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2004年3月7日
日本社会福祉学会関東部会 第2回研究集会
社会福祉改革と支援費制度の課題について パート2
―当事者主体論とサービス供給論をめぐる課題―
支援費制度と介護保険制度の統合?
利用者との関係から課題を検討する
リソースセンター いなっふ
東京都立大学大学院博士課程
岡部耕典
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制度と割当・利用者と必要
支援費制度・介護保険制度
行政手続モデルからサービス利用過程モデルへの移行(小林)
前提とされるのは・・
サービスの費用化・利用契約化に伴い、障害福祉サービスの
擬似市場のなかで、自律的なひとりの消費者として、主体的
にサービスを選び使いこなす利用者
「支援費制度とは、給付を、利用者の主体性の回復の手段と
して用いるものである」(武川)
公費による資金の提供・個人の必要に基づく利用
制度からの割当と利用者の必要の調整のメカニズムが重要
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サービス利用過程モデルにおける
給付調整メカニズム
A.ミクロの次元で求められる給付調整メカニズム
A-1 給付を根拠づけるための必要(ニード)の社会的構築
A-2 行政と非対称な関係にある利用者へのアドボカシー
B. マクロの次元で求められる給付調整メカニズム
B-1 必要量の調査と計画化(予算化)
B-2 必要量の変動に対する調整の仕組(地域/時間軸)
こういったメカニズムが働かないと、サービス利用過程モデルの割
当と必要の調整はうまく機能しない
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介護保険制度と支援費制度の違い
介護保険制度
・対象者が比較的多い(財政規模が大きい)
・少子高齢化の急速な進展に対応したシステム創造
・医療制度・家族の介護機能の補完システム
支援費制度
・対象が比較的少ない(財政規模が小さい)
・障害福祉システムのバージョンアップ(基礎構造改革)
・障害者の自律・自立を目指したシステム改革
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介護保険制度の給付システム
1.サービス決定より先に受給総量が決まる
2.受給量には上限がある
3.給付抑制メカニズムとしての応益負担
4.給付判定の合理化(数値化されたアセスメントによる一次
判定を合議による二次判定で修正する)
5.国庫負担の担保が完全におこなわれ、財源の地域/時間
軸調整がある
介護保険制度の給付調整メカニズムは、マクロの財源確保がフレキ
シブルであるが、ミクロの給付においては、割当原理が必要原理より
優位に立つ制度である。
5
支援費制度の給付システム
1.受給量決定よりサービス種別の決定が先
2.受給量には、上限は設定されてはいない
3.必要原理に基づく応能負担
4.給付判定の精緻化(観察と話合いの結果を、勘案事項とサー
ビス資源の有無にもとづき判定)
5.国庫の負担は、部分的(施設関連支援費のみ)にしか担保さ
れず、財源の地域間/時間軸の調整は、行政裁量に委ねられる。
支援費制度の給付調整メカニズムは、ミクロの給付においては、
利用者の必要をきめ細かくフレキシブルに支えうるシステムである
が、必要に基づく割当を支える財源のフレキシブルさに乏しい制
度である。
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支援費制度の財源問題
システムの財源(マクロの財源)
自治体と国の責任の担保のバランスがとれたしくみだが、地域
サービスにおいては、国の責任の担保が確実となっておらず、
支給量の水平的・垂直的調整が硬直的
利用者への給付(ミクロの財源)
利用量に対する上限がなく必要本位に決められるしくみだが、非
対称性の解消のためのアドボカシーのしくみが不充分
この両者の課題解決が、支援費制度の財源問題の解決
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財源問題の論点
ポイント① 国庫負担の割合・負担主体の妥当性
国 1/2 都道府県 1/4 市町村 1/4
市町村の決定に従い、都道府県、国が応分の負担
地域福祉と地方自治と国の生存権保障の責任の担保の
バランスがとれたしくみ
※負担割合・負担主体ではなく、総供給量の抑制に問題がある
ポイント② 利用量変動のための調整機構の必要性
水平的調整=自治体間の調整
垂直的調整=暦年の変動緩和
※何らかの調整基金制度の創設が求められる
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③ 地域サービスに対する国の責任の担保のありかた
施設訓練等支援費
義務的経費(国庫負担金)
居宅生活支援費
裁量的経費(国庫補助金)
しかし、居宅生活支援費が、義務的経費とならなかったのは、
・定員による施設サービスと違い計画性予測性に乏しい
・給付に上限がない
・応益負担のような利用抑制メカニズムがない
※単に義務的経費化を求めるよりも、障害者が施設ではなく地
域で暮らす権利を実定法に明記し、それに基づいて必要な地域
サービス費用の数値計画化及び予算化をはかるべき。
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支援費制度の改革に求められるプロセス
1.現行の支援費制度をとにかく3年続ける
・データの蓄積
・利用量の落ち着き
・施設サービス費から地域サービス費の計画的予算移動
2.蓄積したデータを分析し、制度の手直しを行う(2010年目途)
マクロの財源への対策⇒財源調整システムの創設
ミクロの給付への対策 ⇒アドボカシーのシステムの創設
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3年間の予算確保は本当にできないのか?
障害福祉サービスは、対象となる人数が比較的少なく、必要の掘り
起こしが終われば、永続的に予算規模が膨らむ人口構造的要因は
ない。
障害福祉分野には、積み重ねてきた運動と交渉の歴史という、マク
ロの財源調整のしくみが(まだ不完全とはいえ)ある。
障害福祉分野には、利用者によるセルフ・アドボカシーと、利用者に
よるサービス提供が行われており(まだ不完全とはいえ)ミクロの給
付を擁護するしくみがある。
サービス利用過程モデルは、サービス利用主体によるマクロ・ミ
クロの財政調整機能をもっと尊重し、育てていくべきである。
制度開始から、1年未満でのシステム財源問題の発生は、制度
設計側の責任で解決すべき問題である
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供給者本位モデルから受給者本位モデルへ
From Supply Side Control to Demand Side Control
擬似市場に成立するサービスシステムというのは、公的資金の
割当と利用者の必要の適切な調整のもとに成立するものである。
サービスシステム改革の議論が、マクロの財源拡大と、ミクロの
給付抑制のための方策に偏るというのは、政策決定メカニズム
のバランスが割当原理方向にぶれすぎているということである。
割当原理に基づく財務省に対し、審議会や厚生労働省の本来の
役割は、必要原理に基づき、サービスシステムおよび必要の社
会的構築を行うことにある。
その機能を強化するために、利用過程モデルの主役である制度
を利用する「サービス利用主体」がサービスシステムの政策・制
度決定のイニシアティブをとることが必要。
「利用者本位」から「受給者本位」へ
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