7章 共有結合と共有結合結晶 2回目 前回の復習 水素分子軌道の波動関数 ●2つの水素原子H・(HA, HBとし、プロトンをa, bとし、それらの間の距 離をRとする)が1個ずつ電子(1,2とする)を出し合い、それを共有して 結合をつくり水素分子ができる(図7.1)。 ● ● + a HA 1 ● ra1 a b rb1 b R 2 ● H2 HB 波動関数を求める ●分子軌道法(近似法)がわかり易い。 ●仮定と近似 1. 電子は分子軌道に入る。 2. 1電子近似(電子2を除外して考える) 1 ● ra1 a rb1 b R H2 + 1 電子1が、プロトンaおよびbから受けるクーロン引力ポテンシャルは {(e2/40)[(1/ra1)+(1/rb1)]} で、これを用いてシュレディンガー方程式 H =E を解くのであるが、簡便法がある。 近似3. 分子軌道波動関数を, 水素原子A、Bの原子軌道波動関数a、b の線形結合で近似する(原子軌道の線形結合 LCAO法, 7.1式) = caa + cbb (7.1) ca2: 電子がaに見出される確率、 cb2: 電子がbに見出される確率 ●今考えているaとbは、ともに同じ電子状態の波動関数(ここでは 1s軌道)であるから、確率ca2とcb2は等しく、7.2式が成立する。 ca = cb (7.2) 従って、7.1式は 1 = ca(a + b) (7.3) 2 = ca(a b) (7.4) 2 ●7.3式、7.4式の係数は、規格化条件(空間の微小体積をdとして) * d 1 (7.5) 1 = ca(a + b)を(7.5)に入れる 1 = ca2(a + b)*(a + b)d = ca2 (a*ad + b*bd + a*bd+ a*bd) ここで、a*ad= b*bd =1である。 また、 a*bd= a*bdで、これをS(軌道重なり積分)とすると、 = ca2 (2 + 2 S) 従って ca=1/2(1+S) 1 = 1/2(1+S) (a + b) 3 より求まり、 1 1 ( a b ) 2(1 S ) 1 2 ( a b ) 2(1 S ) (7.6) (7.7) ●前者は対称分子軌道、後者は反対称分子軌道である。Sはaに属 す電子がbに沁み込む確率振幅である。 (7.8) S a * b d ●水素の1s軌道関数(=(a03)1/2 exp (r/a0)、a0 = h2/42me2 = 0.529108 cm)と重なり積分S = exp (R/a0)[1 + R/a0 + (R/a0)2/3]、 プロトン間の距離R = 1.06 Åを用いて 1(7.6式)と電子の存在確率1*1 = |1|2を図7.2aに、また、2(7.7式) の場合を図7.2bに示す。 4 a) b) 図7.2. a) H2+の対称 分子軌道1と電子 密度|1|2、 b) H2+の非対称分 子軌道2と電子密 度|2|2 結論: 1:2つのプロトン間の電子密度は大きい。電子はかなりの時間 にわたり2つのプロトンから同時に引力を受けるので結合エネル ギーが増加(結合軌道, bonding orbital) 。 2:2つのプロトン間の中点で電子密度はゼロ。電子密度は分子 軌道を作る前より減少(反結合軌道, antibonding orbital)。 5 7.1.2) 分子軌道エネルギー ●結合軌道1、反結合軌道2のエネルギー1, 2は波動関数7.6式、 7.7式を、 シュレディンガー方程式 H = E に入れて解く。 ●ここでのHは7.9式であるが、実際の計算をしなくとも良い。 簡便法: 7.10-7.13式のような関数を用いる。 2 2 2 h2 e e e H 2 2 (7.9) 4 0 ra1 4 0 ra 2 4 0 R 8 m ここで、以下の様にaおよびbの軌道エネルギーを H aa H bb a * H a d b * H b d (7.10) また、軌道間相互作用エネルギーHabを H ab a * H b d とし、1, 2をHaa, Hab, Sを用いて表す。 (7.11) 6 結果 H aa H ab ●結合性軌道エネルギー 1 1 S H aa H ab ●反結合性軌道エネルギー 2 1 S (7.12) (7.13) ●Haaは、プロトンaとプロトンbがRの距離にあるときの、プロトンaの 1s軌道に存在する電子のエネルギーである。