『マクロ金融特論』(2) 一橋大学大学院商学研究科 小川英治 マクロ金融特論2015 1 伸縮価格マネタリー・アプローチ マクロ金融特論2015 2 伸縮価格マネタリー・アプローチと購買力平価 • 伸縮価格マネタリー・アプローチは、購買力平価 の発展形。 • 購買力平価は、自国と外国の物価水準の相対 比として為替相場が決まる。 • それでは、物価水準はどのように決まるのか? ↓ • この問いに答えるのが、伸縮価格マネタリー・ア プローチである。 マクロ金融特論2015 3 伸縮価格マネタリー・モデルの特徴 • • • • 購買力平価が常に成立する。 物価が伸縮的である。 物価の決定は、貨幣の需給による。 為替相場決定は、貨幣の需給による。 マクロ金融特論2015 4 購買力平価とマネタリー・アプローチ • 絶対的購買力平価 P S * (1) P • 貨幣市場均衡式 M L(Y , i ) (2) P M* * * * L ( Y ,i ) (3) * P マクロ金融特論2015 5 伸縮価格マネタリー・モデルにおける為替相場 決定式 (1)・(2)・(3)式より、 * * * M L (Y , i ) S * M L(Y , i) (4) • 為替相場は、相対的貨幣供給量と相対的 貨幣需要量によって決定される。 マクロ金融特論2015 6 貨幣の需要供給が為替相場を決める • 自国貨幣供給量の増加⇒自国物価上昇⇒ 自国通貨減価 • 外国貨幣供給量の増加⇒外国物価上昇⇒ 自国通貨増価 • 自国貨幣需要量の増加⇒自国物価低下⇒ 自国通貨増価 • 外国貨幣需要量の増加⇒外国物価低下⇒ 自国通貨減価 マクロ金融特論2015 7 対数表示化したモデル • (仮定)貨幣需要関数: L(Y , i ) Y exp( i ) 但し、 :貨幣需要の所得弾力性、 :貨幣需要の利子半 弾力性(semi-elasticity) • (1)・(2)・(3)式の対数表示 s p p* (5) m p y i (6) m p y i * * * * マクロ金融特論2015 (7) 8 対数表示化したモデルにおける為替相場決 定式 • 為替相場決定式(対数表示) s (m m* ) ( y y* ) (i i* ) (8) ①自国貨幣供給成長率⇒同率の自国通貨減価 ②外国貨幣供給成長率⇒同率の自国通貨増価 ③自国所得成長率⇒倍の自国通貨増価 ④外国所得成長率⇒倍の自国通貨減価 ⑤自国利子率変化量⇒倍の自国通貨減価 ⑥外国利子率変化量⇒倍の自国通貨増価 マクロ金融特論2015 9 マクロ金融特論2015 10 硬直価格マネタリー・アプローチ マクロ金融特論2015 11 硬直価格マネタリー・モデルの特徴 • 財市場の調整に時間が要する。短期的に は価格が硬直的。 • 購買力平価が長期的には成立するが、短 期的には成立しない。 マクロ金融特論2015 12 硬直価格マネタリー・モデル • • • • • 長期的購買力平価 貨幣需給均衡式 金利平価式 予想為替相場 財市場の動学 マクロ金融特論2015 13 長期的購買力平価 • 購買力平価が長期的には成立するが、短 期的には成立しない。 s p p s p p * (1) * (2) 但し、バーの付いた変数:長期均衡水準 マクロ金融特論2015 14 貨幣需給均衡式 • 貨幣需給均衡式 m p y i m p y i * * * (3) * マクロ金融特論2015 (4) 15 金利平価式+予想為替相場変化率 • 金利平価式 i i s * e t 1 (5) • 予想為替相場変化率(回帰的予想) s e t 1 (s st ) マクロ金融特論2015 (6) 16 回帰的予想 s s s st time マクロ金融特論2015 17 財市場 物価変化率 pt 1 (dt y) (7) 総需要=消費+投資+政府支出+純輸出 消費←所得 投資←利子率 純輸出←自国財に対する外国財の相対 * SP P) 価格(= dt 0 1 (st p pt ) 2 y 3it * t マクロ金融特論2015 (8) 18 伸縮価格の下での為替相場、物価、金利の 動向 m p s i time マクロ金融特論2015 19 硬直価格の下での為替相場、物価、金利の 動向 m p s i time マクロ金融特論2015 20 オーバーシューティングの発生メカニズム • 長期(伸縮価格) m p y i i i ( s st ) * (3) (5)(6) • 短期(硬直価格) m p y i (3) i i ( s st ) (5)(6) * マクロ金融特論2015 21 硬直価格の下での為替相場決定 • 自国貨幣供給が増加すると、価格が硬直的である ために、即時的には実質貨幣供給量が増加する。 