84〈木枯〉 こがらし - 私の書斎~ 森田文康

折々の銘 84
【木枯】こがらし
冬の到来を告げる強い風を木枯といいます。冷たい北西の季節風です。木の葉を吹き枯らす風
という意味があります。凩の字にもつくります。この字は凧(たこ)、凪(なぎ)同様日本で作られ
た国字のようです。木枯一号は晩秋に吹きますが季語は冬に属します。
『古今集』には見られない言葉で、歌には『後撰集』あたりから登場してきます。
駿河国藁科(わらしな)川が安倍川と合流する手前の中洲に木枯の森とよばれる一面樹木に覆
われた小丘があります。
清少納言の『枕草子』に「森は うへ木の森 石田の森 こがらしの森‥」とあるように平安時代
から知れた地名で、小野小町も詠んだ歌枕です。
・人知れぬ思ひするがの国にこそ身をこがらしの森はありけり
『古今和歌六帖』
(他人にはわからない恋への思いがする駿河の国に身を焦がす木枯の森がある)
中興名物、瀬戸金華山窯に「木枯」という銘の飛鳥川手茶入があります。
・飛鳥川瀬々に波よるくれなゐや葛城山のこがらしの風 『新古今集』藤原長方
(飛鳥川の瀬に波となって寄る紅葉よ。葛城山の木枯の業か)
この歌を引き遠州が命銘しました。
このように木枯は古くから詠まれていますが、さほどの秀歌は見当たりません。
しかし、なぜか俳句には軽妙な秀句が数多く見つかります。
・木枯や竹にかくれてしづまりぬ
松尾芭蕉
・凩や何に世わたる家五軒
与謝蕪村
・凩や海に夕日を吹き落とす
夏目漱石
・木枯や目刺にのこる海のいろ
芥川龍之介
・海に出て木枯帰るところなし
山口誓子
・凩や焦土の金庫吹き鳴らす
加藤楸邨
どうです、どれも面白いでしょう。どちらかといえば短歌ファンの私でも迷わず軍配は俳句の方に揚げます。
木枯の秀句は他にもまだまだあります。どうやら木枯は歌語と季語では風力に差があるようです。
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