『マクロ金融特論』(1) 一橋大学大学院商学研究科 小川英治 マクロ金融特論2015 1 講義内容 • 国際収支と為替相場の基本的概念 • 為替相場決定の要因・メカニズム 購買力平価 金利平価 為替相場決定モデル • 為替リスクヘッジ マクロ金融特論2015 2 国際金融への視点 • 国際金融は時間軸と通貨軸のマトリックス で考える。 ①時間軸⇒金融取引:将来に関する不確実 性(=金融リスク) ②通貨軸⇒外国為替取引:為替相場 ①と②が結合して、国際金融にとって外国為 替リスクが重要。 マクロ金融特論2015 3 国際金融と外国為替 国内金融取引 国際金融取引 国内商取引 外 国 為 替 取 引 マクロ金融特論2015 国際商取引 4 国際収支と外為取引の関係 • 財・サービスの国際取引→外為取引 • 生産要素サービスの国際取引→外為取引 • 資本の国際取引→外為取引 マクロ金融特論2015 5 財・サービスの国際取引と外為取引 • 輸出 ↓ • 輸出代金(ドル)を円に 交換 • 【ドル売り円買い】 ↓ 輸出=外貨供給 • 輸入 ↓ • 輸入代金(ドル)のた めに円と交換 • 【ドル買い円売り】 ↓ 輸入=外貨需要 財輸出と財輸入の差=外貨需給 マクロ金融特論2015 6 生産要素サービスの国際取引と外為取引 • 利子受取 ↓ • 受取利子(ドル)を円に 交換 • 【ドル売り円買い】 ↓ 利子受取=外貨供給 • 利子支払 ↓ • 支払利子(円)をドル に交換 • 【ドル買い円売り】 ↓ 利子支払=外貨需要 利子受取と利子支払の差=外貨需給 マクロ金融特論2015 7 資本の国際取引と外為取引 • 資本輸入(対内投資) ↓ • 資本(ドル)を円に交換 • 【ドル売り円買い】 ↓ 資本輸入=外貨供給 • 資本輸出(対外投資) ↓ • 資本(円)をドルに交換 • 【ドル買い円売り】 ↓ 資本輸出=外貨需要 資本輸入と資本輸出の差=外貨需給 マクロ金融特論2015 8 国際収支表 • 経常収支:生産物(商品・サービス)と生産要 素サービスの国際取引 • 貿易収支:生産物(商品)の国際取引 • サービス収支:生産物(サービス)の国際取引 • 第1次所得収支:生産要素サービスの国際取 引 • 金融収支:資本の国際取引(直接投資、証券 投資、金融派生商品、その他投資(銀行預 金・融資)、外貨準備) マクロ金融特論2015 9 国 際 収 支 表 の 構 成 マクロ金融特論2015 10 図1:日本の経常収支の動向 マクロ金融特論2015 11 日本の経常収支の構造変化 • 2007年以前:貿易収支黒字⇒経常収支黒字⇒資 本輸出(=金融収支黒字)⇒対外資産累積⇒第 一次所得収支黒字 • 2005年に、第一次所得収支黒字が貿易収支黒 字を上回る。 • 2008年以降:世界金融危機による世界不況と超 円高によって貿易収支悪化。さらに、2011年東日 本大震災の影響を受けて、貿易収支赤字へ。 2013年後半には経常収支赤字に。 マクロ金融特論2015 12 為替相場の種類 • 二国間為替相場vs.実効為替相場 (1) 二国間為替相場:2つの国の通貨間の交換比率 (2) 実効為替相場:ある特定国の通貨の価値(通常は、 貿易相手国通貨の加重平均値) • 名目為替相場vs.実質為替相場 (1) 名目為替相場:通貨と通貨の交換比率(1ドル=S円) (2) 実質為替相場:通貨の実質的価値の交換比率 (1ドル/(P*ドル/個)=S円/(P円/個) ⇒1ドル=(S×P*)/P円) マクロ金融特論2015 13 図2:名目二国間為替相場(円/ドル) マクロ金融特論2015 14 図3:実効為替相場(円) マクロ金融特論2015 15 為替相場の基本要素 • 財・サービスの国際取引 • 資本の国際取引 ↑ ↑ • 商品裁定 • 金利裁定 ⇒購買力平価 ⇒金利平価 • 為替相場決定の基本は、購買力平価と金 利平価である。 マクロ金融特論2015 16 商品裁定 • 商品裁定(安い所で買って高い所で売ることによって利 鞘を得る) • Bud(東京):150円⇔Bud(NY):1ドル • 円ドル相場:120円/ドル ↓ • Bud(東京):150円⇔Bud(NY):120円(= 1ドル×120円/ドル) ↓ • BudをNYから東京へ輸入 マクロ金融特論2015 17 商品裁定による各市場での取引 • NYでBudを買う⇒NYで価格上昇 • 東京でBudを売る⇒東京で価格低下 • 外国為替取引(円売りドル買い)⇒円安ド ル高 ↓ • 東京とNYで価格が均等化 マクロ金融特論2015 18 商品裁定による一物一価の法則 • 前提条件:①同一の商品 ②貿易可能 ③完全競争 ④取引費用=0 • 一物一価の法則 あらゆる所で同一の商品の価格は等しい。 マクロ金融特論2015 19 一物一価の法則 • 日本の市場の価格:P円 * • USの市場の価格: P ドル • 円/ドル相場:S円/ドル P SP * マクロ金融特論2015 20 購買力平価とは • 購買力平価とは、異なる通貨の価値(購買 力)を均等化させる為替相場 • 為替相場(円/ドル)=通貨間の交換比率 =通貨間の価値の比率 =通貨間の購買力の比率 =当該国間の一般物価水準の逆数 の比率 マクロ金融特論2015 21 絶対的購買力平価 • 絶対的購買力平価 1 * P P S * 1 P P • 絶対的購買力平価は、外国物価に対する自国 物価の相対的比率として表される。 • あるいは、自国物価の逆数(自国通貨の価値)に 対する外国物価の逆数(外国物価の価値)の相 対的比率となる。 マクロ金融特論2015 22 相対的購買力平価 • (一定の)取引費用を考慮に入れる。 • 絶対的購買力平価を変化率で表現すると、 一定の取引費用を除去できる。 • 相対的購買力平価 S PP * • 購買力平価の変化率は、自国のインフレ 率と外国のインフレ率の差である。 マクロ金融特論2015 23 図4:購買力平価の推移 マクロ金融特論2015 24 PPP(WPI/PPI) vs. PPP(CPI) • WPI/PPI (1) 貿易財のみ (2) 出荷時価格 • CPI (1) 貿易財+非貿易財 (2) 小売価格(=流通コ ストを含む) CPIに非貿易財や流通コストを含んでいるため に、PPP(WPI/PPI)の方がPPP(CPI)よりも購買力 平価に適している。 マクロ金融特論2015 25 購買力平価の限界 • 非貿易財の存在 • 競争状態 • 在庫調整などによる価格の反応の遅さ ↓ • 実際の為替相場が購買力平価から乖離する。 マクロ金融特論2015 26 金利裁定 • 国際金融取引は、金利裁定によって行わ れている。 • 金利裁定(資金を低金利で借りて、その資 金を高金利に運用することによって、利鞘 を稼ぐ)が、為替相場に影響を及ぼす。 マクロ金融特論2015 27 円運用とドル運用 ①円運用(円金利 it %) * t ②ドル運用(ドル金利 i %) 現在時点で円売りドル買い(直物相場 St ) 将来時点にドル売り円買い (カバー付き:先物相場 Ft ,t 1 カバーなし:予想将来直物相場 Ste,t 1 ) マクロ金融特論2015 28 円運用 現在時点 将来時点 1 1+i 円 ドル マクロ金融特論2015 29 カバー付きドル運用(1) 現在時点 将来時点 1 円 ドル 1 St マクロ金融特論2015 30 カバー付きドル運用(2) 現在時点 将来時点 1 円 ドル 1 St マクロ金融特論2015 1 i* St 31 カバー付きドル運用(3) 現在時点 将来時点 1 1 i* Ft ,t 1 St 円 ドル 1 St マクロ金融特論2015 1 i* St 32 カバーなしドル運用(1) 現在時点 将来時点 1 円 ドル 1 St マクロ金融特論2015 33 カバーなしドル運用(2) 現在時点 将来時点 1 円 ドル 1 St マクロ金融特論2015 1 i* St 34 カバーなしドル運用(3) 現在時点 将来時点 1 1 i* e St ,t 1 St 円 ドル 1 St マクロ金融特論2015 1 i* St 35 金利裁定取引 • もし 1 it (1 i ) * t Ft ,t 1 St • 円調達、ドル運用(+直物円売りドル買い、 先物ドル売り円買い) マクロ金融特論2015 36 期待収益率の均等化 • • • • 円調達⇒円金利上昇( it↑) * ドル運用⇒ドル金利低下( it↓) 直物円売りドル買い⇒直物円安ドル高( St ↑) 先物ドル売り円買い⇒先物円高ドル安( Ft ,t 1↓) 1 it (1 i ) * t Ft ,t 1 St マクロ金融特論2015 37 1 i (1 i ) * Ft ,t 1 St Ft ,t 1 1 i * 1 i St Ft ,t 1 1 i 1 1 * 1 i St i i* Ft ,t 1 St * 1 i St i i * Ft ,t 1 St St マクロ金融特論2015 38 カバー付き金利平価式 it i * t Ft ,t 1 St St カバーなし金利平価式 e St ,t 1 St * it it St マクロ金融特論2015 39 金利平価による為替相場決定 • forward lookingに考えると、予想将来為替相場 は、次の時点(t+1)における金利平価で決まる と予想されるので、為替相場は次の3要素に よって決定される。 ①現在の内外金利差 ②予想将来内外金利差 ③遠い将来の予想為替相場 マクロ金融特論2015 40 図5:内外金利差と為替相場 マクロ金融特論2015 41 為替相場決定モデル 【伸縮価格マネタリー・モデル】 • 購買力平価⇒物価の決定を貨幣需給から 考える。 • 貨幣供給の増加⇒物価上昇=貨幣の購 買力の低下=貨幣価値の低下⇒通貨減 価 マクロ金融特論2015 42 為替相場決定モデル 【硬直価格マネタリー・モデル】 • 物価の硬直性を考慮に入れて、為替相場 のオーバーシューティングを説明 • 名目貨幣供給の増加⇒物価硬直の下で実 質貨幣供給の増加⇒金利低下⇒資金流出 ⇒通貨の減価(オーバーシューティング) マクロ金融特論2015 43 為替相場決定モデル 【ポーフォリオ・バランス・モデル】 • 金利平価⇒為替リスクを考慮に入れて、リ スクプレミアムが為替相場に影響するメカ ニズムを説明 • 財政赤字⇒短期効果:金利上昇⇒通貨増 価 • 長期効果=財政赤字の累積⇒国債残高 の増加⇒リスクプレミアム上昇⇒金利上昇 +通貨減価 マクロ金融特論2015 44
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