労働基準監督署の調査への 対応法 - 森田務公認会計士事務所

Available Information Report for Corporate Management
経 営 情 報 レ ポ ー ト
第 57 号
増え続ける従業員の駆け込みに備える
労働基準監督署の調査への
対応法
1 労働基準監督署の調査の実態
2 調査への対応ポイント
3 調査への事前対策
4 是正勧告の対応方法
森田 務 公認会計士事務所
CONTENTS
第
1 章 労働基準監督署の調査の実態
Ⅰ
Ⅱ
第
第
10
残業代の支払いへの備え
解雇に関するトラブルへの備え
労働基準監督署への届出事項の確認
4 章 是正勧告の対応方法
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
04
労働基準監督署の調査の流れ
調査による指導内容
3 章 調査への事前対策
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
第
最新の労働基準監督署の調査内容
最新の労働基準監督署の指摘傾向
2 章 調査への対応ポイント
Ⅰ
Ⅱ
01
調査の際の留意点
是正勧告を受けたときの対処法
是正勧告に従わなかったときの送検事例
17
1章
労働基準監督署の調査の実態
Ⅰ 最新の労働基準監督署の調査内容
1
労働基準監督署の調査状況
最近、労働条件の適正化、長時間労働 の抑制、過重労働によ る健康障 害防止など
の目的のため、労働基準監督署の監督件 数が増えています。
●監督件数・違反件数・送検事件数等
事業場数・法違反率
監督を実施した事業場数
平成 18 年
161,058 件
労 基 法 ・ 労 働 安 全 衛生 法・ 最 低賃
80,116 件
金法に違反していた事業場数
法違反率
67.4%
労働関係法令違反による送検事件
●法違反率の高い業種
業種
1,219 件
●送検件数の多い業種
法違反率
業種
件数
占有率
1位
保健衛生業
79.5%
1位
建設業
470 件
38.6%
2位
映画・演劇業
79.4%
2位
製造業
286 件
23.5%
3位
接客娯楽業
77.3%
3位
商業
97 件
8.0%
4位
教育・研究業
75.8%
4位
運輸交通業
93 件
7.6%
5位
運輸交通業
75.7%
1
2
労働基準監督署の取り締まり強化の背景
労働基準監督署の取り締まり強化の背 景には、大きく分けて 、2つの 要因が考え
られます。
①労働者の健康保持の為の長時間労働・サービス残業取締り 強化
電通事件【東京高裁 平成 9 年 9 月 26 日判決】(うつ病による 自殺と
長時間労働の因果関係が認められ、会社が遺族に1億6,8 00万円
を支払って和解した事件)を契機に、「企業の社員に対する 健康配慮義
務違反」を理由とする損害賠償支払を命じる判決が続発し、 それらの
ほとんどが違法な長時間労働や残業代不払に起因している為 、労働法
令遵守を掌る労働局及び労働基準監督署が長時間労働・サー ビス残業
取締りを強化し始めた。
②労働者側の申告や内部告発の増加
会社を辞めた社員が 過去の残業代未払などを労働基準監督署に申告
するケース、又は現社員が労働基準監督署に内部告発するケ ースが実
際に増加している。
2
Ⅱ 最新の労働基準監督署の指摘傾向
1
重点的にチェックされる事項
平成 18 年の監督で指摘された違反の内容を法条項別にみると、労働時間が最も多
く 35.3%、次に 安全基準で 29.1%、割増 賃金 25.4%、就 業規則 18.8%、健康診 断
15.2%、労働条件の明示 14.1%の順とな っています。
【定期監督等実施状況・法違反状況】
定期監督等実施事業数
118,872
構成比
同違反事業場数
80,116
(%)
同違反事業場比率
67.4%
32,40 条
労働時間
28,247
35.3
37 条
割増賃金
20,340
25.4
89 条
就業規則
15,056
18.8
15 条
労働条件の明示
11,308
14.1
108 条
賃金台帳
7,513
9.4
23,24 条
賃金不払い
2,850
3.6
35 条
休日
2,115
2.6
最低賃金法違反
5条
最賃効力
1,775
2.2
労働安全衛生法
20∼25
安全基準
23,324
29.1
違反
条
66 条
健康診断
12,146
15.2
45 条
定期自主検査
6,126
