福島県立医科大学 学術機関リポジトリ

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Title
福島県における摂食・嚥下障害のある患者ケアに関する
実態調査
Author(s)
平野, 典子; 平田, 弘美; 清水, 昌美; 菅野, 直子; 土屋, 佐智
恵; 渡辺, 恵子
Citation
Issue Date
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Rights
福島県立医科大学看護学部紀要. 11: 7-13
2009-03
http://ir.fmu.ac.jp/dspace/handle/123456789/93
© 2009 福島県立医科大学看護学部
DOI
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Fukushima Medical University
福島県立医科大学看護学部紀要 第11号 7-13, 2009
福島県における摂食・嚥下障害のある患者ケアに関する実態調査 ■ 資 料 ■
Bulletin of Fukushima School of Nursing
福島県における摂食・嚥下障害のある患者ケアに関する実態調査
平野 典子1) 平田 弘美2) 清水 昌美2)
菅野 直子3) 土屋佐智恵4) 渡辺 恵子5)
Practice and Perception of the Nursing Care for Patients with
Dysphagia in Fukushima
Noriko HIRANO 1) Hiromi HIRATA 2) Masami SHIMIZU 2)
Naoko KANNO 3) Sachie TSUCHIYA 4) Keiko WATANABE 5)
識しているが,半数の看護師が実施できていないという
Ⅰ.はじめに
結果であった.
人が人間らしく生きるためには,「口から食べる」と
患者に嚥下訓練を行い,経口摂取が可能という状態で自
いう行為は,必要不可欠なことである.しかし,加齢に
宅退院や転院をしても,その患者が再入院した時には,
伴う諸機能の低下や,脳血管障害,神経疾患による運動・
経口摂取ができず経管栄養になっていたという事例が何
知覚機能の障害などが原因となり,「食べる」という機
件もあることに気づいた.そのことから,退院後の在宅
能を支えている活動を脅かし,摂食・嚥下障害をもたら
ケアや転院先の病院では,引き続き嚥下訓練をしている
してしまう .その口からうまく食べられないという摂
のだろうかという思いをきっかけに,福島県内の病院で
食・嚥下障害があると,肺炎や窒息などの身体的な問題
働く看護師が嚥下訓練をどのように認識し,訓練をどの
や,食事に対する満足感の消失など,患者の Quality of
くらい行っているのかという疑問をもつに至った.そこ
Life(以下 QOL と略す)の低下にもつながる.そこで,
で,今回,福島県内の病院で働く看護師を対象に,摂食・
摂食・嚥下障害のある患者に,摂食・嚥下訓練を行うこ
嚥下訓練に対しての取り組みについて調査を行い,現状
とにより,患者が口から食べるために援助をするという
を明らかにすることによって,今後,県内で働く看護師
ことは,患者の QOL を向上させるためにも必要なこと
が,摂食・嚥下訓練に対しての認識や知識・技術を向上
である.
するための教育や研究活動の足がかりになるのではない
我が国では,00年0月に「摂食・嚥下障害看護」認
かと考えた.
筆者らの一員で福島県内の病院で働く看護師は,入院
1)
定看護師の教育課程が開設され,00年₄月の診療報酬
改定で,看護予防サービスの一つとして口腔機能向上の
サービスが位置づけられるようになった.このように,
Ⅱ.研究目的
看護師による摂食・嚥下障害をもつ患者への予防・リハ
本研究では,福島県内の病院で働く看護職者を対象と
ビリテーションが社会的にも求められつつある .その
して,以下の点を明らかにする.
