ロバート・コスタンザさんは希望を持った人である。メリーランド大学の生態学者として、彼は 人類が私たちの環境の破壊を引き起こし続けていることを知っている。しかし彼や他の科学者たち は、あきらめるのではなく、環境を守るための闘いに、新しい現実的な方法を試みている。経済状 況や人間のニーズの実態を正直に見つめ、地球の生物多様性を守るための新しい方法を捜し求めて いるのだ。 コスタンザさんの仕事では、水を濾過したり天然の資源を供給したりすることなどの、生態系の 経済的価値を理解することに焦点を当てている。これらの“生態系サービス”には従来の市場価値 は全くないので、それを保護することがしばしば無視される。自然保護の経済的利点を示すために コスタンザさんや他の科学者たちは生態系サービスの価値、つまりその「ドル価値」を算出しよう と試みている。ある保全生物学者が説明するように、「金銭的価値を与えることが、例えそれが正 確なものでなくても、これ(生態系)を失うと私たちは大きな代価を払うことになるということを 明らかにする助けとなるのです。」 この方法はニューヨーク市で成功した、ある“生態系サービス”の研究では、水処理設備を建設 するのに 60 から 80 億ドルかかると算出された。その代わりに、常に水を自然濾過してくれる土地 を保護するのに、市は 15 億ドルしか要しないと試算した。これらの科学者たちは、経済に関する 議論が環境を守る闘いで有効なことをますます目にするようになっている。 ロンドンの王立植物園では、科学者たちが強い印象を与える挑戦を始めた。イギリスのすべての 顕花植物の種子を集めて貯蔵するというものである。2000 年種子銀行の責任者であるロジャー・ スミスさんによれば、それは可能なのだそうだ。実はすでに 60 パーセントはすでに入手している のだ。「イギリスが小さな島の集まりであり、植物の種類が比較的少ないことが 1 つの理由として 挙げられます。しかしこのことはまた、我々が何を成し得るのかということも示しているのです。 」 すぐ近くの建物の中には、種子銀行の冷凍室があり、その部屋の温度はマイナス 20℃に保たれ ている。種子は冷たく乾燥した状態で保たれる。そうすることによって種子を少なくとも 200 年間 保存することができるのだ。「それによって、世界中の植物を損失することの影響を我々が理解す るための時間を稼げるのです。そして願わくは、それらを再生もしくは保護する時間も稼げればい いと思っています。」とスミスさんは言う。 今では、種子銀行の科学者たちは目標をさらに高くしている。2010 年までに世界中の植物の 10 パーセント(の種子)を集めるという目標である。「我々は生態系を世界規模で驚異的な速度で失 いつつあります。そして生態系が失われたとき、植物も失われるのです。種子を集めることは、未 来のある時点で(失った)植物を再生させる可能性を我々に与えます。」もちろん、その日がいつ になるのかは誰も知らない。だからこそ、種子銀行の主要な役割は、種子を保存することなのだ。 「目的は、種子をホイルの包みで、冷やしておくことではありません。自然の中で再び植物を見る ことが目的なのです。 」と彼はつけ加える。 ナティ・ドゥマーラーガンさんは、フィリピンのイサログ山にある自宅から、イサログ山の密林 を眺めることができる。彼女はここに 30 年住んでいるが、未だにそこに足を踏み入れたことがな い。そこが保護されている自然公園でありまた多くの絶滅危惧の種が生息する地であるのに。 「行きたいのですが、道がすごく険しいのです。」と彼女は言う。森林に対する彼女の考えは変化 してきた。わずか数年前、ドゥマーラーガンさんのご主人や、周辺の村に住む他の男たちはそこに ある木を伐採していた。彼らがイサログ山の森で伐採したことが原因で、1961 年から 1988 年まで に烏の種の 40%以上が絶滅してしまった。最後の原生林は、1980 年代の終わりまでにすべて伐採 され尽くしてしまった。 それから、生態学的災害が襲いかかった。1991 年の台風のときに、水が 2 つの川をどっと流れ下 り、岩や折れた木や泥がオルモクの中心部になだれこんだ。7000 人もの人々が死亡した。これは 森林破壊の直接的な結果だった。そしてそれはとても強い印象を与えた。 現在、地元の村人たちは、ハリボン財団とともにイサログ山の森林を管理するために働いている。 木の伐採の大部分はなくなった。ドゥマーラーガンさんのご主人や他の村人たちはボランティアの 警備員として働き、違法森林伐採を無くす手助けをしている。「はい。私たちの稼ぎは少なくなり ます。」とドゥマーラーガンさんは言う。 「しかし、もしイサログ山の木を伐採し続けたら何が起こ ってしまうかを私たちは知っているのです。」 コスタリカでは、ダン・ジャンセンさんと彼の妻であるウィニー・ハールヴァークスさん(2 人 とも生態学者)が、環境を保護するためにある単純な戦略を実行している。「荒れ果てた土地を買 えるだけすべて買ってしまうのです。」と、コスタリカの熱帯乾燥林を保護するために闘っている ジャンセンさんは言う。シャツの前ははだけ、彼は森の中をドカドカと歩く。メガネにはしみがつ いていて、肩まで届くほどの白髪はぼさぼさだ。しかし、彼はとても強い活力をもっている。「そ う、新しい薬を見つけたり、旅行者を引きつけたりするためにこの森林を守りたいというのも事実 です。でも、これは本当の理由ではありません。目的はただ 1 つです。この生物多様性を存続させ ることなのです。」 「かつては、熱帯の森林の半分以上はこのような乾燥林で構成されていました。」とジャンセン さんは言う。 「しかし、今ではその 2 パーセント以下しか残っていません。多くの科学者たちは、 そこにはもう決して 2 度と何も育たないと言いました。でも、地元の牧場経営者たちは私に言いま した。『もちろん乾燥林は復活しますよ。だからこそ私たちは毎年牧草を焼くのです。』」 この言葉を念頭において、ジャンセンさんとハールヴァークスさんはグアナカステの土地を購入 するため、120 人のスタッフを確保するため、そして 13200 万ドルの運営基金をつくるためにお金 を工面した。「人が欲しがらない土地を買わなければなりません。」と彼は言う。「平地は忘れた方 がいい。いつも誰かが耕したがりますから。」彼の実用的な戦略によって、この夫婦は 323,600 エ ーカーに及ぶ土地を守った。全体からみればちっぽけだが、緑の将来に対する 1 つの希望を与えて くれるのだ。
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