2.6
12 条
衛生管理者
5,397
6.7
労働基準法違反
3
2章
調査への対応ポイント
Ⅰ 労働基準監督署の調査の流れ
1
労働基準監督署の調査には 4 種類ある
労動基準監督署の調査とは、労働基準 監督官が、労働基準法 の違反の 有無を調査
する目的で、事業場等に立ち 入ること をいい、正式 には「臨検監督」 と呼びま す。
臨検監督は 4 種類に分かれます。
①定期監督
②申告監督
臨検監督
③災害時監督
④再監督
①定期監督
労働基準監督署の調査の多 くは、こ の定期監督に 該当します。経済 動向、労 働災
害発生状況、遵法状況などの 分析結果 から、対象事 業場のリストを作 成し、年 度の
計画にしたがって行います。
②申告監督
会社に在籍している従業員 もしくは 退職者から、 残業代の未払いや 、不当解 雇等
について労働基準監督署に申 告(通報 )があったと きに、その内容を 調査する ため
に行います。
③災害時監督
一定規模以上の労働災害が 発生した 場合、その災 害の実態を確認す るために 行う
調査をいいます。災害原因の究明や災害 事故の再発防止の指導を行います。
4
④再監督
過去に指導を受けたが、指 定期日ま でに「是正( 改善)報告書」が 提出され ない
場合や、事業所の対応が悪質 である場 合などに再度 行なわれる調査の ことをい いま
す。
2
監督官の来社パターン
労働基準監督官の来 社パターンは 、主に 次のように分かれま す。
①突然、予告もなしに監督官が会社に訪れる
②担当監督官の氏名と、調査 日時、そ ろえておくべき必要書類類等を記載した書
面がFAXで送られ てくる
③電話連絡により、いきなり「○○月 ○○日に調査に入らせていただきたいと思
います」と言ってく る
3
調査の手順
労働基準監督署の調査、特 に定期監 督や申告監督 の場合の調査の手 順は、下 図の
ようになります。
① 会社は監督官から労働関係帳簿の チェックを受ける
②次に、事業主、人事担当者等からの聞き取りが行われ、実 態を確認され る
③必要によって、事業場内の立ち入り調査や労働者からの聞 き取り調査が 行わ
れ、実態を確認され る
④その後、指定された日時に「是正勧告書」や「指導票」の 交付を受ける
5
4
指定された書類について調査される
労働基準監督署の調査の際 には、「 ご用意いただ きたい書類」とい うものが FA
Xまたは郵送されてきます。その指定さ れた書類について調査されます。
【労働基準監督官から用意を指定される資料の例】
①会社の組織図
②労働者名簿
③賃金台帳
④社員別の時間外労働・休日労働に関する実績資料
⑤タイムカード等の勤務時間の記録
⑥時間外・休日労働に関する協定届
⑦現行の就業規則
⑧変形労働時間制やフレックスタイム制・裁量労働制等、特殊な定めをしている
場合の労使協定
⑨社員の年次有給休暇取得状況についての管理簿
⑩社員に交付している労働条件通知書
(6)労働基準監督署の調査には 4 種類 ある
⑪安全管理者、衛生管理者の選任状況
労動基準監督署の調査とは、労働基準 監督官が、労働基準法 の違反の 有無を調査
⑫安全委員会・衛生委員会の設置、運営状況についての資料
する目的で、事業場等に立ち入ることを いい、正式には「臨検監督」と呼びます 。
⑬産業医の選任状況についての資料
⑭健康診断の実施結果
6
Ⅱ 調査による指導内容
1
法律違反があれば「是正勧告書」
事業所の労働基準法 等の法律違反 に対し て行われる行政指導 のことを「 是正勧告」
といいます。
そして、事業所が労働基準法等に違反 する行為を行った場合 に、労働 基準監督官
が交付するのが「是正勧告書」です。
また、法律違反にはあたらないが、改 善する必要があると認 められた ときに交付
されるのが「指導票」です。 是正勧告 書はもちろん のこと、この「指 導票」に つい
ても、指定期日までに指摘事 項を改善 し、「是正( 改善)報告書」を 労働基準 監督
官に提出しなければなりません。
●労働基準監督官から交付される文書の種類
ケース
交付文書
①法律違反がある場合
是正勧告書
②法律違反はないが、改善の必要が
指導票
ある場合
③労働安全衛生法その他の違反が
あり危険がある場合
施 設 設備 の使 用 停止 等命 令
書
7
【 是正勧 告書のモデ ル例】
是
正
勧
告
書
平成○○年○○月○ ○日
株式会社○○○○○
代表取締役○○○○ ○殿
