1)子宮頸部病変 再発子宮頸癌

N―187
2005年9月
症例から学ぶ婦人科腫瘍学
1)
子宮頸部病変
再発子宮頸癌
座長:産業医科大学教授
柏村 正道
独立行政法人国立病院機構
九州がんセンター婦人科部長
齋藤 俊章
コメンテーター:近畿大学教授
山本嘉一郎
子宮頸癌は一旦再発するとその治療は困難で治癒することが期待できなくなると考えら
れている.しかし,再発のパターンの分析や一定の条件下での治療のエビデンスの蓄積に
より治癒できる症例があることも次第に分かってきている.
エビデンスレベルが%以上の再発頸癌の研究からは,骨盤内再発では30%以上の 5 年
生存率が期待されると言われている1).遠隔転移に対しては Cisplatin を基本とした化学
療法が奏功することが高いエビデンスレベルで証明されているが,その予後は依然厳しい
現状である.
我々は,過去の再発癌の治療例についてその予後との関連を検討した結果,骨盤外の病
巣でも多発転移でないものは積極的な治療により比較的良好な予後が得られることを報告
してきた.特に,大動脈周囲リンパ節単独の転移や肺単独転移について症例を提示する.
再発を予防するためには,初回治療時に,詳細な病理組織学的検索を行い,再発危険因
子を考慮した後治療や経過観察を行うことが重要であるが,このことを痛切に感じられた
初期癌再発例を経験したので,これも提示する.
大動脈周囲リンパ節転移単独の再発症例
このような再発パターンに対する治療のエビデンスは最近までほとんどなかった.
1994年に放射線治療後の大動脈周囲リンパ節への再発に対して放射線治療を行った報告
があるが,2 年以内に全例死亡するという惨憺たる結果であった2).唯一の希望は照射量
の多い例で生存期間の延長がみられることであった.
症例 1 .67歳の症例で,63歳時に子宮頸部"平上皮癌,臨床進行期$b 1期にて広汎
性子宮全摘出術を当科にて施行.左外腸骨節に転移を認めたため,術後全骨盤外部照射が
40Gy 施行された.術前の SCC 値は9.2ng#
ml であった.治療後48カ月目の検診時に
Case Presentation of Recurrent Cervical Cancer―Two Cases of Isolated Paraaortic Node Metastasis, A Case of Receiving Surgical Treatment for Lung Metastases and a Case of Vaginal Recurrence of Cervical Carcinoma in situ
Toshiaki SAITO
Gynecology Service, National Kyushu Cancer Center, Fukuoka
Key words : Cervical cancer・Recurrence・Paraaortic node metastasis・
Lung metastasis
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日産婦誌5
7巻9号
SCC が4.0ng#
ml と上昇していたため,腹部骨盤 CT,胸部 CT,骨シンチグラフィー
が施行された.腹部 CT にて,大動脈左側リンパ節転移を診断された(写真 1 )
.
症例 2 .57歳,49歳時に他院にて子宮頸部"平上皮癌,臨床進行期$b 期にて広汎性
子宮全摘出術,大動脈周囲リンパ節生検,術後全骨盤外部照射が施行された.8 年後の当
科の検診にて SCC の上昇を認め,CT にて左腎の高度水腎水尿管症を伴う大動脈周囲リ
ンパ節転移と診断された(写真 2 )
.
いずれの症例も諸検査により孤在性の大動脈周囲リンパ節転移と診断されたが,症例 2
では,左鎖骨上窩リンパ節生検を施行し,不顕性の転移がないことも確認された.治療は
いずれも,開腹手術,リンパ節摘出術,大動脈周囲の腫瘍床に対する術中照射,術後外部
照射を行った.症例 2 ではリンパ節摘出の際に,巻き込まれた尿管及び左腎の摘出術も
施行した.術中照射は電子線でそれぞれ20Gy,16Gy を照射し,術後外部照射はいずれ
の症例も10MV X 線にて40Gy を追加照射し,化学療法は併用しなかった.症例 1 は再
発後12年,初回治療後16年,症例
2 は再発後 6 年, 初回治療後14年,
いずれも無合併症で無病生存中であ
る.いずれの症例も SCC 値の上昇
が診断の契機となっており,また
SCC 値の変動は治療経過をよく反
映していると考えられた(図 1 )
.
我々は,手術により腫瘍の減量を
行い,局所的な放射線線量を増加さ
せるために術中照射を用いた.しか
し,術中照射は特殊な治療法であり,
大動脈周囲リンパ節転移再発の標準
治療となるとは考え難い.要は,そ
(写真 1 ) 症例 1 再発時 CT 像
大動脈左側に径2cm 強のリンパ節腫大を認める.
