区分 件数 事業費 交付実績 構成比 道路 2,981 157,624 136,300 20.2% 港湾 21 1,240 736 0.1% 漁港 60 3,552 2,688 0.4% 都市公園 57 8,449 6,512 1.0% 水道 319 44,298 35,458 5.2% 体育施設 683 110,296 84,535 12.5% 環境衛生施設 588 59,846 43,227 6.4% 教育文化施設 1,536 209,934 159,302 23.6% 医療施設 167 44,298 29,396 4.4% 社会福祉施設 303 47,271 37,044 5.5% 産業振興施設 1,320 125,879 101,518 15.0% 合計 8,742 862,706 675,629 100.0% 第4表福島原発関連町村総生産 費構成(伊藤久雄氏作成) 第1次産業 第2次産業 第3次産業 内電気・ガ ス・水道 内卸売・小 売業 双葉町 0・6% 4.9% 94.5% 80.4% 1.2% 大熊町 1.0% 9.4% 89.5% 70.9% 1.2% 川俣町 6.4% 32.1% 63.6% 1.2% 6.6% 飯館村 9.9% 31.9% 59.3% 1.1% 2.6% Sustainabilityの「死滅」 • 船橋晴俊は今回の大震災と原発事故で 「Sustainability」は死滅したとのべている。 確かに原発災害地のみならず、日本の維持可 能性は消滅といってよい打撃を受けた。 ・視角を変えれば、Sustainabilityの回復条件 が明らかになった。環境の維持、安全なエネル ギー・食糧の自給政策のない国、東京一極集 中と地方の衰退のような国土構造では今後維 持不可能なのである。経済発展の在り方を変え ねばならない 維持可能な内発的発展を • 公共投資によるインフラの整備と補助金・減 税によって企業や施設を誘致するという外来 型開発は開発が進めば進むほど、利潤が流 失して東京一極集中が進んだ。 • 今後はエネルギーと食料の地域内自給を加 味した維持可能な内発的発展に転換し、足 元からSustainable Societyをつくってゆか ねばならない。 • そのための国際的な枠組みとして、日米同盟 の再検討と東アジアの安全保障の課題があ る。 3.初期災害論の啓示 • 複合災害の経験から自然災害と社会災害を 総合した災害論の必要が求められている。 • 戦後最初の成果は佐藤武夫・奥田譲・高橋 裕『災害論』(1964年、勁草書房)である。 • ここでは「災害は人間とその労働の生産物で ある土地、動植物、施設、生産物がなんらか の自然的あるいは人為的要因によって、その 機能を喪失し、または低下する現象。」 • 災害現象と経済現象は密接不可分。ある地 域で経済が発展するほど災害は増大する。 災害の基本構造 • 災害の要因は複雑だが決定的で共通する主 要因は次の3つである。 • 第1要因を「素因」。地震・津波の素因は自然 現象、大気汚染・水質汚濁・放射能被害など の素因は社会現象。 • 災害は素因なしでは発生しないが、しかしこ の要因があっても災害は必ずしも発生しない 災害の基本構造(続) • 第2次要因ー素因を災害にしてしまう要因を 「必須要因」。寺田寅彦は地震は人間の力で 止められないが、震災は注意次第で軽減可能 ・素因が自然的あるいは社会的であっても災害 が発生するのはすべて対策を怠った結果。 ・その意味では自然災害も社会的災害も「社会 制度が作り出した災害」といえる。 災害の基本構造(続) • 第3次要因は災害を強弱にする要因で • 「拡大要因」とよび、これにも自然的・社会的 要因があるが、その大部分はそれらを除去で きない社会的条件に規定されている。 • それは国民の貧困に起因し、それを取り除く 社会的条件のない社会だからである。 • 寺田は拡大要因として、技術者の欧米追随 主義、日本的防災技術の欠除、自然法則を 無視した開発、東京のような災害多発地域に 集まる衝動の制御不可能など 被害の社会構造 • 客観的な社会構造に規定される被害の主体 の性格によって被害の軽重がきまる。 • 社会構成を独占ブルジョアジーから労働者階 級まで6区分して災害の被害を無から大まで 4区分し、さらに災害によって受ける利益に軽 重をつけて、災害表式を作っている。その結 論として支配階級は被害が少ないが下層階 級は大きな被害を受ける。安い労働力が労 働市場に投げ出され、資本家はそれを雇用 できる。災害防止が義務付けられると市場が 拡大する。政治家・高級官僚も功績をあげる 被害の社会構造(続) • このような災害の基本構造から資本主義社 会では災害の必須要因を除去する動機が動 かず、災害が再生産され、悪循環している。 その典型例が核爆発・原子力利用である。 • 社会主義国も自動的に災害の循環拡大性を 断ち切れていない。