○○○労働基準監督 署
労動基準監督官
○○
○○
㊞
貴事業所における下 記労働基準法、労働安全衛生法違反、
違反及び自動車運 転者の労働時 間の改 善のための基準違反 については、
それぞれ所定期日 までに是正の 上、遅 滞なく報告するよう 勧告します。
なお、法条項に係る法違反(罰則 のないものを除く。)につ いて、所
程期日までに是正 しない場合又 は当該 期日前であっても当 該法違反を原 因
として労働災害が 発生した場合 には、 事案の内容に応じ、 送検手続をと る
ことがあります。
また、「法条項等」欄に□印を 付し た事項については、 同種違反の繰
り返しを防止するための点検責任者を事項ごとに指名し、確 実に点検補修
を行うよう措置し、当該措置を行った場合にはその旨を報告 してください 。
法条項等
違
反
事
項
是正期日
時間外労働に関する協定がない
労基法第 32 条
にも関わらず、時間外 労働を行わ
即時
せていること
時間外労働に対し、2 割 5 分以上
労基法第 37 条
の率で計算した割増賃金を支払
○○・5・25
っていないこと
常時 50 人以上の労働 者を使用す
安衛法第 12 条
る事業場であるのに、衛生管理者
を選任していないこ と
受領年月日
平成○○年○○月○ ○日
受領者職氏名
総務部長
○○
8
○○
㊞
○○・5・末
【 指導票 のモデル例 】
指
導
票
平成○○年○○月○○日
株式会社○○○○○
代表取締役○○○○ ○殿
○○○労働基準監督 署
労動基準監督官
○○
○○
あなたの事業場の下記事項については改善措置をとられるよ うにお願いし
㊞
ます。
なお、改善の状況については○○月○○日までに報告してく ださい。
指
導
事
項
1.タイムカードに 記録されてい る時間 外労働時間と、労働 者の申請によ り
時間外労働の支払いの対象とされている時間について、大き な開きが認め
られます。
2.振替休日につい て、事前に振 り替え るべき休日が特定さ れていない、
同一賃金計算期間 内に振替休日 が設け られていない等の問 題が認められ る
ことから、振替休 日制度の運用 を見直 して下さい。
また、未消化と なっている振 替休日 に関しては、適正な 割増賃金を
支払って下さい。
受領年月日
平成○○年○○月○○日
受領者職氏名
総務部長
○○
9
○○
㊞
3章
調査への事前対策
Ⅰ 残業代の支払いへの備え
1
タイムカード・出勤簿の管理は適正か
会社は適正な労働時間管理 を行い、 従業員の労働 時間を把握しなけ ればなり ませ
ん。賃金不払い残業が長時間 ・過重労 働の温床とな っていることから 、労働基 準監
督署が特に取り締まりを強化しています。労働時間管理は、出勤簿(タイ ムカード)
により行われますが、出勤日 のみ印鑑 でついたよう な出勤簿では、適 正な労働 時間
管理ができているとはいえま せん。始 業および終業 時刻の記入は必ず 必要です 。始
業および終業時刻については、使用者が自ら確認するか、タイムカ ード。IC カー ド
等による客観的な記録による ことが必 要であり、自 己申告制によるの はやむを えな
い場合に限られるので注意が必要です。
タイムカードを導入してい る事業場 においては、 始業および終業時 刻の記録 が、
残業代の計算に適正に反映さ れている かのチェック を受けます。実際 には業務 命令
でなく、同僚と遅くまで残っ ていただ けというケー スもあるでしょう から、タ イム
カードの管理は徹底すべきです。
●労働時間管理に関する就業規則例
第○○条(労働時間管理)
会社は社員の労働時間について義務の遂行のため、管理を 行います。労 働時
間はただ働いて長ければよいのではなく、効率や成果が重要 です。社員は ダラ
ダラや、周りの上司などの顔色を見ての残業を行ってはなり ません。
会社は次の残業や深夜業務、休日労働は基本的に労働とし て認めません 。
このような残業等を発見した場合、指導の強化、手当の返還 と制裁等に処 する
ことがあります。
①上司の許可のない残業
④なりゆき残業
②お付き合い残業
⑤稼得残業
③時間調整残 業
⑥仕事が極端に遅い残業
⑦その他、業務と関係のない残業、会社の指示によらない残 業など
10
2
残業代の計算方法は適正か
時間外手当の計算方法で、 基礎とな る時間単価の 算出方法について 誤ってい るケ
