静岡県産シラスを用いた新鮮チルド製品の開発(PDF形式)

地域課題に係る産学共同研究委託事業 概要報告書
1.委 託 事 業 名 :
静岡県産シラスを用いた新鮮チルド製品の開発
2.委託事業者名:
委託団体:山梨罐詰株式会社
連携大学:静岡県立大学食品栄養科学部 准教授 増田修一
静岡県立大学食品栄養科学部 助教 島村裕子
3.研究成果概要:
【背景と現状】
静岡県はシラスの水揚げ量が全国的にも多く、過去 5 年間において全国ベスト3内を維持
している。また、シラスを用いた食品の製造に関する関連事業も盛んであり、シラスは静岡
県において、特に重要な産業素材であるといえる。さらに、静岡県内でも特に静岡市用宗港
から水揚げされるシラスは、漁場が港より非常に近いため、収穫から加工までの時間が短い
ことで、鮮度・風味・食感が他の港近くで処理する物より格段に優れている。
静岡市駿河区用宗港にある㈱マルカイは、用宗港から水揚げされた高品質のシラスを独自
の製法で処理し、非常においしい「釜揚げシラス」をチルドで広く市場に流通させている。
加工工程でチルド処理を行っているが、釜揚げシラスは鮮度が落ちやすく現行の手法で処理
したシラスは 4℃保持で漁獲当日処理してから 6 日間と賞味期限が非常に短かった。そのた
め、販売・流通規模の拡大に困難であった。
全速力で漁場から帰港
すぐに加工処理
処理するまで、鮮度が命
すぐに競り
処理後すぐに冷蔵
地域課題に係る産学共同研究委託事業 概要報告書
多量に取れた場合などは、シラスを長期保存するためには、今までは下記の方法がとられ
ていた。
①
釜揚げシラスをちりめん状態にすることで長期保存する方法。
②
缶詰等加圧加熱ができる容器に詰め、高温で殺菌することで賞味期限を延長する方法
③
釜揚げしたシラスを冷凍保存し、使用時に再解凍して製品とする方法。
共に、一長一短はあるが、食感・風味・美味しさにおいては、釜揚げシラスには及ばない。
したがって、釜揚げシラスより商品価値が落ちることもあったため市場が狭く、拡販に問題
があった。
【課題と目標】
静岡市用宗港で水揚げされ、処理された釜揚げシラス及びその加工品の販売・流通の規模
を拡大させるためには、その安全性や商品価値を考慮し、シラスの変質を抑制することが極
めて重要である。チルド処理されたシラスが変質し、品質の劣化が進行する要因として、商
品を入れる容器の密封性が悪く、また酸素透過量の多いことが一因として考えられる。した
がって、シラスを変質させずに長期保存を可能にするためには、有害微生物の繁殖に必要な
酸素を絶ち、微生物の多量繁殖を抑え、品質を保持することが必要である。
山梨罐詰㈱で充填殺菌されたチルド製品を、一定期間保存し静岡県立大学食品栄養科とともに
経時的に生菌数を測定して、腐敗となる有害微生物を同定する。
さらに、微生物制御(シラスの洗浄・殺菌)方法についても検討し、新たな製造方法を確立
する。本事業では、シラスの長期保存(2週間から1か月)が可能で、且つ風味や食感が保た
れた安全で高品質のシラス関連商品を製造するために、チルド(10℃以下)処理とともに、
有害微生物の繁殖に必要な酸素を絶つことのできるパッキング容器および商品の設計を行う。
釜揚げシラスと同等のうまみ成分、風味、フレーバーおよび食感を有する、美味しく高品
質な静岡県産の新鮮チルドシラス製品の開発を目標とする。
写真1 新鮮チルドシラス(イメージ)
写真2 新規な加熱殺菌装置
「研究内容」
(1) 加熱殺菌装置の試作
保存技術が可能な新規加熱殺菌装置を試作した。
特許出願申請中のため多くを語れないが、今までとは考え方を全く変えたものである。
地域課題に係る産学共同研究委託事業 概要報告書
また、プロトタイプの装置のため、1 回の処理で 50g 入りシラス製品で 10 個程度しかで
きない。装置を使用した後は手作業で保存技術を施した。新保存技術と装置の性能検査を行
うために、出来たばかりの釜揚げシラスを用いて製品サンプルを作成し、保存性・品位の確
認検査を実施した。
(2)チルド保存での安全性の確認
①
山梨罐詰株式会社(での自社検査)
シラスの細菌検査では、製造後、1 週間、2 週間、6 週間において、好気性菌(一般細菌)
嫌気性菌(クロストリジア)
、代表的な病原菌(セレウス菌)について検査を行った結果、菌は認め
られなかった。
(下記は細菌検査の結果写真)
②
静岡県立大学での安全性確認
新保存技術後の細菌数の経時的変化
0 day
Control
1 week
2 weeks
1 month
7.25 ± 0.31 7.28 ± 0.08 7.15 ± 0.11 7.21 ± 0.12
一般性菌数
Treatment
Control
