多様性が生み出す生物社会

「海洋」生態学における「ケア」
松田裕之(東大海洋研・数理生態学)
2001年11月1日森ビル「アーク都市塾」
共生と競争(司会:月尾嘉男氏) 1
2000年
主な著書
1995年
持続可能な
寄生
自然と人間の共生
2
なぜ生物多様性を守るのか?
• 私たちが子供の頃にあった自然が、
今の子供のまわりにない(急激な
自然の喪失=メダカ、キキョウ)
• 人間は自然の恵みなくして生きて
いけない
• 自然の恵みを次の世代に残す
• 自然への持続可能な寄生
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環境保護の3段階論
(奄美黒兎裁判原告弁護団)
• 現在の人間の利益を守る
– 有用鳥類保護条約(1902)
• 将来世代も含めた人間の利益
幸福
– 人間環境宣言(1972)リオ宣言(1992)
– 環境基本法(1993)
• 自然の内在的価値を守る
– ベ ル ン 条 約 (1982) 世 界 自 然 憲 章 (1982)
生物多様性条約(1992)
4
Precautionary principle
Rio Declaration 1992, Principle 15
• “In order to protect the environment, the
precautionary approach shall be widely
applied by States according to their
capabilities. Where there are threats of
serious or irreversible damage, lack of
full scientific certainty shall not be used
as a reason for postponing cost-effective
measures to prevent environmental
degradation.
5
科学者のとるべき態度
• 1992年地球サミット前 後
– 科学的証拠なしに社会にものを言
わない;
を言うことが歓迎される
– 世論に係らず、自らの見解を変え
科学論争を多数決で決める。世論
ない
を味方につける
科学者の社会的提言につ
いての学界基準が未確立.
6
Galileo’s Inquisition
答が出てからでは遅すぎる
• 生態学はシステムの科学
–無知の知
• 生態学はリスクの科学
–悔いのない政策と予防措置
• 生態学はゲーム理論
–リスクの周知と合意形成
7
環境基本法
第1条
• この法律は、環境の保全について、基本理念を定め、並び
に国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明ら
かにするとともに、環境の保全に関する施策の基本
となる事項を定めることにより、環境の保全に関す
る施策を総合的かつ計画的に推進し、
もって
現在及び将来の国民の健康で文化
的な生活の確保に寄与するととも
に人類の福祉に貢献することを目
的とする
8
4つの生物多様性
• 遺伝的多様性 世田谷のメダカ
• 地域集団間の相互のつながり、
潜在的生息地
• 種多様性(レッドデータブック)
• 生態系の多様性(砂漠もたいせつ)
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3つの自然の恵み
• 生物資源(goods)=農林水産物
• 生態系サービス= 物質循環、浄化
作用
• 快適さ(amenity)
• 倫理的価値・内在的価値
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資源価値<<生態系サービス
• 食糧生産
• 物質循環
約 140兆円/年
約1700兆円/年
– Costanza R, et al. (1997) The value of the world’s ecosystem services
and natural capital. Nature 387:253-260.
• 漁場の自然価値は漁業補償では計
れない
• 一度失われた自然はなかなか元に
戻らない
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利己的な遺伝子
The Selfish Gene
• 自然淘汰≠種の繁栄
雌が多い方が種全体の子孫を増や
す(飼育)
• なぜ雌雄同数か?
世間に少ない方の性の方が子孫を
多く残す
12
自分の得≠相手の損
ゼロサム社会
自分の得=誰かの損
非ゼロサム社会
病原体は宿主を生かさぬ
よう殺さぬように搾取
する
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生物の種間関係
競争 Competition(—,—)
縄張り争い
搾取 Exploitation(+,—)
捕食 predation
寄生 parasitism
双利 Mutualism(+,+)
軍拡競走
(arms race)
双利共生 Symbiosis
競争≠自由競争 生物の競争、搾取、双利関係は、
すべて適応進化(自由競争)の産物である。
14
双利共生≠一心同体
• 双利共生でも、利害対立がある
(夫婦喧嘩)
• 一緒に生きる>別れる
• 競争関係や搾取関係でも、話し
合いの余地はある(軍縮条約)
15
異形配偶の進化
Matsuda & Abrams (1998) Evol. Ecol. Res. 1:769-784.
• 性差の起源=卵子と精子の大き
さ(x, y)と数(K/x, K/y)の違い
• ほとんどの多細胞生物は異形配
偶
• ゲーム理論を超えた力学系理論
16
同形配偶はNash解だが不安定
y
•
•
•
•
•
F= (K/x) m(x, y) s(x+y) 雌
G= (K/y) m(y, x) s(x+y) 雄
dx*/dt=g1(F/x)*, dy*/dt=g2(G/y)*
(2F/x2)*<0, (2G/x2)*<0 Nash解
d  F 
d  G 
収束不安定

