トンネル掘削における既設構造物の影響及び繰り返しせん断変形を受ける

平成 25 年度創成シミュレーション工学専攻修士論文梗概集
都市シミュレーション工学分野
トンネル掘削における既設構造物の影響及び繰り返しせん断変形を受ける
地盤中のトンネル土圧
学籍番号 24413526 黒井 翔
指導教員 ホサイン シャヒン 准教授
1
はじめに
一般的に,地震動がトンネル構造物に及ぼす影響
は少ないといわれている.橋梁等の地上構造物は,
地震動による慣性力によって振動し,多くは構造物
自身の共振が支配的となり大きな揺れを引き起こす
が,トンネル構造物に働く慣性力は周辺地盤のそれ
よりも小さく,地盤の変位及び変形に追随して振動
するためトンネル自体の共振が支配的となることは
ない.したがってある程度地中の深い場所に建設さ
れたシールドトンネルは,地震時において周辺地盤
の変形が少なく,断面が円形であり変形に強いこと
から大被害をうけることはほとんどないと考えられ
ている.実際に土木学会がまとめた阪神・淡路大震
災調査報告[1]によると,シールドトンネルにおいて
は二次覆工コンクリートにひび割れが生じる程度で
あったという.しかし,地中接合部のように構造の
急変する箇所や,地盤条件が急変し,断面力が発生
して地盤変位が一様とならない箇所においては,設
計の段階で十分な検討が必要であると考えられる.
そこで本研究では,従来用いていた 2 次元模型試験
機 2)をモデル地盤に繰返しせん断を与えられるよう
に改良し,地震時におけるトンネルの基本的な力学
挙動を解明することを試みた.本稿ではこの試験機
を用いて地震時にトンネルに作用する土圧の変化を
実験と解析両面から明らかにすることを目的として
いるが、紙面の都合上実験結果のみの記載とし,近
接施工を想定した実験及び解析は割愛する。
2 モデル実験の概要
図 1 に 2 次元模型試験機全体の概要を示す.モデ
ル地盤の幅 1200mm,トンネル模型の直径 100mm,
模型地盤としては現場の約 1/100 のスケールを想定
し,平面ひずみ状態を仮定している.地盤材料には
直径 1.6mm と 3.0mm のアルミ棒を重量比 3:2 で混合
した積層体を用いた.トンネル模型は半径方向に滑
らかに収縮できる機構になっており,トンネル掘削
を模擬している.またこのトンネル模型の周面は 12
個のブロックに分けられ,各ブロックには周面方向
にロードセルを設置しており,トンネルに作用する
周面土圧を計測できる.続いてモデル地盤にせん断
を与える機構について説明する.従来この試験機の
フレームの両端は完全に固定し,水平方向の変位を
許していなかったが[2],下端部を回転軸として左右
に可動できる構造とした.また左右両端のアルミ板
は上端を連結されており,試験機脇に取り付けられ
たハンドルを操作することによって任意の方向に一
様なせん断変形を与えることができる.そのときの
モデル地盤の変形モードは図 1 に示す破線のように
なる.この一連の改良により,モデル地盤には任意
の方向及び任意の大きさのせん断変形を与えること
が可能になった.モデル地盤に与えるせん断変形は,
震度法を参考に設定したせん断力を地盤に作用させ
ることで発生させる。実験手順は,まずトンネル模
型を収縮させて地盤の掘削を模擬し,その後所定の
せん断力を模型地盤に与えた時点でトンネルに作用
する土圧の計測を行う.なおトンネルの収縮量は dr
と定義し,dr=4.0mm で掘削完了とした.本稿に記載
する結果は上下方向に近接した双設トンネル掘削を
模擬しており、土被り D = 2.0B(B:トンネル直径),
の先行トンネルを掘削後に下部地盤の後続トンネル
を掘削し、その状態を初期状態としてせん断変形を
模型地盤に与え、トンネル土圧の変化及びサイクル
ごとの比較検討を行う.着目点は,先行トンネル周
面に作用する土圧と,その増減の履歴を追った土圧
履歴である.
