経営学/経営学総論B/経営学総論 第12回損益分岐点分析 経営学部 教授 石井 晴夫 1 利益の計算 売上高(あるいは生産量)とコストの関係を分析 • 利益は「利益=売上-費用」と単純に表現できる。 利益を大きくするには? ・売上を伸ばし、費用を小さくする ・(費用を大きくしても、それ以上に)売上を伸ばす ・(売上を減らしても、それ以上に)費用を削減する など • 1種類の商品を定価で販売している場合、売上は「売上=定価× 販売個数」と単純に表現できる。 ※2種類の場合、 「売上=定価➀×販売個数➀+定価②×販売個数② 」 売上を伸ばすには? ・価格を上げ、販売個数も増やす ・(販売個数を減らしても、売上増になるように)価格を上げる ・ (価格を下げても、売上増になるように)販売個数を増やす ・商品数を増やす など 2 販売個数を増やすには? ・値引き販売する ・宣伝・広告する ・ブランドをイメージを向上する(長期的) など 価格を上げるには? ・一方的に上げる(独占状態なら可能だが、反動で個数減少) ・ブランドをイメージを向上する(長期的) など ※価格は売り手側が操作できるので、価格設定が売上にとって重要となる。 費用を「費用= 固定費+変動費 」と単純に表現することがある。 固定費は生産量に関係なく発生(土地代、設備投資など) 変動費は生産量に応じて発生する材料代など(=個数×一個当たり変動費) 費用を削減するには? ・固定費を削減する(資産を持たない経営) ・一個当たりの変動費を安くする など ※設備投資によって、大量生産が可能となり、一個当たり変動費を削減させる ことができるが、投資分を回収できない危険性が高まる 3 利益を最大にする販売価格の決定例 価格と販売個数の関係が把握できている場合(仕入れ前) • 潜在的な顧客が1000人存在し、値段が1円上がるごとに4人購 入しなくなることが調査によって判明した(購入は一人一個)。 ※販売個数(y)=1,000-4×価格(p) • 固定費は10,000円で、一個当たり変動費は50円とする。 ※費用=10,000+50×販売個数(y) • 利益=売上-費用=販売個数×価格-(固定費+変動費) =(1,000-4p)× p-[10,000+50×( 1,000-4p )] =-𝟒 𝐩 − 𝟏𝟓𝟎 𝟐 +𝟑𝟎, 𝟎𝟎𝟎 50円と250円で販売した場合 ※販売価格を150円に設定すれ の損失は1万円(固定費分)と ば、400人の顧客が購入し、売 なる。50円で販売した場合、販 上が6万円で、固定費1万と変 売価格と変動費が同じであり、 動費2万となり、3万円の利益 そして250円の場合は、顧客が を獲得できる。 0となるので、変動費も0である 50円と250円で販売した時の、損 からである。 益の額とその理由は? 4 生産量から見る売上、費用、損益の関係 • 企業(事業)の費用構造を明らかにし、マネジメントの用具とする。 • 具体的には、売上高をどの程度実現すれば、企業として採算が 採れるのか、また設備投資をしたときには、どのようにコストが変 動するのかについての目安を得る。 売上=価格×販売個数 売上高 費用 損益 費用=固定費+変動費 (変動費=一個当たり変動費×生産個数) 利益=売上-費用 固定費 0 量(Q) 5 ▼損益分岐点分析とは 費用と売上高(あるいは生産量)の関係を分析 • 企業(事業)の費用構造を明らかにし、マネジメントの用具とする。 • 具体的には、売上高をどの程度実現すれば、企業として採算が 採れるのか、また設備投資をしたときには、どのように費用が変 動するのかについての目安を得る。 • 一定期間のコストと収益(売上高)の関係を以下のようにグラフ 化して示すことができる。 売上 売上 や費用 費用 生産量(Q) 6 損益分岐点図表の説明 • 売上高や費用は直線的に経過するように示されている。 • 固定費 は、生産量が変化しても変動しない費用(設備投資や 不動産の賃貸料など生産しなくてもかかる費用) • 変動費 は生産量が変化することによって比例して変動する 費用(原材料代など) 売上高 費用 損益 固定費 売上=価格×販売個数 費用=固定費+変動費 (変動費=一個当たり変動費×生産個数) 利益=売上-費用 量(Q) 7 ▼損益分岐点計算の前提 下図において売上や費用が直線で描けるのは、次のような仮定が あるからである; ①製品の販売価格が一定(売上高は生産量に比例)、 ②単位当たり追加費用は一定(変動費用総額は生産量に比例)、 ③企業の製品構成は不変、 ④生産された全製品が定価販売、 ⑤固定費と変動費が明確に区別(算定)可能。 売上 や費用 売上 総費 生産量・販売個数(Q) ※損益分岐点分析は、費用・収益構造を単純化している。また、 企業の総費用を固定費と変動費に分解する問題も存在する。 8 損益分岐点 下図ではQ’以上生産・販売できれば、利益を稼げるようになる。 • 損益分岐点 とは、売上と費用が等しくなる点(生産量)のこ とある。 • この点では損益が均衡する(利益は±0となる)。 • 事業展開に際して、損益分岐点を知ることは重要である。 売上高 や費用 売上高 総費用 →貢献利益:利益を得られるようになる 生産量(Q) Q’ 9 ▼損益分岐点図表の解釈と応用 売上高、変動費、固定費の関係;損益分岐点を超えれば、利益獲得 販売価格が変動費を上回った分だけ 固定費 の回収が進む。 • 企業が生産する意思決定は、販売価 格が一個あたり変動費より高いこと が最低条件となる。 