  0

 
dx*  x * dy *  y *
d  F  d  G 
d  F  d  G 

 

  0




dx*  x * dy *  y * dy *  x * dx*  y *
×
17
x
地球共生系≠ガイア仮説
• 地球共生系:利己的な遺伝
子が思い思いに生きている
• ガイア仮説:地球は一つの
生命である。
18
不確実性(uncertainty)
• 生態系の仕組みが不明
• 今の状態が不明
–環境監視(monitoring)
• 将来が予測できない
–説明責任(accountability)
–責任ある試行錯誤
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非定常性(non-equilibrium)と
不均一性(heterogeneity)
• 放置しても自然は変わる
• 遷移と自然撹乱の釣り合いがもた
らすモザイク =双六
• 状態変化に応じて方針を変える順
応性(adaptability)
順応的管理adaptive management
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生態影響評価の限界
• 開放系なのに事業予定地しか調べない
• 非定常系なのに1年しか調べない
==“Hanshin Tigers Problem”
• 有限の生命を尊び、無常の
生態系を守る
• 遷移と攪乱の釣合いが多様
性を守る
==サザエさん症候群
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浮魚類の魚種交替
22
魚種交替の3すくみ仮説
• 競争力に3すく
み関係?
マイワシ
マサバ
カタクチイワシ
サンマ、マアジ
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3すくみ説の数理模型
• dx/dt = c1+[r1 (t)–2x – 4y – z]x
dy/dt = c2+[r2 (t)– x – 2y – 4z]y
dz/dt = c3+[r3 (t)–4x – y – 2z]z
• y,z~0ならx= r1/2このとき
r2-x>0ならdy/dt>0
r3-4x<0ならdz/dt<0
A
A
A
B C A
C
B
B
C
B
C
• 3種共存点が局所不
安定
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反証可能性
falsifiability
• 次の魚種交替はいつか?
–予測不可能
• 次の優占魚種は何か?
–マイワシの次はカタクチイワシ・
サンマ・アジが増える(的中)
–カタクチの次はマサバだろう
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90年代のサバ未成魚乱獲
•乱獲しなければ回復していた?
•改めないと永久に回復しない?
•3すくみ説ではマイワシも回復しな
い?
•未成魚乱獲は壮大なる実験
26
RMP for
south Pacific minke whale
• Pt+1-Pt = r[1-(Pt /K)z]Pt-Ct
– think uncertainty in r, K, Pt /K and Pt
(relative and absolute P)
– no age structure
– ignore uncertainty in z (density-effect)
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エゾシカ保護管理計画
とfeedback制御
鯨のフィードバック
管理の応用
松田裕之(東大海洋研)
北海道のホーム頁より
28
樹皮を剥が
された樹木
北海道の捕
獲統計
29
シカによる樹皮剥ぎ
30
道東地区エゾシカ管理計画
http://www.hokkaido-ies.go.jp/HIESintro/Natural/ShizenHP2/SIKA/DTdeerHP.htm
大発生水準
緊急減少措置
(50%)以上
(2年を限度)
目標水準
漸減措置
(25%)以上
(雌中心の捕獲)
目標水準
漸増措置
(25%)以下
(雄中心の捕獲)
許容下限水準
(5%)以下or豪雪の翌年
禁猟措置
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個体数指数の変遷
個
体
数
指
数
200
175
150
125
100
75
50
25
0
1989
道路目視調査
ヘリコプター調査
1日当り捕獲頭数
1日当り目撃頭数
農林業被害額
1991
1993
1995 1997
雌鹿狩猟 保護管理計画
262
95% CI
1999
2001
32
クマ問題
•
•
•
•
•
•
絶滅の恐れがある(特に西日本)
人を襲うクマは駆除が必要
里に近づく・田畑を荒らす
本来、クマは人を避ける(鈴)
生ゴミ放置、餌やりによる不良化
キムンカムィからウェンカムィへ
の変身
変心
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ヒグマの4相管理(案)
変心率が
高い
低い
少
個 な
体 い
数
多
が
い
被害が続き熊絶滅 不適切な関係を戒
も危惧される・人間 め続け、キムンカ
活動規制
ムィを守る
ウェンカムィを駆除
、早急に変心率低
下措置を
最も望まし
い状態
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順応的管理
learning by doing together
together
• 不確実性に備えた説明責任
• 非定常性に備えた環境監視
• 情報公開と合意形成
• Risk communication
• 継続的な評価委員会
35
エコロジーと生態学
•
•
•
•
•
線形近似< たとえ話
目から鱗を落とす話>煙に巻く
種の保存< 利己的遺伝子
個人主義
動物愛護< 人類愛
世界の常識 <真理と公正さ
36
山口県八代ツル飛来地
デコイ
本物
山口県http://www.pref.yamaguchi.jp/gyosei/bunka-h/03.htm
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