ような状況の中,000年頃より,嚥下訓練のケアに関す
1)福島県内の各病院における看護職者の摂食・嚥下訓
2)
る研究はたびたび行われているが,看護師による嚥下訓
練の実施の現状とその内容
練の実施状況を調べた研究はまだ少ない.その中で,仲
2)摂食・嚥下訓練の実施における問題点
村ら
3)摂食・嚥下訓練を実施していない理由
3)
による嚥下訓練について看護師の意識調査を
行った研究では,%の看護師が嚥下訓練の必要性を認
4)今後の摂食・嚥下訓練に取り組むための希望や考え
1)福島県立医科大学病院
Key words: dysphagia, swallowing training, nursing care, questionnaire
2)福島県立医科大学看護学部生態看護学部門
キーワード:摂食・嚥下障害,嚥下訓練,看護援助,アンケー
3)福島県総合療育センター
4)公立藤田総合病院
5)福島県済生会川俣病院
ト調査
受付日:₂₀₀₈.0. 受理日:₂₀₀₉.₁.₅
福島県立医科大学看護学部紀要 第11号 7-13, 2009
純集計を行った.
Ⅲ.研究方法
Ⅳ.結 果
1.用語の定義
嚥下障害:「うまく食べ物が飲み込めなくなること」
名の看護師よりアンケートの回答が得られ(回収
を意味する.食物を認知し,取り込み,咀嚼にいたる嚥
率.%),分析対象とした.
下の前の段階も嚥下に大きく影響していることが明らか
になり,一般に食物が口から食べられなくなることは摂
1.対象者の概要(表1)
食・嚥下障害と呼ばれているが,最近では嚥下障害とい
対象者の現在働いている診療科は,
「混合病棟(内科・
う用語を広義に解釈し,摂食・嚥下障害を意味するよう
泌尿器科など診療科が₂つ以上の病棟)」人(.%)
に使われることが多い .
が一番多く,次いで「内科病棟」人(.%),「療養
4)
2.調査期間
平成0年₁月~₂月
3.研究対象
福島県内の病院(産婦人科単科の病院を除く)で,摂
食・嚥下障害のある患者が入院している病棟で働く看護
型病棟(認知症病棟を含む)」人(.%)であった.
看護師としての経験年数は,「0年以上」の経験年数
をもつ者が人(.0%)と回答者全体の₇割以上を占
めており,現在働く病棟での経験年数は,「₁年以上~₃
年未満」人(.%)が一番多く,次いで「₃年以上
~₅年未満」人(0.%),「₅年以上~0年未満」人
(.%)であった.
師名を対象とした.
4.データ収集方法
福島県内の産婦人科単科の病院を除く全病院(病
院)を選定し,看護部長(看護責任者)宛に各₃通のア
ンケート用紙を郵送し,各病院で摂食・嚥下障害のある
患者が入院している病棟で働く看護師₃名(合計名)
を選出してもらった.選出に際しては,看護師の役職や
勤続年数は問わず選出してもらった.選出された各看護
師にアンケート用紙と返信用封筒を渡してもらい,アン
ケートの回答は各自郵送で返信してもらうようお願いし
た.調査項目は,対象者の背景(働いている病棟の診療
科,看護師の経験年数,病棟での経験年数),摂食・嚥
下障害患者の食事介助時の援助内容,摂食・嚥下ケア実
施の有無,ケアの内容,摂食・嚥下訓練の実施における
問題点,摂食・嚥下訓練を実施しない理由,摂食・嚥下
訓練を学ぶ機会の有無,摂食・嚥下に関する研修会への
参加意思の有無などである.
5.倫理的配慮
本研究の趣旨及び,施設の匿名性の保護などについて
の説明を質問紙の表面に添付し,無記名でアンケートを
記入してもらった.質問紙の返送をもって研究の趣旨に
同意が得られたと判断した.なお,本研究は平成年度
の福島県立医科大学倫理審査委員会の承認を経て実施し
ている.
6.分析方法
回収された回答は,統計ソフト SPSS.0j を使用し単
表1.対象者の概要
n=
項 目
カテゴリー
人 (%)
働いている診療科 混合
(.)
内科
(.)
療養(認知症含む)
(.)
精神科
(0.)
脳外科・神経内科
(.)
リハビリ
(.)
小児
(.)
外科
(.)
その他
(0.)
未回答
(.)
看護師の経験年数 1年未満
(0.)