「科学技術の進歩、開発 による土地の増大などに伴って、新しい災害 が生まれる可能性」、それを刈り取る防災技 術の体制と科学技術の水準の向上がなけれ ばならない。 • 資本主義国にも違いがある。オランダの例。 災害対策論ー科学技術の在り方 • 科学はグローバルだが、技術は社会経済に 従属し、それを母体とする。 • 防災の科学は総合性が必要だが現状は縦割 りで非総合性。欧米の科学の追随ではなく、 日本の現場の現実の災害現象から問題を探 り、自然科学と社会科学の基礎理論と基礎実 験によって解析して、初めて解決の理論が生 まれる。 科学技術の在り方(続) • 科学者の多くは御用学者化して被害者の立 場に立つものは少ないので、災害の原因を 科学的に解明するのは容易ではない。 • 科学者が被害者の立場を理解し、原因を明ら かにするならば、国民の自発的な防災組織も できるであろう。 • 民水対のような民衆の防災対策の研究機関 の調査やその行動に期待して結論になる。 • この初期の業績は災害論の基礎を機能論で なく体制論に置いた画期的業績である。 災害と公害(災害の全体像) 自然的災害 (地震、津波、風水害など) 社 会 的 災 害 産業公害 (水俣病、四日 市ぜんそく、 原発災害など) 薬害(エイズ、スモ ン病)、食品公害な ど商品・サービスに よる害 アスベスト災害 労働災害 (職業病) 都市公害 (自動車排気ガス、 その他複合汚染) 基地公害 公共事業公害 交通事故、 地下街事故など 戦災など (原爆病など) 都市災害 権力災害 産業事故 (ガス爆発、 油流出) 産業災害 4.環境の科学としての災害論 • 初期の災害論の成果を継承して、現代の災 害論を構築できるのは環境の科学である。 • 災害は環境破壊。その原因は自然的素因と 社会的素因。両素因の複合・連続。 • 被害は環境破壊として総合的にとらえる。 • 自然環境破壊ー生態系(動植物等)山地・森 林・河川流域・平野部・海岸・海の汚染・破壊 • 社会的環境破壊ー健康被害・死亡、生活環 境(アメニティ・コミュニティ)喪失、労働生産物 (資本・商品・信用・社会資本等)の喪失。 責任と負担 • 災害の責任は社会的責任、負担は経済主体 たる企業・家計・国家になる • 自然災害は資本主義社会では負担は自主自 責が原則とされているので、個人や企業は民 間保険や共済制度で救済をもとめる。福祉国 家など社会国家では国家の負担が求められ るが、整備されていない。 • 社会的災害は原因者がいるので次の3原則 があるが、システムの欠陥による場合には、 企業の連帯責任や国家の責任が問われる。 責任と負担の3原則 • 公害問題では責任は原因を究明するのだが 法的には因果関係と過失を明らかにする。 • だれが責任を負担するかは3原則。 • PPP(汚染者負担原則)の日本版は、OECD の公害対策のコストだけでなく、救済・原型復 旧までの原因者の負担を求める。 • 拡大生産者責任原則(EPR)ー生産過程だけ でなく流通・消費・廃棄の全過程の責任。 • 予防原則ー因果関係に不明の部分があって も甚大な被害予測の場合、対策をとる。 被害の社会的特徴 • 生物的弱者(弱い生態系、人間では年少者、 高齢者、病弱者)に被害が集中。 • 社会的弱者(低所得、低質住宅、劣悪な生活 環境、汚染源近接、栄養不足)が主被害者 • 不可逆的・絶対的損失の発生、金銭的賠償 では原型復旧不可能 • したがって、自力救済困難、社会的救済が必 要。不可逆的損失の可能性がある場合、予 防(アセスメント)が対策の中心。 災害対策の原則 • 対策は個々の災害によって異なるが、社会的 災害では次の順序で進む。 • 1.被害の実態把握 • 2.責任(因果関係、過失の有無)と負担の区 分(先の3原則により原因者と公共の負担) • 3.救済(金銭賠償、実物保障、未来保障) • 4.環境・地域再生(アメニティとコミュニティの 回復) • 5.Sustainabilityのある防災・地域政策 公害・環境問題の科学 • 公害研究は被害者の立場に立ち、欧米の業 績から類推するのでなく日本の現実の現場 に行って、調査・研究をしている。 ・環境経済・政策学会は、自然科学者が多数入 っており、また環境法・政策学会 環境社会学 会と共同して三学会シンポジュウムを定期的に 行っている。 ・1979年公害研究委員会が発足母体になり、 市民に開かれ、学際的で、提言する日本環境 会議(専門家400人)を組織運営している。 今後の課題 • 初期の災害論が提起した課題はこのように 環境問題の科学に継承されている。 • 今回の近代史上最大の震災と最悪の原発公 害は環境の科学に重大な挑戦状を突きつけ ている。現在は各専門分野の研究者が、現 場で調査をし、対策に参画している。これらの 業績が集積され、総合されて、新災害論が構 成されることを期待したい。 • 環境経済学の到達点について、参考までに 環境経済・政策学会の記念講演を添付した
© Copyright 2024 ExpyDoc