料理同好会への糖尿病予防 啓発事業 実施報告 ―新たな普及啓発の一環として― 1 茨城県土浦保健所地域保健推進室 はじめに 茨城県内の特定健診における血糖高値者の割合 (空腹時血糖の126mg/dl以上,2010年) 男性:9.62% 女性:3.61% 全国第5位 土浦保健所 血糖高値者の糖尿病予防対策を検討。 平成25年度に管内でHbA1c高値の者に聞き取りに よるアンケート調査を実施。 2 平成25年度 HBA1C高値者の アンケート調査結果(一部) 野菜がとれないのは,調理が面倒で,生野菜が苦手 だから。 揚げ物・炒め物をする理由は,1)調理が簡単だから, 2)外にレパートリーがないから,3)温野菜は淡泊す ぎるから,4)油を使った料理が好きだから。 友人・家族からのアドバイスで食生活を改善したこと 3 がある。 健康的な食生活を広めるためには? 野菜をとりたいが,調理法が浸透していないのでは ないか? 揚げ物・炒め物を食べるのは,調理が簡単な料理の レパートリーが浸透していないからではないか? 食事の内容は,友人や,職場の同僚,家族など,定 期的に会う人物から,影響を受けているのではない か? 4 高血糖にならない対策とは? (茨城県の施策) 食生活改善推進員による啓発 健康づくり支援店の登録 ヘルシーメニューコンクールの実施 など 啓発の対象者を,さらに拡大し,健康的な食事を浸 透させるにはどうしたらよいか? 5 啓発の対象を拡げるためには 小規模集団と保健所がコミュニケーションを行い,正 しい食生活の知識・実践を広める契機をつくることが 期待できるのではないか? その集団から,糖尿病予防に役立つ知識・食生活を 周囲に広めていただけないか? 協力していただける啓発とは,どのようなものか? 小規模集団の選択として,実際,自分で料理を作っ ていると思われる,料理教室等参加者が,適当なの ではないか? 6 小規模集団の選択 <活動> 継続して,活動が行われているか? 2ヶ月に1回程度は,活動しているか? <参加者> 参加者が固定しているか? 今までの啓発の対象となっていないか? 健康づくりに関心があるか? <活動の公表> 市町村広報・HPなどを通じて,活動を公表してい るか? 7 協力いただいた料理同好会 茨城県土浦保健所管内の同好会 市町村ホームページで活動を公開 参加者 25名 講師 料理研究家1名 活動 月1回程度 公民館で調理を実施 平成18年から活動 活動目的 料理を通じ、仲間の交流と健康増進と 食と知識を習得し、料理作りに活かす。 8 料理同好会調理メニュー(平成26年12月) チキンオレンジ香り焼き(269kcal) 材料:鶏胸肉100gなど (参考:とり唐揚げ(もも肉100g) 298kcal) かぼちゃのマッシュサラダ(150kcal) 材料:かぼちゃ120gなど (参考:ポテトサラダ(80g) 169kcal) バナナパイ(112g)(259kcal) (参考:アップルパイ(90g) 274kcal) 9 保健所の行った糖尿病予防対策概要 平成26年7月 糖尿病の疾患・予防について説明(医師)および質疑応答 平成26年8月 糖尿病予防の食事ついて説明(管理栄養士) 高血圧について説明(医師) 平成26年12月 脂質異常・糖尿病予防の食生活について説明(医師) 試食提供・第1回アンケート実施 平成27年2月 第1回アンケートの結果説明および第2回アンケート実施 10 平成26年7月の参加者からの質問 (疾患編) <質問1> 甘いものは食べないし,ごはんもあまり食べていないの に,中性脂肪が高い。クリニックの先生から,食生活の アドバイスがない。 <質問2> 病院で受けた健康診断で,血糖が高いと言われた。 バナナは食べてよいか? <質問3>体脂肪が高いが,大丈夫か? <質問4>草取りでも,糖尿病予防になるのか? 11 <質問5>ウォーキングを毎日しているが,体重は減らない。 平成26年7月の参加者からの質問(栄養編) (質問1)野菜から食べるのが,糖尿病予防によいか? (質問2)糖尿病・腎臓病の場合の食材・調理法について 教えてほしい。 (質問3)コンビニの商品開発はすさまじく,和食は太刀打 ちできるのか? (質問4)コレステロールが0の油を使っているが,健康に よいのか? (質問5)血糖の上昇カーブをゆるやかにする食事の工夫 は何か? 12 (質問6)食べる果物の量は,どのくらいが適当か? 試食提供 平成25年度茨城県ヘルシーメニューコンクール 最優秀賞受賞作品 * 野菜たっぷり!豆腐で作るドライカレー * 栄養価(1人分) 99kcal 塩分相当量 1.3g 野菜の量 77g <画像:茨城県栄養士会HPより> 13 第1回アンケートの方法 時期 平成26年12月 方法 無記名式・選択式・記述式 茨城県ヘルシーメニューコンクールのちらし及び平成 25年度受賞作品メニュー,健康づくり支援店のちらし 及び管内健康づくり支援店一覧を同時に配布した。 対象 土浦保健所管内の料理同好会参加者 25 名 14 第1回アンケート結果:対象者の属性 年齢 50代 2人(8.0%) 60代 11人(44.0%) 70代 12人( 48.0%) 性別 女性 18名(72.0%) 記入なし 7名(28.0%) 15 自宅での食事(1) (食事を作る人)(複数回答) 自分自身 25名(100.0%) 娘 3名(12.0%) 嫁 1名(4.0%) (料理の内容について相談する相手) (複数回答) 相談しない 18名(72.0%) 配偶者 6名(24.0%) 娘 1名(4.0%) 嫁 1名(4.0%) 孫 1名(4.0%) 16 自宅での食事(2) (調理の際気をつけること) あり 16名(64.0%) ヘルシーな油を使っている。 油はできるだけ,オリーブ油を使う。 動物性脂肪をさける。しょうゆ・砂糖に気配りしている。 夜は油ものをなるべくさける。 塩分・油に注意している。 作りすぎない・食べ過ぎない。 カロリーに気をつける。 野菜を多めに使う。 加工食品の使用をさける だしや香辛料等を工夫し,薄味にしている。 1食600キロカロリー以内,1日1500キロカロリー以内にしている 野菜を多くとるため,鍋料理が多い。 野菜を多くとるため,肉・魚のバランスを考えて作っている。 17 自宅での食事(3) (家族へのアドバイス) あり 16名(64.0%) なるべくヘルシーな油を使うこと。 塩分・しょうゆ・砂糖に気をつけること。 炭水化物を控えること。 玄米・三分つき・5分つきなどを常に食べること。 ご飯をたべる前に,必ずサラダを食べること。 魚類を食べるようにすること。 孫や娘に対して好き嫌いがないようにすること。 食べた分だけ動くように心がけること。 常に食べ過ぎに注意すること。 バランスを考えて食べること。 腹八分目がよいこと。 18 自宅での食事(4) (知人・親戚へのアドバイス) あり 7名(28.0%) カロリーが多いと思ったとき,注意している。 緑黄色野菜の外,根菜,肉・魚介類を均等にとるように言って いる。 スパイス・果汁などを上手に応用して、塩分を控える工夫をす るように言っている。 漬け物・煮物で、塩分のかわりに酢・ソースを使うとよい。 昆布茶等を飲むと,でスープ・煮物がおいしいとアドバイス。 19 食生活改善推進員(1) 1)食生活改善推進員を知っているか?(複数回答) 名称は知っている。 11名(44.0%) 名称と活動を知っている。 8名(32.0%) 食生活改善推進員の活動経験あり。 5名(20.0%) 2)料理を教えてもらったことがあるか? ある 15名(60.0%) ない 7名(28.0%) 20 食生活改善推進員(2) 料理の献立を見たことがあるか? ある 18名(72.0%) ない 5名(20.0%) 料理を自宅の食事にとりいれているか? (複数回答) 自分の好きなものだけ取り入れている。 13名(52.0%) 自分流にアレンジし,取り入れている。 13名(52.0%) 家族が気に入るようなものだけ取り入れている。 4名(16.0%) 取り入れていない。 1名(4.0%) 21 コミュニティ参加(複数回答) 参加 参加コミュニティ まゆクラフト 絵手紙同好会 あり 9名(36.0%) 内容 絵画 ピアノ 社交ダンス 童話の会 古紙で作る小物 婦人学級 フラダンス カラオケの会 フォークダンス いきいき体操 JA女性部 <まゆクラフトは2名,その他は1名。