1年以上~3年未満
(.)
3年以上~5年未満
(.)
5年以上~0年未満
(.0)
0年以上
未回答
病棟での経験年数 1年未満
(.0)
(0.)
(.)
1年以上~3年未満
(.)
3年以上~5年未満
(0.)
5年以上~0年未満
(.)
0年以上
(0.)
未回答
(0.)
2.食事介助時の援助内容(図1)
「摂食・嚥下障害のある患者に食事介助をする際,意
福島県における摂食・嚥下障害のある患者ケアに関する実態調査 識して行っている援助の内容を教えてください(複数回
や「専門的な知識や技術がない」などの「ケアの手技に
答可)」の問いに対して,「体位の工夫」件,「食形態
ついて」が件と一番多かった.次いで,
「評価やマニュ
の工夫」0件,「食べさせ方の工夫」件を行ってい
アルがない,又は不十分」,「嚥下評価が難しい」などの
るとの回答があった.「その他」としては,「意識レベル
「摂食開始時期や評価などのマニュアルについて」が
の確認」(₃件),「口腔内残渣物の確認」(₃件),「声かけ
件,
「人員不足で時間をかけてケアができない」,
「スタッ
をして意識づける」(₃件)などのケアを行っているとの
フが足りない」などの「ケアを行う人員について」が
記載があった.
件,「時間がなく十分なケアができない」,「時間がかか
る」などの「ケアを行う時間について」が件あった.
250
217
204
200
また,「(吸引器などの)設備が整っていない」,「(嚥下
193
造影・内視鏡などの)検査を行っていない,又は十分な
150
100
検査ができない」という「病院の設備について」が件
63
50
その他
食べさせ方の工夫
食形態の工夫
体位の工夫
0
件
であった.
71
その他
病院の設備について
ケアを行う時間
について
として,「口腔ケア」件,「アイスマッサージや空嚥
ケアを行う人員
について
人(.%)で,具体的に行っているケア(複数回答)
開始時期や評価などの
容(図2)
能を高めるためのケアを行っている」と答えた人は
24
23
3.摂食・嚥下機能を高めるためのケア実施とその内
「摂食・嚥下障害のある患者に対して,摂食・嚥下機
68
52
マニュアルについて
図1.食事介助時の援助内容(複数回答)
84
ケアの手技について
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
件
図3.摂食・嚥下訓練の実施における問題点(複数回答)
5.摂食・嚥下訓練を実施しない理由(図4)
下など嚥下反射を誘発させる訓練」件,「嚥下体操」
「摂食・嚥下障害のある患者に対して,摂食・嚥下機
件,「構音・発声訓練」件であった.「その他」とし
能を高めるためのケアを行っていない」と答えた人は
て,
「食前に氷を食べさせる」(₁件),
「横向き嚥下の指導」
(₁件)などがあった.
人(.%)で,ケアを行わない理由(複数回答)として,
「ケアの方法がわからない」0件,「ケアを行う時間がな
い」件,
「ケアを行うために確保すべき人員が足りない」
件,「ケアが必要かどうかの判断が難しい」0件,「手
167
技に自信がない」件などであった.