図 1
2 次元モデル試験概要図
平成 25 年度創成シミュレーション工学専攻修士論文梗概集
都市シミュレーション工学分野
実験結果と考察
の結果は実験結果を定性的によく評価できてお
トンネルの周面土圧分布を図 2 に,土圧履歴を図 3
り,地震時のシールドトンネルの力学挙動を評
に示す.図 2 の 1 サイクルの結果より,トンネル掘削
価する上で有効なツールになりうる。
に伴い作用土圧は掘削前(破線)から大きく減少し, 5 参考文献
一定値に収束するのだが,下部地盤の後続トンネル掘 [1] 土木学会 阪神・淡路大震災調査報告
削に伴い先行トンネルである上部地盤のトンネル土 [2] 菊本統,中井照夫,ホサインシャヒン,石井健嗣,岩田
圧は,応力再配分の影響でスプリングラインの土圧が 敏和:実際の内空変位と周面土圧分布を考慮した単設トンネ
上昇し最終的な土圧分布は赤の○プロットのような ル掘削モデル実験とその解析, 土木学会論文集 F1(トンネル
形状になる.
その状態を初期状態として模型地盤にせ 工学)特集号, 57-65, 2011.
ん断変形を与えると,右方向へのせん断ではトンネル [3] Nakai, T. and Hinokio, M. : A Simple Elastoplastic Model for
の左肩部及びその反対側の土圧が大きく上昇する.一 normally and over consolidated soil with unified material
方,左方向へのせん断のとき,左肩部及びその反対側 parameters, S&F, 44(2), 53-70, 2004.
の土圧は大きく減少するが,右肩部及びその反対側の
土圧が大きく上昇する.他サイクルの結果を見ると,
1 サイクルの場合と同様に増減を顕著に繰り返す箇
所が発生することがわかり,その箇所も一致している
ことがわかる.図 3 は右上のトンネルの概要図に示す
ように,トンネル周面をクラウン,スプリングライン,
インバートの 3 領域に分け,さらにトンネル中心に対
して対となる点をペアとしてグラフにまとめ,
各領域
での土圧の増減履歴を追った土圧履歴を示している.
これは掘削前の土圧から 4 サイクル完了後までを連
続的にプロットしたものになっている.いずれの領域,
いずれのプロット箇所においても作用土圧はせん断
変形を与える方向の変化に伴って増減を繰り返して
おり,特にスプリングラインおよびインバートの領域
においてその増減の様子は顕著にみられることがわ
かる。サイクルを追うごとに作用土圧は増加している
様子が読み取ることができるが、1 サイクル目と 2 サ
イクル目間の増加量が最も大きく、
せん断を繰り返す
ごとに土圧は一定値に収束し、同一線上でループを描
図 2 各サイクルの周面土圧
くように増減を繰り返すことが分かる.これは地盤材
料の力学特性として、せん断を繰り返すごとに剛性が
100
増加することによるものと考えられる.
Right side
Left side
80
4 まとめ
60
(1) 地盤に繰返し等せん断ひずみを与えると,トン
f a
e
b
40
ネルに作用する土圧は,せん断を与える方向に
d c
20
よって顕著に増減を繰り返す.これは載荷方向
0
の変化に伴い,アーチ効果が発達する方向が変
-20 -15 -10 -5 0
5 10 15 20
Shear force at the top (N/cm)
化することによる.またせん断変形を繰り返し
120
120
Right side
Right side
Left side
与えることによりトンネルに作用する土圧は増
Left side
100
100
加するが、これは地盤材料の剛性が増加するた
80
80
めである。したがって設計の際には上記の点に
60
60
留意する必要がある.また双設トンネル掘削に
40
40
おいてはその掘削順序も設計の上で考慮すべき
20
20
項目となりうるため、種々の条件に応じた設計
0
0
-20 -15 -10 -5 0
5 10 15 20
-20 -15 -10 -5 0
5 10 15 20
Shear force at the top (N/cm)
Shear force at the top (N/cm)
が肝要となる。
(2) 本稿では紙面の都合上記載していないが,弾塑
図 3 土圧履歴
[3]
性構成式 subloading tij model に基づく数値解析
n(*98Pa)
n(*98Pa)
n(*98Pa)
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