ースがよくあります。代表的 なものと して、各種手 当を含まず基本給 のみを算 出の
基礎としているケースです。
時間外手当の基礎となる時 間単価の 計算に含まな くてもよい手当は 、以下の 通り
です。
①家族手当
②通勤手当
③住宅手当(一律に支給されるものは含む)
④別居手当
⑤子女教育手当
⑥臨時に支払われた賃金
⑦1 ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃 金
考え方として、皆勤手当や 役職手当 、資格手当な どと異なり、社員 の能力や 労働
とあまり関係のない手当は含めなくてよ いことになっています。
時間単 価は、必要な手 当を含んだ月 給÷月平均所 定労働 時間数 で計算 します。 月
平均所定労働時間数は、(365 日−年間休 日)×1 日の所定労働時間÷12 月で計算
します。
3
名ばかり管理職問題への対応
日本マクドナルドの事件以来、名ばか り管理職問題への対応 も企業の 急務となり
ました。管理職の考え方を整 理し、残 業代の未払い を命じられるよう なことは 避け
なければなりません。
「労働基準法上の監督もしくは管理の 地位にある者」につい ては、労 働時間、休
憩および休日に関する規定が 適用され ないことにな っています。した がって、 残業
に対する時間外手当の支給は 必要ない ことになりま す。この管理監督 者とは、 労働
条件の決定やその他労務管理 について 、経営者と一 体的な立場にある 者であり 、単
11
に部長という役職名や一般社 員と比較 して賃金水準 が高いということ だけでは 該当
しません。経営者と一体的な 立場にあ るものという ことですから、会 社の規模 にも
よりますが、現実的には、その範囲はか なり限定的であると考えざるをえません 。
具体的には以下のよ うなポイント が判断 基準となります。
①出退勤の拘束を受けていないか
②職務権限とそれに対する責任はふさわしいか
③一般社員よりもその地位にふさわしく相当に高い賃金水準 であるか
④スタッフ職の場合、部下を持ってい なくてもラインの管理監督者と同等以上に
扱われ、法の規制外 に置かれても保護に欠けることがないか
Ⅱ 解雇に関するトラブルへの備え
1
解雇は会社にとって脅威となる可能性がある
監督件数が増えた最も大きな要因は 、従業員による申告で す。その中 でも、退 職
の際にトラブルとなった従業 員、解雇 された従業員 からの申告が多い と考えら れま
す。
申告監督の方が定期監督よ りも、企 業としての残 業代の遡及払いな ど、損害 が大
きいケースが見られます。
また、不当解雇で社員から 訴訟を起 こされれば、 時間をとられるば かりか、 多額
の損害賠償を支払わなければならなくな る可能性があります。
2
解雇には制約がある
労働基準法第 18 条の 2 において「客観的に合理的な理由を欠き、社会 通念上相当
であると認められない場合は 、その権 利を濫用した ものとして無効と する」と 規定
されています。
「客観的に」とは解雇処分 とするた めに、何に照 らして処分するの か客観的 にわ
かるものがあるかということです。これ は一般的に就業規則になります。
「合理的な理由」とは、労 働者の規 律違反がある か、経営上の必要 性に基づ く理
12
由があるかということになります。
【 解雇予 告通知書の 例】
解雇予告通知書
平成○○年○○月○○日
○○○○○殿
今般、あ なたを下記の事由により 解雇致 しますので 、ここ に予告通知致
します。
記
1
解雇年月日
平成○○年○○月○ ○日
2
解雇事由
再三の説得にもかか わらず特段の理由も なく長期欠勤を続けている
3
就業規則該当条文
就業規則第 ○○条
第○○項
以上
株式会社
代表取締役
13
○○○○
○○ ○○
㊞
Ⅲ 労働基準監督署への届け出事項の確認
1
就業規則の届け出
就業規則とは、労働 基準法(以下 、労基 法)第 89 条において、常時 10 名以上の
労働者を使用する使用者に作 成義務お よび所轄労働 基準監督署への届 出義務が 課さ
れています。
また、労基法や育児介護休 業法、高 年齢者雇用安 定法、男女雇用機 会均等法 など
の改正がこのところ続いてい ますが、 これら改正に 対応し、その都度 従業員代 表の
意見を聴取した上で、所轄労 働基準監 督署に提出し なければ、それぞ れの法律 に抵