変 動 費 • 次に、固定費の回収が十分になされ、 利益を得られるようになる。 売上 固 や費用 売上 定 費用 費 価 格 の 倍 価 格 0 量(Q) 二個分の 変動費 1 2 10 損益分岐点図表の応用(前述の仮定の変更) ① 販売価格 を変更した場合 売上(値上げ) 売上 や費用 売上 売上(値下げ) 費用 量(Q) Q’ • 価格一定という条件をはずした場合の損益分岐点の異同を 示したものである。 • 損益分岐点が左右に移動していることがわかる。 • 価格が上昇した場合には、企業は少ない生産量あるいは販 売個数で採算点に達することになる。価格が下落した時には、 当然逆の移動が生じることになる。 11 ② 固定費 が変化した場合 売上 売上 や費用 費用(固定費上昇) 費用 費用(固定費下降) 量(Q) Q’ • 費用が上下に平行移動している。 • 設備投資が行われた場合固定費は増加し、予想より安く設備投 資が出来た場合は固定費は縮小する。 • 費用が上(下)に平行移動した場合、当然損益分岐点は右(左) に移動する。 12 ③ 変動費 が変化した場合 売上高 売上 や費用 費用(変動費上昇) 費用 費用(変動費下降) 量(Q) Q’ • ③は、②と同様に費用が変化している。 • 特に、変動費に変化があった状況を示している(固定費は一 定)。 • 原材料価格が上昇(下降)し、変動費が上昇(減少)している 状況である。この場合も、損益分岐点は右(左)側に移動する。 13 ▼損益分岐点の計算式 売上 や費用 損益分岐点 売上 費用 変動費 固定費 生産量 Q’ 生産量(Q) 1個当たり固定費回収分=価格-1個当たり変動費用 =価格-変動費/生産量 1円当たり固定費回収分= 1個当たり固定費回収分/価格 = 1-変動費/売上高 損益分岐点の生産量(Q’) =固定費/1個当たり固定費回収分 =固定費/(価格-変動費/生産量) 損益分岐点の金額=固定費/ 1円当たり固定費回収分 14 =固定費/( 1-変動費/売上高) ▼費用の固定費と変動費への費用の分解について 差額法(high-low method) 2つの売り上げレベルでの各々の費用を推定(2点) 1. 高い売上の費用から低いレベルの費用を引き、 2. 高いレベルの販売個数から低い売上の販売個数を引き、 3. 両者の費用の差を両者の販売個数の差によって割り、 4. 単位当たり変動費を算出し、 5. 固定費を特定、費用を固定費と変動費に分解する。 費用 C’’ C’ 費用 2点の費用 2 1 Q’ Q’’ 生産量 C’’ C’ 固定 費算 定 1 (C’’-C’)/(Q’’-Q’) 2 単位当たり変 動費を計算 Q’ Q’’ 量 15 ▼差額法による計算例 以下の2点から生産量と費用から固定費を算出。 • 500個生産した時の総費用が80万円であった。 • 400個生産した時の総費用が70万円であった。 製品単位当たり変動費=(80万円-70万円)/(500個-400個) =1000円/個 費用=固定費+変動費なので、 400個生産した時、70万円=固定費+1000円/個×400個 ※固定費は30万円となる。 費用 80万円 70万円 固定費 30万円 1 100個 400 2 10万円 500 生産量 16 ▼② 散布図による分解 過去の複数時点の売上と販売個数を散布図にプロットすることに よって費用に関する直線をあてはめ、費用分解する。 費用 多数の費用 4 5 6 1 2 3 生産量 固定 費算 定 費用 近似直線へのあてはめ 4 5 6 1 2 3 生産量 17 エクセルでの近似曲線への当てはめ方法 手順1:データ入力 A 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 B C 生産量 総費用 400 700,000 500 800,000 600 920,000 700 1,050,000 800 1,120,000 900 1,190,000 (個) (円) D 手順2:散布図作成 (1)B2~C9を選択 (2)挿入タブをクリック (3)グラフの中から散布図 (マーカーのみ)をクリック 18 手順3:直線への当てはめ (1)マーカーを選択 (2)右クリック(ショートカットメニュー表示) (3)近似曲線の追加を選択 19 手順4:線形近似 (1)「線形近似」に チェック (2)「グラフに数式を 表示する」にチェック (3)「グラフにR-2乗 値を表示する」に チェック (4)「閉じる」をクリッ ク 20 ●直線への当てはめ結果 単位当たり変動費は1011.4円/個、固定費は305,905円とな る。R2は決定係数と呼ばれるもので、近似した数式の説明力を 示し、1に近いほうが当てはまりが良い結果となる。 21 最小二乗法による当てはめ(統計的手法) • 近似曲線の係数算出に際して、誤差の自乗和最小にするよう にしているのが最小自乗法と呼ばれる。 • 例えば、1次関数(直線) y=aX+b の場合、係数は、 aとbとな る。この値を変化させ、できるだけ近似させようとする(誤差の 自乗和を最小にする)ものである。 • 下図では、1番目の直線は固定費は0だが、単位当たり変動費 は一番高い。3番目の直線は固定費は最も高いが、単位当たり 変動費は最も安い。2番目の直線が最も当てはまりがよさそう。 総費用 1 2 4 5 6 1 2 3 3 生産量 22
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