> <コミュニティ参加なし 9名(36.0%) > 22 ボランティア参加(複数回答) 参加 あり 10名 (40.0%) ボランティア内容 人数 独居老人宅の配食 6 食生活改善推進員 5 (20.0) 公民館の市民委員 1 (4.0) 市町村のマリッジサポート 1 民生委員(20年) 1 統計調査員 1 <参加なし 9名(36.0%) > (%) (24.0) (4.0) (4.0) (4.0) 23 クラブ・教室等での情報交換(複数回答) 参加 あり 4名 (16.0%) 情報交換 内容 人数 (%) (4.0) 野菜をいただく方から調理法 1 婦人学級で調理法などを話し合っている。 1 (4.0) 保存食・血液サラサラ料理 1 (4.0) <情報交換なし 4名(16.0%) > 24 クラブ・教室等で行ったアドバイス(複数回答) 参加 あり 4名 (16.0%) アドバイス 内容 人数 (%) (4.0) フライパンにアルミ箔をひき、魚肉卵等 を焼と油を使わなくてよいこと。 1 肉まん・あんまんづくりを人に勧めた。 1 (4.0) 各種教室などでアドバイスしている。 1 (4.0) 町内会でアドバイスしている。 1 <アドバイス (4.0) なし 4名(16.0%) > 25 ヘルシーメニューコンクール(1) 知っているか? 人数 (%) 知らなかった 16 知っていた 3 (12.0) 回答なし 6 (24.0) (64.0) 26 ヘルシーメニューコンクール(2) 知られるための広報の方法 市町村の広報紙に載せるのがよい。 町内の集まり・婦人学級などで料理教 室を開くとよい。 人数 1 1 (%) (4.0) (4.0) 27 健康づくり支援店 知っているか? 人数 (%) 知らなかった 14 (56.0) 知っていた 3 (12.0) 回答なし 8 (32.0) 28 試食について(1) 試食を作りたいか? その理由 作りたい 13名 (52.0%) - 作りたくない 4名 (16.0%) ドライカレーを日頃食べな いから。 29 試食について(2) 家族・知人等に 勧めたいか? 思う 13名 (52.0%) 思わない 3名 (12.0%) その理由 人 (%) 数 (4.0) 保健所の説明を参考にしたため。 1 普通のカレーに比べて脂肪・カロリー が低く、豆腐がはいっているから。カ レーまんじゅうによい。 1 (4.0) はさみ揚げにできるから。体によさそ うだから。 1 (4.0) 材料はみじん切りで,作り方が簡単 で,栄養のバランスがよく,老人や子 供にも食べやすいから。 1 (4.0) 歯の間に細かいものが残るから。 1 (4.0) ポロポロしすぎているから。 1 30 (4.0) ヘルシー料理の普及 ヘルシー料理を普及するにはどうしたらよいか? → 集会の場を利用したらよい。 ヘルシー料理の普及に協力できること。 → ヘルシー料理のレシピは,老人会の弁当作りに 1品は必ず利用している。婦人学級の料理教室でも 紹介している。 31 糖尿病の説明(医師・管理栄養士)により 新たにわかったこと・役立ったこと 1日の摂取カロリーを計算することを実際にして みたいと思うようになったこと。 日本人は昔より,食事の量が多くなっているの ではないかと思ったこと。 知っているようで知らなかったことを反省し、こ れから勉強し健康でありたいと思うようになった こと。 体重のコントロールのため,運動が大切である こと。 食前にたくさん野菜をとった方がよいこと。 32 血糖値 高いと言われたこと ある 2名(8.0%) ない 17名(68.0%) 回答なし 6名(24.0%) 33 第2回アンケート:結果 アンケートの方法 時期 平成27年2月 方法 無記名式・選択式・記述式 茨城県作成食育啓発ちらし2種類・外食栄養 価ちらしを同時に配布した。 