55
73
54
16
その他
件
13
11
12
8
その他
1
必要性を感じていない
他職種がケアを
行っている
該当患者がいない
能を高めるためのケアを行っている」と答えた人(
20
手技に自信がない
「摂食・嚥下障害のある患者に対して,摂食・嚥下機
21
ケアが必要か判断
が難しい
2)
25
人員が足りない
4.摂食・嚥下訓練の実施における問題点(図3,表
30
時間がない
図2.摂食・嚥下機能を高めるためのケア内容(複数回答)
35
30
25
20
15
10
5
0
方法がわからない
構音・発声訓練
嚥下反射を誘発
させる訓練
嚥下体操
口腔ケア
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
件
図4.摂食・嚥下訓練を実施しない理由(複数回答)
6.摂食・嚥下訓練を学ぶ機会について
人)に,困っていることや問題と感じていることを尋ね
「これまでに摂食・嚥下障害のある患者へのケアに関
たところ(複数回答),
「ケアの方法が統一されていない」
して,院内外で学ぶ機会がありましたか」の問いに,
「は
10 福島県立医科大学看護学部紀要 第11号 7-13, 2009
表2.摂食・嚥下訓練の実施における問題点の自由記載の内容(複数回答)
単位:件数
1.摂食開始時期や評価などのマニュアルについて
評価やマニュアルがない,又は不十分
嚥下評価が難しい
訓練開始時期の判断が難しい
マニュアルに沿って進められない
マニュアルが周知されておらず開始などにばらつきがある
その他
合 計
2.ケアを行う時間について
時間がなく十分なケアができない
0
時間がかかる
0
人員不足でケアを行う時間が足りない
その他
合 計
3.ケアを行う人員について
人員不足で時間をかけてケアができない
0
スタッフが足りない
人員不足でケアを継続できない
患者さんが多いと,十分なケアができない
専門に行う人(ST)がいない,又は少ない
その他
合 計
4.病院の設備について
吸引器など設備が不足している
0
嚥下造影・内視鏡などの検査を行っていない,又は十分な検査ができない
古い
洗面所が少ない,又は車いす使用者には向いていない
その他
合 計
5.ケアの手技について
ケアの方法がバラバラで統一されていない,又は習熟度が違う
専門的な知識や技術がない
手技に不安がある
ケアの方法を指導できる人材不足
開口できないなど患者の状態がケアを困難にする
ケアの必要性を理解していないスタッフがいる
患者によって有効なケアの方法が違う
その他
合 計
福島県における摂食・嚥下障害のある患者ケアに関する実態調査 11
い」と回答した人は人(0.%)であった(図5).
その内容としては,
「嚥下のメカニズム」や「嚥下のケア・
訓練法」などについての「勉強会に参加した」(件),
「NST や医師,ST による勉強会に参加した」(₆件),
「看
護研究を行った」(₅件)などがあった.「今後,摂食・
嚥下障害のある患者へのケアに関して,学ぶ機会があれ
ば参加したい」と答えた人は0人(.%)で(図6),
その具体的な内容として(表3),「摂食・嚥下患者への
具体的なケア・手技(評価方法を含む)」(件),「嚥下
体操・訓練の実技」(件),
「口腔ケアについて」(件),
「摂食・嚥下機能を高めるためのケアについて」(件)
など,実践に活かせるような手技・方法について学びた
いという意見が多かった.また,「₁~₂回だけではない
シリーズでの研修会」を希望する記載が₇件あった.
未回答
9人
(3.8%)
表3.参加したい研修会についての自由記載の内容(複数回答)
単位:件数
摂食・嚥下患者への具体的なケア・手技
嚥下体操・訓練の実技
口腔ケアについて
摂食・嚥下機能を高めるためのケアについて
食事介助方法
摂食・嚥下に関する知識
0
食形態の工夫
0
事例検討・紹介
₁~₂回だけではないシリーズでの研修会
最新のケアについて
認知症患者への食事援助方法
自力摂取のための指導訓練法
栄養について学べる研修会
マニュアルやその作成について
その他
Ⅴ.考 察
無
85人
有
143人
(35.9%)
今回,福島県内の病院で働く看護師が,嚥下訓練をど
(60.3%)
のように認識し,訓練をどのくらい行っているのだろう
かという疑問から,このようなアンケート調査を実施し
た.その結果,アンケートに回答したほとんどの看護師
n=237
図5.摂食・嚥下について学ぶ機会の有無
が,摂食・嚥下障害のある患者への食事介助の際に,体
位や食形態,食べさせ方の工夫などを意識して行ってい
ることが明らかになった.また,人(.%)の人が,
「摂食・嚥下障害のある患者に対して,摂食・嚥下機能
を高めるためのケアを行っている」と答え,その中で
未回答
15人
0%以上の看護師が,「口腔ケア」を積極的に取り入れ
(6.3%)
ているということも分かった.その一方で,「嚥下体操,
嚥下反射を誘発させる訓練」,「構音・発声訓練」につい
無
21人
ては,0~0%程度の実施状況であることから,摂食・
(8.9%)
嚥下訓練に関するより専門性の高いケアを十分に行えて
いるとは言えない現状であるということもわかった.