れぞれの施設で従来の報告や経験を
(写真 2 ) 症例 2 の再発時腹部 CT 像
左腎の高度水腎症
(左写真)
,及びその尾側レベルで大動脈左側の軟
部陰影の増強とそれに巻き込まれるように尿管が水腫化しており,
5cm 径の腫瘤を形成していた
(右写真)
.
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(図 1 ) 症例 1 の経過と SCC の変移
よく吟味し,その結果として可能性のある治療方法を工夫することであると考える.この
ような再発パターンに対しても近年 chemoradiation が有効であるという報告がなされ
ており,期待できる治療法である3).
肺の孤在性転移に対する外科的治療例
従来の報告では肺転移に化学療法は奏効するものの,その治癒率は極めて低く,満足で
きるものではない4).山本らは近年,本邦における多施設共同研究として 1 ∼ 2 個の肺転
移例に対する外科的切除術の有用性を報告している5).この研究には当施設の症例も含ま
れており,一例を供覧する.
症例 3 は,37歳,経妊 2 経産 2 の主婦で,36歳時に子宮頸部"平上皮癌#b 1期にて,
広汎性子宮全摘出手術が行われた.骨盤リンパ節転移が認められ,術後全骨盤外部照射40
Gy が施行された.初回治療後11カ月後に定期検診の胸写にて右肺に異常陰影の出現を認
めた.マーカーの SCC は正常であったが,胸部 CT にて右肺 S6に径1cm の空洞変化を
伴う結節を 1 個のみ認めた(写真 3 )
.気管支鏡下生検の結果,"平上皮癌,子宮頸癌の
(写真 3 ) 症例 3 の胸部 CT 像と摘出病巣肉眼所見
右 S6区域切除術標本では径1cm 大の比較的境界明瞭な病巣を 1 個
のみ認め,組織学的に転移性!平上皮癌と診断された.
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日産婦誌5
7巻9号
転移を考えるとの結果であった.呼吸器外科にコンサルトの結果,転移性肺癌で外科的切
除の意味はあると判断され,右肺 S6区域切除術が施行された.術後に CDDP,Ifosphamide,Peplomycin による化学療法が 3 コース施行された.さらに 1 年後,右肺
S10,S8に病巣が出現し,これに対しても外科的治療として 2 つの部分に対する楔状切除
が行われた.現在,有病ではあるが,PS も良好な状態で,初回治療後 6 年,再発後 5 年
経過したところである.
以上,3 症例を通じて私自身が学んだこと,また皆さんにも知って頂きたいことは,骨
盤外の再発癌と言えども一部には長期延命,治癒可能な症例が含まれており,決して簡単
に諦めないこと,しかし,積極的に治療する際には十分に癌の広がり診断や予後因子を基
に治療方針を個別に考える必要がある,また,単独の治療では良い結果が得られないこと
から,他の専門医の協力を得た集学的治療が必要であることである.
子宮頸部上皮内癌再発例
もう一例,他院で子宮全摘出術が行われた子宮頸部上皮内癌症例で,7 年後に腟癌で亡
くなった症例の摘出子宮の組織像を供覧した.実態は子宮頸部上皮内癌の腟への連続病変
の再発と考えられた.腟癌の中には本症例のような子宮頸部病変の再発と考えられるもの
も含まれている.一般に子宮頸部上皮内腫瘍や子宮頸癌初期病変は単純子宮全摘出術で治
癒できると考えられているが,必ず病巣の完全摘出を確認するための入念な病理組織学的
検査が必要であり,その結果をもとにしてその後の管理を行うことの重要性を教えてくれ
る症例であった.
《参考文献》
1. Friedlander M, Grogan M. Guidelines for the treatment of recurrent and
metastatic cervical cancer. The Oncologist 2002 ; 7 : 342―347
2. Grigsby PW, Vest ML, Perez CA. Recurrent carcinoma of the cervix exclusively in the paraaortic nodes following radiation therapy. Int J Radiation
Oncology Biol Phys 1994 ; 28 : 451―455
3. Chou HH, Wang C-C, Lai C-H, Hong J-H, Ng K-K, Chang H-C, Tseng C-J,
Tsai C-S, Chang JT. Isolated paraaortic lymph node recurrence after definitive irradiation for cervical carcinoma . Int J Radiation Oncology Biol
Phys 2001 ; 51 : 442―448
4. Imachi M. Tsukamoto N, Matsuyama T, Nakano H. Pulmonary metastasis
from carcinoma of the uterine cervix. Gynecol Oncol 1989 ; 33 : 189―192
5. Yamamoto K, Yoshikawa H, Shiromizu K, Saito T, Kuzuya K, Tsunematsu
R, Kamura T. Pulmonary metastasectomy for uterine cervical cancer : a
multivariate analysis. Ann Thorac Surg 2004 ; 77 : 1179―1182
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