<1
<1
<1
<1
7.23 ± 0.46 7.27 ± 0.20 7.23 ± 0.13 7.51 ± 0.26
低温細菌数
Treatment
Control
<1
<1
<1
<1
5.11 ± 0.13 5.23 ± 0.18 5.83 ± 0.56 5.76 ± 0.75
嫌気性菌数
Treatment
<1
<1
<1
<1
logCFU/g
Control:
未処理(n=2×2)
Treatment: 新保存技術(n=1×3)
新保存技術(缶詰)の試料からは、保存1ヶ月後も細菌は検出されなかった
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(3) アミノ酸分析
各保存条件で製造したサンプルに含まれるアミノ酸の定量結果
成分(日本語)
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
新保存技術
缶詰
新保存技術
パウチ
釜揚げシラ
ス
0.000
2.356
0.043
0.077
0.000
0.175
0.200
0.008
0.190
0.081
0.441
0.000
0.076
0.178
0.189
0.000
0.000
0.260
0.000
0.178
0.170
0.315
0.303
0.266
0.016
0.000
0.062
1.039
0.000
0.000
0.000
0.082
0.066
0.094
0.091
0.185
0.000
2.430
0.046
0.083
0.000
0.182
0.211
0.004
0.197
0.087
0.470
0.000
0.082
0.187
0.195
0.000
0.000
0.276
0.000
0.192
0.177
0.335
0.318
0.280
0.017
0.000
0.052
1.081
0.000
0.000
0.000
0.087
0.093
0.165
0.128
0.347
0.000
2.420
0.045
0.074
0.000
0.165
0.153
0.004
0.025
0.021
0.496
0.000
0.044
0.160
0.182
0.000
0.000
0.248
0.000
0.181
0.153
0.288
0.297
0.259
0.017
0.000
0.030
1.062
0.000
0.000
0.000
0.073
0.094
0.225
0.150
0.320
ホスホセリン
タウリン
ホスホエタニールアミン
アスパラギン酸
ヒドロキシプロリン
スレオニン
セリン
アスパラギン
グルタミン酸
グルタミン
ザルコシン
α-アミノアジピン酸
プロリン
グリシン
アラニン
シトルリン
α-アミノ酪酸
バリン
シスチン
メチオニン
イソロイシン
ロイシン
チロシン
フェニルアラニン
β-アラニン
β-アミノイソ酪酸
γ-アミノ酪酸
ヒスチジン
3-メチルヒスチジン
1-メチルヒスチジン
カルノシン
アンセリン
ヒドロキシリジン
オルニチン
リジン
アルギニン
通常のボイル
殺菌(換算値)
0.000
1.778
0.060
0.000
0.000
0.132
0.125
0.000
0.200
0.000
0.000
0.000
0.037
0.137
0.123
0.000
0.000
0.198
0.000
0.128
0.128
0.232
0.257
0.220
0.015
0.000
0.027
0.903
0.000
0.000
0.000
0.000
0.000
0.000
0.060
0.452
結論
釜揚げシラスには、タウリンとヒスチジンが多く含まれていることが解った。通常の製造
方法(表右側)と新保存技術、ならびに釜揚げシラスのアミノ酸値を比較すると、新保存技
術の落ち込みが少ないことが解る。タウリンとヒスチジンにおいては通常製造製品は、70%
程に低下しているが、新保存技術ではほとんど変わらない。新鮮な釜揚げシラスと同等なう
まみ成分が新規保存技術により保持されていることが証明された。
(4)事業化に向けて
チルドシラス事業は実現性の高い事業である。
今回は FS 事業として本共同研究をおこなったが、実際にテストセールをプランして生産ラ
インのラフ図を描くと、現行の設備は予備テスト・ビーカー試験程の設備にしかならないこ
とも事実である。テストセールをするにも量的に足りないものがある。したがって、テスト
セールができるほどの予備テスト機を作成し、市場に問うことが次のステップになる。
また、たんぱく質含有量の多い、静岡県産の原料(例えば桜えび)については非常に波及
性があり、製品化が可能と考えられる。