対象 土浦保健所管内の料理同好会参加者 23名 34 対象者の属性 年齢 50代 60代 70代 1人(4.3%) 9人(39.1%) 12人( 52.2%) 性別 女性 記入なし 21名(91.3%) 2名(8.7%) 家族構成 夫婦2人 子供と2人 1人暮らし 夫婦2人と子供1人 その他 記入なし 6名(26.1%) 5名(21.7%) 4名(17.4%) 3名(12.0%) 3名(12.0%) 2名(8.0%) 35 料理同好会に参加したきっかけ きっかけ 人数 (%) 友人に誘われた。 18 親戚からすすめられた。 1 講師を知っていた。 1 公民館の料理教室を終了。 1 ヘルシー料理を勉強できるから。 1 先生や参加者との話が楽しい。 1 (4.3) 日々の食事を変化させたいと思ったから。 1 (4.3) (72.0) (4.3) (4.3) (4.3) (4.3) 36 参加したきっかけ(コミュニティ・ボランティア) (コミュニティ) ○健康によい講座を探していた。 ○1人ぐらし老人の宅配 (いつか自分も通る道なので参考になることが多いため。) ○絵手紙(もらって自分も描いてみたいと思ったから。) (ボランティア) ○高齢者の配食 (公民館で募集したから。友人の声掛け。) ○食生活改善推進員・民生委員・高齢者配食 (毎日健康で生活できることに対しての恩返し。) 37 食事を工夫しはじめたきっかけ 〇検査をした時に,すべてに健康値を保つために。 〇約20年前の検診で中性脂肪が標準より高かったため, 加工食品(練製品・だし等)の使用を控えている。 〇コレステロールについて大いに気にしているから。 〇娘のインフルエンザの治癒が遅かったこと。 〇自分の高血圧のため。 〇元気でいたいから。 〇塩分7グラム以下を目標にしているため。 〇自分が参加している料理同好会・テレビ・雑誌・雑談 〇若い人の食事についていけなくなって考え始めた。 38 糖尿病予防の普及啓発について 1)糖尿病予防のちらし等について,配布希望と思われ る組織等→高齢者宅配サービスの会 2)保健所が行った糖尿病講義等に関して参加者が 行ったコミュニケーション ・市町村保健センターで,生活習慣病予防の講義・調 理実習を行った。 ・食事の大切さを話し合った。 3)保健所への要望 ・婦人学級のときに,保健所医師講話を希望する。 ・高齢者宅配サービスの会での保健所医師講話を希39 望する。 考察(1) 協力いただいた料理研究会の参加者は,自宅の食 事の調理の際にも,野菜を多くしたり,カロリーに気を つけていたりしていた。 また,約6割が家族に対して,食事に関するアドバイ スを行っていると回答した。 したがって,参加者に,糖尿病予防の啓発を行うこと により,あわせて,その家族にも啓発を行うことができ ると思われる。 食生活改善推進員については,回答者の1名を除き, 「知っている。」もしくは,「活動の経験有り。」であり, 40 「料理を教えてもらった。」のが6割だった。 考察(2) そのため,参加者が調理の際に気をつけたり,家族 にアドバイスしているのは,食生活改善推進員による 啓発が影響しているのではないかと思われた。 ヘルシーメニューコンクールについて,「知らなかっ た」のが64%,「知っていた」のは12%のみであり, ヘルシーメニューコンクールのメニューを知ってもらう ためにも,今後周知の方法を検討する必要があると 思われた。 料理同好会に参加したきっかけについて,協力いた だいた料理研究会の参加者は,約7割が「友人に誘 われたから。」,と回答した。 41 考察(3) これにより,健康に関する情報を伝えるには,パン フレット等の配布に加えて,情報を口コミで伝えてい ただけるような方々とコミュニケーションを持つことも, 効果があるのではないかと思われた。 保健所が行った糖尿病講義後に,「市町村保健セン ターで,生活習慣病予防の講義・調理実習を行っ た。」,「婦人学級・高齢者宅配サービスの会のときに, 保健所医師講話を希望する。」との回答があった。 今までなかった地区組織とのつながりを開拓でき,糖 尿病予防の啓発を推進するきっかけとなったと思わ れる。 今後は,料理に関心のあると思われる他の組織等に 42 も,啓発を拡げていく予定である。
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