実際に,「摂食・嚥下機能を高めるためのケアを行っ
ている」と回答した人の中で,施設で困っていることや
有
201人
問題と感じていることとして,「評価やマニュアルがな
(84.8%)
い,又は不十分」,「嚥下評価が難しい」,「訓練開始時期
n=237
図6.摂食・嚥下に関する学習会への参加希望
の判断が難しい」というマニュアルの不備や判断に関す
る問題を訴えた件数が多かった.このことから,多くの
施設内において明確な嚥下評価・基準が確立されていな
いことが示唆された.また,人(0.%)の人が,
「こ
れまでに摂食・嚥下障害のある患者へのケアに関して,
院内外で学ぶ機会があった」と答えているが,ケアの手
12 福島県立医科大学看護学部紀要 第11号 7-13, 2009
技に関しては,「ケアの方法がバラバラで統一されてい
での研修会」を希望している記載が₇件あった.このこ
ない」,「専門的な知識や技術がない」ことを問題として
とから,摂食・嚥下に関する研修会の多くは,1日のう
回答されたものが0件以上あった.さらに,「人員不足
ちに集中的に行うものが多く,研修に参加しても自分の
や介助する対象が多く,ケアの時間が十分とれない」,
「十
技術として習得できないまま摂食・嚥下障害のある患者
分な設備がない」などの嚥下訓練を継続・実施していく
に対して,手探りの状態でケアを実施しているのではな
ための労働環境や病院の設備が整っていないということ
いかという現状が,この調査結果から伺えた.
もわかった.
本研究のアンケート調査で回答した₈割以上の看護師
「摂食・嚥下障害のある患者に対して,摂食・嚥下機
が,嚥下・摂食障害患者に対して何らかの工夫をして援
能を高めるためのケアを行っていない」と答えた人の
助しているということがわかった.しかし,評価方法に
「ケアを行っていない理由」として,「ケアの方法がわか
対しての不安やケアの不統一・知識不足を感じながらケ
らない」,「ケアを行う時間がない」,「ケアを行うために
アを実施し,実践に活かせるケアを学びたいと感じてい
確保すべき人員が足りない」,「手技に自信がない」など
るということも判明した.このようなことから,摂食・
の理由があげられた.これらの結果は,「摂食・嚥下機
嚥下機能を高めるための看護援助について支援する必要
能を高めるためのケアを行っている」人たちが,
「摂食・
性が示唆された.直井ら6) の行った摂食・嚥下の看護
嚥下訓練の実施における問題点」であげた問題点とほぼ
技術に関する実態調査の結果からも,経口摂取に向けて
同様の結果であった.仲村ら
の行った看護師の嚥下
の援助を行う困難さとして,「リーダーシップが発揮で
訓練に関する意識調査でも,%の看護師が嚥下訓練の
きる看護師がいない」,「摂食・嚥下に関する専門職がい
必要性を認識しながらも,その半数の看護師が訓練の実
ない」などが挙げられ,スキルアップを支援する必要性
施を困難にする要因として「時間がない」,「方法を知ら
を述べている.これらの調査結果から,摂食・嚥下障害
ない」,「手技に自信がない」などを理由にあげていると
のある患者のケアに携わる看護師やスタッフの一人ひと
報告しており,今回のアンケート調査による結果と類似
りが訓練の必要性を理解し,統一したケアを実践できる
している.これらの調査結果より,看護師は,摂食・嚥
ように継続した研修会などを開催し,技術や知識の向上
下障害のある患者に対して何らかの援助の必要性を感じ
を図る必要性を感じた.また,院内においてマニュアル
てはいるが,それが労働環境や施設の不備に加えて,知
がない,又はマニュアルがあっても統一性のあるケアが
識や技術の不十分さから,看護師が患者に摂食・嚥下機
行えていないという現状から,統一した訓練を実施する
能を高めるケアを提供するには,非常に困難な現状であ
ためにも院内でのマニュアルの見直し・作成の必要性が
るということが伺える.
