式 辞 校長 長井 俊朗 2013.3.1 森山直太朗の「さくら」という曲に「泣くな友よ 今惜別の時 変わらないあの笑顔で さあ」というフレ ーズがありますが、これを想い起こさせる旅立ちのときが、いよいよやってきました。 114名の皆さん卒業おめでとう。在校生、教職員、また、家藤前校長をはじめとする旧教職員の皆さんと ともに、心からお祝いの拍手を贈ります。 同時に、疾風怒濤の青春の時を全力で駆けている皆さんに、無償の愛を注ぎ、支え、励ましながら、この日 を待ち望んで来られました保護者の皆様にも、衷心よりお慶びを申し上げます。 また、本日、大変お忙しい中、御臨席を賜りました愛媛県議会議員兵頭竜様をはじめ、多数の御来賓の方々 には、平素から本校教育の推進に格別の御理解と御支援を賜っておりますことを、厚く御礼申し上げます。 さて、卒業生の皆さん。私は、皆さんとは、一年間だけのお付き合いでありましたが、皆さんが、勉学に、 部活動に、そして学校行事にと、いつも前向きに取り組んでいた明るく元気な姿は、今もこの目にしっかりと 深く焼き付いております。すべてを忘れて燃えた体育祭やみんなの心が一つになった高校祭のほか、文化部や 運動部の活躍には心が躍りました。 そこにはいつも、 一つのことに真剣に取り組む野村高生の姿がありました。 爽やかな挨拶と笑顔と感動を本当にありがとう。まずは、卒業生の生徒諸君にお礼を言いたいと思います。 ところで皆さんを待ち受ける社会は、我が国のみならず世界で地球規模の多くの課題を抱えており、かつて ないほど人々の叡智を必要とする状況にあります。そのような時代であるからこそ、優れた資質を有する皆さ んには、将来それぞれ進む分野において自己の真価を存分に発揮し、時代の要請と期待に応えてほしいと願っ ています。その旅立ち当たり、はなむけの言葉を二つ贈ります。 一つは、 「紳士であれ」という言葉です。明治九年八月、現在の北海道大学の前進である札幌農学校の開校式 が挙行された時、初代校長に就任したクラーク博士は、すでに用意されていた校則の条項をすべて抹消し、 「Be gentleman」一条のみとした、という逸話があります。皆さんも今日校則からは解放されますが、簡潔で自由 なルールは、自分で判断するという困難さと厳しい責任を伴います。 渡辺憲司氏は、その著書『時に海を見よ』において「紳士である」ということについて 「愚直に、真っ正直に生きて、自分に誇りを持ち、そしてきちんと身を正す」 「自分がどういう形で生きていくかの輪郭を持ち、それを大切にする」 「周囲の外見的な規則や虚飾や虚勢を削ぎ落とし、自信を持ってシンプルに生きる」 「厳しさと優しさが共存している」と述べています。 どうか、自分の信じる道を、凛として、堂々と歩んでください。また、優しさを守るためには厳しさがなけ ればなりません。正義の心を持ち、弱きものを守り通す人であってほしいと思います。 二つ目は、 「一期一会」という言葉です。全ての時間は、二度と戻ってこないたった一度きりのものだからこ そ、誠意を尽くして全力で生きてほしい。皆さんは、平家物語や方丈記を学習したと思います。冒頭は、それ ぞれ「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」と「行く川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず」 でした。これらには、この世を滅び行くはかないものと観ずる無常観が根底に流れています。確かに命には限 りがある訳で、極論すれば人間は死ぬために生まれてきたともいえるのです。しかし、吉田兼好は、徒然草の 中で「世は定めなきこそ いみじけれ」といいます。 「世の中は無常であるからこそおもしろいのだ。永遠の生 命が与えられたら、どんなに人生はつまらないことだろう。 」と無常を積極的に肯定しています。無常観におか されて「どうせ全てのことは終わるのだから」と生きることを否定しようとする思想を突き抜け、無常である からこそ人生を充実させようと生きることを肯定する点で、兼好は中世の偉大な思想家であったといえるわけ です。 同じ生きるなら、限りある人生を夢中になって楽しみながら生きたいものです。また、すべての時間を楽し むためには、 「楽しいことをする」のではなく「することを楽しむ」と発想することが大切です。 吉川英治氏は「登山の目標は、山頂と決まっている。しかし、人生の面白さ、生命の息吹の楽しさは、その 山頂にはなく、かえって逆境の、山の中腹にある。 」と述べています。生きることの楽しさや喜びを、そしてま た、時には苦しさや悲しみもじっくりかみしめ味わいながら、自らの人生をみごとに生ききっていただきたい と思います。 いよいよお別れのときがやってまいりました。新校舎の壁面の「美しく 新しく 逞しく」の校訓も、皆さ んの3年間をずっと見守ってくれました。今日はきっと、よく頑張ったとほめてくれると思います。どうか、 本校を卒業した後も、青春を謳歌した野村高校を忘れないでほしいと思います。 名残は尽きませんが、今まさに未来に羽ばたかんとする卒業生の皆さんの幸せと御活躍を心から祈念し、式 辞といたします。
© Copyright 2024 ExpyDoc