触する可能性が高いため、コ ンプライ アンス上の問 題が発生します。 つまり、 一度
就業規則を作成し、その時に 届出した ということを もって、労基法を 遵守して いる
ということにはならないことに注意が必 要です。
そもそも就業規則は、使用 者と労働 者との間の労 働条件につき、個 別に定め たも
の以外の事項について包括的 に定めた ものとみなさ れます。したがっ て、休職 や服
務規律あるいは、懲戒事由な どについ て、その項目 自体が法改正とは 関係がな くと
も、いざ問題が発生したとき に会社が きちんと対応 できるよう、適切 なメンテ ナン
スを行わなければならないものであると の認識が必要です。
また通常、就業規則は賃金 規程や退 職金規程、育 児介護休業規程、 パートタ イマ
ー就業規則、慶弔見舞金規程 など、様 々な人事関連 規程を総称したも のとなっ てお
りますので、これらの規程が 存在する のであれば、 監督署への届出も 就業規則 本体
と同時に必要となります。
【就業規則の絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項】
(1)絶対的必要記載事項
①始業・終業の時刻、休憩時 間 ②休日 ③休暇(年次有給休暇、産前産後の休
暇、 生理休、育児・介護休 業、育児時間 、公民権行使の時間) ④交替制勤務
がある場合には交替期日、交替時刻、交替 順序等 ⑤賃金に関 する事項(賃金の
決定方法、計算方法、支払方法、賃金締切 日、支払時期、昇給に関す る事項) ⑥
退職に関する事項および解雇の事由
(2)相対的必要記載事項
①退職手当(適用される労働者の範 囲、決定方法、計算方法、支払方法、支払 の
時期)
②賞与などの臨 時の賃金(退職手当を除く)
業用品などの労働者負担
務外の傷病扶助
⑤安全衛生
⑧表彰、制裁
③最低賃金
⑥研修などの職業訓 練
④食費、作
⑦災害補 償、業
⑨その他、労働者の全てに適用される定めを
する場合にはその事項
14
2
三六協定の届け出
三六協定とは、時間外労働・休日労働 に関する協定のことで あり、当 該協定を締
結し所轄労働基準監督署に届け出ること で、本来労基法第 32 条で禁止 されている 法
定労働時間(1 日 8 時間、1 週 40 時間)を 超えて労働することを認めるものです(労
基法第 36 条第 1 項)。従って、逆説的に言えば、三六協定の締結および届出がなさ
れていない場合は、残業した 時点で労 基法違反とな るということにな ります。 した
がって、監督署による調査( 臨検)の 際には、ほぼ 間違いなくチェッ クされる もの
との認識が必要です。
三六協定は事業場ごとに提 出する義 務があります 。また、それぞれ の事業場 にお
いて従業員代表を選出し、協 定を締結 しなければな りません。したが って、上 記例
のように本社のみで三六協定 を締結・ 届出をしてい る場合は、その効 果の及ぶ 範囲
は本社のみであり、各店舗に は及ばな いということ になります(過半 数労働組 合が
ある場合に限り、協定内容が どの事業 所においても 同じ場合について は、本社 一括
の届出ができる制度もあります)。
また、従業員代表者の選出 について も注意が必要 です。具体的には 、あくま で労
働者の過半数代表ですので、 使用者側 の人間でない ことが求められま す。肩書 きだ
けでは判断できませんが、マ ネジャー 職が従業員代 表となっているよ うな場合 、い
ざ係争となった際には、当該 三六協定 が無効とされ ることも想定され ますので 、民
主的な方法(挙手や選挙等)で労働者側 から適切に選出しなければなりません。
【三六協定において必要な協定事項】
①時間外労働をさせる必要のある具体的事由
②時間外労働をさせる必要のある業務の種類
③時間外労働をさせる必要のある労働者の数(満 18 歳以上の者)
④1 日について延長することができる時間
⑤1 日を超える一定の期間について延長す ることができる時間
15
3
安全衛生管理体制の整備
労働安全衛生法(以 下、安衛法) では、 その第 3 章にお いて安全衛生 管理体制の
整備について規定しておりま す。これ は、労働災害 を防止するには会 社として 「責
任体制の明確化及び自主的活動の促進の 措置を講ずる(安衛法第 1 条 抜粋)」必 要
があるがゆえの規定となっています。