感じられた.今後,福島県内のどの病院や施設において
これまでに摂食・嚥下障害のある患者のケアに関して,
も統一された嚥下評価・ケアが継続され,人間としての
院内外で学ぶ機会があったと答えた人は人(0.%)
生理的欲求である「口から食べる」こと,さらには摂食・
であり,それでも尚,学ぶ機会があれば参加したいと答
嚥下障害のある患者の QOL の向上のためにも,摂食・
えた人は0人(.%)と大半の人が知識の習得を望
嚥下リハビリテーション看護研究会では,今までに挙げ
んでいるということがわかった.学びたい内容として
られた課題の達成に向けた活動を検討していく必要があ
は,「摂食・嚥下患者への具体的なケア・手技」,「嚥下
ると考える.
5)
体操・訓練の実技」など実践に活かせる内容のものばか
りだった.また,「摂食・嚥下障害のある患者に対して,
摂食・嚥下機能を高めるためのケア」として0%以上の
Ⅵ.おわりに
看護師が,「口腔ケア」を行っていると答えているにも
今回の実態調査から,アンケートに回答してくださっ
かかわらず,参加したい研修会として「口腔ケアについ
た多くの看護師が,嚥下機能の評価方法に対する不安,
て」と記載したものが件あった.以上のことから,看
ケアの不統一や知識不足を感じながらケアに携わってい
護師は,患者が口から食べるためのケアを知り得る範囲
るという現状が明らかになった.この結果を踏まえて,
で取り入れてはいるが,摂食・嚥下訓練に関する知識や
今年度のリハビリテーション研究会で,摂食・嚥下障害
技術の不足を自覚し,訓練を実施していくための知識の
のある患者のケアに関する研修会を₃回シリーズで予定
習得を望んでいるのではないかということが推測され
した.また,摂食・嚥下リハビリテーション看護研究会
る.また,「口から食べ物を食べてもらいたい」という
の今後の活動として,摂食・嚥下障害看護認定看護師の
看護師の患者への思いが,「技術を習得したい」という
資格修得予定者を交え事例検討会などを企画していく予
向上意欲へつながっているようにも思える.さらに,参
定である.今後も,このような活動を通し,福島県内の
加したい研修会について「₁~₂回だけではないシリーズ
病院や施設で働く看護師の嚥下訓練に関する知識や技術
福島県における摂食・嚥下障害のある患者ケアに関する実態調査 13
の向上に努め,口から食べることが困難になった患者の
引 用 文 献
QOL が少しでも改善できるような看護技術や知識の提
供に貢献していきたいと考えている.
1)田中靖代:食べるって楽しい!看護・介護のための摂食・
嚥下リハビリ , 日本看護協会出版会 , ₃,00.
2)鎌倉やよい:摂食・嚥下が困難な人へ看護はどう貢献でき
謝 辞
るか,EBNURSING, ⑶,⊖0,00.
3)仲村幸美,林昭子,白水昌子他:嚥下訓練の認識と実施を
本研究において,アンケートにご協力いただきました
困難にする要因について , 日本看護学会論文集成人看護Ⅱ,
福島県内の病院で働く看護師の皆様に心より感謝申し上
号,⊖,00.
げます.
4)藤島一郎:ナースのための摂食・嚥下障害ガイドブック,
中央法規,,00.
5)前掲論文3)
6)直井千津子,佐藤弘美,天津栄子他:摂食・嚥下障害者へ
の看護援助技術の開発-第1報 摂食・嚥下の看護技術に関
する実態調査,石川看護雑誌,Vol.,⊖,00.