この軌道は、下図右 の様に広がっており、また水素原子の電子にさらに正電荷が近づい たものであるから、孤立した水素原子1s軌道(下図左)のエネル ギー1sより少し低い。 ●1 ra1 1 ● 1s ra1 a a 水素原子H・ Haa rb1 R b 水素分子イオンH2・+ 7 ●Habはaの電子がbの軌道に飛び移る確率を示し、aとbが接近し て、aとbとの重なりSが大きくなるほど大きな値となる。 ●1, 2は水素分子イオンの1個の電子軌道であるが、粗い近似とし、 電子が2個ある水素分子においても、2個の電子は水素分子イオンの 分子軌道にあるものと考える。 ●図7.3は2個の水素原子の電子(エネルギー1s)が分子軌道を形成 して1, 2に分裂し、2個の電子が結合軌道に入り水素分子を形成す る様子を示す。 2 1s Haa 1 図7.3 孤立水素原子の軌道エネルギー(1s) : 1s, 水素分子陽イオンH2+のHaa, 水素分子結合軌道のエネルギー:1, 水素分子反結合軌道のエネルギー:2 8 7.2) ベンゼンと共有結合 7.2.1) 混成(hybridization) ●炭素原子の最外殻電子配置・・2s22p2、このままでは2個のp軌道 電子のみが結合に関与した水素との化合物 H-C-H を与える と予想される。 ●実際は、 メタン(CH4)を始めとする飽和炭化水素(アルカン) CnH2n+2、 エチレン(CH2=CH2)など2重結合をもつ不飽和炭化水素 (アルケン)、 アセチレン(CHCH)など3重結合を持つ不飽和炭化水 素(アルキン)を与える。 ●図7.4に示す混成軌道を用いて説明された(ポーリング, スレーター)。 混成軌道 混 成 前 の 軌 道 1s22s22p2 sp3混成1s22s2px2py2pz 電子 s 2p px py pz 電子 2s 1s 1s sp2混成1s22s2px2py2pz sp混成:1s22s2px2py2pz 図7.4 10 ●sp3混成:1個の2s軌道電子が2pに励起され、あたかも 同一のエネルギー軌道(混成軌道)に4個の電子 (2s12px12py12pz1)があり、飽和炭化水素やダイヤモンド に見られる4本の結合を持つ化合物(sp3混成という、結合 角は10928‘) 正四面体混成:tetrahedral hybrid sp3混成 s 2p 2s 1s p x py p z 混成軌道 1s 11 ●sp2混成:4個の電子(2s12px12py12pz1)のうち、 3個の 電子が他の3種の元素と結合するとエチレンのような3本 の結合を持つ化合物(sp2混成という)、残りの混成軌道電 子はΠ電子・・・結合角 120 三方混成:trigonal hybrid ●sp混成: 4個の電子(2s12px12py12pz1)のうち、 2個の 電子が他の2種の元素と結合すると2本の結合を持つアセ チレンのような化合物(sp混成という)、残りの混成軌道電 子はΠ電子 結合角 180 二方混成:diagonal hybrid 混成軌道 s p x py pz 2p 2s 1s 1s sp2混成 sp混成 12 sp3混成 s 2p 2s 1s px py pz 混成軌道 1s sp2混成 sp混成 図7.4炭素の1s22s22p2電子配置とsp(青), sp2(赤), sp3(緑)混成軌道 表7.1 混成の例 混成 sp sp2 形 角度 180 直線形 平面三角形 120 sp3 sp3d sp3d2 例 BeCl2 [Be:1s22s21s22s2p], CH CH、CO2 ベンゼン、ポリアセチレン、黒鉛(面内)、BF3, SO2, SO3 10928' ダイヤモンド、BF4、NH3, H2O 四面体 三角両錐形 90,120 PCl5、SF4、I3 90 SF6, IF5, PCl6 八面体 図7.5 混成軌道 BeF2(sp), BF3(sp2), メタン(sp3), NH3, H2O, PCl5(sp3d), SF4, I3―, SF6(sp3d2) 非共有 電子対 BeF2(sp) NH3(sp3) PCl5(sp3d) I3(sp3d) BF3(sp2) H2O(sp3) CH4(sp3) SF4(sp3d) SF6(sp3d2)
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