具体的には、下表にまとめ ましたが 、業種とその 従業員数により、 それぞれ 選任
するべき者や設置すべき委員会が発生す ることになります。
なかでも、すべての業種に 共通して 言えることと して、従業員数( パートタ イマ
ー・アルバイト・派遣社員を含む)が 50 名を超えた段階で、衛生管理者・産業医 の
選任および所轄労働基準監督 署への届 出義務、さら には衛生委員会の 開催義務 が発
生します。これらは、企業と しての総 従業員数でカ ウントするのでは なく、そ の事
業場ごとで計算することとなります。したがって、例えば A 事業所に 40 名、B 事業
所に 40 名、C 事業所に 40 名の計 120 名を雇用している会社があれば、どの事業 所
においても、法律上は衛生管 理者・産 業医の選任届 出、および衛生委 員会の開 催義
務はありません。
参考までに、衛生管理者は 衛生管理 者試験に合格 した者であること などの条 件が
あり、産業医については、産 業医の資 格を持った医 師に依頼する必要 が発生し ます
ので、併せて注意が必要です。
【安全衛生管理体制における選任義務】
林業、建設業、
製造業、卸売業、小
運送業、清掃業
売業、自動車 整備業
等
等
総括安全衛生管理者
100 人以上
300 人以上
1,000 人以上
安全管理者
50 人以上
50 人以上
−
衛生管理者
50 人以上
50 人以上
50 人以上
安全衛生推進者
10∼49 人
10∼49 人
−
−
−
10∼49 人
50 人以上
50 人以上
50 人以上
衛生推進者
産業医
安全委員会
50 人以上または 100 人以上
その他の業種
−
(業種による)
衛星委員会
50 人以上
50 人以上
16
50 人以上
4章
是正勧告への対応方法
Ⅰ 調査の際の留意点
1
調査に臨むにあたり行ってはいけないケース
労働基準法の第 120 条 4 項では、「労働 基準監督官の臨検を 拒み、妨げ、 もしく
は忌避し、その尋問に対して陳述をせず、もしくは帳簿書類の 提出をせず、または、
虚偽の記載をした帳簿書類の提出をした 者」は「30 万円以下の罰金に処する」と 規
定されています。
そこで、調査の際に 絶対に行って はいけ ない 4 つのケー スをあげると 以下のよう
になります。
●調査の際にこれだけは行ってはいけないこと
①勤怠データの改ざん
②賃金台帳の改ざん
③調査前に、従業員に対して「残業はないと言いなさい」な どと強要する こと
④指定された契約書(労働契約書や雇用契約書など)を隠す こと
17
Ⅱ 是正勧告を受けたときの対処法
1
是正報告書を提出する
労基署の調査で法律違反が発見されれ ば、行政指導である是 正勧告を 受けること
になります。是 正勧告を受け た会社は、指 定期日までに指摘事 項を改善し「是正( 改
善)報告書」を労働基準監督署に提出し なければなりません。
【是正(改善)報告書のモデル例】
是正(改善)報告書
平成○○年○○月○ ○日
○○○労働基準監督署長
殿
事業所の名称
株式 会社
事業所所在地
札幌 市
使用者職 氏名
平成○○年○○月○○日に、○○
○○○ ○○
○○○○
代表取締役
○○
○○ ○○
○○
㊞
○○労働基準監督署から指摘を受けた
労働基準法・労働安全衛生法違反および指摘事項について下記のとおり
是正(改善)したので報告します。
違反の法条項
是
指摘事項
労基法第 32 条
正
内
容
5 月 10 日届出
届出をしました。
是正済み
月から 3 月まで再計算し、平成○
○年 5 月 25 日に支払いました。
衛生管理者の選任報告書を平成
安衛法第 12 条
年月日
従業員代表と労使協 定を締結し、
時間外労働に対し、 平成○○年 1
労基法第 37 条
是正完了
○○年 5 月 15 日に届 出をしまし
た。
18
5 月 25 日支払
是正済み
5 月 15 日届出
是正済み
2
指定期日までに改善が間に合わない場合の対処法
是正勧告は、法律違反の事実があった から行われるわけです から、勧 告を受けた
会社は、当然従わなければな りません 。是正期日ま でに改善し、報告 する義務 があ
るわけですが、期日までに間に合わない こともあるでしょう。
是正が間に合わない 具体的な事例 として は、次のようなケー スが考えられ ます。
①衛生管理者を選任していないケース
②産業医を選任していないケース
③時間外手当等の再計算を指示されたケース