貨幣市場の超過供給により、利子率が低下する。こ のため資本流出によって即時的に為替相場は、自 国通貨減価のオーバーシューティングを引き起こ す。 • 時間の経過とともに物価が上昇するにつれて、実質 貨幣供給量が減少し、そのために利子率が上昇し 続けることによって、自国通貨増価に向けて為替相 場が徐々に変化する。 • 物価が完全に反応する長期において、自国貨幣供 マクロ金融特論2015 22 給成長率と等しいだけの自国通貨の減価となる。 ポートフォリオ・アプローチ マクロ金融特論2015 23 ポートフォリオ・アプローチの特徴 • 内外資産が不完全代替(←為替リスク) • 分散投資(ポートフォリオ)によってリスクを 軽減可能。 • 経常収支黒字累積→外国資産流入→国 際ポートフォリオ→為替相場 マクロ金融特論2015 24 内外資産のポートフォリオ・バランス (供給面) • ポートフォリオ・バランス供給 Bt St Ft S : 為替相場 B :自国通貨建て債券供給残高 F : 外国通貨建て債券供給残高 マクロ金融特論2015 25 内外資産のポートフォリオ・バランス (需要面) • ポートフォリオ・バランス需要 D ←①予想内外収益率格差 ②為替リスク D(it it* ste,t 1, t ) i :自国通貨建て金利 i* : 外国通貨建て金利 ste,t 1 ( ste1 st ) : 予想為替相場変化率 : 為替リ ス ク マクロ金融特論2015 26 内外資産のポートフォリオ・バランス (需要面) • ポートフォリオ・バランス需要式の特定化 D exp t (it i s * t e t ,t 1 ) : 為替リ ス ク に比較し た予想内外収益率格差の 需要に対する 相対的反応度 マクロ金融特論2015 27 ポートフォリオ・バランス需給均衡式 • 需給均衡式 Bt D(it it* ste,t 1 , t ) St Ft Bt exp t (it it* ste,t 1 ) St Ft 両辺を 対数表示する と 、 log Bt log St log Ft t (it i s * t マクロ金融特論2015 e t ,t 1 28 ) ポートフォリオ・アプローチにおける 金利決定式(1) • 金利決定式 it i s * t e t ,t 1 1 Bt log St Ft t • (参照)カバーなし金利平価式 it i s * t e t ,t 1 マクロ金融特論2015 29 ポートフォリオ・アプローチにおける 金利決定式(2) • 国内資産に対するリスク・プレミアム it (i s * t e t ,t 1 1 Bt ) log St Ft t • 外国資産に対するリスク・プレミアム (i s * t e t ,t 1 Bt 1 ) it t log St Ft マクロ金融特論2015 30 内外資産のリスク・プレミアム • 為替リスク • 内外資産供給残高 ↑ ポートフォリオ・バランス需要とポートフォリ オ・バランス供給の相違 マクロ金融特論2015 31 ポートフォリオ・アプローチにおける 為替相場決定式 • 為替相場決定式 log Bt log St log Ft t it it* (log Ste1 log St ) bt st ft t it it* ( ste1 st ) 1 st i it s bt ft t 1 1 * t e t 1 • (参照)カバーなし金利平価 st it* it ste1 マクロ金融特論2015 32 ポートフォリオ・アプローチにおける 為替相場決定要因 • • • • 内外金利差 将来の予想為替相場 為替リスク 内外資産供給残高 ↑ ポートフォリオ・バランス需要とポートフォリ オ・バランス供給の相違 マクロ金融特論2015 33 長期的な財政赤字の効果 • 1980年代の米国の財政赤字の結果、80年 代前半にドル高、80年代後半にドル安。 • 財政赤字の短期的効果⇒金利上昇⇒ドル 高 • 長期的な財政赤字の効果⇒ドル建て債の 累積⇒ドル資産のリスク・プレミアム上昇⇒ ドル安 マクロ金融特論2015 34
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