④社員の勤怠データをまったく管理していないケース
⑤就業規則の作成・届出をしていないケース
以上のようなケースで、実 際に改善 等が間に合わ ない場合は、まず その旨を 担当
監督官に相談して下さい。指 定期日に 間に合わなか ったからといって 、すぐに 罰則
が適用されたり、書類送検されるという ことはありません。
Ⅲ 是正勧告に従わなかったときの送検事例
1
送検手続きの流れ
是正勧告に従わなかったり、従えなか った場合でも、すぐに 送検(司 法処分)さ
れるわけではありません。再度是正する機 会を与えられますが、それでも直さない 、
あるいは虚偽の報告をするなど悪質と判 断された場合に送検手続がとられます。
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●送検手続きの流れ
完結
是正する
是正報告
再監督
完結
有罪
正
2
無罪
不起訴
(悪質と判断)
)
検察庁
送検
告
嘘の報告等
裁判所
勧
是正したと
起訴
懲
( 役・罰金
是
是正しない、
送検事件状況
平成 18 年の送検件数は 1,219 件です。違 反条文で見ると、最も多いものが賃金不
払いで 420 件、次に労働安全衛生法第 21 条の作業方法 179 件、第 20 条で設備等 172
件、そして第 100 条の報告等(労災かく し等)137 件となっていま す。
●送検事件状況(平成 18 年)
法律名
労働基準法違反
違反条文
賃金不払い
420
34.5
37 条
割増賃金
39
3.2
32 条
労働時間
30
2.5
71
5.8
小
最低賃金法違反
違反
構成比
24 条
その他
労働安全衛生法
件数
計
560
45.9
5条
最賃効力
5
0.4
21 条
作業方法
179
14.7
20 条
設備等
172
14.1
100 条
報告等
137
11.2
166
13.6
654
53.7
1,219
100.0
その他
小
合
計
計
20
3
送検事件事例
実際に送検された事 例を紹介しま す。
事例1
賃金不払いで書類 送検
■平成 19 年 11 月
向島労働基準監督署(東京労働局)発表
同署は、情報誌出版業者およびその代表取締役を労働基 準法第 24 条違反で
東京地方検察庁に書 類送検した。
被疑会社は、競売 不動産物件にか かる情報誌の出版業を営んでいたものであ
るが、労働者 6 名に対する平成 17 年 7 月 21 日から同年 10 月 20 日までの 3
ヶ月分の賃金合計約 204 万円をそれぞれの所定の期日に支払わなかったもの
である。
被疑者は、労働者からの 賃金支払請求に応じず、労働基準監督署の再三にわ
たる行政指導にも応 じなかったものである。
事例2
賃金不払残業違反 と虚偽報告の疑 い
■平成 17 年 10 月
甲府労働基準監督署(山梨労働局)発表
同署は、スーパーマー ケットおよびそ の代表取締役・部長を、労働基 準法違
反の疑いで甲府地方 検察庁に書類送検した。
①労働基準法第 37 条(時間外割 増賃金 不払違反)
労働者 39 名に対す る平成 17 年 2 月 16 日から同 年 8 月 15 日までの時間外労
働に対する割増賃金 総額 6,198,833 円を、所定支払日に支払わなかった。
②労働基準法第 104 条の 2(虚偽報告違 反)
労働基準監督官が行った是正勧告に対し、是正していな いにもかかわ らず、
是正したとの虚偽の 是正報告書を提出した。
事例3
労災かくしで書類 送検
■平成 20 年 1 月
米子労働基準監督署( 鳥取労働局)発表
同署は、労災かくしをした産業廃棄物処理業者(米子市 )とその工場 長を、
17 日労働安全衛生法第 100 条第 1 項等違反の疑いで、鳥取地方検察庁米子支
部に書類送検した。
工場長は事業所内で発生した 2 件の労働災害について、 平成 19 年 10 月 26
日に至るまで労働者 死傷病報告書を提出せず、いわゆる「労災かくし」をした。
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企業経営情報レポート
増え続ける従業員の駆け込みに備える 労働基準監督署の調査への対応法
【著 者】日本ビズアップ株式会社
【発 行】森田 務 公認会計士事務所
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